「悪いけど付き合えない」
目の前の男は私こと丹羽明美に信じられないことを言った。
放課後、新校舎と旧校舎の間で私とそいつは向かい合っている。
「な、なんで!?」
曰く、私の交友関係が気に食わないらしい。別にいいじゃん、五股でも……いや今は六だっけ?
愛されるならたくさんの人に愛されたいし、そんな私とデートしたり一緒に寝たりするのなんて光栄じゃない。
まあ、なんか勘違いした男が浮気するなとか言うけど、そういう奴一人で私が満足できるわけないし。
「俺は帰るけど、もっと人の気持ちをわかるようになった方がいいよ、丹羽さん」
そう言って、男(そういや名前知らなかった)は鞄を持ち直して帰っていった。
「んー……」
まずい。
何がまずいってあの男に振られた事じゃない、最近目に見えて告白の成功率が下がってる事だ。
髪型もいわゆる清楚系だし、顔も良い、ついでに身長も150台後半で女としてちょうど良い、なら問題は……
下を見ると学生服がスっと下まで伸びていた。問題はこれか。
いや、でもこの胸はやっぱり私の唯一の短所として必要でしょ。完璧な女じゃ逆に近寄りづらいだろうしね。
どうせさっきの奴も恋人がどうとか言いつつおっぱい星人だっただけだ。私は悪くない。
「よしっ! 帰ろう!」
野良犬にかまれたと思って私はこれを忘れることにした。急に空いちゃった予定は彼氏でも呼び出そう。
「うあー最近男日照りー……」
彼氏は七人共(よく考えたらあと一人居た)バイトとか何かで昨日は会えなかった。
私を独りにするとか彼氏共は何を考えているんだろう。今度一人一人に高い貢ぎ物を請求しよう。
というわけで昨日寂しい夜を過ごした私は、昼休みに机の上で伸びていた。
「それ、私への当てつけ?」
「ひかりは彼氏いないのがアイデンティティだから良いじゃない」
丸められた国語の教科書が頭に降ってきた。
「痛いじゃない」
「私の心はもっと痛い」
すこんっと良い音を響かせてまた叩かれた。こんなんだから彼氏できないのよ。
彼女は園山ひかり、何というか長いこと一緒にいる親友のようなものだ。
「っていうか明美、彼氏居なかったっけ? ……それも十人くらい」
「今はもう七人……」
すこんっ
「まだ七人でしょ、いい加減一人に絞りなさいよ」
「愛するよりも愛されたいマジで」
すこんっ
国語の教科書でこう何度も叩かれるとちょっとイラッとするけど、まあつきあいも長いし大目に見てやろう。
「ほら、あのお金持ってる大学生とかサッカー部の主将とかいたでしょ」
3/12
「二人とも振られた……」
「え、そうなの?」
「浮気するなんて最低だーだって」
思い出すだけで腹が立つ、私くらい美人なら浮気しなきゃほかの男に失礼でしょ。
「あーあんたが悪いね」
「なんで!?」
ごすっ
「……~~!!」
国語の教科書の角で叩かれた。畜生覚えてろよ……
「当たり前でしょ、あんたはアラブの石油王か」
私より恋愛経験の少ない(ここ重要)ひかりに説教される覚えはないのだが、叩かれた頭が痛くてしゃべれない。
その後もひかりは、日本ではどうのとか、浮気がいけないだとか、一般論で私がだめな理由をくどくどと話す。
「全く、あんたは相手のことを考えることを知りなさい」
またそれだ、私だってちゃんと考えてるのに、なんでそんなことを言うんだろう。
「……じゃあ、どうすればいいのよ」
「どうするって言うか、浮気しなければいいのよ」
ぺちんっ
こんどは私が叩いた。ひかりの頭はあんまり良い音がしない。
「……理由を聞きましょうか」
「ひかりはぜんっぜんわかってないね、私みたいな女の子とおつきあいしたい男の子なんていっぱい居るんだから」
「で、その男の子は付き合ってどうしたいと思ってるかわかる?」
「ヤりてーっておもってる」
「……ごめん、あんたってそういう子だったね」
む、なによそのかわいそうな物を見る目は。
ひかりの考えていそうなことは、どうせ古くて凝り固まった価値観なんだろうけど、この顔はちょっとムカつく。
