No.452822 恋姫外伝~修羅と恋姫たち 十三の刻南斗星さん 2012-07-14 19:25:56 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:4218 閲覧ユーザー数:3876 |
【十三の刻 孫呉の姫 ③】
鈴の音と共に現れた女性は殺気を隠そうともせず、鋭い視線を疾風に向けてきた。
「貴様、何者かは知らんが即刻そのお方から離れろ。素直に言うことを聞けば命だけは見逃してやる、だが従わんと言うなら!」
そう言うとスラっと腰の短刀を引き抜き構えると、いつでも飛びかかれるような姿勢をとる。
それに対して疾風はいつもと変わらず、飄々とした態度で女性を見ていた。
「貴様!」
その態度が気に触ったのか、いよいよ疾風に飛びかかろうとした女性に対し、一瞬呆然と事の成り行きを見ていた孫権が慌てて声をかける。
「ま、まって!思春彼は敵ではないわ、私の恩人よ。」
「…恩人ですか?」
その言葉を聞きとりあえず聞く姿勢になった思春と呼ばれた女性に対し、孫権はこれまでの事情を急ぎ説明する。
「…という訳なの、わかってくれたかしら?」
「なるほど一応は納得しました」
孫権の説明を聞いた思春はとりあえずは納得したのか、短刀を収めた。もっとも疾風に対する警戒は怠っていないが。
「それはそうと蓮華様、いつまでその者の背におぶさっているおつもりですか?」
「…へ?」
思春に言われて初めて孫権は、今だ疾風の背にいることを思い出した。
「え、え、え、ええええええ~~~!!ちょ、ちょっとなんでもっと早く言ってくれないのよ~~降ろして、すぐに降ろしなさいよ~~~」
そして顔を真っ赤にして疾風の背で暴れだしてしまうのだった。
「…そう、賊は殲滅出来たけどこちらも多く犠牲を出してしまったのね。」
孫権が落ち着くのを見計らって、疾風との自己紹介を終えた思春こと甘寧は、賊討伐の顛末を孫権に話していた。
「は、出陣した百名の内残った部下は十名ほどかと、残りの者は離散したか討ち取られたかと…申し訳ございません。」
「ううん、思春たちが悪いわけじゃないわ、今回のことは私の失策よ。」
頭を下げ謝罪する甘寧に対し、首を振りながら否定する孫権。
「このことを姉さまが聞いたら、さぞ呆れる事でしょうね…」
と溜息混じりに呟いたが、頭をニ、三度振り思考を切り替えるとこれからのことを話し出した。
「とにかく兵たちには申し訳ないけど、遺体を引き取るにしてもこのままでは無理だわ。一度街に帰ってから手配するしかないわね。」
そう言いながらようやく甘寧に追いついてきた生き残りの兵たちを見る。皆、傷を負っていないものはいないし、そもそもこのまま数倍もの遺体を運ぶのは無理だった。
「とにかく街に帰りましょう、皆丸一日働き詰めで疲れてるでしょう。それに傷の手当もしないと、痛っ!」
そう言って自身の怪我も忘れて立ち上がろうとした孫権が、足への激痛で思わず声を上げる。
「蓮華様無理をなさってはいけません。私が背負いますのでどうぞ背中へ」
そう言って孫権に背を向けしゃがむ甘寧だったが、孫権は首を振り遠慮した。
「思春貴方全身傷だらけじゃない、貴方だけではない皆私のせいで負傷してるわ。これ以上私が貴方達に負担をかけることはさすがに出来ないわ」
「家臣が主の為尽くすのは当然のことです。気になさることはありません」
そう言って促がすが、孫権は頑なにそれを拒んだ。
このままでは埒が明かないと甘寧が強引にでも背負おうと考えたが、その前に疾風が孫権を抱きかかえた。
「え。ちょちょっと何するのよ!?お、降ろしてちょうだい」
「貴様!蓮華様に何をする!?即刻放さねば首を落とすぞ」
と、疾風の腕の中でジタバタ暴れる孫権と、刀に手をやろうとする甘寧を制して
「暴れるなよ、あんたは一人で街まで歩けないし、部下は怪我をしてるから迷惑をかけたくない。だったら俺が運ぶのが一番だろ?」
と屈託のない笑顔で言った。
その笑顔を見た途端、孫権は真っ赤になり大人しくなってしまう。
「で、でもなんの関係もない貴方にこれ以上迷惑は…」
と消え入りそうな声で呟く孫権に対し、それこそ今更だなと孫権を抱えたまま歩き出す疾風だが、
「ちょ、ちょっとまて!」
その時完全に蚊帳の外に置かれていた甘寧が、疾風たちの前に回りこんで立ちふさがった。
「何を当たり前のように歩き出している。私は貴様なんぞに蓮華様を任せた覚えはないぞ!」
と詰め寄りながら大声で怒鳴る甘寧を、不思議そうに見つめながら疾風は言う
「?何を怒っているか知らんが、こいつは歩けないしあんた達には負担をかけたくない。ならば俺が運ぶのが一番早くないか?」
「っわ、私はこの程度の怪我などなんともない!貴様の様な得体の知れぬやからに大切な主君を任せるわけには…」
とさらに食い下がるが
「あんたの矜持かなにか知らんが、そんなことよりこいつの治療の方が大切じゃないのか?」
と再び麓に向かって歩き出す疾風に言われ、渋々ながら甘寧はその後を追った。
「御免なさいね、なんだか貴方には昨日からお世話になりっぱなしね。」
疾風の腕の中で俯く様にしながら、孫権は申し訳なさそうに声を漏らす。
「そんな大した事でもないだろう。」
疾風はまるで気にしてないとばかりに肩を竦めて見せる。
「そう言うわけにも行かないわ、街に着いたら何かお礼をさせて頂戴。」
疾風は頑なに礼をしたがる孫権に対し、少し考える素振りを見せた後に何かを思いついたように口を開いた。
「なら何か美味い物でも食わせてくれないか?ここの所、河で取った魚か木の実くらいしか食ってなくてな…粗食には慣れてるけど同じ物ばかりでいい加減飽きちまった。」
「そんな物でいいの?ふふふ、わかったわ料理人に言って今日は腕を振るわせましょう…あっ」
疾風の欲のない欲求が可笑しかったのか、笑みを漏らしながらそう言った孫権だったが、ふと疾風と目が合った瞬間何故か頬が熱くなり目を逸らしてしまった。
「うん?どうしたんだお前。」
「な、な、なんでもないわよ!?き、気にしないで頂戴!!」
(何だというのよ、唯目が合っただけでこんなに胸がどきどきするなんて…私どうかしちゃったのかしら…。)
少女は自身から発した初めての感覚に戸惑いながらも、無意識の内に疾風の顔に視線を向けているのであった。
そしてそれを不機嫌そうに見つめる従者が一人。
「…街に着いたら、やはりやつは殺そう……。」
明日は所用の為更新出来そうにないんで、その分早めに更新しときます。
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