昼飯を食べた後、またもや華琳から招集がかかった。
玉座の間に行くと果たして、予想通り呉のおでましである。
「……ってあれ?」
新しく増えているメンバーは綺麗な長い黒髪のちっちゃい子と髪を後ろでお団子にしたキョンシーみたいな服を着た二人のみだった。
まぁ、前もって呉のトップとも言える二人が来てるわけで、呉での政務に支障が出ないと言えば嘘になるわけだからメンツが少ないのは理解できる。
それよりも俺を閉口させたのは、その二人がちっちゃい子二人の前で半ベソで正座させられていることだった。
俺は玉座で腕を組んで存ぜぬのポーズをしていた華琳のもとへ駆け寄って、
「華琳、華琳…!何これ?」
「これよ」
そう言って華琳が渡したのは一枚の手紙。
そこにはたった二文字し書かれていない。
だが、そのたった二文字で俺は全てを悟った。
「まぁ、こういう事よ」
そうして華琳が話した内容は俺の想像とほとんど違わぬものだった。
30分ほど前。
昼食後、華琳が執務室に戻るとすぐに呉から使者がきて、息つく暇もなく玉座の間へ通し戻された。
「まったく、少しは『タイミング』というものを考えてほしいものね」
先日、一刀がたまに口にする現世での言葉が理解できないことが癪に触るという事で、華琳主催で一刀が講師となって、現世の言葉をレクチャーすることになったのだが、華琳はものの数日で大方の使い方をマスターしてしまった。
その口当たりの良さに少し破顔していると、うしろからの足音に気付く。
その足音の主を見ようと華琳が振り返ると同時に、華琳の顔面に柔らかいものが押し付けられた。
「あら、華琳。どうしたの?胸に頭突っ込んで…あ!羨ましくなったの~?」
「………」
沸沸と華琳の胸に湧きでる負のオーラ。
しかし、そこは大戦を勝ち抜いた王者の風格とともに、さらっと受けなが
「なんですって…?」
眼前にはぷるんと揺れる大きな乳房。
火に油が注がれるように華琳の怒りがさらに燃え盛ったのは言うまでもない。
しかし、怒りが頂点に達し、さらにその上のステージへと押し上げられた、華琳さんの激情はすがすがしい笑顔と言う真逆の表情に現れたのだった。
「雪蓮?呉からパーティの参加する将が到着したそうよ。行きましょう」
「え…う、うん。あれ?」
雪蓮が戸惑うのも無理はない。
いつもの華琳ならば、憎まれ口の一つや二つ叩いてきて当然なのだが、今日はそれがない。
恐怖を感じつつも黙って華琳に従うことにした。
その戸惑いは数分後雪蓮にとって…雪蓮と祭にとって最悪の形で実現することになる。
「おお、策殿。遅かったの」
先に玉座に到着していた祭が片手をあげる。その体からは調味料の匂いや食材の匂いがしている。華琳は何も言わずに定位置へと収まる。
まだ呉のメンツは来ていないようだ。
「祭、誰が来たの?予定では蓮華とかシャオとか来るはずだったけど…」
雪蓮は自分たちが来たためその予定は大幅に変更されているはず、と若干負い目を感じている。
とはいいつつも、持ち前の明るさで、その負い目はすぐに消し去られることになるが。
「私たちですよ」
雪蓮の言葉に応えるように、玉座の間の扉が開いて、
「明命!亞莎!」
現れたのは明命と亞莎だった。
「雪蓮様!祭様も!勝手に国から出たらだめじゃないですか!」
明命が開口してすぐにお小言を言うが、迫力はない。
「ごめんごめん。それより、蓮華やシャオは?それに隠も来るはずでしょ?」
「お二人は雪蓮様の抜けた穴を塞ぐために奔走しておられます…」
亞莎がため息をつきながら、雪蓮の問いに応える。
「隠様もです!」
明命はぷりぷり怒りながらフンとそっぽを向く。
「あはは…」
「して…亞莎。冥琳から…その…何か伝言のようなものはないのか?」
祭がびくびくしながら、自分たちの処遇について尋ねる。
流石に、二人とも何のおとがめもなしにすむと思うほど楽観的でもなかった。
「ああ、はい。冥琳様からお預かりしている言伝がこちらに…」
亞莎は袖の中から一枚の紙を取り出した。
前に同じように抜け出した時に、受け取った竹簡は二巻き分、冥琳の恨みつらみ…もとい説教の文が書かれていた。
今回もそれレベルのものが来ると慄いていた二人は、その軽さにほっと息をついた。
「では…」
かさ、っと綺麗に折りたたまれた紙を開いた祭の思考は、書かれた文字を見て真っ白になった。
「ちょっと…祭…さーい。固まってる…なんて書いてあったの?」
雪蓮が、祭を揺さぶっても何の反応もない。
じれったくなった雪蓮は固まった祭の指から紙を抜き取る。
そこに書いてあったのは、
「何これ…」
『禁 酒』
これのみだった。
あまりのショックに二人はその場にくず折れてしまう。雪蓮の指からは手紙がこぼれおちる。
