私の目の前には、一人の男が立っている。全身が漆黒の長身。それだけでもかなり印象があるが、何よりも印象が強いもの、それは体と対になっているように感じる白い髑髏の仮面だ。
アレは一瞬の出来事だった。相手に攻撃を与える隙を与えず殺す手際の良さ。
鬼の頭(かしら)を倒した人物を目の前にして、私の感情は恐怖を通り越して諦めに変わっていた。この人の前で何をやっても無駄だとわかるからだ。今の私では太刀打ちできない。
「……そこのお嬢さん」
ああ、次の言葉を聞いた後に、私の命は奪われるだろう。ゴメンねこのちゃん私……
「私が投げたダガーを拾うのを手伝ってくれませんか?」
「は?」
このちゃん、目の前にいる男は、私が思ってもいなかった事を言い出しました。
*
「ええっと、敵の数はひいふうみい……11人ですか」
もっとも、鬼を人として数えるのに何か違和感を感じるのですがね。それでも、あのお嬢さんには勝ち目はありませんが……
「そんじゃ、嬢ちゃんに恨みはないが……死んでもらうで」
見る限り、あの鬼どもが侵入者で、お嬢さんがピンチみたいですね。女の子に手を挙げる輩にロクなのがいませんからね。特に……坊っちゃんとか坊っちゃんとか坊っちゃんとか……。お嬢さんが敵だった場合はとりあえずその時はその時で何とかしましょう。
それでは、お嬢さんに加勢しましょうか。
私は仮面をかけなおし気を引き締めたのと同時に、懐から愛用のダガーを取り出して棍棒を上げた鬼の額に向けて投擲した。
投げたダガーは鬼の額に正確に当たる。
以前よりダガーの速度が上がっていることに驚きつつも、私は投げ終えるのと同時に気配を消し、敵がいる所へ移動し、撃退する。
――シュッ
「ぐぁ!?」
――シュッ
「……」
ある者は心臓を一突きされ、またある者は首ごとダガーが持っていく。
……ここに来るまでの間に自分に関して分かったことが二つほどある。
一つ目は、私の魔力量が聖杯並みに増えていること。お陰で気配遮断や宝具開放に使う魔力を気にせずに使うことが出来る。
「どこや、何処にいるんや!!」
――シュッ
「ッは!?」
敵の大将らしい鬼は、死角から投げたダガーを撃ち落とす。
「ほう、アレを弾きましたか……貴方は他とは違うようだ」
まぁ、アレを避けるか叩き落とすことが出来なければ、ただの雑魚なのですが……。流石にお頭と呼ばれるだけあって、一筋縄ではいけませんね。
なら――
「姿を見せい、卑怯も……ナガ!?」
――貴方は一瞬で楽にしてあげましょう――
「ならば……何もわからぬまま死んでいけ」
「ッッッイ!?」
私はお頭と呼ばれた鬼の頭をトマトを潰すように砕いた。
……もう一つは、自分自身の肉体のことだ。どうやらこの肉体は、別ののアサシンの肉体らしくそれに私の魂が入り込んでいる状態なのだ。そうだとしたら、この肉体の【ザバーニーア】を使えるかもしれない……別の機会に試してみることにしましょう。
さて、これからどうやってあのお嬢さんに話しかけましょうか……
私は少女のほうに近づくと、少女はあきらめにも似た表情をしていた。
見たところあのお嬢さんは私を敵だと勘違いしているようですし、困りましたね。
そう思っていた時に、私は鬼達に使ったダガーを回収し忘れたのに気づいた。
そうだ。これなら自然な流れで声をかけれますね。
「……そこのお嬢さん――」
*
「いや〜おかげで助かりました。やはり自分の武器は持ち帰ると落ち着きますね」
男は拾ったダガーを元の場所にもどしながら、満足げに私に話しかけてきた。仮面のせいで表情はわからないが、多分笑っているのだろう。
「あの、それで貴方は?」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はハサンというものです。貴女は?」
「私は桜咲刹那という者です。それでハサンさんはどうしてここに?」
私は口調を少し緩めるが、手に夕凪を握る。
「どうしてですか……簡単に言えば迷子ですね」
「は?」
迷子? アレほどの力を持った人が迷子だなんて、何かの冗談でしょうか。
「それで、ここの土地の責任者に会わせてもらえないでしょうか。色々と聞きたいことがあるのですが」
外見だけを見れば悪そうなんですが……助けてもらった恩もありますし、案内するのが得策でしょう。
「分かりました。学園長の所に案内します」
そう言って、私はハサンさんと学園へ向かった。
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第三話