謎の紫少女が去った後、麗奈と歩はこの店に唯一残っていたガタイの良い青年と一緒に談話をしていた。
三人で座っているテーブルの前にはそれぞれに飲む為に配置された湯呑(ゆのみ)が置かれており、まず始めに青年から口を開いた。
「良いんですか本当に?お茶までもらってしまって……」
「良いんですよ。助けてもらったわけですし」
態々お茶まで出してくれた事に遠慮気味ではあったが、彼があの騒動を治める要因になった事には変わりない。そのせめてもの礼だ。
歩はその辺りに無頓着のようではあったが、麗奈が礼をするべき旨を伝えるととりあえずは納得してくれた様で、歩も同じく席に着いてお茶を啜っている。
「それにしても、何時から出来たんですかこの店?ついこの間までは完全に空き家だったのに……」
「それは企業秘密ですよ、アラタさん」
目の前に座る青年…アラタが出した素朴な疑問に、歩が真実をオブラートに包みながら簡潔に答えた。
桑野(くわの)アラタ…何でも各地を旅しながらボランティア活動を行っているとの事だ。
二日ほど前に出身地であるこの辺りに帰って来たそうで、今は旅の予算を手に入れる為にしばらくの間はこの辺りに住む事にしているのだとか。
「そう言えば、あの子は一体何だったんでしょうか?」
麗奈はあの時、店にやって来た紫少女の話題を持ち出して、彼女の事について訊ねてみた。
他の客達の反応を見るからに、何らかの理由で恐れられているのは確かであり、また、あの時のアラタの表情からして十中八九事情を知っているだろう。
その謎を解明しようと、その辺りの事情に詳しそうなアラタに訊ねると、彼は若干顔を顰めながらも、詳しく教えてくれた。
「あの子は…ZECTに所属しているマスクドライダーシステム資格者の一人なんです。もし俺があのまま辞めなければ、彼女もこんな事にはならなかったかもしれないのに……」
「それって、どう言う事ですか?」
その意味を解明しようと歩が更に問い質すと、アラタは重い口を開いてその意味を紡ぎ始めた。
「俺、昔はZECTに所属してたんですけど、辞めてしまって……。その後に彼女が俺の後釜としてZECTにスカウトされたんです」
辞めた事に関しても何か理由がありそうではあったが、それを訊くと「知らない方が良いです」と浮かない顔を俯かせながら言われ、知る事が出来なかった。
歩はそんな暗い顔をするアラタを見ると、おもむろにアラタの手に軽く触れた。
「なんです?突然……」
下げた頭を持ち上げて歩に当然の疑問を呼び掛けると、歩はある事を訊ね出した。
「……貴方が、仮面ライダーガタックですね?」
「え…!?」
歩の予想外の発言を聞いて、麗奈は思わず驚愕の声を漏らした。
確かにこれだけ運動神経の良さそうな体格をしていれば、駆や楓と言った仮面ライダー達と互角に戦えそうではあるが、まさかこんなにも早くこの世界に住むライダーと遭遇するとは思わなかった。
「え、ええ。でも、何で知って……」
―――ヴィイィィィ…ン……―――
アラタが言い切る前に何処からともなく虫が羽を動かして跳んでいる様な音が聞こえて来た。
その出所を探る為に一同が辺りを見回すと、窓の向こうに青いクワガタの形状をした手の平サイズの機械が背中から出した翅を高速で動かしながらこちらを見据えているのが目に入った。
「ッ!?どうした、何かあったのか!」
アラタがガタリと音を立てながら席から立ち上がってクワガタの機械に向かって驚きの声を上げるも、その物体は空中を漂いながら「キュイキュイン」と機械音を発するだけで何も答えない。
しかしアラタにはその機械音で言っている事がある程度理解できたのか、口元を引き締めて無言で頷くと、千円札を机の上にバンと置くと「俺急用ができたんで失礼します!」と早口に捲し立てながら店から出て行った。
「……麗奈さん、彼の跡を追ってきます」
「ちょ、歩さん!?」
アラタが出て行ってそう間を置かずに歩がそう言うと、彼までもがアラタを追う為に店を後にしようとし出した。
ヴァンとの約束もある上に、あのまま一人で行かせるのも何かと心配だったので、自分もその後に続く形で歩の後ろに続いて店から出て行った。
紫はピラフ(ただし実際はチャーハン)を食べて満腹になり、更にあの店のピラフがサツキの作ってくれるピラフと同じくらい美味しかった事もあってか少しばかり上機嫌になっていた。
そして現在はZECT本部に向かって歩いているのだが、ふと前方からやって来る若い男女のカップルが目に入った。
「それでさぁ、俺がこう言ってやったわけよ。『お前それ空手じゃなくて柔道だろ』ってな」
