No.393448

IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第十四話~闇あるところに光あり

あの光は完全にあの人だ……。

2012-03-17 23:58:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1352   閲覧ユーザー数:1303

 さて月曜日の今日から一週間は例の学年別トーナメント一色に変わります。第一回戦が始まる前の今でも全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導をしていた。

 それから解放された人達はすぐに各アリーナの更衣室へ走る。僕達、男子三人組はこのだだっ広い更衣室をさんにん占めなのだ。今頃ここ以外の更衣室は人が多くて困っているんだろうな。エリスさん、大丈夫だろうか……。

 

「しかし、すごいなこりゃ……」

 

 夏兄がそう思うのも当然かな。各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、そんな人たちが諸々来ているのだから。まぁ僕はこんな人たちはみんな嫌いだけどね。

 

「スカウトやらなんやらで来ている人がほとんどなんだろうね。まぁ僕達には関係のないことだよ」

「ふーん、ご苦労なこった」

「今の一夏はボーデヴィッヒさんしか見えてないんだね」

 

 シャルルくんの言う通りだ。今の夏兄にはセシリアさんと凰さんのトーナメント出場禁止の元であるボーデヴィッヒさんとの対戦しか考えていない。一年生は実力試しなのだけど、それも出来ないとなると代表候補生である二人の立場も悪くなる。

 

「自分の力を試せもしないっていうのは、正直辛いだろ」

 

夏兄は例の事件を思い出したのか自然と左手を握りしめている。しかしシャルルくんの差し出す手がそれをほぐす。まるで何かを庇うように。

 

「感情的にならないでね。彼女はおそらく光輝に並ぶ実力を持っているよ」

「悔しいけどシャルルくんの言う通りかな。ボーデヴィッヒさんの実力は高い。でも決定的に欠けているものがあるから、そこを付けば大丈夫だよ」

「お、おう。しかし光輝、チームでもないのに特訓に付き合わせちまってごめんな。こっちは万全だけど、そっちは大丈夫か?」

 

 そう、ラスト一週間は僕とエリスさんはこの二人と一緒に特訓していた。敵同士とかは関係ないさ。僕達も良い特訓になったしね。模擬戦なんか何回したのだろうか? 一日、3回ぐらいしてたのかな。全部勝ったけど、この二人のチームワークは抜群で僕達もなかなか苦労したよ。

 

「大丈夫だよ。お礼を言いたいのはこっちなんだよ。ありがとう夏兄、シャルルくん!」

「こっちこそありがとな! お互い頑張ろうぜ光輝!」

 

 僕と夏兄は拳をかちあわせた。こういうのはなんかいいよねっ。こう情熱的なものを感じるよ。

 

「シャルルくんもやろっ」

「えっ、僕も?」

 

 シャルルくんは戸惑いながらも拳をかちあわせてくれた。そんなにビックリしなくてもいいじゃん……。

 

「さて僕はそろそろエリスさんと合流するから行くね。お互い頑張ろうね!」

「うん、模擬戦のようにはいかないからね!」

「今度こそ勝ってみせるぞ! またフィールドでな」

 

 夏兄とシャルルくんの宣戦布告を聞きながら僕は更衣室を後にした。こっちだって負ける気はないからね! 

 と、更衣室をでて羽の髪止めに触れる。

 

「友達から貰った大切なもの。これを付けてたらなぜか勇気が出てくるのは気のせいかもしれないけど、安心感があるよ……」

 

 僕は貰った本人に感謝しながら道を進んでいく。ありがとうエリスさん……!

 

 

 

 僕とエリスさんはあの後合流し、アリーナの観客席で試合を見ている。しかも一回戦目から……。

 

「まさか夏兄、シャルルくん達の相手がボーデヴィッヒさんと箒さんペアだなんて、なんて偶然だよ……」

「確かにそうだね。でもあの二人のコンビネーションはすごいよね。それに比べてあの二人は……」

 

 たぶんボーデヴィッヒさんと箒さんは抽選で決まってしまったのだろうけど、元々協調性のかけらもないボーデヴィッヒさんと組んだのは厳しい部分があると思う。そんなことを考えている内に箒さんがシャルルくんにやられてしまっていた。

 

「さすがに量産機と専用機じゃ性能の差があるからしかたないよね。四人中三人が専用機なだけですごいのに」

 

 確かにエリスさんの言う通りだ。箒さんとシャルルくんはISの性能差が大き過ぎる。更にシャルルくんの得意技『高速切替(ラピッド・スイッチ)』で箒さんを圧倒できるはず。

 

 ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡは武装数が多いとはいえ、瞬時に武器の切り替えなんて簡単にできるもんじゃない。でもシャルルくんは持ち前の器用さでそれを可能としている。あれには僕達も苦戦したよ。

 

「これで二対一、ボーデヴィッヒさんが不利になったけど油断は禁物かな。二人とも、気をつけて……!」

 

 ここから聞こえるわけがないのだけど、そう言わずにはいれなかった。なにか嫌な予感がしてならないんだ。

 

 

 

「あ、あれって……」

「……っ!」

 

私の隣で試合を見ていた光輝くんも驚いている。一夏くんとシャルルのコンビネーションでラウラを倒して決着が着いたと思ったら、突然ラウラのISから激しい電撃が流れてISが変形していった。さっきまでの装甲はドロドロに溶けて、漆黒の闇がラウラの全身を飲み込んでいった。

 

