No.426762

俺妹 合格祝い

特に述べることもなくあやせたん。
【ごめんなさい。最後の1枚分のところが途切れていましたので追加しました】

Fate/Zero
http://www.tinami.com/view/317912  イスカンダル先生とウェイバーくん

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2012-05-22 23:58:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2220   閲覧ユーザー数:2092

合格祝い

 

 大学受験も何とか3つの学部で合格を貰い、浪人だけは避けられることが決まった3月の初旬の日曜日。

 後は卒業を待つだけの俺は最も自由な時間を朝から満喫していた。

「心躍るってのはこういう瞬間を言うんだろうな」

 国立私立合わせて3校の大学で12回受験して3つの合格。合格率2割5分。プロ野球選手の打者であれば物足りない成績かもしれない。けれど、0でなくて良かったという気持ちが俺を占めて高揚させていた。

 4月から大学生活が始まれば忙しくなってこの高揚感もなくなっていくのだろう。

 だけど、祭りは準備している間が一番楽しいと言うし、大学生活が始まる前のこの瞬間を今はエンジョイしたいと思う。

 スキップするような軽い足取りでまだ多くの店も開いていない街中を歩いていく。すると前方に見知った美少女の姿を発見した。

 あやせだ。

 手帳を覗き込んでその可憐な唇を小さく動かしながら俺のいる側へと歩いて来ている。

 どうやらまだ俺の存在に気づいていないらしい。

 そんな状況を見て俺の心に悪戯心が浮かんだ。

 セクハラはもうしないと誓った。けれどちょっとしたお茶目ぐらいなら許されるだろう。

「フッ。久々に血が滾るぜ」

 気付かれないように忍び足であやせへと近付いていく。そして正面に立っていきなり、でも気さくに声を掛けた。

 

「よぉ、あやせ。待たせたな」

 爽やかに右手を上げながら笑みを向ける。ここでいきなり結婚しようぜと言わない所に俺が大人になった証が見える。

「えっ? えっ? お兄さん? 何でここに? まだ、高坂家を訪ねてないのに?」

 あやせは俺の顔を見上げながらとても驚いた表情で目を丸くしていた。

 ちょっとだけ予想したリアクションと違う。だが、まあ反応は上々。せっかくだからもう1歩踏み込んでお茶目してみる。

「じゃあ、早速デートを始めようぜ。最初は映画だったよな?」

 爽やか好青年風に微笑み掛けながらデートの開始を告げる。

 俺の今の脳内設定だと俺たちは恋人同士で既に何度もデートを重ねている間柄。デートという単語を発することにももう照れることがない固い絆で結ばれたカップルだ。

 さあ、俺のこのトスに対してあやせはどう答える? 

 蹴りか? スタンガンか? 往復ビンタか? それとも手錠か?

 今日の俺は寛大だからどんな攻撃も甘受できるぞ。はっはっはっは。

「なっ、何でお兄さんの方からデートのお誘いをしてくるんですか? わたしまだ、何も言ってないのに……」

 あやせは更に大きく瞳を見開いて俺を凝視していた。

 あれっ?

 思っていたのとだいぶ反応違くね?

 何で罵らないの? 何で暴力を振るわないの? 

 手酷く扱われたいという俺の心の奥に秘めた欲求は一体どうなっちゃうの?

「……何で、何で今日に限ってそんな積極的になっちゃうんですか? せっかく昨日徹夜でどうやって誘おうか問答集まで作ったのに……」

 あやせは手帳と俺の顔を交互に見ながらブツブツと呟いて当惑している。

「えっと、あやせ……今日は一体どうしたんだ?」

 あやせは、俺の前に居る時は優等生ではない姿を見せることが多い。その中でも今日は特に奇っ怪な行動を見せてくれている。

 あの手帳が原因だろうか?

「それ、何が書いてあるんだ?」

 気になった俺は手帳の中身を覗き込もうとした。

「なっ、何でもありませんよ」

 俺の視界に手帳の中身が見える前にあやせは手帳を閉じてしまった。

 よほど見られたくないものなんだろうか?

