世界初の男がIS学園でイチャコラやってる頃、地球連邦所属の宇宙ステーションではある重大な事態が起きていた......。
「不味い、第三十三層を突破された、ダメだ障壁が間に合わない!!」
中央管制局では、三時間前に始まった大規模ハッキングに対し、総力を挙げての防衛を行っていた。
「攻勢防壁がダミーに引っかかった。侵入をとめられない。」
しかし、敵は可也のてだれで、既に六十六ある防壁のうちその半分を制圧されていた。
「対進入用プロテクトは!!いったい何時までかかる。」
騒然とした司令室の中、彼方此方で悲鳴や怒号が上がる。
「二十分いやあと十五分待って下さい。」
「八分で作動させろ!!これ以上の侵入を許すな。」
既に防壁は四十層を越え、宇宙ステーションの通常の運行にも支障をきたしていた。
「第六区画との通信が途絶、B-13のゲートが開放!?エアが抜けるぞ。」
「通常作業員は衛星内の緊急避難所に退避.....ああまずい、第十二区画に人が取り残されている。」
「うだうだ言ってないで手動かせ!!なんとしても中央だけは守るんだ。」
「しかし量子コンピュータに交換するタイミングを狙われるとは......まてよこのタイミングでこの手腕....!?まさか篠ノ之束か。」
地球連邦首都ダーウィン
現在首相官庁の会議室では、今朝方に始まった連邦所属の宇宙ステーション「ボリビア」に対するハッキング対策について、専門家を交え議論を交わしていた。
「状況はどうなっている。」
ゴップ首相は議席の中央に陣取りながら、鋭い目付きで会議室を見回す。
「現在第四十六層までが突破され、汚染されています。これまでの経緯から見てあと二時間ほどで全層を突破、ボリビアは完全に掌握されます。」
立ち上がって説明した国防長官の声は振るえ、拭く暇もなく流れる汗の量が、如何に事態が切迫したものかと証明している。
「コイッチャー博士、何か意見はないんですか。」
全員の目が、ズボラな服装をして何処から取り出したのか木製の飛行機を弄くっている男に集中する。
その視線に気がついたのか、男は面倒くさそうに顔を歪めながら、手を組んだ上に顎を乗せて言う。
「まず今回の事態は予め予想できたものであり、実際に私もそれを警告しながらもなんら手段を講じてこなかったあなた方軍部の怠慢と侮りが、今回の事態を引き起こした原因の一つであるといっておきます。」
その言葉に、出席した何人かの軍関係者がムッとするが、ゴップ首相が目で続けるように促した。
「私が設計し開発を主導した第七世代型量子コンピューターは全く新しい構造なのは既に説明しました。今回はそれを計七機ボリビアに上げてその取り付け作業を行っていました。しかし、ここで問題があります。今までのOSやソフトなどとは違い、全く新しいこれ等を入れるためには、一時的にシステムをシャットダウンしなければなりません。そのため、外部からの侵入を察知できず、気づいた時には量子コンピューターごとシステムが乗っ取られていた可能性すらありました。」
「だが、そうはならなかった。緊急時の生命維持用に活動していたシステムが異常を発見してハッカーの侵入に気がついたのだ。これは我々の防衛対策あってのもので.....。」
宇宙軍総監が胸を張って言うが、博士は向こうを向いてポツリと、
「そもそも私のシステムを受け入れていればこうはならなかったんですけどね。」
その発言で面子を潰された総監が顔を真っ赤にしながら、手を血管が浮き出るまでワナワナと握り締めていたが、別の将官が慌てて、
「そ、そもそも一民間人をむやみやたらに軍事衛星に関わらせるなど......。」
その一言で会議室はシーンと静まりかえり、しまったという顔をしたが最早後の祭りであった。
今回の会議の召集目的は連邦所属の宇宙ステーションが何者かにハッキングされているという事であり、ボリビアが宇宙ステーションに偽装した軍事基地というのは表向きは伏せられているのだ。
無論此処にいる全員がそんなことは暗黙の了解であったのだが、態々口に出して言うようなことではない。
