No.40776

SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:18

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その18。

2008-11-10 01:45:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:617   閲覧ユーザー数:587

 起動音、ぼんやりと浮かび上がる画面、やがて現れるアイキャッチ…OSが立ち上がるのを待っている間、キイボードの表面に軽く置いた指がもどかしそうに無意味なリズムを刻む。やがてようやく一連のアイコンがデスクトップに行儀よく並び、スタートアップに設定したアプリケーションたちが順番に立ち上がってゆく。

 

 

 ネットブラウザーが立ち上がるのを確かめると、待ちかねた夕美が“お気に入り”の世界的ネット辞書『ウィキジビキー』に“超能力”と打ち込む。

 結果はすぐに出たが、画面右のスクロール・スライダーが下方向へグイ、と伸びたことからも、内容の多い項目であることが見て取れる。

「うわ…こんなにあんのんか…」

 代表的なものだけでも、念力、透視、瞬間移動、精神感応、催眠、念視、接触感応、予知…と枚挙にいとまがない。

 ただ、ざっと内容を流し読みした限りではSFつまり空想科学(ScienceFiction)としての考察を軸足にしたもので、能力の内容をつぶさに紹介してはいるものの、いずれの記事も実存の確証のない憶測ばかりの記述しかなかった。

 

 だから当然、夕美があの怪しい薬を飲んで体験したような事柄───父親で、かの薬の発明者である須藤耕介の言っていた念力を応用した“サイコバリア”などはどこにも載っていないのである。

「…やっぱしあたしの父親はマッドサイエンティストなんやなあ…」

 

 はあ……と、大きく失望のため息をつき、目線をモニターから外した夕美は、なにげなく机の端の“スクランブル・ユーミン”のフィギュアに眼をやった。

 耕介の話では一世を風靡したというが、わずか17歳の夕美にしてみれば20ウン年も前、生まれる前のテレビアニメなど歴史の一ページにすぎない。

 なんとなく興味が湧いたので試しに検索サイト『Doodle(ドゥードゥル)』で“スクランブル・ユーミン”を入力すると、信じられないような天文学的数字の検索結果が出た。

 さきのネット辞書『ウィキジビキー』にも数ページ・数カテゴリーにわたって記載されていたし、フリー動画サイト最大手の『OhTube』でも全シリーズのどれもが視聴可能だった。

 しかも英語にフランス語、スペイン語などの字幕付と記載されたものもてんこもりである。よほど知られた作品であり、今も世界中に父親の耕介のようなマニアが存在することの証明でもあった。

「うそっ…これって、ちょっとした世界産業…!?」

 それがたかがテレビアニメだと思えば、底知れないオタクパワーに夕美は少なからず戦慄を憶えたが。

 

 

「先生、できましたよ」

 すでにテーブルの上には、ほづみによってきちんと二人前の茶と箸が用意されてあり、箸は箸置きに行儀よく横たわっていて、さらに傍らにはレンゲさえも添えられていた。

 自分の身なりには無神経でも、こうしたことは几帳面な青年らしい。

「おー、すまんな、ほづみ君。わざわざ袋麺にせんでも、カップでよかったのに」

「やっぱり野菜摂らないとダメですからね。こうすればインスタントも料理です」

「はあ。ごもっともで…いたーだき、ます」

「まんまんちゃ、あん(作者注:幼い子供に手を合わせて“いただきます”の行儀を教えるとき言う)…ですね」

 ひとくちめのラーメンを口に運びかけて耕介がフリーズした。「ふ…古いな〜。俺が子供の頃よお喜劇なんかで出てきたネタやで」

「あはは。そうでしたね。もう古くなったんだ」

「うん。もうずいぶん昔になったな。ウソみたいやけど…」

「ええ。」

 熱いラーメンを無言ですすり、なかばを食べた頃にほづみが切り出した。

「ところで、夕方のことですけど」

「つまり…勘づいたヤツがおるっちゅうことなんやろなあ〜」

「今までみたいに入念にシールドを張った研究室で小出しに試していたのとは違いましたからね…」

「せやけど、たった数分間…それもたいしたパワーは出てへんかったやろ」

「19世紀以前の昔ならともかく、おそらく現在このあたりではここが唯一の震源ですからね」

「うーん。…小そうても白いシーツについたシミは目立つ…っちゅうことか」

「はい」

「まあ、ほづみ君の話からすると、まだ完全には突き止められてへんみたいやし、ナリ潜めて大人しゅうしとったらやり過ごせる可能性も」

「お父ちゃん!!」

「わああああああああっっっ!」

 耕介は腰を抜かした。考え事に夢中になっていて、夕美が部屋から出てきていることに気づかなかったのである。

「び、びっくりするがな、なな、なんや。フィギュアのことやったら謝れへんど。お前の名前かて」

「そんなこととちゃうわ。あの薬のこと、もっと教えてほしいんや」

「ああ、だ、大丈夫や。お前はちょっと口に含んだだけで吐き出したやろ。後遺症なんか絶対に───」

「げ。後遺症残る疑いがあるんか」

「あ。いやいや、ちゃうちゃう。残らん、って言おうとしたんやがな。よお聞かんかい。」

「ほんまやろなあ〜?………まあ…ええわ。それよりも、あの薬。まるごと一本飲んでたらどうなるんや?」

「イヤ、せやからすぐ吐き出したから大丈夫…」

「違うって。責めてんのやない。ひとくち飲んだ程度で家を半壊させたんや。一本飲んだら量に比例してパワーが出るんか、ちゅう話やんか」

「夕美…おまえまさか薬でトンデモナイ事をしよなんて思てへんやろな!? たしかに、あの薬を使たら世界征服も可能かもしれんが」

「アホか。お父ちゃんと一緒にせんとって。考える事がほんまにマッドサイエンティストやな。その逆や」

「逆?」

 

 

〈ACT:19へ続く〉

 

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