 まあ、女の子の手帳を覗き見るのは悪趣味だからな。特に見なきゃいけないものでもないし覗くのは止めよう。

 

「何か真剣にやっている時に邪魔して悪かったな。俺、もう行くわ」

 モデルの仕事で忙しいとかかも知れない。これ以上邪魔をしても悪いので去ることにする。

「まっ、待ってくださいっ!」

 背中を通り過ぎようとした所であやせに呼び止められた。

「うん? どうした?」

「あ、あの。大学合格おめでとうございます」

 あやせは俺に向かって頭を下げた。

「ありがとうな。桐乃から聞いたのか?」

 知らせていない大学合格を先に祝われるとは思っていなかったので意外だった。

「はい。桐乃はまるで自分のことのようにクラス中に自慢して回ってますよ」

「へぇ。アイツが、ねえ」

 それもまた意外な情報だった。

 俺の顔を見れば文句ばかり述べる妹が俺の合格を学校で自慢しているとは。

ていうかアイツに合格を祝われた覚えが一度もない。今日も『ニヤけんな! キモッ!』とか言われて蹴り入れられたばっかりだし。

「桐乃はお兄さんの合格をすっごく喜んでいるんですよ」

「そんな風には思えないんだがなあ」

 あやせの話はにわかには信じ難い。けれど、俺の合格を知っていのは事実だし、もしかするとそうなのかもしれない。

「あやせも春から高校生だもんな。進学おめでとう」

「ありがとうございます」

 あやせはまた丁寧に頭を下げた。

 あやせは桐乃と同じ高校にエスカレーター式に内部進学する。だからあやせは受験を気にすることなくモデル活動を続けてきた。あやせのグラビアに俺や赤城が心和ませて貰った背景にはそういう事情がある。

「でも、その、内部進学するだけのわたしより……受験を制したお兄さんの方がいっぱいいっぱい頑張ったと思います」

「頑張ったというか、俺の場合は内部進学も推薦も何もないからガチ受験しかなかったからなあ」

 俺が私立の付属校に通っていたら全く違った1年を送っていたかもしれない。基本的に平々凡々に生きたい俺は無理してまで外部受験はしなかっただろう。

 要するに環境の違いが俺を戦いの渦中へと引きずり込んだという訳なのだ。

 

「そ、それでその、頑張ったお兄さんにはやっぱりご褒美をあげないといけないと思うんですよ」

 あやせは上擦った声を出しながら俺を見ている。

「いや、別にご褒美なんて気の利いたことをしてくれなくても……」

「遠慮しないで言ってください。大学合格のご褒美なんですから大サービスで何でも聞いちゃいますよ♪」

 あやせは至上の美少女スマイルで俺に微笑んでみせる。

「あやせみたいな美少女が男に何でも聞いちゃうなんて言うんじゃありません。相手が悪い男だったら大変だぞ」

 あやせに口頭注意する。美少女モデルに何でもなんて言われたら勘違いする男続出に違いない。俺のような紳士じゃなかったらあやせたんの貞操が危ない。

「お兄さん以外にこんなことは言いませんから大丈夫ですよ♪」

 あやせは万人を魅了する美少女スマイルを重ねた。

 あやせの発言はどう受け取るべきなのだろうか?

 ……考えるまでもなく、安全パイだと思われているということだろうな。

 冗談でセクハラはして来ても、本気でエロいことは要求して来ないと考えている。

 紳士として信用されているとも言えるが、少し寂しくもある。まあ、あやせたんのヤンデレぶりを知っている俺としては後で殺されそうな要求は絶対にする訳ないのだが。

 

「さあお兄さん。願い事を言ってください」

 あやせがニコニコしながら要望を聞いてくる。

「要望って急に言われてもなあ」

 女子中学生に叶えて欲しい願いと急に言われても正直思い付かない。

 とりあえず今一番欲しいのは自室の扉の鍵。言い換えればプライベートが欲しい。だが、それはあやせにお願いする類のものではないだろう。

「何かないんですか? 例えばわたしを1日連れ回したいとか、わたしと一緒に映画に行きたいとか、わたしを水族館に連れて行きたいとか……自分の部屋に連れ込みたいとか……夜明けのモーニングコーヒーを一緒に飲みたいとか……左手の薬指に指輪を贈りたいとか」

 あやせは何か聞こえない小声でぶつぶつ言っている。

「う~ん。特に候補が思い付かないなあ」

 受験中は禁欲生活だったからあれがしたい、これが見たい、ここに行きたいと叶わぬ欲望に満ち溢れていた。

 けれど受験が終わって自由に動けるようになると欲望は引っ込んでしまった。

 強いて言うなら平凡にのんびり過ごしたいというのが今の俺の欲望。うん、枯れてる。

「お兄さん……意地悪です」

 あやせの顔が急に落ち込んでしまった。

 せっかくお祝いしてくれるというありがたい人間をがっかりさせてどうする?

