No.351547 朝に弱い竜姫様の話茶田さん 2011-12-23 23:55:09 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:739 閲覧ユーザー数:736 |
竜姫は大変朝に弱い。
低血圧であるのか、ただ単に寝汚いだけであるのかは定かではないが、とにかく弱いのだ。
そんな彼女を起こせるのは元傅役、現軍師の片倉しか居らず、彼らは毎朝難しい顔で頭を付き合わせる羽目となる。
今日は誰が起こしに行くのか、と。
男女含めて四人居るのだから順番に行けばよいではないかと、普通ならば平和的にそう思うのだが、相手はあの竜姫だ。頭の回りは早く口も立つ。見目も麗しく正に才色兼備とはこの方のことを言うのだろうと、公の場での姿は大変誇らしいのだが、如何せん。朝だけはダメなのだ。
出来ることなら火の粉は被りたくないとそれぞれが思い、毎朝毎朝、戦場に赴く気持ちで控えの間に足を踏み入れるのだ。
「今日も恨みっこなしということで」
眼鏡のブリッジを押し上げつつ片倉が宣言すれば、皆一様に首を縦に振り、泣いても笑っても一回きりの勝負に表情を引き締めた。
「……失礼します……竜姫様?」
そろり、と襖を細く開け、中を窺うようにこれまた細い声を出し、少女は諦めたように肩を落とした。今朝も負けた、と先のじゃんけんを振り返り泣きそうになるも、自分も軍師の端くれ、これくらいで挫けてどうすると、無理矢理に気持ちを奮い立たせる。
三日連続で負けた自分を気の毒に思ってか「なんなら代わるか」と生真面目が服を着たような一番の堅物がそっと耳打ちしてくれたが、彼よりも派手な雰囲気のモノクル着用の片倉に「それじゃ、じゃんけんの意味ないですよねぇ。過保護も程ほどにしていただけません?」と正論を吐かれる始末だ。
ぐう、と押し黙った眼鏡の隣では欠伸を噛み殺す乙小の姿があり、昨夜、竜姫の晩酌に付き合った彼女に比べればマシかもしれない、と一番小さな軍師は思ったのだった。
いくら朝に弱いとはいえ、竜姫は暴力を振るうわけではない。もとい、男性陣は容赦なく蹴りを入れられたりしているようだが、少なくとも乙小と無垢小はこれまでそのような被害は受けていない。
では、なにが問題かと言えば──
意を決して室内に踏み込み、なるべく音を立てぬよう枕元まで寄ると静かに膝を着く。
「そろそろ起きて頂かないと軍議が……」
ゆさゆさ、と頭まで布団を被っている姫の肩を控え目に揺するも反応はない。
「竜姫様、朝餉も下げられてしまいますよ、竜姫様」
辛抱強く、ゆさゆさ、ゆさゆさ、と肩を揺すっていた小さな手が、不意に布団の中から伸ばされた手に捕らえられ、無垢小の口から、ひっ、と小さな悲鳴が漏れたと思う間もなく、ばふり、と大きく持ち上がった布団はまるで竜の顎で、抵抗も許されぬままに小さな身体は飲み込まれたのだった。
「今日もダメっぽいわよー」
襖を細く開け中を窺った乙小の言葉に、眼鏡は眉間に深いしわを刻んだまま肩を落とし、モノクルはご愁傷様ですと口先だけの同情を吐き「今日の布陣どうしましょうかねぇ」と早々に現実を見据えている。
今頃は竜姫の豊満な乳房によって呼吸困難に陥っているであろう、抱き枕と化した軍師を思い眼鏡が嘆息すれば「月光様相手だったら圧死ですねぇ」と本気か冗談か、どちらにしても笑えないことをモノクルは、さらり、と言い放ち、笑顔で乙小に額を叩かれたのだった。
無垢小が抱き枕なら乙小は乳枕と化すのだがこちらは、あらあらまぁまぁ、と大して気にも留めず好き勝手やらせる辺りは大人の余裕だろうか。揉んだり吸ったりしてくれば、笑顔で躊躇なく拳骨を落とすのだが。
「竜姫様も最近は出ずっぱりだったし今日はお休みして貰うとして、気分屋な龍刃様は今日はどんなご様子かしら?」
ほぼ龍刃専属と化しているモノクルに問えば「ご機嫌でしたよ」と、あっさり返ってきた。
「独眼竜様は?」
「成実殿と朝餉を」
眼鏡の返答にひとつ頷き乙小は、くるり、と踵を返した。
「それじゃ私たちも行きましょうか。あのふたりじゃいつおかずの取り合いを始めてもおかしくありませんから」
さりげなく酷いことを口にするも乙小は涼しい顔で艶やかな黒髪を左右に揺らし、控えの間を後にする。
「では私は龍刃様に出陣のお願いをしてきますかねぇ」
飄々と去っていく背を見送り、残った片倉は一度背後に目をやるもその襖を開けることはなく、本当にどうにかならないものか、と眉間のしわを一層深くしてその場を離れたのだった。
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2011.12.23
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■戦国コレクションの二次創作。
■朝に弱い竜姫様を片倉さん達が起こすだけの話。
■政宗様ばかりが増えて片倉さんがおっつかないよね。