写輪眼…それは、一族を縛り付ける呪いの類の瞳術
眼は三つ巴に怪しく光り、その眼は親しい者の死によって更なる高みにへと昇華する
血に汚れた一族は最後に破滅の道を辿った
母も父も殺し、沢山の者の犠牲を払った
いつも、自分の身を案じてくれていた母の温もりは未だに忘れられない
己の手で殺しておいてその暖かさが何故だな恋しくなる時がある
俺は…なんて酷い人間だ…
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うちはイタチとそしてはやての前に現れた闇の書の騎士達、
こうして、彼等とはやて達の奇妙な共同生活は始まった
初見で彼等の事をかなり警戒していたイタチだが、彼等とはやてとの交流を目の当たりにしていく内にその様な心配は無用なものにへと変わっていった
はやては彼等の事を家族と呼び、それが増えた事を心から喜んでいる様だ
元々、寂しい思いで一人毎日を過ごしてきた彼女にとっては自分の事を心から護ってくれると言ってくれた彼等の存在がかなり嬉しかったのだろう
彼等は闇の書の騎士、歴代の所有者の守護騎士として主を護ってきたのだと言う
まぁ、その現在の所有者がたまたま、闇の書を起動させたはやてだったという事らしい
だが、闇の書…あまり聞こえは良くは無い所有者に対して何かしらのリスクを犯しかねない代物だという可能性がある
イタチはそんな事を頭の隅において、それは今後に起きるであろう事の経過に任せる事にした
そうして今、彼は海鳴町の外れにある森の中で、早朝のトレーニングに勤しんでいた
忍としての勘も鈍りやすいこの世界で怠る事の出来ないものだ
「…九九九…千…」
右の二本指だけで全体重を乗せた逆立ちの指立て
少量の汗がポタとイタチの身体を伝い地面にへと落ちる
これ位なら余裕、彼は平気で一万回以上の回数を平然と涼しい顔でこなす事が出来る
ただし、時間があればの話であるが…
筋力トレーニングは時間を掛けてゆっくりと身体に負担をかけなければ意味が無い
だから、大体朝昼晩にこっそりはやての眼を盗んで分けながらイタチは相当な数の筋力トレーニングをする
しかしながら、それは彼にとって全くの準備運動に過ぎない
それを終えた後は手裏剣術…忍術…チャクラコントロール…体術等
本格的に身体を馴染ませる為に動かす修行にへと入る
それは、全て天才と言われた彼が期待に応えるべく積み重ねてきたものだ
彼は更に筋肉に負荷を掛けるべく、淡々と千回の逆立ち指立てをこなした後に、自身の手足に重しを付けはじめる
そうして、更に負荷を掛けたままに行う準備運動の為の筋力トレーニングに戻る
最早それは常人からして見れば、狂人的な身体能力といってもいいだろう…
そんな、彼の早朝のトレーニングをこっそりと陰から見守る一人の陰
イタチは重しを付けた逆立ちの指立てをしつつもその気配に直感的に反応し、
筋力トレーニングを続けながら腰にあるポーチから手裏剣を取り出しそれを軽々しく投げる
勢いよく放たれたそれは自分を物陰から観察している者の隠れている木に全て直撃する
そんな、手裏剣を放ったイタチは何食わぬ顔で筋力トレーニングを続けながら、物陰から観察している人物にこう言い放った
「…ふっ…はっ…見ていないで出てきたらどうだ…」
片手で手裏剣を扱ったのにも関わらず、集中力を切らす事無く淡々と涼しい顔で平然と指立てを繰り返すイタチ
そんな彼の行動に度肝を抜かれたのか、観念した様にその人物は姿を現した
「…気づいていらっしゃったのですか…」
「…視線や気配だけで相手を感じる等、二流のする事だ…俺は常に気を張り、自分以外の人間の的確な位置を把握している」
それはやはり、イタチが身を置いてきた暁にいた頃の過酷な環境が影響したからかもしれない
あの時は相当な数の任務や暗殺、そして自分身体に負担を掛けていた
イタチは当たり前だと言わんばかりに現れた人物に優しく微笑んだ
それは、軽く桃色掛かった髪の美しい闇の書の騎士の一人、シグナムだ…
一見、変に真面目で気難しい性格の様な彼女だが、自分と同じくはやての事をとても大事にしてくれている家族の一人
イタチはそんな彼女が自分と同じく、身体を鍛える為にこうして早朝から一人でトレーニングを行っていた事を知っていた為に彼女の出現にそれ程驚きを表す事はなかった…