「あっはははは!なにそれ~!?」
何とも他愛のない会話を繰り広げている男女ではあったが、紫にはその中に潜む異常性が見えていた。
紫は二人を通り過ぎる寸前にサソードヤイバーをジョウントして召喚すると、すれ違い様に男性の方を素早く斬り捨てた。
その手際はほんの一瞬の出来事であり、斬られた男性も楽しそうに談笑していた女性も全く気付かない内に起きた。
「え…ッ!?ガハァッ!!」
「きゃああぁぁぁ!!」
一瞬遅れて自身の体に異常が起きた事に男性が気付くも、刹那には傷口と口元から血を噴き出し、女性はあまりにも異様な光景に悲鳴を上げ、その異常事態に気付いた通行人達も一斉にその場から逃げるように立ち去る。
「ゲフッ…!な、何を……!!」
「……擬態」
男性は辛うじて意識をギリギリの所で保ちながら自分を切り捨てた紫に声を振り絞るが、紫は一言だけで片付ける。
その言葉を聞いた男性はみるみる内に姿を変えて行き、やがてその姿をコガネムシに酷似した異形…コレオプテラワームに変異させて行った。
「ひぃっ!?きゃあぁぁぁぁ!!」
『キサマァ…ナゼ分かった!?』
「……サソードゼクター……戦闘開始」
コレオプテラワームが連れていた女性が悲鳴を上げて通行人達の波の中に消えて行くのを余所に、ワームが紫に疑問の声を投げ掛けるも、紫は無視してサソードゼクターを呼び出して手の平に乗せ、そのまま流れるようにサソードヤイバーとゼクターを連結させながらボソリと音声コードを呟いた。
「……変身」
[ヘン・シン]
サソードヤイバーを持っている手元から発せられるタキオン粒子によって生成されたヒヒイロノカネによって装甲を纏い、サソード・マスクドフォームへと変身を果たすと、未だにダメージで手を地面についているコレオプテラワームに容赦なく刃を振るう。
先程のワームの答えは簡単だ。紫には見えているからだ。その瞳の奥に潜むワーム独特の無機質な眼が……。
しかしこれは先天的な物ではなく、ワームが兄に殺されてから分かる様になった後天的な物である。
そんなトラウマの所為でこの才能に目覚めてしまった事は何とも皮肉なことだが、この力も今ではワームを殲滅するためにも必要な力だ。絶対に全てのワームをこの世から消し去ってみせる。
『ぐごあぁぁっ!!』
「……ワームは、敵。……すべて、殲滅する」
黄金色の硬い甲殻から火花を散らしながら斬り飛ばされるコレオプテラワームに、ボソボソと呟きながらサソードは更なる追撃を与えようとキャストオフを作動させる為にゼクターの尾部を押し倒す。
「……キャストオフ」
[キャスト・オフ…チェンジ・スコーピオン]
「……クロックアップ」
[クロック・アップ]
鈍重な装甲を脱ぎ去りライダーフォームへと変わったサソードは、続いて右腰に設けられたトレーススイッチをスライドし、クロックアップを開始する。
『こっの、クソガキがあぁぁぁ!!』
しかしこちらがクロックアップ空間に突入することを予期していたのか、向こうも此方とほぼ同時にクロックアップを発動し、汚らしい言葉を発しながら同じ土俵での戦闘へと身を転じる。
「……ライダースラッシュ」
[ライダー・スラッシュ]
しかしサソードは一切の容赦をする事なく必殺技を発動させ、迫り来るワームの鋭い鉤爪による攻撃を姿勢を低くする事で避け、そして擦れ違い様にもう一度腹部を斬り付けた。
[クロック・オーバー]
「……滅殺」
『ゴアァァァァッ!!』
クロックアップを解除し、通常空間へ戻って斬り払った構えを解きながら小さく呟くと、背後でフラフラと突っ立っていたワームは緑色の炎を撒き散らしながら突如爆散し、文字通り消滅した。
「よくも“クロセウス”をやってくれたな」
「お前の仇は取ってやるぞ。そうだろ?“アージェンタム”」
「ああそうだな。行くぞ“アエネウス”」
ふと声のした方を向くと、そこには先程コレオプテラワームが擬態していた姿と同じ風貌の男性が二人並んで立っていた。どうやら複数のワームで一人の人間に擬態してたらしい。
やがてその姿を先程と同じコレオプテラワームに変異させるが、それぞれカラーリングが異なっている。
最初に第一声を放ったアージェンタムと呼ばれた方は黒金色をしており、続いてアエネウスと呼ばれたワームは光沢を放つブロンズカラーになっている。
ZECTのワーム研究ファイルによれば、同個体ワームが複数で強制していた場合に個体差を着ける為に色彩が変化するらしい。今回目の前に出て来たこの二体のコレオプテラワームがその一例である。
「……駆逐続行」
―――ヴィイィィィィン!!―――
