No.423530

真・恋姫†夢想 魏√桂花EDアフター その九

狭乃 狼さん

久々に、気分転換も兼ねての、桂花EDアフター、その続編でござんす。

桂花EDアフター、その物語は、いよいよ佳境へ。

そして次回からは・・・・・・。

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2012-05-15 23:02:41 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7967   閲覧ユーザー数:6501

 人間の脳って言うのは非常に良く出来ている。

 例えば、目にしたらとっても精神的によろしくない光景とか、耳にしただけで発狂しかねないような雑音の一切を、必要とあればすべてシャットダウンしてくれるんだから。

 

 「……むう。どうやら、腕は落ちていない様だの、馬鹿弟子よ」

 「ああら。それを言うなら卑弥呼だって、現役を退いて随分経つのに変わらぬその実力。流石、元・漢女道東亜細亜方面継承者ね。どぅふふふ」

 「おぬしも、以前に増しての漢女(おとめ)っぷり。流石、わしの見込んだ漢女道継承者よ。ふははは」

 

 相も変らぬ不気味さというかおぞましさを部屋中に漂わせながら、その二匹の筋肉は互いに笑いあい、相手を讃えながら、暑ッッッッ苦しいポージング合戦をそこで行ない続けていた。

 ……つか。

 お願い。悪夢よ早く終って!私と一刀のHPはもうゼロ寸前よおおおおおおッッ!

 

 「(ぼむん)……ふう。久々に全力の“試合”を行なったら疲れたわい。胡蝶、すまぬが茶を一杯、もらえぬかの」

 「(ぼむん)……ふう。あ、はい。お師匠様。桂花ちゃん?ちょっとお茶をお師匠様に」

 「……あ。終った……の?」

 「……ああ、なんだか永い悪夢を見た居た様な気がする……」

 

 どうやら、現実から全力で逃げていたのは一刀も同様だったらしい。つか、あれを平然と眺めていられる奴の方が、神経を全力で疑うわよ私は。

 漢女とやらの筋肉ダルマな姿から、普段の凛とした佇まいをした、和服美人の姿に戻ったおさげ筋肉管理者貂蝉こと、西園寺胡蝶さんと、そのお師匠という、弥生時代の資料なんかに出てきそうな髪型―角髪(みずら)って言うらしい―をした、ボディラインのはっきり出るスーツ姿の女性、高千穂魅子さんの二人を交互に眺めながら、私はそんな事を思っていた。

 ……それが正常よね?

 

 「ふむ。素人にはわしらの試合は初見ではきつかったかの」

 「そうですわね。……配慮が足りなくてごめんなさいね、一刀君、桂花ちゃん」

 「……俺は何も見なかった。何も聞かなかった。今、ここでは何も起きなかった。そうだよな、桂花」

 「そうそう。私もなんにも……あ、お茶ですね。それじゃあすぐに用意します。一刀も座って待ってて」

 「ん。了解」

 

 とてとて、と。私はその場から、何も無かったかのように立ち上がり、閉じられた重いドアを開けて厨房へと早足で向かう。

 ……それにしても。

 

 「……なんだろう。この、妙な胸騒ぎっていうか、高千穂さんを見た時から感じてる、底知れぬ不安な気持ちは……」

 

 漢女。それは、管理者という、外史の、正史から派生したIFの世界の、その保護や管理を司る、特別な力と権限を持った者達の、そのエリートとでも言うべき、限られた者達の総称だとのこと。

 そして胡蝶さんが、その漢女の東亜細亜方面の現在の継承者で、高千穂魅子さんはその先代の継承者で胡蝶さんのお師匠さんだと、先ほど二人はそう互いの事を呼び合っていた。その、今では現役を退いているらしい魅子さんが、わざわざ何の事前アポも無しに、弟子である胡蝶さんの下を訪ねて来たのは、何か、よほどの、そして、急を要する問題が起きたのだろうと。私の脳はすぐ、それを予測するに至っていた。

 