正直、イタチのトレーニングを観察していた彼女は度肝を抜かれた様な顔をして彼の前に姿を現したのであるが…
まぁ、無理もない常人がする様なトレーニングというモノを逸脱している彼のそれはとてもじゃないが凄過ぎて言葉に出来ない
彼女はそれを修行の一環として、平然とこなすイタチに他愛ない話をし始める
「…貴方は只者では無いとは思っていましたが、毎日こんなモノを?」
「…忍だからな…いざという時の為だ…その時が来た時にはやてを護れなかったじゃ話にならないからな…」
イタチは現れたシグナムにそう返し、淡々と指立てを繰り返す
彼は実に真面目でひたむきな性格故に、今、自分が出来る事を精一杯する様に心掛けていた
それはやはり、生きたくても生きる事のできなかった者の事を知ってしまったからかもしれない
彼のそんな姿にシグナムはあるお願いを口に出し始める
「…兄様、お願いがあるのですが…」
「…イタチで構わないと言っているだろ? それでなんだ?」
イタチは軽々と指立てをしながら余裕のある表情を見せ、シグナムに問う
それで、問いかけられた彼女は何処か頼みにくそうな表情を浮かべてこう彼に答えた
「…あの…私と手合わせしてもらえませんか?」
「…何?…」
イタチは奇妙な言葉を口走ったシグナムに途中までしていた指立てを中断して聞き返す
そう、イタチには信じられなかった誇り高い騎士の筈の彼女が自分と手合わせをしたいと言って来るのが…
別に彼自身は丁度実践相手が欲しかったので、構わなかったのだが…仮にも彼女は女性である、イタチには少しばかり抵抗があった
だが、どうやら彼女も引く気は無いらしい、お願いしますの一点張りでイタチに手合わせをお願いしてくる
彼女の頑固さもまた以前あったなのはと同じく一級品であった
とりあえず、彼は忠告する様にこう彼女に一言だけ告げる
「…一言だけ伝えておくが、俺の実践というのは君達が掲げる騎士道と等は異なり、単純に人の命を刈り取る為のものだ…もし手合わせするとしても俺はそのための修行の一環として行うつもりだ、だから下手に君が俺と戦えばケガどころでは済まないぞ?」
「…承知の上です、こちらも本気で倒すつもりでいかせてもらいます」
彼女はイタチの忠告を受け入れる様に頷き、問題ないと応える
シグナムも闇の書の守護騎士、今は主であるはやてを支えるヴォルケンリッターの一人
こうみえてある程度の戦場も体験したこともあれば、誇りを掛けて相手と戦い打ち取り殺めた記憶など数ほどあるし、それに、そんな戦場を経験した自分がこの時、目の前に映る忍に劣る等と到底思える訳がなかった
そうして、そんな彼女の返答を聞いたイタチは仕方ないと深いため息をついて彼女から目を瞑ったまま地面にへと視線を落とす
まぁ、手合わせを申し込んできた時点で、いかにもプライド(誇り)が高そうな騎士の一人である彼女が引かない事はわかっていた事だ…
だから、やるからには自分自身の為、そして彼女の為にとりあえず肩慣らし程度に力を出す
彼はそんな事を心の内に秘め、彼女にへと視線を移す
そのイタチが視線を彼女に移した直後から、既に戦闘は始まっていた
まず、彼女目掛けて凄まじい数の苦無の嵐が殺到する
風を切り裂き、とめど無く襲いくるそれ
シグナムは持ち前の瞬発力で自分に向かい放たれた苦無の嵐をギリギリでかわす
しかし、そのうちの数本が彼女の頬を掠め、少量の血がぽたりと頬を伝い地面にへと落ちる
すぐさま体制を立て直し苦無が掠めた自分の頬をそっと触れて確認するシグナム
しかし、体制を立て直してイタチの姿を確認しようと顔を上げた彼女の首元には既に苦無を突き立てられていた
まさに電光石火、眼にも止まらない早さで追い込まれたシグナムは唖然としていた
次に彼女に苦無を突き立てるイタチは唖然としているシグナムに告げる様にこう言い放った
「…これでお前は死んだ、俺がいた戦場ではこれが日常茶飯事、気を緩めれば一瞬で終わる」
イタチは一言だけそう唖然と立ち尽くしているシグナムに伝えると彼女に突き立てていた苦無をクルクルと回して素早くポーチに仕舞う
そうこれがイタチが越えてきた戦場では当たり前、
シグナムも気を緩めていた訳では無い本当に一瞬だけ、イタチの姿を見失っただけなのだ
