No.452067 恋姫外伝~修羅と恋姫たち 十一の刻南斗星さん 2012-07-13 12:36:19 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:4517 閲覧ユーザー数:4185 |
【十一の刻 孫呉の姫 ①】
疾風と趙雲の死闘から三日ほど経った。
幸い趙雲の傷は死にいたるほどではなかったが、それでも完治まで二月ほどかかると医者に言われ、その間趙雲達は紫苑の家で世話になることになった。
最初知り合いでもない自分達が世話になることを遠慮した趙雲達だったが、紫苑曰く「あらあらお客さんが増えるのは楽しいことですわ」と言って一向にかまわないらしい。
もっとも程立と戯志才は城の雑務など手伝わされる破目になったが…。
そして趙雲達と入れ替わるように、疾風が旅に戻ると言い出した。
元々璃々を助けたのが縁でここに留まっていたが、こんなに長く世話になるつもりはなかったし、まだ諸国を旅していろいろと見聞きしてみたかった。
疾風と別れたくないと愚図る璃々を、必ずまた会いに来ると説き伏せたり、次に会うときは必ず勝ってみせると意気込む趙雲に真名である『星』を預けられたりと、いろいろありながらも新たな地へと旅立つ疾風であった。
さらに十数日ほど過ぎた江東のある山奥……
「はあ、はあ…。」
一人の少女が息を切らしながら山道を走っていた。
時折後ろを振り返るように見ている所をみると、誰かに追われているのだろうか
「はあ、はあ……ちっ、陳紀のやつめ、何が『三十にも満たない賊退治』だ。どう見ても三百はいたぞ、いい加減な情報で賊退治など命じおって」
少女は愚痴を漏らしながらも速度を落とさず走る。
「それにしても思春たちは大丈夫だろうか…。」
ふと少女は残してきた部下達の心配をする。
少女達は自分達が客将として仕えている(実際は人質同然に扱われていたが)主君の部下から、盗賊退治を命令され自身の部下を率いて出陣したのだが、事前に聞かされていた情報より賊の数が十倍近くもいた為、逆に全滅の危機に陥り敗走する羽目になったのである。
その際に部下達は散り散りになり、少女がもっとも頼りとする側近とも逸れてしまったのである。
「くっ情けない、袁術の部下ごときの情報を鵜呑みにして出陣するとは」
(こんなとき姉様ならどうしてただろうか。きっと斥候を出すなりして情報の有無を確かめただろうな。)
今更悔やんでも後の祭りと知りながらも、少女は自身の未熟さを痛烈に感じていた。
(とにかく今は逃げ切らねば、こんな所で死んでしまったら姉さま達にも思春達にも申し訳が立たないわ。)
そう思い少女は更に足を速めるのだった。
数刻後、日も暮れ始めたころ少女は川原に辿り着いていた。
賊からはだいぶ離れたこともあり、緊張が解けたせいか強烈な喉の渇きを覚えた少女は、水を求め川へと近づいていった。
すると人のいる気配を感じ物陰に隠れて様子を見たが、そこで少女は奇妙な光景を見ることとなった。
(な、何をしてるのだ?あれは……。)
そこには上半身裸で下帯を着けただけの男が、川に入り下半身を水に沈めじっと川を見つめているのである。
(何だ、もう冬になろうかというこの時期に、寒くはないのだろうか?)
少女は自身が追われている立場も一瞬忘れ、その奇妙な光景に目を奪われていた。
どれくらいそうしていただろうか、少女がふと喉の渇きを思い出し川へ近づこうとしたその時、男が目にも止まらぬ速さで川の水を蹴り上げたのである。
すると銀に輝くものが天に弾け飛び地面に落ちた。
少女が何かと目を凝らしてみると、それは魚だった。
(何だと!あの男は魚を蹴り上げたというのか?)
少女がありえぬ光景に目を疑っている間に、男が次々魚を蹴り上げていく。
十匹ほどの魚が地面に落ちたとき、もう充分なのか男が水から上がってきた。
そしてあらかじめ用意してあったであろう焚き火の周りに、棒切れに刺した魚を立てていく。
全ての用意が終わったのか側にあった服を着込んだ男は、不意に振り向き少女が潜んでいる草陰に向かい口を開いた。
「なあ、腹減ってないか?」
奇妙なことになった。
少女はそう思った。賊から敗走してる途中だというのに、なぜ私は見知らぬ男に食事を施されているのだろうと…
だがすでに日も暮れしかも無我夢中で逃げ続けた為に、自身の現在位置も掴めぬ現状では夜道を行くのは危険すぎる。
それに逃げ惑ってるうちは忘れていたが、こうして一息入れてしまうと空腹を思い出してしまう。
結局少女は男の申し入れを受けることにした。
焼かれただけの魚だったが、空腹のせいかいつもより美味しい食事に感じた。
それにこうして釣れたての魚を焼いて食していると、幼い頃自分の姉とその親友に連れられ魚釣りをした記憶が蘇る。
(ふふ、姉さまったら自分が率先して釣りを始めるくせに、いつも最初に飽きて結局私達に釣りを押し付け自分は山とかに遊びに行ってしまうのよね。)
懐かしい記憶と共に腹が満たされたせいか、急に体が疲労を訴え強烈な睡魔が襲ってきた。
(いけないこんな時にしかもこんな場所で見知らぬ男の側で眠ってしまうなんて…)
頭を振るい眠気を追い出そうとするが、一日中走り回った疲れと追い回されたからであろう精神的な負担でもはや限界であった。
(駄目、こんな所で眠ってる、場合じゃ、ないのに…思春たちも、たす…にいかな、きゃ)
睡魔との激闘を演じた少女だったが、本能からくる欲求になすすべなどなく、いつしか眠りについてしまった。。
※オリキャラ説明
陳紀 ーちんき 職官、九江太守
オリキャラというか実在の人物。
正史では袁術配下の武将で孫策の代わりに九江太守に命じられ、演戯では寿春城で曹操に敗れて、斬首されたマイナーなお人。
ちょい役なんで真名は考えてませんし、字も不明。
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