No.409204

飛将†夢想 第三幕 2.別れ

QUEENさん

この作品は、恋姫†無双、真・恋姫†無双の二次創作作品であると共に、オリジナルキャラクターが多数登場します。注意した上で閲覧して下さい。

2012-04-15 22:12:14 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1355   閲覧ユーザー数:1237

 

 

 

 

 

孟津港に無事到着した呂布たち。

 

 

 

 

「…漁師たちが居ない」

 

 

 

 

だが、孟津港は人気も無くガランとしており、昔、洛陽に住んでいた朱椰はその状況に眉を下げ、噂が本当である事を実感する。

 

 

 

 

「…漁をしている暇が有れば兵として戦え、か…」

 

 

 

 

「漁もその都市の商業力、貿易、食糧を司るのに…」

 

 

 

 

呂布と張燕は辺りを見渡しながら呟き、朱椰の傍らに立つ。

 

 

 

 

「…此処で現状に嘆いても何も進展しないわ。洛陽に行きましょ」

 

 

 

 

朱椰は一度深呼吸すると、呂布と張燕の顔を確認して歩みを始める。

そして、

 

 

 

 

「これは…」

 

 

 

 

門兵に話をつけ、洛陽に入った朱椰たちの目に映ったのは恐ろしい光景であった。

 

路地に放置されたままの複数の民の死体。

路地にうずくまり、呻き声を上げる痩せこけた子供。

倒壊された住宅、商店。

 

朱椰が住んでいた、あの賑やかで綺麗だった都の面影は何処にもなかった。

思わぬ光景に口許を押さえる朱椰。

それを見た呂布はそっと朱椰の肩に手を置くと、そのまま先頭を歩いていく。

 

“周りを観たくないのであれば、ただ俺の背中だけを観ておけ”

 

呂布の不器用な気配りであろう、朱椰は呂布の行動に軽く笑みを浮かべると歩き始めた。

それと同時に何かを決意したかの様な表情になると、朱椰は早苗を呼んだ。

 

 

 

 

「早苗、お願いがあるの…」

 

 

 

 

「…?」

 

 

 

 

朱椰は先頭を歩く呂布に聞こえない様に、小さな声で早苗に耳打ちした。

 

 

 

 

場所は変わって、城下街の状況とは真逆に豪勢なままの洛陽宮殿内の最深部、玉座の間。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

灰色の髪をした少女…董卓は哀しい表情を浮かべ、無言で玉座に座っていた。

と、そこに、眼鏡をかけた少女が扉を勢いよく開け、董卓に駆け寄ってくる。

 

 

 

 

「月っ!!丁原が、洛陽に………ッ!!」

 

 

 

 

だが、それを阻止するように黒髪を大きく束ねた女が少女の目の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

「どうしたのですか、賈駆…?」

 

 

 

 

「………アンタには関係無いことよ、李確。僕は月に用があるんだ、そこをどきなさいよ」

 

 

 

 

「私が関係無いかどうかは、貴女が決めることではない。で、何の用なのだ…?」

 

 

 

 

「な、何様なのよ、アンタッ!?」

 

 

 

 

身長差もあり、李確と呼ばれた女性が少女…賈駆を見下ろしながら冷酷に言うと、それが癪に障ったのか賈駆は牙を剥き出しながら前に足を踏み出す。

 

 

 

 

「…詠ちゃん」

 

 

 

 

だが、それを董卓が辛い表情で呼び止めた。

賈駆は董卓のその表情に、

 

 

 

 

「っ……ゆ、月…」

 

 

 

 

渋々その憤りを収めたのか、握り拳をゆっくりと下ろす。

 

 

 

 

「…最初から、そうしておけば良かったのだ。さぁ、用件を」

 

 

 

 

李確はそんな賈駆を見て、不敵な笑みを零して言う。

賈駆は不服だったが、李確の言葉に顔を横に背けながら答えた。

 

 

 

 

「…月の友人が、洛陽に来ているの…」

 

 

 

 

「誰なんだ、名ま…」

 

 

 

 

「丁原よッ、上党太守のッ!!」

 

 

 

 

賈駆は苛々しながら李確の言葉の途中で言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………上党の丁原、ですか」