これが、天才と言われたイタチのアビリティの高さだろう
忍として一流なのは、命のやりとりをする戦場で人をどれだけ殺せるスキルがあるか…この一言に尽きる
そうして、イタチは何が起こったのか未だに理解が追いつかないシグナムに背を向けたままこう語る
「…これが俺の学んできた事だ、人殺しの術それが忍である俺が習得したもの…それでもお前が強くなりたいと望むのならまたここに来るといい、明日からはちゃんと鍛えてやる…
しかし、今日はもう時間だ…俺は家に帰ってはやて達の朝食を作らなければならない…俺は先に帰っているぞシグナム…」
イタチはそう言うと、まさに疾風の如く唖然としているシグナムをおいて消えた
彼女はその途端、ぺたりと地面に座り込み頬を流れる血にそっと触れる
頬を伝う赤い血、それはまさにシグナムに死の恐怖を感じさせるには十分なものだった
「…これが、戦い…」
試合では無く、死合い…
殺す殺されまた殺す、欺き、騙し、陥れ人を単純に抹殺する戦場に身を置いていたイタチだからこそ成せれる芸当
魔法や誇りある戦いを望んだ自分が戦ってきた戦場とはまた違う在り方
シグナムはただ呆然と自分と彼の歩んできた道の違いを教えられたような気がした
彼女は立ち上がる、家に帰ると告げた彼の後を追う為に…もっと、道を違って生きてきた彼の事を知りたいという好奇心にまるで押されるかのように
また、必ず明日の朝、この場所にやってこようとそう心に決めて
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帰宅したイタチは家族になったヴォルケンリッターの分の朝食を作り終え
現在、汗を掻いた身体を洗い流す為に風呂に入いろうとしていた
所謂、朝風呂というやつである、
ここのところ朝から海鳴町の外れの森の中で修行を行っているイタチにとってそれは最早日課となってしまっていた
女性ばかりの八神家で一人だけ汗臭いと言われるのだけは勘弁したい
イタチはそんな事もあってか、彼女達の朝食を作り終えた後にこうして湯船に浸かる事にしている
いつも、髪を結んでいる髪留めを解きそれを洗面所に置いて彼は湯に浸かる
…暁にいた頃は、任務中はろくに風呂に入れず、近くの河原でいつも水浴びみたいな感じだったがここ最近はこうやって毎度風呂に入る事が出来て実に助かっている
楽しみのひとつとなっていると言っても過言ではないだろう
そんな昔の事を思い返しながらふと風呂場の天井を彼が見上げている時だ
何やらガヤガヤと風呂場の外から声が聞こえてくる
2人か…だいたいそのぐらいの数だろう
そんな物音、足音の数を静かに頭の中で冷静に分析していたイタチはある事に気づいた
ん…?風呂場の外で数人の足音?
あぁ…とこの後に起こるであろう出来事を悟ったイタチはつい疲れた様に頭を抑えてつい呟いてしまった
そうして、そんな彼を他所に風呂場の扉が勢い良く開く
「シグナムー、背中流し合いやろうぜ!」
「…だから、私は一人で入ると…」
そう言って、イタチの浸かる風呂場に乱入してきた2人組
はやてを守る為に現れた闇の書の騎士、ヴォルケンリッターのシグナムとヴィータだ
シグナムは勿論、トレーニングを終えたのでそれを洗い流しに、
ヴィータは偶々、他の皆よりも早く眼が覚めたので、顔を洗うついでに湯船に浸かろうと考えて、トレーニングを終えたシグナムと一緒に湯船に浸かろうという動機で2人とも風呂場に足を運んでいた
そんな矢先、風呂場に足を踏み入れてみたら何やら見知らぬ人物が自分達より入っていた
しかも、男であるイタチがだ、ふつうなら悲鳴を上げたり何かのリアクションがある筈だ
しかし、風呂場に足を踏み入れた彼女達はそんな事も無く、湯船につかる彼の姿につい見惚れていた
束ねた髪を解いている長く美しい彼の黒髪、それはイタチの整っている容姿をより引き立たせ神秘的な姿に見える
女性である自分達が美人だと感じてしまう程に彼の姿はとても綺麗であった
そうして、風呂場に乱入し固まる彼女等は彼にこう質問を投げかける
「…あの、どちら様?」
「…? 何を言っているんだ…俺だ、それより上がるまで少し外で待っていて欲しいのだが…?」
そう言って、乱入してきたシグナム達に凛とした顔立ちで答えるイタチ