 そして、その予測が間違っていなかった事は、私が五人分のティーセットを持ってさっきの部屋に戻った、そのすぐ後に、私と、そして一刀をも巻き込んで、はっきりと、魅子さんこと外史の管理者卑弥呼のその口から、とんでもない事実と供に語られたのだった。

 

 

 「それで、お師匠様?本日の突然のご訪問は、一体何があったと仰るんですの?」

 「うむ。じゃがその前に……まずは、北郷殿に若文殿。二人には、どうか、これからわしの話す事を、しっかり、落ち着いて聞いて欲しいのだ。……多分に、とても平静としておられんだろうが、どうか、良く、心して聞いて欲しい」

 「あ、ああ」

 「……」

 

 口元に運んでいた、紅茶の入ったティーカップを静かにお皿に戻すと、魅子さんは私と一刀の方をじっと見つめ、一言そう前置きした。

 聞きたくない。

 聞いてはいけない。

 そんな声が、私の心の奥深くで、警鐘とでもいうかの様に、響いている。けれど。

 聞かなければいけない。

 聞いておかねばいけない。

 そんな相反した声もまた、私の心の奥深くにして居た。

 

 「……左慈と于吉。この二人の話は、二人とも胡蝶より聞いては居るかの?」

 「あ、ああ」

 「確か、一刀のお爺様とお婆さまが居た、私達が出会った外史の遥か過去、秦代末期の時代に暗躍していたっていう、妲己って名前の女管理者の手下……だったわよね?」

 

 一刀の祖父である北郷一虞(かずすけ)さんは、この正史の世界で過去にあった大きな戦争で中国へと派兵され、その時、敵の攻撃を受けたショックで、私と一刀が居たあの世界の更に過去へと跳ばされ、そして、今の細君である燐華(りんふぁ)さんこと、かの西楚の覇王項羽と出会い、紆余曲折を経てこの世界に戻って来たと言う、まるっきり私と一刀そのものの経験をされている。

 もっとも、その時の私的な行動まで一刀とそっくりだったのは、流石、魏の種馬と呼ばれた一刀のお爺様だけあると、その時は呆れていた私だったけど。

 

 「そうだ。……その左慈と于吉の二人だが、先日、中国の故宮博物院から、とある品を密かに持ち出し、それを持って、例の外史に渡ったと、つい今朝、わしの所に報せが齎されたのだ」

 「は?故宮博物院……って、あの、故宮博物院?」

 「そうじゃ。ただし、この世界のそこではなく、“別の外史世界”にあるそこから、だがの」

 「なるほど。正史の世界の故宮博物院はともかく、外史の中のそこなら、間違う事無き管理者でもあるあの二人なら、侵入も造作ないでしょうね。……それでお師匠様?あの二人、一体何を盗み出したのですか?」

 「……“八咫鏡(やたのかがみ)”じゃ」

 『……は?』

 

 

 八咫鏡。

 

 それは、日本人ならおそらく、誰しもがその名を聞いた事位はあるであろう、それほどに有名な、三種の神器の内の一つである。

 

 記紀によれば、天照大神の天の岩戸隠れの際に作られたもので、天照大神が岩戸を細めに開けた時、この鏡で天照大神自身を映して興味を持たせ、そこを外に引き出したことで再び世は明るくなった。と、記されている。

 

 そんな、日本の国宝とでも言うべきそれが、外史の中の一つとは言え、どうして中国のそこにあるのか。そして、どうしてそれを、左慈と于吉の二人は必要とし、盗み出したのか。

 その答えは、すぐさま魅子さんの口から、悲痛な面持ちと供に、そして、そこから連なるもう一つの衝撃的な事実と供に、私達に対して語られた。

 

 

 「……八咫鏡に限らず、何故か、外史というのは鏡をその接点とする事が多い。その事は、胡蝶は良く知っておるな?」

 「え、ええ。理由こそ解明されていないけど、おそらく、鏡と言うのは様々なモノを、あるがままに“映し出す”故に、その扉というか、門の役目を果たしているんじゃあないかしら」

 「……なるほどね。確かに鏡っていうのは、人だけじゃあなく、この世のありとあらゆるものを正確に映し出すから、目に見えないもの、たとえば、人の想いとかなんかも映し出していたとしても、なんら不思議はない、か……」