「はぁ……どうしてこの子はこんな風に育っちゃったんだろう」
「なによーじゃああんたの言うとおり一人に絞ってやってやるわよ」
飽きるまで。
「じゃあ一人に絞らないとね、今つきあってる男から?」
「うん、じゃああいつにしよ、ほらバンドやってる……」
私は携帯をとりだして彼氏フォルダを開いてメールを立ち上げる。
「え、今送るの?」
「どうせいざとなったら新しい彼氏作ればいいっしょ」
<他に好きな人ができましたさようなら>
「っと、はい一斉そうしーん」
飽きた男にはいつもこう送ることにしている。大体どんな奴かとか聞いてくるけどそんなのは無視だ。
「あれ、明美……」
「ん?」
ひかりが不思議そうな顔をして私を見る。なによ、あんたがいったんじゃない。
「一斉送信って、そのバンドやってる彼にも……」
「……あっ」
気づくと同時に送信完了の文字。
「送られちゃった……」
血の気が引く、というのはこういう状況なんだろうか。一気に体温が下がったような気がした
「ええっ!? 間違って送ったってすぐ送らなきゃ! って明美?」
「……いやな夢を見たの、付き合ってる彼氏全員にお別れのメールを」
すこんっ
……はい、わかってます。夢じゃないですよね。
ああ、どうしよう。
<ふざけんなよビッチが>
放課後、そんなメールが届いて七人目の彼氏が他人になった。
「くおお……」
まさか誤送信だって言い訳したらそこから浮気がバレるとは……
しかも全員からビッチと言われて別れる羽目になるとは思わなかった。
誰に振られようがどうでも良いけどタイミングが悪すぎる。
まさかこの私が、世の男に愛を(性的な意味で)振りまいている私が、彼氏ナシになるなんて……
「明美ー、何とかなった?」
ぺちんっ
元凶が明るい調子で話しかけてきたので数学の教科書を丸めて叩いてやった。
「うううー……あんたのせいよ、ひかり」
「あー、だめだったかー、まあ彼氏居ないのもさ、なれれば悪くないわよ」
「なれたくないーオメコに蜘蛛の巣が張るー」
こうなったら繁華街でおっさんでも捕まえて……やっぱ止め、おっさんの裸想像したら吐き気してきた。
「こうなったら今から彼氏作るわよ! ひかりに彼氏ができるくらい今はあり得ない状況だし!」
「あんたの中であたしはそういう位置づけなのね……もうつっこまないけど」
そうと決まれば教室の男子に片っ端から話しかけなきゃ。
「……って、あれ?」
男がぜんぜん居ない、というか私とひかりの他に二、三人しか人が居ない。しかも女の子だけ。
おかしいなと思って時計を見ると、放課後になって三十分位たっていた。そりゃ人もいないわ。
「男全員帰っちゃってるじゃない!」
すこんっ
数学の教科書を取られてそのまま一本取られた。
「なぜ叩かれたの私」
「いや、男居るから」
ひかりが指した指の先には、教室の隅でイヤフォンしながらラノベを読んでるオタク(名前知らない)が居た。
「いやいやひかり、人間には三つ性別があってね、男と女とオタクね、ちなみにオタクは恋愛市場から……」
すこんっ
はい、わかってます。
「オタクかー……」
彼氏が居なくて今ものすごい緊急事態とはいえ、この私がオタクと付き合うとか有って良いのかな?
「どうせあんたのことだから、オタクと付き合うとかあり得ないとか思ってるんだろうけどね」
う、図星……
「ぐぬぬ……わかったわよ! あいつにする!」
そういって私は勢いよく立ち上がる。
ひかりの想像通りにさせるのは何か癪だし、彼氏増やすまでのつなぎだと思えば……
大股でオタク(やっぱり名前知らない)の机の前まで歩いていくと、机に手を叩きつけてこちらを向かせる。
「え、何……丹羽さん」
オタクはあわてた様子でラノベを閉じて、イヤホンを耳からひっこ抜いた。
「あんた、私と付き合いなさい!」
「う、うん、いいけど……」
よし、彼氏ゲット!
丹羽明美、彼氏居ない歴五分以内でストップ!