そうして、我に返った彼女達は自分達の状態を見てハッとなり、顔を真っ赤にして慌てた様に扉を閉めて風呂場からでてゆく
風呂場から立ち去った彼女達を見送ったイタチはひとまず身体を洗い流しとっと風呂場から出る事にした
後から彼女達が入るのだから時間はあまり掛けてはいけない
そんな気遣いがあっての事だろう
さて、風呂場から立ち去ったイタチは早速朝食を取る為にリビングにへと移動する
…修行で汗を流した後なので実にさっぱりとした
そうして彼はリビングのテーブルについて、はやて達が起きて来るのを待つ
そんな時だ、リビングの扉が開く音がする恐らくイタチの後に風呂に入っていたシグナムかヴィータだろう
イタチは開く扉に微笑みながら視線を向けて声を掛ける
「…やっぱり君だったかシグナム…ヴィータはどうした?」
「…貴方に裸を見られたから後から朝食を食べたいそうです」
どうやら、風呂場であった出来事から自分の顔を見るのが恥ずかしいのかシグナムも何だか視線を逸らしながら訪ねるイタチに答える
いつも通りとは違いイタチは風呂場にいた時と同じ様に髪を結わないままおろしている
まぁ、それはやっぱり髪を下ろした時に別人に彼女から見られたからだろう
気にしている訳ではないが、彼女達から誰だと訪ねられたイタチは軽く、傷ついた
顔ぐらいは家族なのだから覚えて欲しい
彼が髪を結わないのはそういったものからだろう
彼女は顔を真っ赤にしたまま、先程の出来事についてイタチに訪ねはじめる
「…あ! あの…もしかして私達の裸…」
「大丈夫だ前髪が眼に掛かって見えなかった…それと忠告だが、叔女が裸を見たかどうかは訪ねるべきではない、ああいった出来事は君自身にも俺にも無かった事にした方がいいに違いないからな」
イタチは冷静に手元にあるコーヒーを口に運びながら優しく彼女に微笑む
正直に言うと風呂場で見てしまったのだが、彼女等の為にも無かった事にした方がシグナム達も恥をかかないで済む
だから、イタチは出来るだけそれを彼女に意識させないように精一杯、気遣う事にした
それが功を奏するかどうかは分からないが…
一方、そう気遣うイタチの言葉にシグナムはと言うと、何故かは分からないが、先程からボーとイタチの顔を真っ直ぐに見つめている
…自分の顔に何かついているのだろうか?
彼は自分の顔を見てくるシグナムに首を傾げて、手に持っていたコーヒーをテーブルの上に置き声を掛ける
「…どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
「い!いえ! そんな事は!」
イタチが声を掛けた途端に顔を真っ赤にして否定する様に左右に首を振るシグナム
何か彼女は先程から変ではないだろうか?
違和感を感じた彼は顔を赤くするシグナムにゆっくりと近付いて、自分のおデコを彼女にピタリとくっつける
…顔が紅潮しぼーとしているから熱かもしれないと感じたのだろう
だが、どうやら違った様だ平常、熱がある事はない
ーーーーーーしかし、その時だった
彼女に近付いて、デコを合わせたイタチは何かに気づいた様にピタリと固まる
この時、シグナムにデコを合わせたイタチは何処か懐かしい何かを感じた
それは匂い…、かつてその温もりの中でそれを嗅いだことのある物
暖かく、心地良いもう嗅ぐ事の無い…
『ごめんなさいね…イタチ…貴方にこんな重荷を背負わせてしまって…』
かつて、自分に謝罪し涙を流しながら包み込んでくれたあの匂い
あぁ…そうか…これは…
ポタリと…イタチの片眼を伝い透明の雫が地面にへと流れ落ちた
彼からおデコを合わせられ、先程から顔を真っ赤にしていた彼女は思わずそのイタチの頬に流れ落ちる雫を見て眼を見開く
「…兄…様…?」
彼女は分からなかったイタチが片眼から涙を流すその理由(わけ)を…
なんで、そのように何かを悟った様に涙を流すのか
片目から涙を零しているイタチ本人は自分の頬に触れ、その異変に気づいたのか素早く、シグナムに背を向け流れ出たそれを軽く片手で拭った
そんな彼は素早くシグナムの方に振り返ると取り繕う様に先程と同じく優しく微笑みこう言った
「…いや…済まない…」
「…兄様…なんで泣くんですか?」
シグナムは心配そうな顔で、片目から涙を流したイタチに問いかける
彼女のその眼は真っ直ぐにイタチを見つめ、隠さないで語ってくれと言っているようだった