 

 

 

 

李確は賈駆の言葉に、指を顎にやって考える仕草をすると、背後を振り返り玉座に座る董卓を見つめた。

暫くの沈黙の後、李確はニコリと笑みを浮かべると、

 

 

 

 

「月様、長らくの御政務にお疲れでしょう。御友人が来られているのでしたら、少し休息をとって下さい。その間、政務の方は私がしておきますので…」

 

 

 

 

深く一礼し、玉座の間から出ていった。

部屋の真ん中で立ち止まる賈駆は、拳を震わせながら扉の閉まる音を聞くと、溜まったものを吐き出すように叫ぶ。

 

 

 

 

「………んんもぉっ!!何なのよ、アイツは!!?」

 

 

 

 

「詠ちゃん、ごめんね…」

 

 

 

 

それを鎮める為か、ただ不甲斐ない自分を恥じたのか、董卓が賈駆に頭を下げる。

賈駆はそんな董卓に慌てて顔を上げさせた。

 

 

 

 

「月のせいじゃないわよ、月は一つも悪いことなんてしていない………全部、全部、李確のせいよ!!」

 

 

 

 

そして、ギリギリと歯を鳴らしながら悔しがる。

董卓は悲痛の思いをする賈駆を、悲しげな表情で見つめるしか出来なかった。

と、突然、賈駆が董卓に近寄り、手を強く握って口を開く。

 

 

 

 

「丁原に助けてもらおう?」

 

 

 

 

「…朱椰ちゃん、に?」

 

 

 

 

「そうよ、それで月だけでも保護してもらえれば…」

 

 

 

 

「…詠ちゃん」

 

 

 

 

賈駆がそこまで言うと、董卓は話を止めようとしたのか握られた手に力を込める。

だが、賈駆はそれに察しつつも、

 

 

 

 

「喜んで引き受けてくれるわよ。だって、月の親友なんだから」

 

 

 

 

苦笑しながら言葉を続けた。

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

「…よしっ、じゃあ早速迎えに行ってくるわね」

 

 

 

 

賈駆は董卓に向かって、そう言うと走って玉座の間を出ていく。

玉座の間に一人残された董卓は、無言で心配そうにそれを見送るのだった。

 

 

 

 

場所は再び戻り…

朱椰たちは無事に洛陽宮殿前まで来て、扉を護る門兵に交渉をし始める。

 

 

 

 

「上党城太守、“執金吾”の丁原だ。董卓殿と面会したい」

 

 

 

 

いつもの雰囲気、調子で言わず、漢の武将として威厳ある物言いをする丁原。

これには、朱椰のことを全く知らない門兵も適当に追い返すことも出来ず、

 

 

 

 

「しばし、待たれよ…」

 

 

 

 

と言うと、宮殿の中へ入っていく。

宮殿内に姿を消す門兵を見ながら張燕が呟いた。

 

 

 

 

「…あの言葉使い。城下の状況を見る限り、この軍の兵に規律など無いと思っていたのですが…」

 

 

 

 

これに対して、

 

 

 

 

「…軍は規律無くして動きはせん。ましてや、何進が死に、主の居ない城になったとはいえ、神速の速さでこれを占領したんだ。並の軍ではない」

 

 

 

 

宮殿を見たまま張燕の呟きに応える呂布。

その呂布の言葉に、なるほど…、と張燕が納得していると、先程の門兵が宮殿から現れる。

 

 

 

 

「…丁原殿、全ての武器をこちらにお渡しください。その後に中へ、どうぞ」

 

 

 

 

門兵の言葉に怪訝な表情をする呂布と張燕。

だが、朱椰が無言でその指示に従うと暫くして二人も武器を門兵に差し出す。

手ぶらになった朱椰たちは門兵の後に続いて、漸く宮殿内へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

朱椰にとって懐かしい洛陽の宮殿内を兵に導かれ暫く歩いていると、

 

 

 

 

「…貴女が丁原殿ですね。さ、こちらへ、董卓様がお待ちです」

 

 

 

 

玉座の間の前で待っていた李確が会釈をして、ゆっくりと玉座の間の扉を開けた。

 

 

 

 

