初めてあって、最初っから殺気をぶつけられるのも珍し…くないな。
孫策さんは俺に殺気をぶつけ、微塵も目をそらそうとしない。
睨みあってややあり、どうしたもんかと口を開きかけた瞬間。
「あのことは?」
おもむろに孫策さんが口を開く。どうやら俺ではなく華琳に向けてらしい。
「私の知ってる限り、まだよ」
「華琳、分かってるわね」
「ええ。でも雪蓮、私が前に言ったことも覚えてるわね?」
「…忘れちゃうかもね」
「はぁ。まぁ、いいわ。皆城に戻るわよ」
少しやり取りをして、華琳は皆に城に戻るよう命じる。
怖いので俺もそれに便乗しようと、足を城へ向けたとき、
「一刀は残りなさい、彼女が話があるそうよ」
孫策さんを指して、俺の踏み出しかけた足を言葉で止める
…やっぱりですか。
華琳たちが、通りを曲がるのを見送った後。
「…それで、孫策さん。なんでしょうか?」
…と言いつつも何の話かは大体見当が付いている。
「あなたもわかってるでしょう?場所を移しましょうか」
孫策さんの有無を言わせぬ空気に圧倒されながら、俺たちは魏の皆とよく言った河原へと向かった。
「黄蓋さんのこと…かな?それとも、赤壁のときの入れ知恵のことかな?」
孫策さんは川のほとりの大きな石に座り、俺に背を向けて水流を見ている。
「…分かってるのね」
「まぁ。それくらいしか思い当たらないからね」
俺は苦笑しながら、孫策さんの向かいの小さな石に腰かける。
「…孫策さんはどうしたいの?」
孫策さんはまだ川に目を向けながらいつもの破天荒な感じはナリを潜め一句一句言葉を探すように話し始めた。
「入れ知恵の件は別に怒ってないわ。仮に呉が同じ立場としても同じことをするでしょうし」
「……うん」
「問題はもう一つの方。祭は…母様の代から孫家に仕えててくれるのよ。少し年の離れた姉みたいな感じでね。
冥琳や私が悪さをするとすぐ飛んできて。怒られるのかなーって思って祭を見ると笑ってて。むしろ率先してその悪さをして母様に叱られていたわ。
私が当主になってからも、頼れる忠臣として仕えていてくれたの」
「………………………」
「だから赤壁で、祭が落ちて…目の前が真っ赤に染まって、魏をつぶすことしか頭になくなって…でも、できなくて。高ぶった自分を抑えられなくなって。
冥琳の肩には私の歯形が一週間は残ってたに違いないわ」
「………?………………………?」
歯形?何を言ってるんだこの人は。
「でも、私たちはまだ幸せ…というよりマシだったわ。
あの時の私たちには魏を討伐するっていう自らを鼓舞できるような目的があったわ。
だけどあんたが消えて、魏の子たちはすごく辛そうだった」
「!……うん」
分かってたことだけど、あらためて言われるとひどい罪悪感にさいなまれる。
「あの子たちはあんたとともに平和な国を作っていきたかったんでしょうね。
やっと、自分たちが目指した国を作れる。なのに、あんたは消えた」
「……………………」
返す言葉もない。
「それでも、会うたびにあの子たちは自力で元気を取り戻していってたわ」
「……そっか」
俺の知らない3年間それは短いようで長い。
「でね、ちょっと前の『ぱーてぃ』でだいぶ元気になってきて、あんたのことも吹っ切れたのかな~、と思って聞いてみたの」
『ねぇ、華琳?もし北郷がもう一度戻ってきたらお仕置きしてもいいかしら?』
パーティの喧騒にまぎれて二人の会話は周りには聞こえていない。
『…まぁ私たちの分も含めてなら構わないわ。でも、あなた興奮すると何をしでかすかわからないでしょう?』
『………まぁ…ね』
『別に少しぐらいの灸は構わないわ。どうせ私たちもやるでしょうしね』
『じゃあ』
『でもね?雪蓮。もし勢い余って一刀を殺しでもしてみなさい。魏は全力を持って呉を滅ぼすわ』
『協定に反してでも?』
『無論よ』
「愛されてるのね……だらしないわよ、その顔」