「そうだな。是非、あやせにご褒美を貰わないとな」

 必死に考える。けれど、特にこれといった妙案が出て来ない。困ったなあと思いながらあやせを見る。

「仕方ありませんね」

 あやせは軽く溜め息を吐いた。

「お兄さんさっき、わたしとデートを始めたいと言いましたよね?」

「ああ。軽いお茶目のつもりだったんだが」

 もしかするとさっきのお茶目をやっぱり怒っているのだろうか?

 激しいお仕置きが待っているのか? ドキドキ。ソワソワ♪

 

「わかりました。ご褒美ということで、今日1日お兄さんとデートして差し上げます」

「へっ?」

 俺には瞬間的にあやせが何を言っているのかわからなかった。

「今日1日、わたしがお兄さんの彼女になってあげるって言っているんです」

「えぇえええぇっ!?」

 いや、むっちゃ驚いた。

 だって、あの新垣あやせがだぞ。1日俺の彼女になるなんて言い出したんだぞ。あの潔癖症で俺の中で勝手にレズ疑惑を抱いていたあやせがだぞ!

 天変地異の前触れを予感せざるを得なかった。

「お兄さんが何も願い事を言ってくれないから、わたしの方で汲み取ったまでです。文句はありませんよね?」

 あやせがキッツい瞳で睨んで来た。無茶苦茶怖いです。

「はい。どうか今日1日卑しいわたくしめの彼女になってください。よろしくお願いします」

 深々とお辞儀をしながらあやせの提案を了承する。

 こうして俺はよくわからないままあやせとデートすることになった。

 

 

 何だかよくわからないがあやせとデートすることになった俺。

「え~と、その、なんだ。今日1日、俺の彼女としてよろしく頼むな」

 頭を掻きながらあやせに挨拶をする。

 あの美少女モデル新垣あやせが1日彼女になってくれる。この夢としか思えない体験をファンの男たちが聞いたら涙を流して俺を妬むシチュエーションだろう。

 けれど、俺としては素直に喜ぶ気になれない。基本的に俺は小心者で心配性なのだ。

「はいっ。デートするのはこれが生まれて初めての体験ですけれど、どうかよろしくお願いします」

 あやせはまた丁寧に頭を下げた。

 そんなあやせを見ながら俺の胸はざわめいた。

 でも、何て言うか……以前黒猫とデートした時のドキドキとはちょっと違う。

 部活の可愛い後輩に頼られて嬉しいっていうか、それに似たような感じだ。

 頼ってくれているのがとびっきりの美少女なので先輩として男として鼻が高い。オトコ冥利とでも言うか。多分それが今の俺の感覚に一番近い。

「あ、あの、デートを始めるに当たって1つ良いでしょうか?」

 あやせは俯き加減に恥ずかしそうに切り出した。

「何だ?」

「その今日のわたしたちは恋人同士という設定なのですから……呼び方がお兄さんじゃ良くないと思うんです」

「確かに兄妹っぽい響きだよな」

 桐乃が貸してくれるエロゲーだと大概主人公はお兄ちゃんと呼ばれている。エッチしても結婚してもだ。だから俺的にはその辺の感覚は麻痺しているのだが、言われてみればそうだ。

「ですから、その……今日は京介さんって呼んでいいですか?」

「別に構わないさ。ずっとそう呼んでくれても良いよ」

 桐乃の奴なんか妹の癖に京介って呼び捨てによくするしな。それに比べるとあやせは呼び方にも礼儀もわきまえてさすがは良家のご令嬢って所だ。

「ほっ、本当ですかっ!?」

 あやせが俺の顔を覗き込んできた。

「呼び方ぐらいあやせが自由に決めてくれて良いよ」

 迫力に押されながら返答する。

 そもそもお兄さんという呼び方自体俺が指定したものじゃないんだし。

「それじゃあ今日からは京介さんって呼ぶことにします。京介さん京介さん京介さん♪」

 あやせは嬉しそうに何度も俺の名前を繰り返して呼んだ。

 もしかすると俺は知らない間にあやせに呼び方を強要していたのだろうか?