そして現れたのは、黒い全身装甲のISだった。ボディラインはラウラのままであって、最小限のアーマーが腕と脚につけられている。頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、目の個所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしている。

 

「行かなきゃ、助けに行かなきゃ!」

 

 光輝くんはそう言って走って何処かに行ってしまう。

 

「ちょっと、待ってよ光輝くん! まさか一夏くん達のところに……」

「そうだよ。助けにいかないと夏兄達が危ないんだよ」

 

 やっぱりそっか。光輝くんらしいや。

 

「私も行くよ。パートナーとして自分自身の意志でさ。大切な人たちが危ない目にあってるのに何もしないのは嫌だもんね!」

「エリスさん……! ありがとう! それじゃあ、行こう!」

 

 光輝くんの掛け声で私達はISを起動させる。こんなときにでも光輝くんはおそろいの髪止めをしてくれている。ありがとね、光輝くんっ!

 

 あれ? 光輝くんの身体から緑の光が出ていたようなないような……? 気のせいかな?

 

 

 

「どけよ、箒! 邪魔するならお前も――」

「っ! いい加減にしろ!」

 

 バシーン! と頬を引っ叩く音がフィールド内に響く。一夏の身体は飛び出そうとしていた姿勢からか横向きに転ぶ。頭に血が上っていた一夏だが込み上げてくる怒りを鎮めれた。

 

「二人とも! 大丈夫!?」

「なっ! 光輝にエリス!? どうしてここに!?」

 

箒と一夏、シャルルの後ろからISを装備した光輝とエリスが現れる。意外な人物の登場に二人は驚きを隠せない。いや、光輝がくるのは多少の予想が出来たか。

 

「夏兄、あれってまさかとは思うけど、お母さんのデータを使ってる!?」

「そうだぜ。あれは千冬姉のデータだ。千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」

 

 黒いISはフィールドの中央から微動だにしない。自分を攻撃してくるものだけを反撃するようだ。ラウラの意志ではなく、訳の分からない力に振り回されている。

 

「わけのわからねぇ力に振り回されてるラウラも気にいらねぇ。ラウラとIS、両方を一発ぶん殴ってやらねえと気がすまねえ」

「だが白式のエネルギーもないのにどうやって戦う気だ? それに先生方がもうじき駆けつけてケリが着く。お前がやらなくとも自体の収集は着く。違うか?」

 

 確かに箒の意見は正しい。だが――

 

「確かに箒さんは正しいよ。でも自分の意志で行動することに意味があると思う。だから、ここは夏兄に、ね? 夏兄もそうしたいんだよね?」

「光輝……その通りだよ。箒、これは『俺がやりたいからやる』んだ」

 

 二人の兄弟に圧倒されたのか、箒は押し黙るが問題はまだある。

 

「だがエネルギーはどうするんだ!? もう――」

「僕のリヴァイブならエネルギーを移すことが出来るよ」

「本当か!? だったら頼む! 今すぐに――」

「ただし! 約束して。絶対に負けないって」

 

 シャルルがびしっと一夏に指を指して言う。その言葉は強い意志の籠った言葉だった。

 

「もちろんだ! 必ず勝ってくるさ」

「約束だからね。さっそく始めるよ。エネルギー流出を許可。――よし、一夏、白式のモードを一極限定にして。それで零落白夜は使えるはずだから」

「おう、わかった」

 

 リヴァイブから伸びたケーブルは篭手状態の白式に繋がれ、エネルギーが流れ込んでくるのが分かる。それは一夏が初めてISを起動した感覚だった。

 

「完了。リヴァイブのエネルギーは全部渡したよ」

 言葉通り、シャルルの身体からリヴァイブが光の粒子となって消える。

 

 それに合わせて白式は一夏の右腕部分と雪片弐型だけを構築した。同時に零落白夜も発動させ、蒼白の刃が発現する。

 

「これだけで充分だ。この零落白夜で一撃で仕留める!」

「夏兄……!」

「こ、光輝くんっ!? ISが……」 

 

 突然、光輝のISから緑の光が溢れ出していた。光輝がサイコバーストを発動しているわけでもない。ISの意志か、それともここにいる人間の意志が集中し過ぎているのか原因は分からない。

 

「光輝、大丈夫なのかよ!?」

「うん、なぜか恐怖は感じないよ。むしろ暖かくて安心するんだ。それにこの感じは――」

 

 光輝が言いかけたところで、光が一夏の握る雪片二型に纏わりつく。蒼白の刃が緑の鮮やかな色に輝く。

 

「綺麗だな。まるで虹の架け橋みたいな感じだ」

 

 光輝と一夏を繋ぐ光は箒の言う通りまるで虹の架け橋のような美しさを連想させる。

 

[早く彼女を助けだすんだ。闇の中で一人でいるのは一番辛いんだからね]

「……!? 今のは?」

 

 専用機持ち全員に聞こえたであろう謎の声。光輝が時々聞こえる声そのものだ。

 

「あなたは一体誰!? それに助けるって!?」

[そのままの意味だよ。一夏君、あのISから彼女を助けるんだ]

「え? は、はい! みんな絶対勝ってくるから待っててくれ」

 

 そう言って一夏は漆黒のISへ近づく。

 

「行くぜ白式」

 

一筋の光を細かく、鋭く、尖らせる。その集中が最大にまで達した時、零落白夜のエネルギー刃は強大なエネルギーを、ただ解放するだけではなくなった。それは日本刀の形に集約した。

 

「ありがとな白式。じゃあ行くぜ……!」

 


 
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