『また、負けてしまいましたか……』
そう呟く一人のサーヴァント。漆黒の肉体を持ち、その顔には体の色とは対称の白い仮面。アサシンのサーヴァント、ハサン・サッバーハである。
毎回毎回聖杯戦争に呼ばれているはずなのに、未だに聖杯を一度も手に入れたことは無い。
今回もだめだった。
魔術師殿は直接戦闘に参加せず孫娘殿を利用し、私は専ら情報収集と暗殺ばかり……。あげくの果てに私は孫娘殿に殺されてしまった。第四次聖杯戦争(前回)も同じ様な感じがした気がしますね……。
前回の戦いは私以外のハサン・サッバーハなので、本来ならその記憶は無。しかし、自らの能力を把握している以上単独で他のサーヴァントに勝てないと分かっているのだから、今回も同じ役割だと感じたのだろう。
「私に出番が欲しい」
私は願う。これではあまりに私が惨めだ。せめて、せめて私にもっと活躍の場があれば!!
「そこの仮面の兄ちゃん。アンタいい願いを持っていんな」
唐突に耳に届いた少年の声。
「何者だ!!」
私は辺りを見渡すと、後ろに声の主がいる。その姿は何処と無く孫娘殿が好きなあの小僧と似ているが、この少年から放たれる大量の黒い魔力が小僧との違いを示していた。
「(アサシンのサーヴァントである私に気づかれずに背後にいるとは!?)あなたはどちら様ですかね?」
私は懐にある愛用のダガーに手を伸ばす。しかし、少年は私の行動を気にしてない様子でニタニタしている。
「なあーに、別にアンタに危害を加えるわけじゃあねえよ。第一俺は最弱だからな……それより仮面の兄ちゃん、アンタは叶えたい願いを持ってる、そうだろ? あんたのその願い、聖杯で叶えてやるよ」
……今この少年はなんと言いましたか? 私の願いを叶える?
「私が聖杯戦争の勝者では無いのに、どうやって願いを叶えようというのですか?」
少年はその問いを待っていたかのように、またニヤついた。
「まあ、色々とあったんだがな、要約すれば聖杯戦争の勝者が俺を使わないって言ってね、聖杯を壊しちまった訳だ。それで、行き場を失った俺が帰る途中にアンタがいた。ただそれだけのことさ」
つまり、この出会いは偶然なのか?
「……本当に私の願いを叶えられるのですか?」
「そりゃあもう、バンバン叶えられるぜ!」
ということは、夢の漆塗デスマスクや三ツ星職人が磨いた黒曜石のダガーも手に入るのですか!? ……なんて素晴らしいお方だ。私のような者の願いを叶えてくれるなんて!! これで願わなければバチが当たる!!
「それでは私の願いを叶えて下さい!!」
「オーケーそう来なくちゃ。それじゃあ、眼を閉じてアンタの心の中で願いを考えろ」
私は言われた通り、心の中で願う。願い始めた瞬間、唐突に頭が重くなった。
「これは……?」
「願いが叶ったぜ。活躍できるかどうかは兄ちゃん次第だがな……それじゃ仮面の兄ちゃん、新しい世界(・・・・・)で幸せにな」
新しい世界とは一体?そう考えた時、私の意識は途切れた。
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※この小説は「小説家になろう」での二次創作作品「ジャスティスハサンと魔法使い」をこちらのサイトに転載させたものです。
第五次聖杯戦争で、マスターの孫にヤられたハサンは、"活躍したい"という願いを抱えたまま英雄の座に還ろうとしていた。還る際に、彼は孫娘殿の思い人に似た青年と出会う。青年はハサンに『この世界は聖杯を必要としないからくれてやる』と言った。ハサンは聖杯に願いを叶え、姿を消した。消えたハサンに対して、青年はただただ歪んだ笑いをしていた。
それでは第一話をどうぞ