No.343880

真・恋姫無双~君を忘れない~ 七十三話

マスターさん

第七十三話の投稿です。
美羽と小蓮による江陵の共同統治。果たして一刀がそれを提案した狙いとは一体何なのだろうか。それを聞いた人間の反応は様々ではあったが、それは一つの結論を導き出した。
やばいです。今回は自分でも何を書いているのか分からなくなってしまいました。批判中傷は無しの方向で。駄作なのはいつも通りです。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

続きを表示

2011-12-06 00:38:47 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:11989   閲覧ユーザー数:6215

雪蓮視点

 

「小蓮と袁術ちゃんに江陵を……?」

 

 それってどういうこと? 御遣い君は小蓮と縁談について二人で話していたんじゃないの? それがどうして江陵をこの二人に譲るって話になったのかしら? いいえ、それだけじゃないわ。どうして、そこに袁術ちゃんの名前が出てくるのよ。

 

 袁術ちゃんを保護しているということは、彼女がかつて治めていた寿春がどんな悲惨な状況だったかも当然分かっているのよね――実際問題、あれは彼女が自らの意志でやったのではなく、彼女の上役の老人たちの意志だったのかもしれないけど、それでも君主として責任がないわけじゃないわ。

 

 そんな袁術ちゃんと、私の妹とはいえ、蓮華と違って政にとりわけ秀でた才能があるわけではない小蓮に、江陵を任せるというの? 

 

「御遣い君、いくらなんでもそれは――」

 

「雪蓮さん、あなたは一つだけ勘違いをしています。あなたの妹はあなたが思っているように弱い娘じゃないですよ」

 

「え?」

 

「尚香ちゃんはずっとお姉さんたちの役に立ちたいと願ってきた。そして、そのためならば己のことを顧みずに俺と結婚するなんて言い出したんですよ」

 

「そ、そんな……」

 

 小蓮がそんなことを考えていたなんて……。確かに以前から将として部隊を率いたいとか言ってきたこともあったけど、私たちは小蓮に危険な目に遭って欲しくないからって、それを許してこなかったわ。

 

 小蓮には好きなように生きて欲しかった。だから、無理をして私たちの真似なんかしなくても良いって言ってきたの。でも、それは私たちの勘違いだったというの? 小蓮はずっと私たちのためにそう言ってくれていたの?

 

 ずっとこの娘は私たちのために何かしたくて、だけど、私たち自身がそれを拒んでいたのかもしれない。私たちは家族なのに――もっともこの娘のことを分かってあげなくてはいけなかったのに、それが出来ていなかった。

 

 妹はそんなに弱い娘じゃない――他人であり、しかも、まだ会ったばかりの御遣い君には小蓮がどのように映っているのかしら? いいえ、きっとこの子だっからこそ、自然と小蓮も心を開いたのかもしれないわ。

 

「だけど、俺はそんな尚香ちゃんも気に入りません。自分が無能である決めつけ、姉のために自らを犠牲にする行為――俺にすれば、それは自己満足の偽善にしか過ぎない」

 

 御遣い君は厳しい口調で付け加えたわ。

 

 自己満足の偽善――御遣い君にそう言われて、小蓮も俯いてしまった。小蓮自身はそれで私たちが喜ぶと本気で思っているのかもしれないけど、それは大きな間違いね。私も蓮華もそんなことされたら、逆に悲しんでしまうもの。

 

 しかし、そんな小蓮を御遣い君は偽善者呼ばわりしている。よくもまぁ、人様の妹にそこまで本音をぶつけることが出来るわね。君じゃなかったら、私だって本気で怒ったって不思議じゃないんだけどね。

 

「出来ないとやらないは全く違うことだ。尚香ちゃん、君は自分が何も出来ないと本気で思っているようだけど、果たして本当にそうかな? 君は自分で出来ることを探していないんじゃないか?」

 

「シャオの出来る……こと?」

 

「そうだ。君は自分がどれだけの実力をもっているのかまだ知らない――いや、実力なんて必要ないんだ。何かをやり遂げたいと強く願い、それを実行するだけで自ずと実力なんてついてくる」

 

 小蓮も江陵を任されることを聞かされていなかったのか、御遣い君の言葉に酷く驚いている。でも、彼が言わんとしていることは理解しているのだろう。弱々しい瞳に、微かであるが強い光が宿ったのを、私は見逃さなかった。