 女の子の心ってヤツは本当に難しい。

 

「それで、これからデートになる訳だが……」

「はいっ」

 あやせがキラキラした瞳で俺を見ている。

 そういやあやせはデート初めてだって言っていたな。

 ということは、俺がエスコートしないとダメだよな、やっぱり。

 ていうか、それ以前に初デートの相手が俺で良いのか?

 まあ、高校に進学する前に色々な体験をしてみたいということなのかもしれない。

 高校生にもなってデートもしたことないのと他の子に馬鹿にされるかもしれないしな。

「じゃあ、手始めに映画でも見に行くか?」

 今はまだ3月初旬。屋外にいるのは寒い。屋内を中心にデートコースを組み立てるべきだろう。

……黒猫と付き合っていたのは真夏だったので冬場のデートスポットはよく知らなかったりするが。

 それに、だ。あやせとの場合にはまず共通の話題作り、後ろ向きに言えば時間潰しの策を講じる必要がある。

 黒猫の場合は付き合う前からオタ友達で学校の先輩後輩ということもあって話題に事欠くことはなかった。

 一方であやせの場合には共通項がほとんどない。共通項といえば桐乃や加奈子になる。

 けれどデート中に他の女の子を話題にするのはまずいことぐらいは俺も知っている。それぐらいの常識は黒猫とのデートを学んで得た。

 となると、トピックはこれから探し当てていかないといけないことになる。

 そしてあやせは新垣家のご令嬢でモデルで優等生でノット・オタクで俺とはまるで違う生き方をしている子だ。既存の知識であやせと楽しく会話というのは多分難しい。

 だから下手な話題を振りまいて地雷を踏むよりも今から共通話題を作り上げていった方が無難だ。その為の映画なのだ。

「さて、何の映画を見るかだが……」

 今どんな映画がやっているのかなんて全然チェックしていなかった。あやせとデートになるなんて欠片も考えていなかったから。

 さて、どうするか?

「えっと、あやせは今上映している映画の内で見たいものはあるか?」

 あやせの口から情報提供させることにする。彼女が最も行きたそうな映画に同調することにしよう。

 

「あっ、あの。実はわたし、父から映画の券を2枚貰って持っているんです」

 あやせが慌てふためきながらバッグの中から2枚のチケットを取り出した。

 そのチケットを見てみる。

「何々。『ガンダムAGE劇場版 強いられイワークの逆襲』か。ああ、最新のガンダムの映画か」

 受験で見ていなかったが、今テレビ放映されているガンダムシリーズの最新作の劇場版。

 グラハム・エイカー上級大尉が大好きでガンダムOOの大ファンだった俺としてはやっぱりチェックしておきたい作品だ。

「でもこれ、アニメだぞ。良いのか?」

 あやせは1年半前にアニメとか漫画を低俗と言い切った過去があるように今でも苦手なんじゃ?

