No.34916

Another Dimension プロローグ1

なちゅいさん

オリジナル創作小説のシリーズとして書いているものです。
プロローグ以後は「ありてぃあ」ホームページにて連載中です。見苦しいところもあるかと思いますが、是非ご覧下さいますようお願いいたします

2008-10-09 14:44:41 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:528   閲覧ユーザー数:490

 【異次元】という空間がある。ここでは、我々の常識などというものは一切通用しない。例えば、空間自体の存在意義が異なるために、そこに有るはずのものが存在し得ないことさえ起こりうる。

 【異次元】は(広い意味で)自分の存在する空間以外を定義出来得るため、無限大の大きさを持つ。これから始まる話は、そんな広大な【異次元】に存在するたった一つの空間で起こる話である。

 

 プロローグ

 

 【ルディア】と呼ばれる一地方がある。そこは小さな集落で、食料、衣類、日用品など、全ての物資がそこで自給自足できたため、他の地方との交流はほぼ皆無だった。そのため、他の地方に住む人たちに忘れられたのであろうと住民たちはみな思っていた。【ルディア】は発展することすら忘れ、時の止まった感すらある非常にのどかな集落であった。

 アトラス・リアニーゼは、その【ルディア】に住む十七歳の少年だった。彼は長身で、集落の中でも頭一つ飛び出るほどに背が高い。幼い頃、彼は両親を病気で亡くしてしまい、それ以来近くの山で狩りをして生活していた。一人ではあったが、彼は狩った動物を集落の人々と物々交換をすることで野菜や果物を得ており、近隣住民とも交流は少なからずあった。

 アトラスは生活のために狩りへと出かける毎日であったが、獲物がとれない日もある。決して楽な暮らしとはいえなかったが、彼はそんな当たり前の日々を受け入れて暮らしていた。

 

 今日もいつものように、アトラスは日が昇りかけた頃に起きて、一人、狩りに出かける準備をしていた。獲物を捕まえるためにはいろいろなものが必要となる。遠くから牽制するための弓、近距離で確実に仕留めるための長剣。捕まえた獲物を縛るためのロープ。他にも、軽い携帯食になりそうな干し肉や木の実、獲物を求めて夜になることもしばしばあったので、ランプとして使うための油も忘れない。一通り荷物が揃い、家を後にしようとしたところに、彼の家に訪問客が現れた。

「よ、アトラス」

 アトラスの家の前には、彼と同い年くらいの少年がいた。狩りで鍛えられ、がっしりしたアトラスの体とは違い、比較的、華奢な体つきの少年だった。身長は標準的な高さがあったのだが、アトラスが大きすぎるために、二人が並ぶとその少年はかなり小さく見えてしまう。

「ソールか。今日は今から狩りに出るから、お前の相手はしてやれないぞ」

 ソール・ステイラー。年が近いこともあって、アトラスの集落一の親友である。彼は両親が健在で、まだ本格的に仕事を始めるには至っていない。そんな彼は集落を歩き回ったりして、自らの好奇心を満たすことが大好きで、それを日課としていた。ソールは、虫の生態を調べるとか言い出して、丸二日もアトラスを集落付近の森に連れ回したこともある。

「いや、今日はその狩りへ一緒に連れて行ってもらえないか……と思ってさ」

 にこやかな顔をしてソールは答える。この笑顔のおかげで、どれだけ面倒な目に合わされてきたか……。朝寝坊ばかりするソールがこんな時間にやってくるのはおかしいと思ったんだよ……と、アトラスは口に出かかった言葉を飲み込み、その代わりに大きくため息を一つついた。

「……で、お前が狩りに来る“目的”は何だ?」

 訝しげな顔をしてアトラスはソールに問う。ソールが狩りに興味を持ったとは考えにくかったのだ。一度、ソールは狩りに興味を持ったことがあったが、一日と持たずに興味をなくしてしまったことがあったからである。本人曰く、「僕には向かない」とのこと。