イタチはやってしまったなとつい内心で呟く
最近、こんな緩い生活を送っている生活を送っているせいで私情に流されやすくなってしまった
イタチはそんな後悔を胸の中で悔いながら、真っ直ぐな視線を送ってくる彼女にこうなっては仕方ないと割り切り、先程の涙の訳を語り出す
「…母の…匂いが君からしたんだ…」
「…兄様の母上の匂い…?」
シグナムは思い出す、確かはやてとイタチは兄弟とはいえど義理のものだと語っていた事を
はやてには両親がいないと聞いていたがその兄であるイタチの素性は全く知らないし、聞かされていない
いや、イタチ本人が語りたがらなかったと言った方が妥当だろう
だから、余計にシグナムはイタチの事に興味が湧いた
しかし、深入りすればそれは彼の心の闇を悪化させる気がして、シグナムはその事に関してあまり触れる事がいままでできなかった
だが、これはいい機会だ
はやての兄であるイタチについて知る事が出来る
そんな事を考えていた彼女にイタチはその重い口を開き話し出す
「…俺の母は優しい人だった、だけど…もうこの世にはいない…」
そういない、何故なら自分が殺したのだから…
繋がりを断ち切り、返り血でその身を染めた
自分を包んでくれたあの温もりはもうこの世には無い…
しかし、そうシグナムに語るイタチは微笑んでいた…まるで辛い事をシグナムから覆い隠す様に
そうして、彼は黙って自分の話に耳を傾けるシグナムに話を紡ぐ
「…だからだろうな…もう嗅ぐ事の無いと思っていた懐かしい匂いが君からしたものだから…つい無意識だった…済まない」
「…兄様(あにさま)…」
シグナムは微笑んでいるイタチのその笑顔が儚く見えた
強がりではない、彼にはそうしなければならない義務がある
そんな宿命を背負う彼のその笑顔から感じる事が出来た
だから、自分はそんな彼の力に成らなければならないのではないのか? 家族として
シグナムは笑顔で語る彼の母親の話にそう、思ってしまった
繋がりがあるからこそ、それがなくなる辛さ苦しみは計り知れない
気付けば、彼女は無意識に笑顔に語るイタチにゆっくりと近づくとその頭を抱きしめて引き寄せていた
何故そうしたかは分からない、ただこうした方がいいと思ったから…
シグナムは何度も抱き寄せたイタチの頭を撫でてこう語る
「…兄様…いや、イタチ…お前は辛かったのだな…」
彼女はそうしてイタチの頭を撫でて、慈愛に満ちた声でそう告げる
だが、イタチはそんな彼女の肩を持ってゆっくりとそれを引き離した
彼女の行為、良かれと思ってやった事
しかしながら、そんな優しさは今の自分には受ける権利は無い
そんな罪の意識がイタチから彼女を引き剥がしていた
「…シグナム…俺は君にこうされる様な人間では無いんだよ…」
イタチは諭す様に引き離したシグナムの肩を持ったまま微笑む
そう、権利は無い…自分は罪人だ…だから本当なら涙など流してはいけない人間なのに
やはり、優しさは罪だ…
イタチは自分の弱味をつい零してしまったシグナムにこう一言だけ告げる
「…ありがとう…少しだけ懐かしい思いが出来たよ…」
イタチは彼女に満面の笑みを浮かべてそう告げた、
自分がかつて失ってしまった繋がりを再び思い出させてくれた彼女に感謝を込めて
罪という枷は決して解ける事の無い呪い
それにより受ける苦しみも辛さも背負うしか無いもの
忍とは忍び耐えるものの事を指す
だから、忍であり続ける限り彼は救われる事は無いのだろう
彼は背負い続ける、今度こそ自分が大切だと思う人の為に…
それが、例え偽善でも大切な人間を悲しませる結果になったとしてもだ…
彼に待ち受ける運命
このうちはイタチという忍がいったいどういった物語を紡ぎ出すのか
まだ誰にも分からない…
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沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男
彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。
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