『もしも、リリアン女学園にTwitterがあったら』
平成の今日でさえ厳禁だったインターネットが、ついにリリアン女学園でも導入されることになった。
同時に携帯電話、スマートフォンも休み時間と放課後に限り使用可能となったのだ。
リリアン女学園内で端末が普及すると共に、Twitterの人気も瞬く間に広がり、山百合会公式アカウントを作ることが決まった。
そんなある日のこと。まずは山百合会の各個人でアカウントを作ってみることになったのだ。
「祐巳さん、アカウント決まった?」
「えっと、由乃さん。アカウントってこれでいいの?」
放課後、薔薇の館にて。私こと福沢祐巳、由乃さん、志摩子さん、瞳子、乃梨子ちゃんの5人が集まって、各々が携帯電話を操作しながらTwitterのアカウントを作成していた。
「『fyumi4444』って、センスないわね。そもそも4444って何?」
「私、四月生まれだし、祐巳よ~んって頭に浮かんじゃって、あ、これいいなって思ったの」
「祐巳さんにセンス求めるのは無理があったか」
「由乃さん失礼すぎるよ。私一生懸命考えたのに」
センス無くて悪うござんした。
「ま、祐巳さんはそれでいいとして、志摩子さんは何にした?」
「『Rosagigantea405』にしてみたわ」
「ロサ・ギガンティア志摩子? そのまんますぎない?」
「え、ダメかしら?」
「そのまんまでいいと思います!」
「妹の乃梨子ちゃんがそう言うなら、いっか。で、乃梨子ちゃんは何にした?」
「私ですか? 『butuzo_love』です」
「仏像ラブ……乃梨子ちゃんらしいと言えばらしいわね」
「仏像大好きですから」
由乃さんにそう答えた後、乃梨子ちゃんは志摩子さんに耳打ちしていた。
「本当は『shimakosan_love』にしようと思ったんだ」
「もう、乃梨子ったら。恥ずかしいわね」
「うん。恥ずかしいからやめた」
「それでもよかったのに」
「え、志摩子さんがいいって言うなら私アカウント変えるよ!」
白薔薇姉妹が何やら小声で盛り上がってるようなので、由乃さんは次を尋ねてみることにしたようだ。
「瞳子ちゃんは何にした?」
「『Actouko』です」
「えーしー瞳子? 何の略?」
「アクトレスと瞳子を合わせてみました」
「ActressのAcね、なるほど。そのまま読むと悪瞳子……」
「必要があれば、私は悪にもなりますわ」
瞳子はニッコリと微笑みながら由乃さんにそう言っていた。
「瞳子ちゃんの場合、本当にやるから始末が悪いわ」
「恐れ入ります、
「さっきから聞いてばかりの由乃さんは何にしたの?」
「うっ。祐巳さん、私のアカウントを知りたいとな?」
「知りたいですとも」
「ふっふっふ。どうしてもとあらば、仕方ない。私のはこれよ!」
「hissatsu_jp……ひっさつじぇーぴー……ひ、必殺!?」
「どうだ、恐れ入ったか!」
「つまり、どういうこと?」
由乃さんはずっこけるようなポーズを取ったが、着席していたのでテーブルにうつ伏せになって額を思いっきりぶつけていた。
「祐巳さん必殺シリーズ知らないの?」
「知ってるよ。何か関係あるの?」
「日本を代表する時代劇といえば、必殺に決まってるじゃない」
「だから、後ろにjpが付いてるのね」
「そう、志摩子さんは理解するのが早くていいわ」
「私、そういうの理解早くなくていい……」
「とりあえず、つぶやいてみませんか」
「乃梨子ちゃんの言う通りだわ、書かなくっちゃ……。えっと、何て書けばいいの?」
「由乃さん、ミルクホールに行こう」
「ミルクホールに何かあるの?」
私は由乃さんと志摩子さん。それに瞳子と乃梨子ちゃんを連れてミルクホールに向かった。
「着いたけど、これからどうするの?」
「つぶやくんだよ」
「え?」
「ミルクホールなう」