そう呟いて再びサソードヤイバーを構えるが、突如青い何かが飛来して二体のワームに体当たりをして一瞬仰け反らせた。
『何だ今のは!?』
すぐさま持ち直したワーム達とサソードは、今自分達にぶつかった物体の正体を探ろうとその青い何かを見た。
それはクワガタの形状をした手の平サイズの機械であり、ZECTが所持していたマスクドライダーシステムの一つ…ガタックゼクターだった。
「ワーム…それに、サソードか……」
サソードとワームしかいない空間に男の声が響き渡り、三者が同時にそちらを振り向くと、こちらに近寄って来る一人の男の姿が見えた。
サソードはその男に会った事はないが、明らかにガタックゼクターを従えている様子からすぐに誰なのかすぐに察しがついた。
「行くぞ、ガタックゼクター!変身!」
元シャドウ部隊副隊長…桑野アラタその人だ。何故今まで行方不明だった筈の彼がここにいるのかは不明だが、彼もワームと戦おうとしている事は明らかだ。
それを証明する様にアラタはガタックゼクターを手に取り、ジャケットの内側に身に着けていたゼクトバックルへスライドさせながら変身コードを言い放った。
[ヘン・シン]
ゼクトバックルにセットされたガタックゼクターから発せられたタキオン粒子によって装甲を形成し、全身を銀と青のツートンカラーの重厚な装甲で包み込んだ。
その姿は何処となく蛹を彷彿とさせており、複眼の色は赤黒く、小さなV字のアンテナを携えた頭部に、両肩にはそれぞれバルカンが二つずつ装着されている。その為か、全体的にゴツゴツとしたイメージがある。
これこそが桑野アラタの変身するライダー…仮面ライダーガタック・マスクドフォームである。
「サソード、俺も手を貸すぞ」
「………」
そう話し掛けるガタックではあったが、サソードは別の事を考えていた。
ZECT上層部からは資格者である桑野アラタの身柄は関係なくガタックゼクター回収の指令が出されている。それはつまり、アラタは殺してしまっても構わないと言う事だ。
それに、このワーム達は自分の獲物だ。そう易々とくれてやる道理はない。
「……ガタック……抹殺対象」
そう決めるとサソードはワームを無視してガタックに斬り掛かった。
渋谷隕石によって荒廃した渋谷区では、ザビーとグラスホッパーワームの攻防が繰り返されていた。
「隊長!援護します!!」
『貴方達は下がってなさい!』
外の騒ぎを聴き付けたゼクトルーパー達がワゴン車から降りて来るが、グラスホッパーワームが瞬時にクロックアップを発動させて隊員達を斬り殺そうと迫る。
「ッ!クロックアップ!」
[クロック・アップ]
しかしザビーもすぐさまクロックアップを発動し、斬り掛かろうとするグラスホッパーワームに向かってザビーゼクターを構え、その尻部から針の形状をした弾丸・ゼクターニードルを連続射出してグラスホッパーワームの背中に命中させて注意を反らさせた。
『ぬぅっ!?』
「私の可愛い部下達には指一本触れさせませんわよ」
『……これは思ってたより一筋縄ではいきそうにありませんね』
射出されたゼクターニードルは弾き返されてしまったがそれなりにダメージはあったようで、グラスホッパーワームは再びザビーを眼前に捉え、鋭い突きを放つ。
「ふっ!はっ!やぁっ!!」
『ヌッ、ウッ…!ヌオォッ!?』
しかしザビーはその攻撃を軽くサイドステップを踏んで避け、左フック、右フックと続け様にカウンターをお見舞いし、そしてフィニッシュとばかりに右ストレートをグラスホッパーワームの顔面に叩きこんだ。
「頂きましたわっ!」
『そうはいきません!』
―――キイィィィィィン!!―――
その連撃に堪らず吹き飛ばされたグラスホッパーワームに更に追い打ちを掛けるべく接近するが、突如左手を前に翳したかと思うと、左手に付いていた複数枚の翅を高速で動かして超音波を発した。
「うっ…!?なんですの、これは…!」
『アッハッハッハ、意外と使えますねぇコレは』
怪音波による激しい耳鳴りの所為で攻撃を中断し、膝を突いてしまったザビーに、グラスホッパーワームは可笑しそうに笑いながら自身の左手を見据えた。
本来、クロックアップ空間であれば今のような超音波が発せられる事はない。何故ならこの空間自体が音速の空間だからだ。音速と言う事はつまり、自分達が音速の速度で動いていると言う事。
それ故、例えワームが通常空間に於いて超音波を発する速さで羽を動かしたとしても、空気振動の伝達が遅れているこの空間では、超音波と言えるほどの怪奇音が発せられる事がないのだ。
『彼(・)と出会ってから初めて試してみましたが…成程、こう言う事も出来るんですねぇ』
(彼……?)