「コホン、まあ過ぎたことを言っても仕方がありません。今は何よりもどうやったらハッカーに対処できるかの方法を議論すべきです。」
「それについてはもう、はっきりと言って手遅れでしょう。状況と手口から察するに、相手は非常に高度な知能を有し、進入するまで誰にも気付かれない程の手口、そして何よりもこんな大胆不敵なことを堂々とやる人物など今の地球にどれくらい居るでしょう?」
コイッチャー博士は不敵に微笑み、次いで口を歪ませて犯人の名前を言う。
「篠ノ之束、ですよ。彼女以外に考えられない、ま、それ以外に出来るとしたら僕ですけどね。兎に角世界最高のセキュリティーを破るようなハッカー相手では、勝ち目はありません。」
篠ノ之束、ISの生みの親にして、世界最高のセキュリティーを誇るミサイル施設を誰にも気付かれずにハッキングし、ミサイルを日本へと発射した最悪のテロリスト。
一歩間違えば、世界中の核ミサイルが発射され人類が滅亡してたかもしれない。
それ程の事態を容易に引き起こせるテロリストの存在に、世界中は恐怖し、抜本的な対策とセキュリティーの一新を迫られる事になった。
「馬鹿な!!奴の手口なら我々は知り尽くしている。日本のIS研究所から発見された痕跡と、メガリス事変で軍のコンピューターを全部調べて奴の侵入経路を特定したんだ。同じ手を食うはずがない。」
「だから、それが貴方達の怠慢だというんです。相手はかの天災とまで呼ばれるような頭脳の持ち主なんですよ。自分の弱点くらい把握しているに決まってるじゃないですか。それに本当に篠ノ之束なら量子コンピューターでさえ危うい。」
「どいういう事なのです?」
会議の進行役を担っていた、首相補佐官アンソニーがコイッチャー博士に尋ねる。
「博士、あなたは先程自分が作った量子コンピューターに対して絶対の自信をもっていたのではないのですか?それを如何して突然翻すので。」
「なに私も一応IS研究に携わっていたときがありましてね。まずISコアなんですか、あれは凝縮された情報集積装置の塊です。量子化によりありとあらゆる物をその容量が許す限り出し入れが出来、ハイパーセンサーにいたっては人間の直感すら上回るほどの感度です。これはISコアはほぼ人間の脳に匹敵或いはそれ以上の力を秘めていると考えていいでしょう。それを自在に製造し操れる篠ノ之束にとっては、量子コンピューターといえども、分が悪いですね。」
その答えに会議室に集まった面々は苦虫を百回噛み潰しても足らない、苦い表情を浮かべる。
ヒソヒソと隣のものと何かを囁きあう声以外に、会議室は静まり返っていた。
「..........博士、あなたは確か篠ノ之束以外には自分しか居ないとおっしゃいましたね。」
「はい、ああハッキングに関してはそうですが、勿論法は犯してはいませんよ。」
ゴップ首相にいきなり尋ねられたコイッチャー博士は、肩を竦めおどけた風に言ったが、ゴップ首相の目は厳しいままだ。
「参謀総長.......電話をかけてくれないか。」
「こんな方法聞いた事がありません!!無茶です。」
「無茶でも何でもいい。兎に角三十分だけ持たせればいいんだ。そうすれば後は向こうが何とかしてくれる。」
「いや~、訳も分からぬまま軍用ヘリに乗せられて来たら.....一体此処どこです?」
緊迫する作業員のなかで、着崩した服装に、サンダルとなんともズボラな男が頭をかきながら二人の間に入ってきた。」
「ああ、あんた。なんちゅう格好しているんだ。さっさと作業着に着替えて持ち場にもどれ。」
現場監督らしき人物が、黄色いヘルメットを上げて男の怒鳴る。
「といいましても.....僕此処に着たばかりだし.......。」
男が現場監督の暑苦しい気迫にぐったりとして肩を落としながら、勝手に先へと進んでいく。
「おいあんた、一体何処に行くんだ!!」
呼び止められた男は、首から下げたIDカードを見せて、ニヤリと笑い。
「ああ、僕今日からここの責任者ね。」
そうして、呆気に取られる二人を置いて、さっさと進んでいってしまった。
ISカードをセンサーに読み取らせ、重く閉じられた鋼鉄の扉が開く。