「月っ!!」

 

 

 

 

玉座の間の入った朱椰は直ぐに目に映った少女の姿に、顔をパッと明るくするとそのまま玉座に駆け寄る。

 

 

 

 

「…しゅ、朱椰ちゃんッ!!」

 

 

 

 

玉座に座っていた董卓も、玉座の間に入って来た何年かぶりに見る親友の姿に思わず涙を目に浮かべ立ち上がった。

朱椰は董卓の前に来ると、その手をとり再会の喜びを分かち合う。

 

 

 

 

「月、久しぶりね。元気にしてた?」

 

 

 

 

「うん、うん…」

 

 

 

 

朱椰の言葉に、涙を拭いながら笑顔で頷く董卓。

だが、ふと朱椰の後ろにいる呂布と張燕の姿を確認すると、不安な表情になって朱椰に尋ねる。

 

 

 

 

「え、詠ちゃんは…?詠ちゃんに会わなかった?」

 

 

 

 

「……賈駆、のことね。此処に向かっている間は会わなかったわよ」

 

 

 

 

朱椰は首を軽く横に振る。

 

 

 

 

「…詠ちゃん、朱椰ちゃんを迎えに行ったはずなんだけど…」

 

 

 

 

「入れ代わりだったのかも…賈駆にも早く会いたいわね」

 

 

 

 

後ろを振り返り、フッと苦笑しながら言うと、朱椰は直ぐに真剣な表情になり再び董卓の顔を見た。

 

 

 

 

「…月、噂は本当なの?洛陽での暴虐は月の指示なの?」

 

 

 

 

「…っ」

 

 

 

 

董卓は朱椰の言葉に黙って何も話さず、震えて目を伏せる。

 

 

 

 

「正直に全てを話して。月の助けになりたいの…」

 

 

 

 

目をつぶる董卓の髪を優しく撫でながら言う朱椰に、董卓は涙を流しながら目をパッと開き、

 

 

 

 

「私について来てくれた人たちは一つも悪く無いの。私が、私がしっかり言えないから、洛陽の人たちを巻き込んで…」

 

 

 

 

声を震わせながら、朱椰の肩に顔を埋め、着物の端をキュッと握りしめる。

 

 

 

 

「ゆ、月…?どうしたの?」

 

 

 

 

董卓の雰囲気が一瞬にして変わってしまい、朱椰は戸惑いながらも再び尋ねた。

と、突然、後ろに待機していた呂布が叫ぶ。

 

 

 

 

「朱椰ッ、伏せろ!!!」

 

 

 

 

その呂布の叫び声と同時に、玉座の左右から朱椰目掛けて矢が放たれた。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

呂布の声に咄嗟に反応した朱椰は、董卓の頭を押さえながら共にしゃがみ、左右から飛んできた矢をかわす。

董卓は何が起きたのか今だに理解出来ていないのか、目をキョロキョロとしていて、更に言葉が出せない状況に陥っていた。

 

 

 

 

「……チッ!!」

 

 

 

 

呂布は不安が的中したのか舌打ちをし、直ぐに朱椰の下に向かおうと一歩足を出そうとするのだが、

 

 

 

 

「…止まりなさい」

 

 

 

 

それを李確の言葉によって、引き止められる。

呂布がゆっくりと後ろを振り返ると、そこには張燕と拘束された賈駆が複数の兵士に囲まれており、李確がその前でニヤリと冷たい表情で笑っていた。

呂布は殺気を込めて李確に向かって口を開く。

 

 

 

 

「…何の真似だ?」

 

 

 

 

だが、李確は呂布の言葉に答えを返さず、

 

 

 

 

「董卓様に何か吹き込んだと思っていたが、やはり、なぁ…」

 

 

 

 

拘束された賈駆をチラリと横目で見ると深い溜息をつき、そのまま呂布を見らずに朱椰に向かって指を指す。

 

 

 

 

「丁原殿、我が軍門に降りなさい。そうすれば、命だけは助けてあげましょう」

 

 

 

 

李確はそう言うと、指をパチンと鳴らす。

すると、李確の後ろに控えていた兵士と、玉座の横で弩を放った兵士が朱椰と董卓を取り囲んだ。

 