回想の華琳の言葉に思わずニヤニヤしていると、いつの間にかこちらを向いた孫策さんは呆れた顔でこっちを見ていた。
「やっぱり、どうも嬉しくって…ついね」
「その時は元気になった…なんて思ったけど、今日のあの子たちを見てそれは間違ってたんだって思うわ」
「…そんなに違った?」
「別人かって思うほどにね」
「……………………」
やばい。顔が緩みっぱなしだ。
「また。だらしないわよ。それでね、魏ともそこそこ親交が深まって今じゃ親友よ、親友。3年前は考えもしなかったわ」
そう言ってほほ笑む孫策さん。
……トキメいたりなんかしてないんだからね。
「表面ではいろいろ言いあうけど、あの子たちには笑っていてほしいわ。どっちかっていうとね。
だから『天の御遣い』、あなたに聞くわ。あなたはこの地に何のために戻ってきたの?」
真摯な孫策さんなんて初めて見た。なんて茶化すと怒られそうだ。
『この地に戻ってきた理由』…か。決まっている。
「…俺は俺にしかできないことがある。孫策さんが呉を護るように、俺は皆を護りたい。そのための力も得てきた」
「それは、さっきの怪物に関することかしら?」
「見てたの?」
「まぁね。というよりあれだけ騒ぎになってたら普通見に行くわよ。まぁ、春蘭のおかげで死にそうになったけど」
…ああ、あそこにいたんだ、孫策さん。
「せっかく、大戦が終わって皆の笑顔が戻ったのに、またそれが消されようとしてる。俺はそれが許せないんだ」
「奴らの目的は?」
「…君主やめたんじゃないんですか?」
俺は苦笑しながらごまかそうとする。孫策さんが聞いたらアジトに突っ込んでいきそうだよ。
「…大丈夫よ。未知の敵に突っ込んで行くほど浅はかじゃないわ」
「ホントに?」
「……………事情によるわ」
「じゃあ、約束してほしい。どんなことがあっても一人で対峙しないこと。いいね?」
「ええ~。分かったわよ」
最初はぐずっていたが目を見てお願いするとわかってくれる。
「奴らは、人間を狩りしてるんだ。それもゲーム…遊戯としてね。………はい、落ち着いて、深呼吸」
最後まで言い終わるか終らないかの内に、俺の胸ぐらをぐっと掴みあげる。
「っざけんじゃないわよ!!そんな事許されるわけないじゃない!!」
孫策さんはさっきの穏やかな目ではなく、激昂した目を向ける。
「わかってる!そんなことさせるもんか、だから、俺がいる!俺の手の届く範囲では誰も殺させない」
「手の届く範囲だけ?」
孫策さんは少し軽蔑したようなまなざしを俺に向ける。
俺の握りしめた手も爪が食い込んで血が流れているようだ。
「それはしょうがない。もちろん皆を救いたいけど、俺は万能じゃないからね。でも、救えない命があるのは俺も自分を許せないんだ。
…だから…協力してほしい」
「……!……なるほどね」
俺の胸ぐらから圧力が消える。借り物の服でよかった。
「俺は天の国でも奴らと戦ってきた。奴らの怖さも知ってる。そこではたくさんの人が殺されたんだ。全然人が殺されない世界でね」
「…一人で?」
「ううん。俺一人じゃ無理だったんだ。いろんな人が協力してくれて、やっと最後まで戦ってこれたんだ。…だからね孫策さん。
俺のことは許せないかもしれない。だけど奴らを倒すために力を貸してほしいんだ。」
一人では戦えない。
それは人生経験上骨身にしみている。
もちろん呉の援護があれば心強い。
同盟国のリーダーとして華琳が命じれば、民を大切にしている孫権さんのことだ。恐らく協力はしてくれるだろう。
だけど仮初の連携ほど脆いものもない。
自分のせいで人が死ぬのは、もう嫌だ。
だから少しでも軋轢がなくなればと思って頭を下げる。
「………どうかな?」
「……………雪蓮よ」
「へ?」
「私の真名。これからはそう呼びなさい」
「いいの?」
それは、色んな意味を込めた『いいの?』
「いいわ。冥琳のこともあるしね。それに、祭は……」
「お~~、策殿。こんなところにおられたのか」
…………………………は?