「わたしだって最近は京介さん……じゃなくて桐乃の趣味を理解する為にアニメも見るようにしているから問題ありません」

「そうか」

 あやせも頑張っているらしい。

「でもだったら、桐乃と行った方が良いんじゃないのか?」

「桐乃はガンダムAGEが好きじゃないみたいです。萌えがないとかなんとか」

「確かに桐乃がガンダムシリーズに興味を示した所を見たことがないな」

 妹は俺がどれだけ熱く語ってもグラハムの魅力をわかってくれなかった。あの声に痺れないのは人間じゃねえってのに。

 桐乃は可愛い女の子が沢山登場する所謂萌えアニメが好きなのだ。逆に言えば、熱血アニメや美少女があまり前面に出て来ないロボットものは欠片も見ない。

「桐乃が見ていないアニメをよく見ていたな」

「わたし、声優の早見沙織さんの大ファンですから。世界で最も美しい声を持つ、わたしの憧れの人ですから彼女が出ているアニメはちゃんと見てます」

 あやせの瞳はキラキラと輝いていた。その瞳はあやせが本当にその声優を好きなことを端的に物語っていた。

「へぇ。あやせの好きな声優さんか。どんな役で出ているんだ?」

「ユリンちゃんっていうとっても可愛い女の子です。健気で優しくて、ちょっと不思議な感じがして。みんなが好きになれるヒロインの女の子です」

 ユリンちゃんというキャラクターを語るあやせはとても嬉しそうな表情を浮かべていた。

 1年半前の夏コミの時、オタク的趣味を汚らわしいと蔑んでいた時とは別人とさえ言える。ほんと、コイツも大きく変わったもんだ。

「そうか。そんな可愛いキャラクターが出ているのならチェックしないとな」

 これで何を見るかは決まった。

 後は映画館を目指すのみ。

「あ、あの。ちょっと待ってください」

「うん? どうした?」

 首を傾げてあやせを見る。あやせはその場に留まってモジモジと指を絡めていた。

「その、わたしたちは恋人同士なのですから、手を繋いで歩いた方が良いと思うんです」

 あやせの顔は今にも爆発してしまいそうなほどに真っ赤だった。

「そ、そうだな」

 つられて俺の頬を熱を持つ。

「じゃあ、手を繋いで良いか?」

「はい。どうぞ……」

 あやせが恐る恐る差し出した右手を左手で握る。

 その小さな手の柔らかい感触に黒猫とデートしていた時のことを思い出した。

 前の彼女をあやせに重ねるのは失礼だろうと頭を横に振りながらあやせを見る。

「じゃあ、行こうか」

「はい。よろしく、お願いします」

 あやせがとても素直で弱々しいのでちょっとだけ調子が狂う。

 でも考えてみればあやせは俺や桐乃が炎上させなければ

俺たちは映画館へと向かって歩き出した。

 

 

 

 劇場版ガンダムAGEのシナリオを述べると以下のようになる。

 

 宇宙コロニーファンデーンの中で金持ち同士の争いのしわ寄せで貧しい生活を強いられていたイワーク・ブライア(38歳:筋骨隆々、くどい顔)は上流階級に対して工作用モビルスーツ・デスペラードで怒りを爆発させた。

『俺たちはそのしわ寄せでこんな生活を強いられているんだっ!』

 イワークの怒りに庶民が同調し反乱は拡大。遂にコロニーはイワークの手により解放される。

『俺は全世界の全ての人間を解放することを強いられているんだ!』

 更にイワークは宇宙中にいる虐げられている者たちを解放すべく戦線を宇宙へと拡大。またたく間に宇宙コロニーのほぼ全てを手中に収めることに成功した。

 だがここでイワークは誰もが考えていなかった行動に打って出た。

『誰もが強いられない生活を送る為には、誰もが強いられる苦しみを一度は味わわなくてはならないっ! みんな、強いられることがなくなるように強いられるんだっ!』

 イワークは全スペースコロニーの住民に対して貧しい生活を送ることを強いたのだった。

 イワークの強いた命令は経済と社会と政治の乱れを生じさせ、全宇宙及び地球とベイガンを大混乱に陥れた。

 長年に渡って敵対していた地球連邦政府と火星棄民秘密国家ベイガンは和平協定を結び、イワーク討伐の為に手を組んだ。

 天才発明少年でありガンダムAGE1のパイロットであるフリット・アスノと不思議な力を持つ戦争孤児少女ユリン・ミシェルもまたかつての命の恩人でもあるイワーク討伐の軍に加わる。

 そして両軍は宇宙要塞アンバットにて最終決戦を迎える。両陣営が激しい戦いを繰り広げる中、ユリンと共にガンダムに搭乗したフリットはイワークの搭乗するスーパーデスペラードと遭遇する。