「いや……ね。アトラス、今から裏山に行くんだろ?僕、裏山って今まで一回も行ったことないんだよ。だから行ってみたくてさ」

 ほら来た……。アトラスは心の中で呟いた。裏山は想像以上に広い上、見通しもあまり良くないために方角を確認することもままならない。その上、凶暴な動物も少なくない為、危険な場所であった。そのため、ソールは一人で裏山に行けないでいたのだ。しかし、裏山にいつも出かけているアトラスとなら、そういう危険も少なくてすむ。……詰まるところ、ソールは“裏山探索”がしたいと、そういうことらしい。自分の探究心を満たすためだけに。アトラスは呆れた顔でソールを見た。

「言っとくが、あそこは危険だぞ。何かあっても俺が助けてやれるとは限らないからな」

 アトラスは、ソールにそう釘をさした。

「サンキュー!……おーし、あの虫、一度見てみたかったんだよなー。……あ、あんだけ高いところだし、あそこからルディアってどう見えるんだろ?集落の櫓なんかとは、見え方がぜんぜん違うんだろうなあ…」

 しかしながら、彼の目はまだ見ぬ裏山の探検のことにしか向いてはいなかった。

「ダメだ……」

 アトラスは、観念してソールを連れて行くしかなかった。

 

 日が高く昇った頃、ルディアの北にある山の麓に、アトラス、ソールの姿があった。

 出発前、二人はソールの両親に、二人が一緒に裏山へ“狩り”をしに出かけることを報告しに行ったのだが……。ソールの両親は、ソールが狩りに出たいと言い出したことに猛反対していた。山は危険な動物がいるからとか、うろうろしていると崖から落ちる危険があるんだ、などとソールに言い聞かせようとした。ところが、ソールが頑として譲らない。ソールは小さいときから、興味を持ったことにはしつこいほどに執着する性格だったことを、アトラスもソールの両親も知っていたのだが。

 結局、アトラスが同伴するということで両親がしぶしぶ折れてしまった。しかしその後も、「暗くなる前に戻って来い」だの、「あの動物には気をつけろ」だのと、裏山に行くソールの身をかなり案じていたようだった。それでこれほどまでに出発の時間が遅れてしまったのである。

「うちの親は過保護だからな……」

 とはソールの弁。その両親に甘やかされて育った結果がここにあるのだとアトラスは考える。

「我儘で融通がきかない……」

「何か言った?」

「……何でもない」

 なんでこんなのと幼馴染みなんだか…。アトラスはソールに見えないように小さくため息を付く。

「で、弓の使い方だけどな……」

 あくまでもソールは“狩り”をしにきたということで、アトラスはソールに狩りの仕方を教えながら裏山を登っていく。当然、ソールもアトラスと同様の狩り用の準備をさせられている。しかし、身に着けさせられたもののほとんどは、扱ったことのないものばかり。そのため、それらを身に着けるソールの姿は少々格好付いていない。

 アトラスは歩きながら、ソールに狩りの手ほどきをする。武器の扱い方、道具の使い方、獲物についての知識などを説明する。

「お、この花初めて見た。なんて名前なんだろう?」

 しかし、当の本人は周りの風景を見ることに夢中で、アトラスの話をあまり聞いていない様子だった。

「ま、こんなことだろうと思った……」

 アトラスは、再びため息をつく。

「どうしたの?」

「何でもない……」

 アトラスは、ソールの無神経ぶりに何も言う気すら起きなくなってしまった。あと五分、家を早く出るべきだった……と後悔しつつ。この先アトラスは、『あの時もう少し早く家を出ていたら……』と、何度となく考える羽目になる。

 集落を出発したのが遅すぎたために、実際の狩りの時間があまり取れなかった。二人は小動物を一匹捕らえることはできたが、その後大した獲物が取れないままに時間が経ってしまい、日が傾き、そして沈んでしまった。辺りを夕闇が支配し、次第に薄暗くなっていく。二人は、用意してきたランプの明かりを頼りにして山道を歩く。獲物を取ることを諦めて、ルディアに帰ろうとしたのだが、気が付くとどちらに進んでいいのかすら分からないほどに、周囲は暗くなっていた。