 「……ほう」

 

 ?なんだろ?胡蝶さんと魅子さん、それに一刀まで一緒になって、私の顔をじっと、そんな何か感心したみたいな顔で見て。

 

 「……自分では、気付けないのも無理ないか。桂花、今、“昔の顔”をしていたよ?曹魏の筆頭軍師、荀文若だった頃の顔を、さ」

 「……そう?」

 「まあ、それはともかくとして、だ。高千穂さん、その八咫鏡って、他の鏡とは何か違う力でもあるんですか?でなければ、その左慈達がわざわざ盗み出す理由も」

 「……八咫鏡は、その秘めたる力の全てが解明された訳ではない。だが、一つだけ、“門”としての機能以外に、はっきりしている力がある。それは」

 『それは?』

 

 

 

 「……外史の記憶の“リセット”、だ」

 

 

 

 リセット。

  

 一言で言えば、機器の動作状態を初期状態に戻すことを指す。一番その汎用性が高いのは、コンピュータゲームのセーブデータなんかを途中で消す時に、使われることが多い言葉だ。

 私も、この世界に来て一刀と一緒に良く、家庭用のゲームで対戦なんかをして、途中でそれらを止める時や、途中まで進めたRPGなんかを、のっぴきならない状況に陥って仕方なく初めからやり直す、なんて時にやったこともあるその行為。

 

 けど、魅子さんが言った、八咫鏡の能力としてのそれは、外史と言う一つの世界の記憶、それをリセット、消去してしまうのだと。そんな、余りにも途方もない、スケールの大きすぎる話に、私は、その事の重大性に気付くのに、丸々一分近くの時間を必要としてしまった。

 つまり、あの外史における、私と一刀が、華琳様たちと供に歩んだ日々の、その全てが、“無かった事にされてしまう”のだ、と言うことに。

 いや、それどころではない。

 それよりも、もっと、悪い事態となる可能性が多分にある。それは。

 

 「……ちょっと待って。そんな、その、八咫鏡の力で、外史の記憶のリセットが行なわれたら、あの世界の皆は」

 「……皆、原初に戻るじゃろう。すなわち」

 「……存在、そのものがしなく、なる……」

 

 愕然と。

 魅子さんの口から語られたその内容に、頭の中を真っ白に、そして、全身を大きな虚脱感に染め、力なく、ただ呆然とするしか出来ない、私と一刀。

 

 「じゃが、一つだけ、救いが無いわけでもない」

 『……え?』

 「もし、あの外史の記憶、その全てが既にリセットされていたとすれば、今ここに居る若文桂花は、その存在そのものが、既に“巻き戻されている”可能性が高いわ。けれど、桂花ちゃんはまだ消えず、ここにこうして存在している。それはつまり、まだリセットが行なわれていない、あるいは、そこまで巻き戻されて居ない、その可能性が高いわ」

 「だからこそ、わしは今日、ここに急いで訪れたのだ。桂花殿を、記憶のリセットによる巻き戻しから守る、そのための用意をしてな」

 「そ、そんな事が出来るんですか?!」

 「うむ。桂花殿、これを」

 

 魅子さんがその懐から取り出し、私に差し出した物。それは。

 

 「……ねっくれす?」

 「……ネックレスの先に着いてるこのペンダントって、もしかして“勾玉”……か?」

 「そうだ。目には目を。歯に歯を、と言うであろう?神器には神器。八咫鏡に対抗するなら」

 「まさか……八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)……なのか?」

 

 八尺瓊勾玉。

 それは勿論言うまでもなく、八咫鏡同様、日本に伝わる三種の神器、その内の一つである。

 

 「八尺瓊勾玉(それ)の能力は加護。持ち主を如何なる事象からの干渉からも守ってくれる。それならば、たとえ鏡による巻き戻しが行なわれたとしても、桂花殿は現在(いま)のままで存在しておられるだろう」