『イワークさんは誰も強いられることのない世界を作りたかったんじゃないんですか? 何でこんなことを!』

『上の連中は裕福な暮らしを続ける限り苦しい生活をしている者のことなんて考えはしないっ! だから全ての人間がしわ寄せっていう奴を知らなくてはならないんだ!』

『だからって、イワークさんのやっていることはみんなに苦しみを押し付けているだけですよ。これじゃあ、誰も幸せになんかなれない!』

『恒久の平和の為に必要最低限の苦しみなんだよ、これはっ!』

 交錯する想いと想い。激突する刃と刃。戦いはイワーク優位に進んでいた。

『感じる……フリットっ! イワークさんの攻撃は上からよ!』

だが、ユリンが未来予知とも言うべきXラウンダーの能力を発揮し、一気に戦局は逆転する。

『そこだぁ~~っ!!』

 イワークの必殺の一撃を交わしてフリットのビームサーベルがイワークの機体に突き刺さった。

『イワークさんっ。早く脱出をっ!』

 爆発寸前の機体を前にしてフリットはイワークに向かって叫んだ。

『なあ、フリット、ユリン……』

『イワークさん。早く逃げてくださいっ!』

『こんな俺に脱出を勧めてくれるとはな。まったく……生きるのって難しいな』

 イワークはフリットとユリンに向かって微笑み掛けた。その直後スーパーデスペラードは爆発を起こし宇宙の塵と化した。

 イザークの死亡により両軍の戦闘は終結した。

『イワークさんは……強いられることからようやく解放されたのかな?』

『フリット。生きるのって難しいね』

 フリットとユリンはイワークの故郷ファンデーンに密かに彼の墓を立てて追憶に浸るのだった。

 

 了

 

 

 俺たちは映画館を出て喫茶店に入り映画の感想を話し合っていた。

「何て言うか……壮絶な苦悩を描いた熱い映画だったな」

 最初、4頭身の筋骨隆々でくどい顔のおっさんがスクリーンに現れた時はギャグかと思った。

 だが、そこから先の展開は熱かった。貧困と苦渋、差別と虐げから人々を解放しようと立ち上がった男がやがて人を強いる立場へと陥ってしまう。

「己の間違いを悟りながらも引き返すことができない苦悩は大人が鑑賞するのに十分に耐えられる作品だった」

 むしろ大人の苦悩そのものを描いた作品とも言える。

 そして最終決戦においてまさかの工作土木用モビルスーツでのイワークの登場。あんな熱い演出を見せられるとは考えもしなかった。

「わたしはやっぱりユリンちゃんの可愛らしさが一番印象に残っています。外見もそうですけれど、早見沙織さんの演技は最高です」

 あやせはうっとりした表情を見せている。ユリンちゃんを思い出しているらしい。

 どうやらあやせは基本的に桐乃と同じでキャラ萌えらしい。

 まあコイツは基本的にアニメや漫画を低俗と思っている節がある。だから、ストーリーとか世界観を吟味するよりも直感的に感動できる一部分を切り取る方が性に合っているのかもしれない。

「ユリンちゃんの声を聞いていると幸せな気分になれますぅ」

 あやせは胸の前で手を組んで幸せそうに浸っている。

 桐乃がロリキャラ、妹キャラに反応するのに対してあやせは特定の声優が演じるキャラにだけ反応するかなり特殊なタイプ。

 あやせはきっと桐乃とオタトークが出来ない。似て非なるタイプなのだ。

 世界観や設定にやたらと情熱を燃やす黒猫とも絶対に話が合わない。

 話が合いそうなのは相手に合わせることが上手な沙織くらいか。

 俺も今後あやせとオタトークをする機会もあるかもしれない。俺も沙織のやり方を見倣って、早見沙織さんが演じた役をよくチェックするようにしよう。

 俺としてはイワークについて熱く語りたい所だったがそれは抑えてユリンを題材にして盛り上がった。

 去年の夏に黒猫と毎日デートしていたおかげでそういう機微だけはわかるようになった。

 人生の経験は何時なんどきどういう形で活かされるかわからないものだ。

 

 

「それじゃあそろそろ昼食にするか?」

 映画を見て、それから喫茶店に入ったので結構遅い時間になっている。

 頭の中でこの近くにある料理屋を思い浮かべながら候補を絞っていく。

 女の子、しかもあやせと行くのだから赤城と行くような店はまとめて却下。

 やはり黒猫とのデートの時を参照にすることにする。

 候補としてはイタメシ、フレンチ、タイ料理、ベトナム料理あたりか。いや、黒猫は食通ぶって知りもしない店に連れて行かないでと呆れられた経験がある。

 しかも相手は本物のお嬢様だ。フレンチなんか食べに行ったら俺はきっと恥を掻く。

 だったら、どうする?