「仕方ないな……、明るくなるまでここで待つか……」

 しばらく歩いた後、アトラスは辺りを一通り見回してから、歩くのを止めた。彼は、比較的草木が生えてない一帯を見つけて腰を下ろす。そして、腰に下げていた袋の中から火打ち石を取り出し、周りにあった枯れ木を集めてから、火を起こす。その一連の動作は、慣れた手つきで行われた。その様子を感心して見ていたソールだが、それほど興味を引く動作でもなかったのか、面白くなさそうにその場に座り込んだ。

「もう休むの?まだ疲れてないんだけどなあ」

 と、ソールは能天気に一言呟いた。

「これ以上動き回るのは危険だ。夜の山では何が起こるか分からないしな」

 アトラスは枯れ木から煙が出始めたのを確認し、大きく息を吸い込んでから枯れ木に向かって吐き出した。

これ以上暗い山道を歩くと、道に迷う恐れがあるし、何より暗闇でこちらが凶暴な生き物の獲物になりかねない。アトラスがソールにそう説明すると……。

「ちぇ、つまんないの……」

 ソールは不満そうな顔をしながら、大きくなる火をぼんやりと眺めていた。

「あ~あ、もうちょっと面白いことがあるかと思ったのになあ……」

火が大きくなった頃、ソールはふてくされて後ろに寝転がった。

「……え?……う、うわあああああああああああああっっっっ!!」

 地べたに寝転がったはずのソールが、いきなりアトラスの視界から消えてしまう。

 その直後、絹が地面に擦れる音が続いた後、激しい音とともに何かが落下した。

「ソール!?」

 アトラスは慌てて、ソールがいたはずの場所を見てみた。そこには、人一人分の大きさの穴が開いていた。その穴の中にランプを翳してみると、ソールの姿が小さく確認できた。その穴は、思いのほか深いようだ。

「ソールー!大丈夫か――?」

「ああー、なんとかねー」

 ソールの返事はすぐに返ってきた。意識を失っていたりはしていないらしい。時間をかけて起こした火だったが、アトラスは惜しげもなく消してしまってから、ソールを助けるために自分も穴に飛び込んだ。鍛えられた運動神経のおかげか、ソールとは違ってうまく着地した。……もっとも、ソールは不意に落ちたから……というハンデがあったが。

「全く、お前って奴は……」

「いや、ゴメンゴメン」

 全く悪びれていない様子のソールに、アトラスはただただ閉口してしまうのだった。

 

 勢いよく穴に飛び込んだアトラスではあったが、意外に穴は深かった。おまけに壁には突起物がほとんどなく、自力で這い上がるのも難しく思えた。これをソールに登らせるのは、まず無理だろう。

「しかし、ここは……」

 二人が落ちた穴は、単なる縦穴ではなかったらしい。二人がいた場所は、ちょっとした空洞になっていた。そして、二人の前には通路が伸びている。先は薄暗くなっていて、どうなっているかはここからでは分からない。

「ここから出られない以上、別の出口を探さないとな……」

 こんな場所では、人の助けは期待できそうにない。穴を這い上がるのが無理なら、出口を探すしか助かる道はない。二人はお互いに確認することもなく、手持ちのランプに再び火を灯してから、目の前に伸びた道に向かって歩き出した。

 

 足元に所々残っている線路や機材の後から見て、この場所はおそらく、古い時代に使われた坑道なのだろう。もし本当にここが廃坑であるなら、出入り口が存在するはずだと二人は考えて、暗い空洞の中を彷徨う。しかしながら、それはあくまで推測にすぎず、二人がここから出られる保障は無い。こんな状況下では、さすがのソールも面白いとか興味がわくなどということは言わなかった。アトラスにしても余裕はない。狩りでいろいろと場数は踏んでいる彼だが、こんな事態に陥ったことが無かったからだ。