「あら、祭。遅かったじゃない」
がさがさと茂みをかき分けてこっちに来る黄蓋さん。
「は?え?幽霊?」
「久しぶりじゃな、北郷。ほれ、足もちゃんとあるじゃろ」
ポンと自分の太ももを叩く黄蓋さん。
スリットからのぞく生足がたまら……ゲフン。
「黄蓋さん!!!???何で生きてるの!?」
嬉しさ半分驚き半分でついつい声が裏返ってしまう。
「落ち着かん奴じゃの。そうじゃな…あの赤壁での戦いで、妙才が儂にとどめを刺したところまでは覚えておるか?」
「うん」
もしこの世界がゲームだったら一枚絵になるくらい、鮮烈に記憶に残っている
「その時あやつ何の気を利かせたか、儂の致命傷にならんよう撃ちおっての」
秋蘭、そんな飛影みたいなこともできたのか。
あの時謝ってたのは『殺すなと言われて殺してごめん』じゃなくて『とどめを刺すべきところで殺せなくてごめん』だったのか。
「で、川を流れた儂は、下流の方の村で拾われての。呉の領土内だったから看護を受けて、生きながらえたというわけじゃ」
「え?じゃあなんでそのあとは姿を見せなかったの?」
黄蓋さんは目をパチクリしながら、
「何を言うとるか!致命傷は免れたとはいえ、そこそこの重傷じゃったんじゃ。ほれ見てみい!」
そう言って黄蓋さんは露出した胸元にある傷跡を見せてきた。
慣れているとはいえ、恥ずかしいものはやはり恥ずかしい。
「ふふ。一刀、可愛いわね~。呉に持って帰ろうかしら」
孫策さん…雪蓮はいつの間にか下の名前で呼んでいる。
「それで、建業に文を送ったんじゃが、既に魏に征服された後での。策殿のもとについたのは成都での戦いの直後だったらしいんじゃ」
「ああ~、それであの時、雪蓮がハイテンションだったんだ」
「はいてんしょん?」
「ああ、えっとね…気分がすごくいいというか、高揚してるというか…妙にノリがいいみたいな」
「ああ、そうよ。ホントのことを言うと、それがなかったら明名に頼んで一刀の盃に毒盛るくらいの気でいたしね」
「は!?…助かってくれて、ありがとうございます。黄蓋さん」
命拾いしたなぁ。
ほっと胸をなでおろしていると、黄蓋さんは少し気難しそうな顔をして。
「なぁ、お主。『黄蓋さん』というのは少し堅苦しいのぅ…これからは祭でよいわ」
「ええ!?いいの!?」
あっれ、真名ってこんなに軽いもんだっけか!?
「構わん。少なくともお主は、三国に平和をもたらした立役者じゃ。ど~んと胸を張って受けとれい」
「…うん。ありがとう、祭さん、雪蓮」
その後。
少し世間話…ホントに『世間』話をして、ふと気付いたことを聞いてみる。
「そういや、なんで雪蓮は殺気バリバリで睨んできたの?」
祭さんが生きてると分かって、なぜ睨んだのか疑問に思ったので、雪蓮に聞いてみる。
「最初にビビらせた方が上下関係もついていいじゃない。本音も聞きたかったしね」
「ああ…なるほど」
「そういえば、正式な協力要請だけど、ほぼ内定してるとは言え、一応魏から呉へ送ってね。同盟結んでるからほぼ間違いなく通るけど、勝手に約束したら冥琳があれこれうるさいのよ」
「ふむ…策殿。冥琳と言えば」
「ああ~それは冥琳が『北郷が戻ってくるようなことがあれば自分から言う』って言ってたから私たちはその後よ」
「冥琳…って周瑜さんのことだよね?」
言って、あっ、と口を塞ぐ。
恐る恐る雪蓮を見ると苦笑しながらも、聞かなかったことにしてくれるらしい。
「そうよ~。あ、弱みにつけんこんで取ったりしちゃだめよ?私のだから」
「ええ!?どうしてそうなるのさ」
「そりゃ~…ねぇ」
「うむ『魏の種馬』として有名じゃからな」
「ああ…やっぱり」
「でも、うちに『御遣い』の血を入れたいのも事実なのよね」
「………は?」
ニヤリとする雪蓮。肉食獣の顔をしていらっしゃる。
「そのうち呉にいらっしゃい一刀。いろいろともてなしてあげるから」
「…華琳がいいと言ったらね」
おれは苦笑しながらもいつの間にか好きになっているこの人たちの為にも、戦う決意を固めた。
そろそろタイトルを真面目に考えたい。
呉の二人は勝手に来てるので、他の人たちは後で来ます。
前回『祭さん怪人になればいいのに』と言うコメントがちらほらあって、その時点で結構書き終わってたので、変更には至りませんでしたが、変形的ではありますが、あるところでそのことを生かしたいと思います。
あと、最後にお願いですが、オーズと恋姫のクロスを書きたいのですが、最新の映画でコアメダルがどのようにして復活したか誰か教えていただけないでしょうか…
ショートメールで教えていただければ幸いです。
それでは、また次回よろしくお願いします。
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雪蓮との対話。
魏キャラはほとんど出ません。
ちなみにしすたーずはパーティに合わせて帰ってくるという裏設定があります。
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