未だにポカンとしているオタクから目を背けてひかりに視線を送る。ひかりも唖然としていた。
「あんたの度胸には毎度のこと驚かされるわね」
「断られるわけないんだからさっさとやればいいのよ」
今回なんかもてなさそうなオタクだし、チョロいもんよ。
オタクの方は読んでいた本を鞄にしまって、帰るための準備を始めているようだ。
「いや、一人に絞るって話の後だったからてっきり厳選するんだと思ってたのよ、あたしは」
「あ」
いかん、忘れてた。
いやまだ大丈夫、そんな自分で決めたルールでもないのに律儀に守る方がどうかしてるのよ。
そう、明日にでも別の彼氏を作ってあのオタクと別れれば問題ない。
「あんたまさか……」
「えーと、丹羽さん、俺はどうすればいいかな?」
「と、とりあえず! カラオケいくわよ! えーと……」
そのまんまオタクって呼んでも良いけど、なんというか眠そうな顔と妙に柔らかい雰囲気といい……
オタクっていうより、どこかの癒し系ゆるキャラみたいな奴だ。
趣味は完璧オタクなんだろうけど。
「岡沢だよ、丹羽さん」
語呂良いし、こいつのあだ名オタ沢で決定。
「そういうわけだから、じゃあね、ひかり」
不安そうに私達を見ているひかりに手を振って空いてる方の手でオタ沢の手をつかんで私は教室から出ていった。
まさかカラオケで時間いっぱいまで歌い続けるとは思わなかった。
「楽しかったよ、ありがとう」
まあ私も結構歌ったけど、女の子と、しかもこんな美人と一緒にいて変な気を起こさないとかマジで変な奴だ。
早速ヤるのもちょっとがっついてるようでイヤだけど、フェラくらいはしてあげても良いかなーと思ってたのに。
そんなわけで夜の駅前を二人で歩いてるわけだけど、今まで付き合ってきた男となんか違うんだよね、こいつ。
胸チラしても押しつけても恥ずかしがるだけだし、そんな嫌悪感もないし彼氏なんだから襲ってきてもいいのに。
「ところで丹羽さん、付き合ってって言われたからそうしたんだけど、用事って何だったの?」
「は?」
なに言ってんのこいつは。
「いやいや、用事って何? 付き合ってるんでしょ、私達」
「え……えええ!?」
オタ沢が本気でビビってる声を上げる。
もしかしてこいつ「恋人として」じゃなくて「用事があるから」だと思ってたのか?
ってことは、さりげなく彼氏居ない歴数時間……?
「いいから付き合いなさい、私と! 恋愛感情を持って!」
「え、いや……でも俺、丹羽さんの事全然知らないし」
「いいから! 私だってあんたみたいなオタクの事全然知らないから!」
「そんな、お互い知らない人同士で付き合うなんて、なおさらダメだよ」
ああ、こいつのことよくわかんないけど、これだけは分かるわ……一緒にいるとイラつくタイプだ。
「あーもー、分かったわよ! 今日のはデートじゃなくてただ遊んだだけ! それでいいでしょ!?」
「ちょっ、丹羽さん!?」
回れ右して自分の家の方向に足を向ける。彼氏は居なくなるし変な振られ方するし、今日は厄日ね。
後ろでオタ沢が何か言ってるけど、私にはもう興味も何もなかった。
ああ、今日は本当に厄日だ。
今までそういう事がなかった訳じゃないし、ていうか半年に一回位あったし、そこまで怖いわけじゃないけど。
「明美さぁ、俺言ったよな、浮気したら絶対許さないって」
「はぁ……だから別れたんでしょ?」
近道しようと思って通った公園の真ん中、目の前には四人の男、まあ多分やることはヤることなんだろうけど。
「それだけじゃ気が収まらねえんだよ!」
「……ってちょっと、離しなさいよ!」
男のうち一人が私の腕を掴む。
「なんだよ、いいじゃんどうせ浮気してたんだし、俺らにも抱かせろよ」
「なんで付き合ってもいないあんた等に抱かれなきゃいけないのよ!」
残りの三人も私の腕を掴んだり服を脱がせようとしたり、強い力で私を押さえつけてくる。
数回経験してるとはいえ、慣れる訳じゃないし、怖くない訳じゃない。
さらに付け足すならこういうのは優しくしてくれないから嫌いだ。
「うるせえな、何か口につっこんで黙らせちまおう、どうせ口は使えねーし」
そう言うと元彼の男は手持ちのスポーツバッグからタオルを取り出して私の口にそれを押し込んできた。
あまりに強く押し込まれた所為でのどの奥からカラオケ店で食べた物が上ってきて苦しい。
口の中いっぱいにタオルが詰め込まれると、次は私を引きずって茂みの奥へ向かい始める。
ああ、結局今回も犯されちゃうんだ。
私は力を抜いた。どうせマグロになってればつまらなくなってすぐ終わる。
「お、こいつようやく観念したか、さっさとヤっちまおうぜ」
ああ、ひかり……うらむからね、あんたを。
「へへっ、その後どうするよ?」
「まあ俺んち連れ込んでセックス三昧だな、おまえ等も参加していいぜ」
え、ちょっと待って、ここでヤって終わりじゃないの?