グラスホッパーワームの“彼”という部分に違和感を感じた。一体誰の事を差しているのか不明だが、ワームの口振りからその人物が今の現象を起こす原因を作った可能性が高い。
『では、そろそろ終わりにしましょうか』
グラスホッパーワームはそう宣告しながらザビーに近寄りながら、止めを刺そうとゆっくりと手に持った剣を上に掲げる。
一方のザビーは未だに耳鳴りの所為で平衡感覚が掴めない為に、中々立ち上がる事が出来ない。動いて、お願い…!
『では、未来永劫にさようなら』
ザビーの祈りが通じるわけもなく、目の前にはグラスホッパーワームの剣が振り降ろそうとしていた。
「ここが渋谷区、ですか……。本当にここに隕石が……」
「ああ。今から十三年前に突如隕石がこの地に飛来し、この景色を生み出した」
ディシードはカブトに渋谷区まで連れて来られ、そして目の前に広がる景色に絶句した。
自分が居た世界にも渋谷区という場所は存在していたが、決してこんな荒れ果てた場所ではなく、寧ろ景気の良い繁華街だった。
しかし今目の前に広がっている渋谷区にはその影は一つもなく、まるで原爆でも落ちて来たかのような悲惨な街並みが広がっているのみであった。
「そして、渋谷隕石が落ちてからというものワームが大量発生した。一説によると渋谷隕石にワームの卵が大量に付着されていたとされ、それが地球に落ちた衝撃で卵が孵化したと言われている」
カブトが横で説明しているのを聞きながら、ここが改めて自分の居た世界ではないと言う事を改めて実感させられた。
そして異世界であることを実感すると同時に、ある一つの可能性を見出した。
(麗奈…お前もこの世界に来ているのか?)
あの時の“ドライブエクシードシステム”の暴走の弾みでこのもう一つの世界とも言えるパラレルワールドに来てしまったのだとしたら、自分を止めようと試みた彼女もこの世界に来ている可能性も高い。
麗奈とは幼い頃からの付き合いだ。二人とも子供の頃は少々内気な性格をしていた事もあってか自然と意気投合し、高校に入ってからは付き合い始めた程だ。
高校卒業後も、祐司の祖父が務める研究施設に就職する事が決まり、そのまま何事もなく平和な日々が続く者だと思っていた。
しかし、祖父がディボルグドライバーを手にしてから全ては狂い始めた。
その未知の物質でできた装置について調べていた時に麗奈がディボルグドライバーに触れると、彼女の脳内にドライバーに関する情報が送られ、麗奈を引き出し代わりにして様々な情報を手に入れた。
空間を飛び越える事、仮面ライダーと呼ばれる存在の事、そして…最強最悪の兵器である事も……。
その結論を導き出した祖父は、まるで何かに取り憑かれたかの様にディボルグドライバーに近い複製品の開発に没頭し始めた。
これ一つがあれば、総ての軍事力を制する事が出来る。ならばもう一つあれば勢力図はどのように変化して行くのだろうか……。
そんな事をブツブツ呟いていた祖父の顔は悪魔でしかなかったが、自分達はそれに付き従うしかなかった。
やがてディボルグドライバーとは対極の性能を持つディシードライバーが開発され、その試運転に誰が立候補するかという事になった。
最初は同じ物を扱っている麗奈が候補に挙がったが、ハッキリ言って危険過ぎる。
なにせ祖父(あくま)が開発した装置なのだ。どんな副作用が起こっても不思議はない。
当然他の研究員達もそれを熟知しており、ただ人柱が欲しかったから故の選択でしかない。
ならば、自分が代わりになるしかないではないか。当然麗奈はそれの反対したが、好きな女性を守れなくて何が男だ。彼女にばかり面倒を掛けさせるわけにはいかない。
そしてその結果、このパラレルワールドに迷い込んでしまい、しかも時間の進みが異常なまでに遅い空間に取り残されてしまった。
もし麗奈がこの世界に来て右往左往しているのであれば、せめて麗奈だけでも元の世界に戻してやりたいところだ。
―――キイィィィィィン!!―――
「ッ!?何だ、今の音!?」