私は携帯から世界へ向けて居場所を発信した。
「まさか、それを書くために、わざわざミルクホールに?」
「そうだけど?」
「今どき『なう』を付けるとか、ありえないわ」
「え? そうなの?」
「祐巳さん、いつの時代のツイッターやってるのよ」
「今いる場所に『なう』を付けて書くのがトレンドだって、本には書いてあったよ?」
「その本、発行日いつ?」
「2008年」
「古いわよ!」
「ええええっ!? じゃあ、今は何て書くの?」
「いちご牛乳gokgok」
「志摩子さん、それも古いからっ!」
「あら? タクヤくんと乃梨子がそう書けって教えてくれたのだけど」
「それでいいんです、志摩子さんは!」
「乃梨子ちゃん、志摩子さんに何を吹き込んでるのよ……」
「ここは
「瞳子ちゃん!?」
「
「うっ……」
「さっき、由乃さんが何て書けばいいか解らなかったのを、しっかり聞いていたのね。瞳子ちゃんって怒らせると恐いわね、乃梨子」
「私もここは瞳子に同意見。祐巳さまは率先してお手本を見せてくれてた」
「あ、由乃さん。思い付かない時は無理につぶやかなくていいって、本にはそう書いてあったよ」
「つぶやくわよ! つぶやいてやろうじゃないの!」
みんなが由乃さんが持っている携帯に注目していた。
「ちょっと、そんなに注目しないでよ。気が散るからつぶやきにくいじゃないの」
「じゃあ、反対の方向を向いておきます」
瞳子はくるりと反対の方向を向いたが、自分の携帯画面を顔の前に持ってきてボタンを連打していた。
「更新まだかしら? それとも私の携帯の調子が悪いのかしら?」
「くっ……」
由乃さんがつぶやいた様子は無いので更新されないのは当然で、瞳子がやってることは完全に煽りである。
「瞳子ちゃんが意地悪してる……そうか、そう書こう!」
「え、それはまずいよ、由乃さん」
「あっ! ちょっと何するの!?」
由乃さんが携帯に入力してるのを遮ろうとしたはずみで、由乃さんのつぶやきが投稿されてしまった。
「とうんこちゃ……」
瞳子がそれを読み上げた時には、もう遅かった。
「私の初つぶやきが……」
白薔薇姉妹は、壁の方を向いていたので表情が判らなかったが、二人とも肩が震えていた。
「お姉さまの初つぶやきが、うんこちゃですか」
「菜々! 冷静に言わないでよ、恥ずかしくてたまらないんだから!」
「私が部活に勤しんでる間に、そのような楽しい宴があったなんて、ずるいです」
「楽しくないし! 宴でもないし!」
「何が最新か、ツイッターで質問すればよかったのではないですか?」
「え、そんなことできるの?」
「はい、今からやってみます」
「菜々……いつの間に」
「若い子は順応が早いわね」
「志摩子さん、それじゃ私達が年寄りみたいじゃない。2つしか違わないのに」
「あら、祐巳さん。高校の2学年差は大きいのよ?」
「それ、どこかで聞いたような」
「あ、答えが返ってきましたよ」
「はやい! それで答えは?」
菜々ちゃんが由乃さんに見せた携帯の画面にはこう表示されていた。
『RT @XXXX_XXX_XX_ → RT @petit_general #最新のつぶやきを誰かが教えてくれる』
「答えは、右矢印です」
「それ、自分のつぶやきが最新ってことじゃないの?」
「私のつぶやきが最新でしたか」
お姉さま。山百合会にツイッターを取り入れるのは、もうしばらく先になりそうです。
(つづく)
(え、これ続くの?)
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マリみての世界にインターネットやケータイが普及していたら、どうなるのか。息抜きで書いてみました。
【注意】作中に登場するアカウント名は執筆時点で存在しないものであり、今後登録された場合でも何の関係もありません。予めご了承ください