No.445977 インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#01高郷葱さん 2012-07-04 22:54:20 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:8775 閲覧ユーザー数:8149 |
[side:織斑一夏]
『運命の女神とやらが、本当にいるのなら、ソイツは極上の性悪だ。』
その言葉の意味を噛みしめながら、俺は二十九の視線ビームに晒されていた。
きっとピンク色であろうそのビームは俺の精神値をガリガリと削り、胃粘膜にダメージを与えてゆく。
正直、誰か代わって欲しい。
ついでに、六年ぶりに再会を果たした幼馴染、篠ノ之箒に視線で助けを求めたところ、視線を逸らされて、知らんぷりされた。
ちくせう、それが窮地に立たされた幼馴染への対応なのか?
「―――らくん、」
これがアキ兄だったらどうなるか………
なんだろう、父親然として微笑んでる姿しか想像できない。
「―――斑くん、」
ああ、アキ兄というのは――
「―織斑一夏くん!」
「ッ……は、はいッ!」
我に帰ってみたらフルネームで呼ばれており、自覚するほど大慌てな俺は思わず大声で返事&起立。
したら逆にびっくりした副担任の山田真耶先生はぺこぺこ謝りながら『自己紹介してくれ』と言ってきた。
そうか、今は自己紹介中だったのか。
「ボーっとしててすいません。自己紹介しますから、落ち着いてください。先生。」
「本当ですね!?や、約束ですよ!絶対ですからね!?」
どう見てもテンパってる山田先生は俺の手を取って詰め寄ってくる。
さっきの『大声で返事』&『起立』で余計に目立って注視度が上がってしまった上でこの仕打ちかよ。
とりあえず、『自己紹介するから』と言って手を放してもらい、後ろを振り向く。
二十九対の『ピンク色の視線ビーム発振機』が俺に向いて絶賛照射中なのを真正面からみて、流石に引きたくなる。
さっき見捨ててくれた箒もこっちをちらちら見てるし。
目があって、ぷい、と逸らされた。
あ、ちくしょう。また見捨てやがったぞ、この幼馴染。
万事休すか………
仕方がない、腹をくくろう。
「えーっと、織斑一夏です。そこにいる、窓際一番前の席の篠ノ之箒は幼馴染で、苗字でわかるかもしれないけど織斑千冬は俺の姉です。まあ、よろしくお願いします。」
こんなもんで無難に済ませられるか?
突然巻き込まれた箒は非難の視線を向けてくるが無視。さっきこっちからの『ヘルプコール』を無視した仕返しだ。
儀礼的に頭を下げて、上げたら期待のこもった視線と『もっと喋れ』的な空気が教室中に溢れかえっていた。
一部では『あの千冬様の弟!?』とか『いいなぁ、代わってほしいなぁ』とか言ってるのが居て、また一部は箒に『本当?』と話しかけているが。
こんなもんでいいだろ!?
行き成り趣味とか語られても俺、ドン引きするぞ?
それにあんまり喋る事無いし、同性にしか通じないネタばっかりだと退屈させそうだし………
ダラダラと背中に冷たい物が流れる。
これで『以上です』だなんて言ったら一気に崩れそうだ。
「………これ以上、何を喋れと?」
返事は無い。返事の代わりに期待に満ちた視線ばかりが増える。
うーむ、どんなネタがいいのか………
パァンッ!
「いっ―――!?」
ネタに尽き、言い淀んでいたら背後からいきなり頭を叩かれた。
しかも、手じゃなくて何か堅い板状の物で。
嫌な予感しかしないまま、恐る恐る振り向くと黒のスーツにタイトスカートに身を包んだすらりとした長身で、よく鍛えられているが決して過肉厚ではないボディラインをして、狼を思わせる鋭い吊り目の女性が腕を組んでいた。
それに、よく知ってるあの打撃の威力は…
「ち、千冬姉!?」
パァンッ!
「織斑先生と呼べ。」
トーン低めの声。
何故に職業不詳で月に一、二度しか帰ってこない俺の実姉がここにいるんだ?
「あ、織斑先生。もう用は終わられたんですか?」
「ああ、山田先生。クラスへの挨拶を押しつけてすまなかったな。」
行き成り明るくなる山田先生と、俺はここ最近聞いたことがない優しげな声の千冬姉。
「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと………」
山田先生に教卓前を譲られ、千冬姉がそこに立つ。
なんだか学校の先生というよりは士官学校の教官と言った方がしっくりきそうだ。
士官学校だなんてどんなふうなのか知らないけど。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言う事はよく聞き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言う事はよく聞け。いいな。」
なんという暴力的宣言。
これは教官というより鬼軍曹だ。
だが、そんな感想を抱いたのはこの教室の中で俺らしく…
「キャー――――ッ!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様の為なら死ねます!」
etc.etc.