 

 

 

「…おい、これ以上何かしてみろ。皆殺しにするぞ…」

 

 

 

 

李確の行動に呂布は更に拳を震わせ、悍ましい程の殺気を放つ。

これには李確の側にいた兵士たちが冷汗をかくが、李確だけは涼しい顔をして腕を胸の前に組む。

 

 

 

 

「…貴方には話し掛けていない。丁原殿、どうなのです?」

 

 

 

 

呂布を軽く一瞥すると、李確は再度朱椰に尋ねる。

だが、これに対して朱椰は無言を貫く。

朱椰の態度に、李確は溜息をつくと言葉を続ける。

 

 

 

 

「貴女の領地でもある平陽港近辺には微力ながらも精鋭数千程の兵を常備隠しておりまして、既に孟津港からも五万の兵を上党城に向かわせています……言っている意味が理解出来たでしょうか?貴女は賢女との噂を聞いていますので、承諾して頂けると思いますが…」

 

 

 

 

李確はそこまで言うと、フフッと妖艶で嫌らしい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「で?」

 

 

 

 

だが、その余裕の表情も朱椰の一言で一瞬にして豹変する。

 

 

 

 

「………っ、何だと?」

 

 

 

 

予想外の返答に、いつもの冷静な口調が消える李確。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから何なのよ、って言っているのよッ。さっさと攻めればいいじゃない。大体、今の上党は霞が護ってんだから、アンタみたいな“私は頭が良い、皆私に平伏せぇ~”とか言いそうな奴が従えてる貧弱な軍勢なんかに負けたりしないわよ」

 

 

 

 

朱椰は、自身の状況など知った事ではない、と言わんばかりにいつもの調子で、口許に笑みを浮かべながら李確に言い放つ。

 

 

 

 

「……ぐっ、おのれっ!!」

 

 

 

 

朱椰の中傷に、言われ馴れていないのだろう、李確は我慢出来ずにいられない状況に陥る。

そして、朱椰はその隙を逃しはしなかった。

 

 

 

 

「早苗ッ!!!」

 

 

 

 

「ハァッーー!!!」

 

 

 

 

朱椰の叫びを合図に両手を掴まれた状態の張燕が、目前に位置していた李確に後ろから前蹴りを放つと、続けざまに動揺していた手を掴む兵士を投げ飛ばし、殴り、自由になると一目散に玉座の間を飛び出す。

玉座の間から消える張燕の後ろ姿を確認すると、朱椰は安堵した表情でそれを見送る。

 

 

 

 

「ぐっ……こ、このぉ、殺せッ、早く奴を殺してしまえ!!」

 

 

 

 

張燕の蹴りに前のめりで倒れた李確が、そんな朱椰を睨むと兵士に命令を下した。

 

 

 

 

ドスッ。

 

 

 

 

兵士の持つ槍が深々と朱椰の胸を貫き、引き抜かれる。

 

 

 

 

「…ッ、朱椰ちゃん!!」

 

 

 

 

朱椰の血が顔に着いたが、董卓は構わず叫ぶ。

その時、既に呂布は駆けていた。

呂布の進行を阻もうと兵士が立ち塞がるが、一瞬にして屍と化する。

そして、玉座にいた武器を構える兵士も素手で一瞬で一掃すると、次の瞬間には横たわる朱椰を抱き寄せていた。

呂布の頬に手を震えさせながら伸ばす朱椰は、苦痛に耐えながら口許に笑みを作って口を開く。

 

 

 

 

「…流石、奉先。あっという間に片付けちゃって…」

 

 

 

 

「…すまん、護ってやれなかった」

 

 

 

 

「…何謝ってんの。天命、だよ。仕方な………ゴホッ、ゴホッ!!」

 

 

 

 

途中で吐血する朱椰に呂布の表情が歪む。

だが、朱椰は落ち着くと再び話しを続けた。

 

 

 

 

「……あ、それと、やっと“朱椰”って呼んでくれたわね」

 

 

 

「…咄嗟に、な」

 

 

 

 

「……嬉しかったなぁ、やっと呼んでくれて。へへへ」

 

 

 

 