 俺の土俵にまで引き下げて、尚且つあやせにも何とか納得して貰えそうな選択肢と言えば……。

 よしっ! 決めた。

「えっと、今日は手持ちもそんなに余裕がないし、時間も遅いということでデザートが充実しているファミレスに……」

「実はわたし、父からイタリアンレストランの招待券を貰っていまして。よろしければ一緒に行きませんか?」

「あやせのお父さんは何でも持っているんだな……」

 何か知らないが昼食の確保はついた。

 デートを想定していなかった俺としては食費で懐が寂しくならずに済むことにホッとしていた。まだデートは始まったばかりだからな。

 急にデートになったのにも関わらず準備周到なのがちょっと変だなとは思いながら。

 

 

「さすがはあやせが招待してくれたイタリアンだけはあるな。すっげぇ美味かったぜ」

 新垣議員から招待券を貰ったイタリアンレストランの味はその辺のイタメシ屋とは比べ物にならないぐらい良かった。

メニューの価格を見た時に俺が気軽に来られる店でないことはハッキリと理解したが。

「京介さんに喜んで頂けたようで何よりです」

 あやせも上機嫌。

 それは良い。良いんだが……。

「あの、あやせさん? その、いつの間にか腕を組んで歩いておるのですが?」

 口には出来ませんが、あやせさんの胸の感触が左腕に伝わって来てます。嫁入り前の娘がちょっと引っ付きすぎなんじゃないかと思います。

 本当の彼氏彼女って訳でもないのにです。ぶっちゃけ、誰かに見られたら後が怖いなあってビクビクです。以前桐乃と腕組んでいたら麻奈実や近所のおばさんに見られていて後が本当に大変でしたし。お袋には近親相姦を疑われましたし。

「今日のわたしは京介さんの彼女なんだから構わないじゃないですか♪」

 あやせは無邪気な笑顔を見せながら答える。

「いや、今日は良いのかも知れないけどよ……明日からのことを考えるとちょっとなあ」

 人間は今日1日起きた出来事を明日にはリセットできるという機能を積んでいないのだ。従って今日の行動に対しては明日以降にも責任を持ち越さなくてはならない。

「じゃあ、明日以降も彼氏彼女なら問題ないんじゃないですか?」

 あやせは瞳を細めながら笑ってみせた。あやせのその言葉は俺をとても困惑させるものだった。

「そういう冗談を言っているとお前のファンが泣くぞ」

 そう返して見せるのが精一杯だった。

「わたしのファンじゃなくて京介さんの気持ちはどうなんですか?」

 あやせはまた俺を困らせる質問を送ってくれた。

 

「あやせと恋人同士の俺なんて……正直想像できない。有り得なさ過ぎるだろ」

 あやせはとても可愛い。

 俺の脳内嫁にしたら自慢できる女の子ランキングでもブッチギリの1位を獲得している。

 けど、けどだ……。

「……やっぱり、まだ京介さんの心は……」

 あやせは俯きながら小さく呟いた。

「……でもわたし、負けませんから」

「えっと、何て言ったんだ?」

 あやせは顔を上げた。その瞳には強い意思が宿って見えた。

「わたし負けないって言ったんですよ」

 凛とした声が耳に届く。

「負けないって誰にだ?」

「京介さんの心を占めている女の人です」

 肩がビクッと震える。あやせに何もかも見透かされている気分だった。いや、実際にそうなのかもしれない。俺は単純だから。

「京介さんは今日ずっと、誰かさんとわたしを比べながら行動していますよね?」

「別に比べている訳じゃない。単にデート経験が他にないから参照にしていたまでだ」

「やっぱり、ずっとその人のことを考えていたんですね」

「うっ!」

 簡単な誘導尋問に引っかかってしまった。

「まあ良いんです。どうせ追い掛けるのはわたしで、追い掛けられるのは京介さんという構図に変わりはないんですから」

 あやせは髪を一刎ねしながらサラっと述べた。

「フ~ム。この会話だけ聞いていると、何だか俺が凄いモテ男のように聞こえるから不思議だ」

「その意見に対しては付け上がるな。ブチ殺しますよとだけお答えしておきます」

 やっぱりこの新垣あやせという少女はよくわからない。

 たまに俺に惚れているんじゃないかと錯覚させるような一言を述べてくれる。

 まあ、そんなわけないのは俺も重々承知なのだが。それに、だ……。

「……やっぱり、片想いで望み薄なのにツンデレって自分でも訳がわからないキャラクターですよね」

 俺の腕に抱きついたままのあやせは大きな溜め息を吐いている。

 コイツはコイツで俺との関係を調節するのに苦労しているらしい。

「で、次はどっか行きたい場所はあるか?」

 何となく予感がして何も考えずに話を振ってみる。

「えっと、実は父から水族館の入場券を2枚貰っていまして」

 予想通りの返答がきた。

「本当に……ドラえもんみたいに何でも持っているお父さんだな」

 議員がこういうチケット大量に受け取っているのも贈賄に当たるんじゃないのか?