黄色い悲鳴を皮切りにしたきゃいきゃいという女子特有の騒ぎ声に千冬姉はかなり鬱陶しそうな顔になる。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。呆れを通り越して感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
と、本気で言う千冬姉。
普通だったら、『何、あの言い方』的な反感を買う。
少なくとも、俺ならこんな事を言う担任相手には、そう思う。
だが…ここはIS学園で相手は『世界最強』の名をほしいままにしたまま、突如現役引退をした『あの』織斑千冬だ。
「きゃぁぁぁぁぁ!お姉様っ!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけ上がらないように躾して!」
それすらも『格好良く』見えてしまい女子たち(一部例外有)は更にヒートアップ。
俺は自分のクラス担任が千冬姉だったことに混乱と驚愕の底に堕ちてた筈なんだが、女子の黄色い声に逆に落ち着いていた。
人間、自分より強い感情が近場にあると相対的な意思が働いて落ち着くって本当なんだなぁ…
「で、挨拶も満足に出来んのか、お前は。」
「い、いや、普通にしたら『もっと喋れ』と無言の圧力を…」
パァン
「
「…はい、織斑先生。」
ここで千冬姉と呼んでもう一撃はご免だ。
「さあ、
うん、やっぱり鬼教官だ。
…ん?ドアの外に誰かいるのか?
「織斑先生?外に誰かいるみたいですけど…」
山田先生が気付いてツッコミを入れてくれた。
良かった。生徒の俺がやったらまず『スパァン』だろうから。
とりあえず座っておこう。
「ん?」
と、千冬姉が廊下にいる恐らく先生と二、三言葉を交わしたのちに弟である俺すら見た事のない『困惑と驚愕の混ざった表情』をうかべて戻って来た。
「織斑先生、どうしたんですか?」
「ああ、諸事情で遅刻した生徒が一人、いたようで…―――入れ。」
千冬姉の命令に従って、ドアが開いて外にいた『入学式遅刻者』が入って来た。
入ってきて、その途端に息を飲む声と緊張感が教室を満たした。
そして、その緊張感の糸は誰かの、
「…男の子?」
という呟きを以って、ぶった切られた。
そう、そいつは俺と同じデザインの―――男子用の制服を着ていたのだ。
『そいつ』、は千冬姉の横…教卓の横に立ち、俺たちの方を向く。
「………き、」
「き?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
「男の子よ!二人目の男の子!」
「しかも可愛い系!」
「織斑君みたいなワイルド系なのもいいけどああいうのもいいよね」
「なんて名前なのかな」
「可愛い系?それとも強そう系?」
「飛び級かな、それともリアル男の娘なのかな」
「これは、今年の薄い本のネタは決まりね!」
顔まではっきりと全員が把握した瞬間、黄色い悲鳴が大爆発を起こした。
それも千冬姉といい勝負の。
同時に、困惑と驚愕で混乱していた俺の頭は周囲の熱気に当てられて冷静になる。
冷静になれば成る程、その教卓前に立つ人物がとある人物にしか見えなくなってくる。
「―――アキ兄?」
だいたい十歳くらい年上の、血のつながらない
俺にとっては兄であり、父親でもある、千冬姉や箒の姉である束さんの兄貴分。
十年ほど前に、高校の交換留学で渡欧して、そのまま行方不明になってしまった…
いや、待て。
確かにアキ兄はゴツイ系じゃなくてどちらかといえば美形タイプで千冬姉とかと似た、所謂中性的な顔だった―――と思う。
けど、当時三歳くらいだった俺が肩車してもらったら一八〇センチなら余裕で通れる敷居をくぐれなかった。
つまり、三歳児の座高を足しただけで一八〇を超えるほどの高身長だった、と言う事だ。
それに対して、目の前にいるそいつは女性としては大柄な千冬姉はともかくとして、小柄な部類に入る筈の山田先生よりも多少大きいくらいなのだ。
男子としてはかなり小柄な部類に入ると思う。
ぼーっと眺めていると俺の視線に気づいたのか二コリ、と笑いかけてきた。
優しげな、慈しむような笑み。
―――!
思わず『可愛い』と思ってドキッときた俺は悪くないと思う。
「きゃー!可愛いっぃ!!」
「はうぅぅぅ!」
「お持ち帰りしたいっ!」
ついでに、同射線上…つまり俺の左右の列の女子も琴線に触れたらしくかなりの反応。
千冬姉はやれやれ、と言わんばかりでその子も苦笑い、山田先生はオロオロ。
そうこうしているうちにチャイムが鳴る。
よくよく考えると自己紹介が『お』までしか終わって無いぞ?
あとで適当にやっておけって事か?
「さて、バカ騒ぎは終わりだ。授業の支度をしろ。…
ふーん、あの子『せんな』って名前なんだ。
はてさてどういう字を書くのやら。
「それでは、授業を始めます。テキストを開いてください。」
山田先生が教卓前に移り授業開始を宣言して初日の授業が始まった。
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#01:クラスメイトは『ほぼ』全員女(?)