無理に笑顔を作る朱椰。

だが、その胸からはとめどなく血が流れ続ける。

 

 

 

 

「…朱椰」

 

 

 

 

耐え切れなくなった呂布が少しでも楽にしてやろうと朱椰の名を呼ぶが、それを悟って呂布の唇に触れる朱椰。

 

 

 

 

「……さ、早苗には事前に、緊急時は一人で戻るように、言っておいたから。事を知ったら、霞もしっかりやってくれるで、しょ、ゴホッ、ゴホッ!!」

 

 

 

 

更なる吐血に、ただただ泣き続ける董卓。

それを見た朱椰は血の付いた手で、安心させるかの様に優しく董卓の頭を撫でると、そのまま呂布の顔に向き直し切願する。

 

 

 

 

「…奉先。月を護ってあげて。事が落ち着くまでで良いの…」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「…私の、最後のお願い。頼めるかしら…?」

 

 

 

 

呂布は暫くの沈黙の後、ゆっくり口を開き朱椰に答えた。

 

 

 

 

「………分かった。だから、安心して逝け」

 

 

 

 

「…うん、ありがとう」

 

 

 

 

朱椰は笑顔でそう言うと目をつぶり、大きく息を吸って呂布に話し掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…奉先は、死んでから私たちの世界に来たのよね?なら、私も次に目覚めたら、奉先のいた世界にでもいるのかしら…?」

 

 

 

 

朱椰の問いに、呂布は優しい笑みを浮かべ、目を閉じて答える。

 

 

 

 

「…そうかも、しれんな」

 

 

 

 

だが、呂布の言葉に返事は返ってこず、笑みを浮かべ満足そうな表情で朱椰は息を引き取っていた。

 

 

 

 

「……っう、朱椰ちゃん、朱椰ちゃんっ!!」

 

 

 

 

朱椰の死に、董卓は涙を流しながら冷たくなった朱椰の手を強く握る。

それを横目に見ながら、朱椰の遺体をゆっくりと床に寝かせる呂布。

呂布は立ち上がって暫く朱椰の顔を見つめると、突然バッと李確を睨んだ。

 

 

 

 

「…俺は亡き主の約束を護る為に、董卓に降る」

 

 

 

 

「………えっ?」

 

 

 

 

呂布の李確に言った言葉を聞いていた董卓が驚きの声をあげる。

それを黙って聞いていた李確は、

 

 

 

 

「…フンッ、最初からそうしておけば良かったものを」

 

 

 

 

衣服の乱れを直し、付着した埃を払いながら微笑して言う。

すると、呂布は何も答えず朱椰の遺体をゆっくりと抱え上げ、扉に向かって歩き始める。

そして、丁度李確の横を通り過ぎようとした時、呂布は立ち止まって前を見たまま口を開いた。

 

 

 

 

「…既に上党を攻撃していたのだろう?張遼たちはどうした?」

 

 

 

 

呂布の言葉に、李確は一瞬驚いた表情になるが直ぐに余裕の表情に戻すとその問いに答える。

 

 

 

 

「…さぁ。一応、軍には“余り、将は殺すな”とは言っていますが?」

 

 

 

 

李確の言葉を呂布は黙って聞くと、再び歩みを再開させるのだが、扉に向かって歩く呂布の後ろから李確が言葉を続ける。

 

 

 

 

「もう暫く待って頂ければ、もしかすると上党城のお友達と会えるかもしれませんよ?」

 

 

 

 

だが呂布は振り返りもせず、李確の言葉を背中で聞きながら無言のまま玉座の間を出るのだった。

 

それから呂布は朱椰の遺体を抱えたまま、何時から降り始めたか解らない雨にうたれながら洛陽城の門で待ち続けた。

誰も来ないかもしれない。

呂布はそんな考えが頭を過ぎると直ぐに消し、それを繰り返し続けた。

そして、雨も止み、日も暮れ、洛陽に明かりが灯り始めた頃、

 

 

 

 

「………呂布、ちん…?」

 

 

 

 

兵士に拘束され、とぼとぼと歩く張遼が呂布の目の前に現れる。

張遼は呂布の顔を見た後、直ぐにその腕に眠る朱椰の姿を確認すると、愕然とした表情で膝から崩れ落ちてしまう。

顔を俯かせたまま、拳を震わせる張遼。

 