 そんなことを考えながらあやせの用意周到さに舌を巻く俺なのだった。

 

 

 

 その後デートは順調というか大きな問題もなく進行していった。

 水族館、公園、甘味処と漫画でよくありそうな定番コースを順に巡っていった。

 ちなみに行き先を決めたのは全部あやせ。尚且つどこもかしこも招待券を持っていた。

 おかげで俺は何も考えることもなくお金が掛かることもなかった。

 そして時間は経過し、門限が迫って来たあやせを新垣家まで送り届ける段となった。

「今日は1日お付き合い頂いてありがとうございました」

 腕に抱き着いていたあやせが俺から離れて丁寧にお辞儀をする。

「いや、こちらこそあやせみたいな美人と1日過ごせて大ラッキーだったよ」

 温かくて柔らかい感触がなくなり寂しい腕を少し気にしながら彼女に答える。

「それに今日は映画から食事からみんなご馳走になったからな。大感謝だ」

 言いながら思い出す。そういや今日、俺はほとんど財布を開いていない。

 開いたのは水族館のお土産コーナーであやせにイソギンチャクの携帯ストラップをプレゼントした時だけだった。

 何故イソギンチャクなのかは俺も理解に苦しむ。だが、あやせがこれが良いと言ったのだから仕方ない。イソギンチャクとあやせって本質的に似ている気もするけれど、深くは考えないことにする。

「いえ、ご満足して頂けたようで何よりです」

「あれ、お父さんじゃなくあやせが全部用意してくれたんだろ?」

「…………わかります?」

「そりゃあ、あれだけピンポイントで券を出し続けられれば誰だって気付くさ」

 映画とレストランだけなら偶然父親から貰ったチケットでということもあるかもしれない。けれど、5度も6度も続けばさすがにな。

「俺の合格祝いで気を使ってくれたんだろ? ありがとうな」

 あやせの気遣いが嬉しい。

「最後まで騙されたフリくれればわたしとしてはもっと嬉しかったんですけどね。京介さんは以前に比べて気が利くようになりましたけれどまだまだですね」

 あやせは楽しそうに笑った。

 おれもつられて笑った。

 

「それじゃあ京介さん。今日はこれで失礼します」

 あやせが頭を下げる。

 穏やかな空気。あやせと初めて会った時の日のことを思い出した。

 お互いにまだよく知らず淡い幻想を抱いていたあの日の夕暮れのことを。

「あっ、そうだ。デートの締め括りに大事なことを忘れていました」

 あやせが正面から1歩足を踏み出して近付いて来た。

 プロモデルの綺麗な顔が俺の視界の大半を占めていく。

「あの、大事なことって?」

 ドキドキしながら尋ねる。

 俺の質問に対してあやせは背伸びをすることで答えた。

「えっ?」

 一瞬、なにをされたのか理解することが出来なかった。

 あやせは背伸びして自分の唇を俺の唇に押し当てたのだ。

 それがキスと呼ばれる行為だと気付いたのはあやせの唇が離れた後だった。

「あやせ、お、お、お前っ!?」

 あまりにも予想外にことが起きて俺は激しく動揺していた。

 だって、あの新垣あやせが俺にキスするなんて、普通に考えてあり得ることじゃねえよ。

「デートの締め括りと言えばキスで決まりじゃないですか」

 あやせはイタズラっ気を出しながら答えた。

「いや、だとしても、お前が男に、俺にキスするなんて」

 あやせの態度が意味分からなくて頭がますます混乱する。

「キスしたのは初めてでしたけど、悪くない気分ですね」

 あやせは楽しそう。その態度が俺を意味不明のスパイラルへと巻き込んでいく。

「キスしたの初めてって、何でそんな大事なことを俺なんかでっ!?」

「それでは今日は本当にこれで失礼しますね」

 あやせは踵を返して俺から離れていく。

 そして門を開けながら首だけ向き直って言った。

「わたし、諦めませんからね」

 その一言だけを残してあやせは敷地の中へと消えていった。

「えっと、どういうことだ?」

 幾ら捻ってもあやせの言いたいことがよくわからない。

「もう、春ってことなのか?」

 よくわからないので、とりあえず気候のせいにしてみた。

 夜風はまだ冷たかった。

 

 

 了

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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