 「……いいの?そんな、大層なもの、私が受け取ってしまって」

 「なに。元々の持ち主である“わし”が、譲渡すると言って居るのだ。なにも構いはせぬわい」

 「……そういや、高千穂さんの管理者としての名前は、あの“卑弥呼”なんだよな……。ともかく、これで、桂花はずっと、このままで居られるんですよね?」

 「うむ」

 

 ほっ、と。

 魅子さんの最後の、力強い返事を聞き、私と一刀は安堵の息と供に胸を撫で下ろした。……もっとも、あの世界にいる華琳様たちの事を考えると、とても申し訳ない気持ちになって、チクリと胸が痛んだけど……ね。

 

 

 

 「さて。桂花殿の事はこれで良いとして……ここからが、ある意味、今回わしがここを訪れた、その本題とも言うべき話じゃ」

 「え?」

 

 あ。なんだかとってもやな予感。

 

 「単刀直入に言わせて貰う。……北郷一刀殿。そして、若文桂花殿。お主ら二人に頼みたい。左慈と于吉が渡った(くだん)の外史に赴き、あの二人の狙い、それを突き止めてはくれぬだろうか?」

 『ッ!』

 「そしてその上で、あの外史をもう一度、安定した状態に、一つの定められた世界に、戻して欲しいのだ。北郷殿には今一度“天の御遣い”として。そして、桂花殿にはそれを支える“智慧の御遣い”として」

 「お師匠さま、それは……」

 「……良いよ」

 「か、一刀!?」

 

 はっきり。そしてきっぱりと。ほとんど、何の逡巡もなく、一刀は魅子さんの“依頼”に諾、と返していた。その横顔は、あらかじめこうなると分かってでも居たかのような、清清しいまでに凛とした顔、だった。

 

 「これではっきりしたよ。俺がこの世界に戻ってきてから、まるっきり強迫観念にでもとり付かれた、そんな感じで剣の修行や軍略の習得に勤しんできたのは、こうなる事への予感めいたもの見たいなのが、俺の中のどこかに燻っていたからだったんだ」

 「一刀……」

 「ごめんな、桂花。勝手に一人で決めて。けど、俺には我慢がならないんだ。左慈と于吉の狙いが何であれ、せっかく平穏になったあの世界を、あの世界であったその全てを無かった事にされるなんて、さ」

 「それは、私だって同じ想いだけど……」

 

 そう。私だって、一刀と同様、生まれ育ったあの世界が、何処の誰だか知らない、管理者なんていうっ連中に好きにされるのなんて、我慢がならないに決まってる。けど。

 

 「……一刀、一応、確認のために聞くわよ。……もしかしたら、ううん、もうおそらくは、既にあの世界の皆は、私達のことを覚えて居ない、正確に言えば、知る前に戻されてしまっている、その公算が高いわ。……平気で、居られる?」

 「……自信は……あんまり無い……かな」

 「……分かった。なら、私も付き合ってあげる」

 「……良いのか?」

 「当たり前でしょ。私は、あんたと一緒に居るために、生まれた世界そのものを一度捨てて、あんたの側に居る事を願ったのよ。このままこの世界に一人残って居るなんて事、そんな私が出来っこない事位、察して欲しいものだわ、まったく」

 「……そっか」

 

 結局。時間にして三分と少々。

 それだけの間見詰め合っていた私と一刀が、そこに胡蝶さんと魅子さんも同席していた事を、その二人の咳払いで我に返るまで、完全に失念いたしておりました。

 ……あー、恥ずかし……(苦笑。

 

 そして、その話し合いが行なわれたその日の翌日、私と一刀は再び機上の人となっていた。その目的は、一刀の祖母である北郷燐華さんから、ある一つの品を受け取るため、九州は鹿児島の一刀の実家を訪れる為だ。

 ため、何だけど……飛行機より、新幹線で行きたかったなあ……え?何でかって?それは……。

 

 「……あぅあぅ……もう、金輪際、飛行機なんか乗るもんですか……」

 「あ、あはは……」

 

 乱気流なんて、乱気流なんて、だいっっっ嫌いよおおおおおおおおおっっっ!

 

 ~続く~

 


 
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