 

 

 

「……どういう事や、呂布ちん」

 

 

 

 

「…朱椰の遺言で、俺はこれから董卓軍に降り、董卓を護っていく」

 

 

 

 

漠然と話す呂布に、カッとなった張遼が立ち上がり枷を付けたまま呂布の胸倉を掴む。

 

 

 

 

「そんなん聞いとらんっ!!何で朱椰が死んでんねん!?何でアンタがおって、朱椰が、朱椰が……死んでしまうねん…」

 

 

 

 

だが、直ぐに胸倉を掴んでいた手の力も無くなり、そのまま張遼は涙を流しながら呂布の胸に額を付け震える。

そんな張遼に呂布は申し訳なさそうに目をつぶり、口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…朱椰を護りきれなかったのは俺のせいだ。お前にどう思われても仕方ないだろう。せめて、お前だけでも此処から逃がしてみせる。その後は」

 

 

 

 

「…ウチも董卓を護る」

 

 

 

 

呂布の言葉を遮るように言う張遼。

目に涙を残しながらも、その表情には決意が表れていた。

その決意を身体に感じたのか、呂布が張遼の名を呼ぶ。

 

 

 

 

「…張遼」

 

 

 

 

「そもそもな、朱椰の遺言独り占めするとかズル過ぎるんよ、呂布ちんは」

 

 

 

 

「………すまない、張遼。すまない…」

 

 

 

 

強がって笑みを浮かべる張遼に、呂布は目をつぶって涙を堪えると、身体を震わしながら何度も謝罪した。

張遼はそんな呂布の頭を上げさせると、枷の付いた手を呂布の頬に触れ、じっと見つめる。

 

 

 

 

「後、呂布ちんにウチの真名を預ける」

 

 

 

 

張遼の言葉に呂布は思わず目を見開くと、そのまま張遼に尋ねた。

 

 

 

 

「…真名とは大事なものだろう?それを、俺に…」

 

 

 

 

「何や、ウチのこと信頼しとらへんのか?」

 

 

 

 

「…違う。朱椰を護りきれなかった俺なんかが預かっても良いのか、と思って…」

 

 

 

 

呂布がそこまで言うと、張遼はハァと溜息をついて頬にやった手を額に移してデコピンを放ち背を向ける。

たいした痛みは無いが、呂布は目だけ一度額にやると直ぐに背を向けた張遼を見た。

背を向けていた張遼は暗くなった空を見上げると、

 

 

 

 

「ウチは呂布ちんを信頼しとる。何たって、これから朱椰の志を受け継ぐ同志なんやからな」

 

 

 

 

そのままニッと笑って呂布に言う。

だが、その頬には再び涙が流れていた。

今まで共に民の笑顔を守り、共に笑い、共に過ごした主君……親友との別れ。

呂布以上に朱椰の死を哀しむ張遼。

 

 

 

 

「…霞、俺に力を借してくれ」

 

 

 

 

「任しぃ!!」

 

 

 

 

張遼は呂布の言葉に頷き、共に亡き親友の為戦う事を誓うのであった。

 

 

 

 

        ★

 

 

 

 

天水・長安・洛陽、そして新たに上党を手中に収めた董卓軍の威勢は増し、李確は更に暴虐の限りを尽くす。

その行為に、今まで黙っていた各都市の太守たちが漸く反発。

一挙にこれを討たんと平原城太守・袁紹を盟主に、反董卓連合が結成される。

 

そんな中、呂布は独自に私兵団を集めていた。

董卓を護る護衛兵団………という名目で集められた反乱兵の集団。

呂布が兵を集めていた本当の理由である。

 

全ては董卓を李確の魔の手から逃がす為。

 

朱椰の最後の願いを叶える為。

 

呂布は機会を待ち続けた。

そして、朱椰の死から数ヶ月後、『反董卓連合、泗水関へ進軍』の報が董卓軍に伝えられる。

脅威を感じた李確は、直ぐさま中心となる将たちを一堂に集めた。

その中には、更に屈強な身体になった呂布の姿があった。

 

 

 

 
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