 その空洞はかなり入り組んだ造りになっており、二人はしばらく歩いては行き止まり、ということを繰り返していた。二人は出口を求め、休むことなく空洞内を歩き続けた。

 そうして、八回目の行き止まりを確認したすぐ後のことである。

「………………」

「何だよ、あれ……?」

 そこは今までよりもはるかに大きな空洞になっていた。平屋であるアトラスの家が、楽に入ってしまうほどの空間である。その空洞の真ん中に、得体の知れないものが置かれてある。二人が見たことない材質で創られた大きな柱が二本並んで立っており、柱の上部は同じ材質のものが緩やかなカーブを描いてアーチを形作っている。幅は人三人分、高さはアトラスが見上げるほどに高い。その近くには、同じ材質で造られた箱のような物体がある。箱からは管みたいなものが何本も出ており、二本の柱の下部にそれぞれ繋がっていた。その外見を一瞥すると、大きな扉のようにも見えた。

 それを見て、ソールが目を輝かせた。

「こんなもの、見たことも聞いたことも無いよ……」

 ソールは柱や箱に駆け寄って、それらを触り始める。よく見ると箱の上部には、たくさんの突起物がある。突起物は文字のようなもの、上下に動かせるレバー、押すことが出来るボタンなど、いろいろな種類があった。ソールは、その突起物を躊躇うことなく触り始める。

「ソール、得体の知れないものに触れないほうが……」

 それは、アトラスが狩りで得た教訓である。いくらきれいな外見でも、触ると棘を持っている動植物があることを、アトラスは知っている。知らないものに、軽々しく触れたりしない方がいいのだ。

 と、その時、箱が少しだけ振動を始めた。

「ん?」

 ソールがそれらを押したり、上げ下げしたりしていると、箱が奇妙な音を立て始めた。そしてその音につられるようにして、柱が白い光に包まれだした。

「おい、ソール、なんかヤバイって……」

 アトラスは、本能的にただ事ではない空気を感じ取っていた。しかし、ソールはアトラスのそんな様子など気にも留めずに、箱を触り続ける。

 すると、甲高い音がその空間に鳴り響いた。

「うあっ!」

 柱はあたりに光を放ち出す。あまりに眩しすぎるその光に、二人は目を背けた。少しして光が穏やかになり、明るさに目が慣れ始めた二人が柱に目を向けると、そこには明らかに異変が起こっていた。二本の柱とアーチに囲まれた空間に、『七色の光が入り混じって揺らめいたようなもの』が見える。アトラス達から見て、その空間より向こう側はその妙な空間のために見えなくなっていた。

「なんだよ、これは……?」

 アトラスが柱の向こう側に回ってみる。【それ】がかかっているのは、柱とアーチに囲まれた部分だけのようだった。ソールでなくとも、【それ】のことが気にかかってしまう。

「これって、どうなっているんだろう?」

 ソールの好奇心はもはや止まらない。彼は柱に近づき、【それ】を間近で見始めた。そして、ソールは【それ】に向かって右手を差し出してみた。

「……え、え!?」

 ソールは次の瞬間、右手を【それ】の中に引きずり込まれ、体ごと【それ】に吸い込まれそうになってしまった。

「うあああっっ!!」

「ソール!」

 ソールのその状態を異常だと感じたのか、アトラスは慌てて親友に駆け寄り、彼の残った左腕を両腕で掴んで思いっきり引っ張った。

「だから、得体の知れないものに触るなと言っただろ!」

 アトラスは、ソールの体を【それ】とは逆方向に全力で引っ張る。しかし、ソールの体は徐々に【それ】の中に引きずり込まれている。

「た、助けて……!」

 ソールは情けない声を上げて、過去の自分の行動を初めて後悔しながら傍にいる親友に助けを求めた。しかし、「後悔先に立たず」とはよく言ったものである。彼の体の半分以上が、【それ】の中に沈みこんでしまっている。

「くそっ!」

 アトラスは脂汗を掻くくらい、力いっぱいソールを引き寄せようとする。しかし、【それ】の吸引力はあまりに強かった。徐々にソールの体が、そしてそれを支えるアトラスの体が、【それ】の中へと引きずり込まれていく。

「う……うああああっっ!!」

「……も、もう、ダメだあっっ!!」

 二人は、【それ】の中に吸い込まれてしまい、その場からすっかり消え失せてしまった。【それ】は二人が消えた後も、その部屋で静かにうっすらと光を放ち続けていた。


 
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