「おっと、動くなよ、どうせやること同じなんだから抵抗したって無駄だぞー」
いつだったか、家で監禁されてそのまま犯されまくって死んじゃった事件を思い出した。
これはやばいって、今までのよりずっとやばい、死ぬ。
さっきまで力を抜いていた体にもう一回力を込めて、必死に体を動かす。
「や、やめろおまえら!!」
裏がえりがちの声がその場に響いた。
「……なんだお前」
見ると、足がガクガクふるえているオタ沢が居た。
「い、いやその……そう言うことは良くないと……って宇わっ!?」
話の最後の方に進むに従って語気が弱くなり、挙げ句の果てオタ沢が歩き出すと同時に足をもつれさせて転んだ。
一瞬でも助かると思った私がバカだった。
「ハハハッなんだこいつ、バカじゃねえの?」
バカっていうかヘタレっていうか……あ、でもこれなら……
「あっ!? 待てよこのアマ!」
気が抜けたのか、呆気にとられたのか、私を押さえつける男の力がゆるんでいたので、私は遠慮なくふりほどいた。
そして、遠慮なく逃げる。いやあ生きてるって素晴らしい。
「え、ちょっ、逃げるの!? 丹羽さん!?」
「ちっ……お前、責任はとれよ……」
「うわわ、ご、ごめんなさいっ!」
「ごめんで済んだら警察はいらねえんだよ!」
「ぎゃああ! 警察必要なの俺の方……ゆ、許してー!!」
そんな会話が聞こえてきたが、そんな物は無視だ。
「ってわけで昨日はあんたの所為でひどい目にあったのよ……」
「いわゆる身から出た錆じゃない」
昨日は本当に災難だった。
彼氏は居なくなるしオタ沢と付き合ったと思ったら自覚してなかったし、元彼とその取り巻きに襲われかけるし……
「で、結局彼氏は作れなかったのね」
「うん、でもしばらく男はいいかな、ちょっと今回はさすがにあぶなかったし、いろいろ冷静になる」
彼氏いない歴は更新しちゃうけどね。
「あ、丹羽さん、おはよう、あの後大丈夫だった?」
声のした方を向くと、顔半分がガーゼで埋まってるオタ沢が居た。
「うわっ!? 岡沢君どうしたのその顔!」
「あーうん、でもしばらく関わらない方がいいよ、あんたも昨日みたいなのはゴメンでしょ?」
ひかりは無視して、私はオタ沢に言ってやった。
相当かっこわるいとはいえ、助けてくれたんだし、忠告くらいはしてあげよう。
「でも俺たち付き合ってるんでしょ? それおかしくない?」
「え?」
何で? ていうか付き合ってすら居なかったじゃん。
「別れた後しばらく考えたんだ。そんでつきあい初めてからお互いのことを知るのも悪くないなって思ってさ」
結果はこれだけどね、と付け足してオタ沢は笑う。
ってことは、私って今彼氏居る状態?
「……岡沢君、君って本当に良い人だね」
「ふーん、まあおもしろいし、オタ沢くらいなら付き合っても良いか、よろしくね」
涙を拭くジェスチャーをしているひかりはほっといて、私はオタ沢に笑いかけた。
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エロパロ板に投稿したけどエロ無いしここに上げてもいいか。
ってことでここに転載、投稿用だから小説としては描写少ないけど良いよね。
一応制限は2にしておこう。
色々余裕出来たら続き書く。