しかし、そこは流石に生来ポジティブシンキングの持ち主。ここは呉ではないこと、そして明日はパーティだという事を思い出し気を取り直す。
「あ、案ずることはないですぞ、策殿。」
「そ、そうよね、祭。明日はパーティだし…それにここでお酒をたんまり買って持って帰ればしばらくは…」
「そうね。うちも協力することにしましょう。誰かある!」
今まで事の成り行きを見守っていた華琳はいつの間にか手紙を手に雪蓮たちの前に立っていた。
「「何ですって!?」じゃと!?」
目の前で手際よくこなされている禁酒の伝令に思わず目を見開く。
「か、華琳…?これは呉の問題なんだし、何も魏までしてくれなくてもいいのよ?」
思わず目がうるんでしまう。
しかし、そのお願いは到底届かなかった。
「だーめ」
先ほどの黒いオーラが華琳の周りをほとばしっていた。
「…なるほど」
俺は手紙を机に置いて、二人を見る。
「さすがにそれは…可愛そうじゃないか?」
二人がどれほどの酒好きかイヤというほど思い知らされた俺にはそれがどれほどの苦痛か、想像するに難くなかった。
「いいんです、御遣い様」
とてとて、と呉の使者二人組が近寄ってくる。
「えーと…」
この二人はあまり戦場で見たことはない。
なんて呼んだものか思案していると、それを察してくれたのか長い黒髪の子が
「あ、申し遅れました。周泰です!よろしくお願いします、御遣い様」
天真爛漫。まさにこの言葉が似合うような子である。…かわいい。
もう一人の子は、なぜか周泰ちゃんのうしろに隠れて、
「わた…私は呂蒙です…よろしくお願いします…」
と自己紹介した。こっちも可愛い。
「そっか。周泰ちゃんと呂蒙ちゃん…ね。うん、覚えた」
そういうと、二人はとんでもない勢いで首を振って、
「いえ!今のは建前と言うか、真名を教える前に一応のあいさつをしただけで、いえ、覚えてほしくないというわけでもないんですが…その」
「み、明命。落ち着いて」
呂蒙ちゃんがおずおずと前に出てくる。
「真名?え、どういう事?」
さっぱり事態が飲み込めない。
というより、この周泰ちゃんの過剰反応…何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
「えーと、ですね。まず初めに御遣い様は冥琳…周瑜様をお救いしてくださいましたよね?」
「うん」
救った、と一口に言っても華琳の定期検診に来た華陀にもし呉に行くようなことがあったら診てくれるよう頼んだだけなんだが。
「それだけです」
「え」
ただのボランティアのつもりだったのに、ここまで引っ張られてしまうと何だか恐縮してしまう。
俺の葛藤を見てとった周泰ちゃんは柔和な笑顔を浮かべて、
「それだけ冥琳様は私たちにとって、大切な人だという事で、それを救っていただいた御遣い様には私たちは感謝してもしきれません」
う…ずるい。そんないい笑顔を向けられたら、反論なんてできるわけがないじゃないか。
幼稚園の子供たちにどこか似ている、この爛漫な笑顔が戦乱を体験した笑顔とは思えない。
「…納得していただけましたか?」
「…納得するしないは俺じゃなくて、周泰ちゃんたちのほうだろ?俺は預ける、って言ってくれた真名を大切に受け取るだけだよ」
「……そうですか。やっぱり、思い描いていた御遣い様とおんなじです!」
「そうかな?」
「そうです!曹操様たちと話すときはいっつも御遣い様の話が…」
『それくらいにしときなさい、明命』
隣で華琳がえらい形相で周泰ちゃんを睨んでいる。おーこわ。
それにしてもどんなことを言われてたんだろうか。悪口では…あるかもしれない。
後でこっそり聞いておこう。
「あう…怒られちゃいました」
シュンとする周泰ちゃん。何だろうこの子犬をめでるような沸沸とわきあがる愛情は…これぞまさしくあi,
「いった!」
机の下で華琳が思いっきり足をふんずけている。
「大丈夫ですか?御遣い様…」
「大丈夫。心配してくれてありがと、呂蒙ちゃん」
「いえ…」
なぜか赤面して袖で顔を隠してしまった。あがり症なんだろうか。
後で周泰ちゃんに聞いておくリストにメモしておこう。
「では、改めて。私の真名は明命です!以後よろしくお願いします!」
「私の真名は亞莎です…よろしくお願いしますです」
「うん。俺の名前は北郷一刀。よろしくね」
小さな二人の手…まぁ一人は袖だけど。ひとりひとり握手を交わした。
お久しぶりです。
今回短いですね。
最近スパロボをやってみたいのですが、どれから始めていいか全く分かりません。
一応次はオーズの方のはずです。
こちらもあまり遅くならないうちにupするは…できるように頑張ります。
では、また次回。
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クウガと恋姫のクロスです。
楽しんでいただければ幸いです。