中に入ったコイッチャー博士の顔は、先程までの飄々とした笑みはなく、何処までも冷たく見つめる眼差しが浮かんでいた。
「ようこそ、コイッチャー博士。ここの責任者のアカギです。どうか宜しく。」
妙齢の眼鏡を掛けた美人が手を差し出して挨拶をするが、コイッチャー博士はそれを無視して、さっさと先に進んでいく。
「ちょっ、待って下さい博士、まだMAGI(マギ)の説明が......。」
「地球連邦首相直轄組織、通称カバラ機関。首相権限の元連邦領内におけるあらゆる組織を指揮下に置く権限を持ち、超法規的な措置により特殊な表ざたには出来ない実験もやっている.....まさか本当に人間の思考を移植していたとは......。」
コイッチャー博士はそこまでいい、目の前にある巨大な黒い三つの箱を見下ろし、アカギ博士に振り返って笑みを見せる。
「.......あなたは何処まで知っているのです。」
言外に場合によっては射殺もありえると含めたその問いに、博士はひょひょひょと笑みを浮かべ、
「な~に、どんなものにだって抜け穴くらいあるさ。特に、ずっと穴倉に篭ってる様じゃ、僕には勝てないよ。」
そう言ったきり、さっさと地下の部分に降りて行って、勝手にコンピューターを弄くりだした。
あまりの天衣無縫さに、呆れてしまったアカギ博士は、呆気に取られながらも、しかし、中々に面白い男(ヒト)だと感じた。
.............訂正、面白いヒトではなく真性の変態(てんさい)だ。
私の目の前で次々とプログラムを読み取らせ、残像が見えるほどのスピードで指を動かして大量の情報を処理していく。
「う~ん、中々のプログラムだけどムラがあるな。僕のほうで勝手に組むけど別にいいよね。」
私の了承なく勝手にMAGIのシステムを書き換えていくそのスピードに、反論する暇もなく、ただただ見ているだけしか出来ない。
.....私たちが五年もかけて組んだプログラムが一瞬で書き換えられていく.....いやね天才って。
自分の才能の限界を思い知らされる見たいで、一瞬母のことを思い出したが、頭を振って振り払い、私も自分の仕事に取り掛かる。
「?これは......まずいね。だれだか知らないけどこの束さんに喧嘩を売るなんて。」
薄暗い部屋の中、大きな子供の頭ほどあるISコアに様々なコードを繋ぎ、自身のヘッドディスプレイと直結したそれから脳内の反射をダイレクトに伝え、ハッキングを行っていた彼女は、突如として別の所から新たな侵入者が現われ、自身のプログラムに食い込んできたのだ。
彼女が考えられる想定のうち一つは、何らかの別勢力からの介入。あの亡国機業とかいう連中ならありえる。
次に単なる愉快犯。彼女ほどではなくとも、一分野では彼女クラスのハッカーを何人か彼女は知っていたし今回の騒動で一番介入してくるとしたら彼等だろう。
最後に....これは余り考えられないが、連邦からの反撃だ。
しかし、攻勢防壁の走らせ方、ダミープログラムの配置に対処の仕方から、単なる政府お抱えのハッカーではありえないほど手馴れていてそれでいて独創的で彼女も知らないような手口で次々と彼女が張る攻勢防壁を突破するそれは、あたかも三人の考えが異なる人間を相手にしているようであった。
「あと少しで掌握できるんだけど......うん!?これは......不味い衛星内の量子コンピューターまで起動したか.....となるとこれは連邦の刺客。」
彼女は暫くぶつぶつとない後とか呟いて考えた後、ヘッドディスプレイを外し、冷たい外気に顔が触れて涼しいと思いながら、
「此処までか..........でも、せめて是だけはやっておかなくちゃね。」
そう言って、あるシステムをEnterし、彼女は周りのものを量子格納し、抱えるISコアが光ったかと思うと、次の瞬間には彼女の特徴的なうさ耳と変化していた。
ついでに適当な紙にメモを残し、そこらへんに刺したあと、彼女は部屋を後にした.....。
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