「超音波…のようだな。音がしたのはこのビルの向かい側だな」
突如響いた耳鳴りによって過去の回想から現実に引き戻されると、カブトが左手に見えるビルを指差しながら、超音波の聞こえてきた方向を指し示した。
「行ってみましょう!」
今の音の正体を探る為にビルの向かい側まで移動してその壁際からその場を覗き込むと、倒れ伏したザビーとキリギリスに似たワームが手に持った剣を振り降ろそうとしている構図が目に入った。
「…ッ!今すぐ助けないと……!!」
「待ってくれ祐司君、それを使ったら君は……」
ワームの剣が振り下ろされる前に何とか割って入ろうと「マッハ」のカードを取り出すが、カブトにその手を掴まれて引き止められてしまう。
「でも、今使わないと間に合わないじゃないですか!」
「確かにそうだがその後どうする気だ?使えば君の身体がまた悲鳴を上げるぞ?」
「それでも、助けます!!」
[アタックライド…マッハ!]
カブトの掴んでいた腕を振り払い、カードをスリットへとスラッシュさせた。
スラッシュすると同時に高速移動の能力がディシードに付加され、一瞬でキリギリスのワームとザビーの間に割って入り、ワームの振り下ろされようとした剣をディシードライバーの腹部分で防いだ。
『ん?誰ですか貴方は……?』
「な、何とか間に合った……」
「貴方、一体何故…!?」
ワームが疑念の声を漏らすのを余所に、ザビーに攻撃が当たらなかった事にホッとしていると、ザビーが自分を助けてくれた事に対して驚愕の声を上げる。
「俺は、目の前で困ってる人を放ってはおけない質(タチ)でね!」
ディシードは巨大な機械剣でワームを弾き飛ばしながら自身の性分を答えた。
更に大剣を横に振るって相手の追随を牽制し、ワームを後退させて距離を取らせる。
ザビーからすればつい先程まで争っていた間柄だろうが、こちらからすればもう何日も前の出来事だ。そんな事を一々気にする性分ではない。
しかし次の瞬間には身体に負荷が降りて激痛が走り、「ウグッ!?」と呻き声を上げて膝を突いてしまった。なんとか剣を杖代わりにして立ち上がろうとはしているが、それでも足取りが覚束無い。
『ホォウ、また別の世界の仮面ライダーですか……。一体何人いるのでしょうねぇ?』
「“また”?もしかして、麗奈を知ってるのか!?」
ディシードの姿を見たワームが物珍しそうにそう呟くのをディシードは聞き逃さず、若干焦燥感に駆られた様相で問い質した。
『麗奈?……ああ、彼女ですか。確かに一度お会いした事がありますよ』
「彼女は今、どこに…!?」
ワームが麗奈に心当たりがあるかのような口振りで答えると、ディシードは更に問い詰めると、イタズラっぽく含み笑いを漏らし、癪に障る様な口調で遠回しに答え始めた。
『フフッ、それは詳しくは分かりませんね。まぁ私が最後に見たのは、彼女が気を失って捕えられているところまで…ですからねぇ』
「ッ!キサマアァァァァァ!!」
ディシードは堪忍袋の緒が切れ、自分の今の状態の事など何て事はないかのようにワームに怒号を放ちながら身の丈を超える大剣を軽々と振り被った。
『アッハッハ、意外と熱血漢ですねぇ貴方は。では今度は、貴方と最速のダンスパーティを楽しませて頂きましょう!』
ディシードの大剣によるフルスイングを後ろへ跳んで避けると、さも面白そうに宣言しながら人間態へと擬態した。
「な、なんで擬態してる筈なのにクロックアップを……!?」
「それは企業秘密…とでも言っておきますよ。女王蜂さん」
しかしそこでザビーが不自然な事が起きている事に気付いて驚愕の声を漏らすが、人間態となったワームが軽く受け流しながら答えると、徐に懐に手を入れて金色のUSBメモリを取り出し、そして……
[ナスカ!]
USBメモリに設けられているスイッチを押し、電子音声が発せられた。
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第53話:最速のダンスパーティ