No.389912

Love&Peace

音符さん

理不尽な扱いの結末は、少女の命だった。
しかし、絶望のうちに終わったはずの人生の向こう側で、
今までとは別の世界が少女を待っていた。
新たな出会い、不思議な力、繰り返される争いと終わらない悲しみに、少女の心は揺れる。
世界を救う存在「平和姫」は、少女に何をもたらすのか。

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2012-03-11 00:15:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:473   閲覧ユーザー数:473

 

「それじゃ、文化祭の出し物を決めたいと思いまーす」

よく晴れた秋の午後、県立竹島高等学校1-GHRからはそんな声が聞こえてきた。

前に立っているのはお約束(?)で、三つ編みとメガネの女子生徒と七三分けにメガネの男子生徒。

 顔を見るだけで『学級委員』の四文字が見て取れる。

黒板には『文化祭について』とやけに小ぎれいな文字で書かれていた。

他にはなにも書かれていない。

「みなさん、意見を出して下さーい」

男子学級委員の声を皮切りにいっせいにおしゃべりが始まるが、それはどこからどう聞いても文化祭とはまるで関係ない話ばかりだ。

高校1年生ともなればこんなもんである。

しかも、竹島高校といえば県内屈指のバカ高と称される程レベルの低いことで有名な高校で、当然集まってくる生徒も茶髪にピアスは当たり前という者ばかりだ。

制服は男子は青いブレザーに白のズボン、女子は風変わりなカッティングの青いブレザーに白のスカートと、県立高校のくせになぜか凝っていて、特に女子に関しては可愛いという評判がある。それで高校を選ぶ奴がいるほど。

制服のほかには全国でもめずらしい専門コース制という特色があるのだが、あまり熱心に勉学に励んでいるとは言いがたい。

その中でもG組には「行き場のないやつの掃きだめ」と称される園芸コース選択の生徒が多い。

 園芸科は全体的に希望者が少なく、人間なら誰でも取るというウワサの流れるコースなのだ。それゆえレベルは低く、髪を染めてない奴のほうが目立ってしまうという有り様だ。

そんな奴らの集団だから、意見なんか出るわけがない。

そんな中にいた奇特な学級委員二人組は健気にもチャイム5分前まで待っていたのだが、ついに女のほうがヒステリックな声を上げた。

「ちょっと、なんにも意見ないわけ?!」

その瞬間、クラス中から二十四の瞳ならぬ六十六の殺気立った目線が飛んで来て、女子学級委員に突き刺さった。

「うっさいなあ。仕切り屋気分もいいかげんにしろよ」

シャギー入った茶髪にくわえタバコといったいかにもヤバそうな男子が声を荒げる。

2人の学級委員はひるんだのだが、そこはかの○尾くんに代表される学級委員特有の図太さで立ち直ると声を上げた。

「でも、文化祭の出し物の提出期限は明後日なんですよ」

「まだ出してないのはG組だけなのよ?! このままじゃうちのクラスだけ文化祭に参加できなくなっちゃう」

ふたりの力説(?)に、あちこちから声が上がる。

「えー? 別に参加できなくったっていいじゃん。どーせヒマなんだし」

「バカ高じゃ誰も呼べないもんな」

ほぼ否定的な意見である。

学級委員のふたりが顔を見合わせた時、とうとつに後ろのほうで手があがった。

「はい」

プラチナに染めたショートカットの、小生意気そうな少女である。

「あ、石井さん」

男子学級委員はほっとすると、少女を指名した。

「ステージやったらいいと思います」

とたんに教室中からブーイングが巻き起こる。

「ステージぃ?!」

「石井、オマエ何考えてんだよ」

「高校生にもなって何でステージなのよ」

とたんに石井葉子はクラス中から非難を浴びることになったわけだが、それでも少女の唇に浮かんだ嘲るような微笑は消えることはなかった。

「誰もアタシたちがやるなんていってないでしょ?」

「じゃあ、誰がやるんだよ」

少女はにいっと顔の端から端まで口を広げると、ぴっと気取った動作で自分より後ろにいたひとりの少女を指さした。

髪は黒で、肩につくかつかないかのまっすぐなセミロングヘア。

左サイドだけを2本のヘアピンでとめていて。面立ちはやや幼くみえるが、澄んだ茶色の瞳がとても印象的な──そんな素直そうな女の子だった。

びくんと肩をすくめた少女を見て、葉子は悠然と微笑んだ。

「深川さんがいるじゃない」

「わたし?」

深川、と呼ばれた少女が思わず声を出す。

葉子はにやにやしながら少女のことをのぞきこんだ。

「なんてったって、深川絵麻(えま)さんはかの超一流アイドル、深川結女(ゆめ)ちゃんの実の妹君だもんね」

「……」

少女──絵麻は表情を曇らせた。

「そっかぁ……そうだったよな」

「深川さんってあんまり地味だから忘れてた」

そんな絵麻の表情の変化には気づかずに、クラスメイトたちは勝手な意見をいい続ける。

深川結女というのは今年の春、広○涼子やら倉○麻衣のごとく芸能人にして天下の東京大学に現役パスしたというルックス、頭脳ともにトップクラスに位置する芸能人である。

とうぜんのごとく、今や各方面で大人気の芸能人で、彼女の出演する番組は必ずその時間帯の最高視聴率を得るとまでささやかれている。

そして、事もあろうにこの平凡少女、絵麻は深川結女の実の妹なのだ。

「いいよねー、絵麻ちゃん。反町とかのサインもらい放題だよね」

横にいた別の少女が心底うらやましそうにそう言ったのだが、なぜか絵麻の表情はかたく強ばったままだった。

「身内ならコンサート頼むくらいカンタンだよね?」

葉子は媚びるような表情で絵麻の手を取る。

「でも……お姉さんの予定があるから……」

「あ、出し惜しみしてる」

しどろもどろになって答える絵麻に、葉子はざっくりと言い放った。

「深川ー、芸能人の妹だと思ってえらぶってんじゃねーぞー」

「結女ちゃんの愚妹のくせに」

「普段ぜんぜん目立たないんだからさあ、こーゆーときこそ活躍するべきだよね」

「結女ちゃん頭いいのに、妹はなんでこんなバカ高にいるんだろうね」

それを皮切りに、次々と鋭い言葉が投げ付けられる。

絵麻は反論するすべもなく、唇をかんだ。

その時、ちょうどチャイムの音がスピーカーから響いて来た。

「あ、授業終わった」

誰ともなしにそんな声があがる。

「他のクラス帰っちゃってるよ」

「深川、とっとと引き受けろよ。オマエさえはいっていえば終わるんだから」

その言葉に絵麻がはっと顔を上げると、いつのまにか黒板には絵麻が実行委員運営その他を引き受けて深川結女のライブをやる旨がつらつらと書き連ねられていた。

横では女子学級委員がチョーク片手に誇らしげに立っている。

「えっ……でも、わたし引き受けるなんて……」

「あぁっ?!」

クラス中から非難の視線が絵麻に注がれる。

「ったく、普段いい子ちゃんのくせにクラスのために働くのはイヤなのかよ」

「サイテー」

「偽善者、だね」

ここまで言われては頷くよりほかに手立てはない。

絵麻ははあっと肩を落とすと、小さくひとつだけ頷いた。

 

 
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