 

「雪蓮さんや周瑜さんも知っていると思いますが、俺自身は何も出来ない人間です。誰かに手伝ってもらえないと、政務一つだってまともに出来ない。だけど、俺はそんな自分に絶望なんてしない。決して諦めたりなんかしない」

 

 確かに戦場で見た彼の姿は、とても一国の主とは思えないものだった。私とは違って、戦場で指揮を執ることだけが、総大将の仕事ではないと思うけど、総大将自らが前線に立ったら、総指揮はその人が執るものよ。

 

 だけど、御遣い君はそうじゃない。彼は他人に命令していなかったもの。袁紹を救いに呂布を向かわせたときも、彼は呂布にまるでお願いするような口調だった――というか、彼自身、数人の将に敬語を使って話していること自体が異常ね。

 

 彼はきっと自分が戦場では役に立たないことを自覚しているのね。戦の指揮を執ったところで、自分では勝機を生み出すことは出来ないと。だけど、彼はそれを承知の上で、常に将たちと共にいる。

 

 役に立たないからと本国に閉じ籠るわけではなく、他人に全てを任せるでもなく、自分でも何かの役に立てると信じ、それを探求し続けている。そして、その姿勢は多くの将の心を動かしているのね。

 

 だからこそ、御遣い君は自分が所詮役立たずだと決めつけ、自分の身を犠牲にすることしか頭になかった小蓮に一言物申したいと思ったのね。本来は姉である私たちが言わなくてはいけないことだったのに、彼がその代わりに言ってくれたのね。

 

 彼の小蓮への気持ちは理解出来たわ。だけど、それでも疑問が全て消え去ったわけではない。それがどうして小蓮と袁術ちゃんに江陵を譲渡するかの説明にはなっていないものね。

 

 御遣い君が何を考えているのか――何を見通しているのか私には全然分からない。だけど、何故かしら、不思議とこの方法は成功するんじゃないかと思ってしまうの。それが彼の持つ魅力なのかどうかはともかく、私は彼が次に何を言うのかを楽しみにすら感じていたわ。

 

冥琳視点

 

「まず、美羽と尚香ちゃんの共同統治に関しては、そこまで難しい話ではありません。孫家の姫とその宿敵の美羽、二人が手を取り合ってこの街を治める姿に誰の心も打たれるでしょう」

 

 確かにその通りだ。先ほどの話を聞く限りだと、小蓮様はそこまで思い詰めて今回の件に身を捧げようと思ったのだから、姉である雪蓮や蓮華様のためであれば、袁術と協力することくらい厭わないだろう。

 

 そうなれば、我々にとっても、もしも江陵が曹操軍の襲来を受けたとき、救援を送らないという意見はなくなる。そんな意見が出ようものなら、我らの王の逆鱗に触れることくらい、皆も承知のことだろう。

 

 だがしかし、問題がなくなるわけではない。

 

「だが北郷殿、実際問題、小蓮と袁術に江陵の統治が出来るとは私には到底思えない。それに、確かに江陵の窮地には我らも全力で援軍を寄こすだろうが、それが間に合う確証もないだろう」

 

 蓮華様の仰る通りだ。小蓮様が強くそれを願い、行動に移せば、確かに将来的には政に手腕を発揮するかもしれない。しかし、今の段階では小蓮様にそれだけの腕はない。そして、曹操軍の襲来に関しても、あれだけ精強な軍勢を速やかに動かすことが出来る以上、援軍が間に合わず、気付いたら敵の手中にあったなんてことになっても不思議ではない。

 

「その件に関して、俺は美羽と尚香ちゃんに新しい取り組みをしてもらいたいと思っています」

 

「新しい取り組み……?」

 

「江陵の街を、この二人だけではなく、民自身に治めてもらうということです」

 

「な……っ!?」

 

 何だと……っ? 民自身に政を委ねるというのか? そんな無謀なことが許されるはずがない。それに民に政の知識などあるわけなく、文字の読み書きが出来るものすら少ないのだぞ。いくら江陵には長年保たれた平穏により、河北から多くの民が集まり、知識人も豊富だからとはいえ――まさか……?

 

「民といっても全員はさすがに不可能でしょう。しかし、この街には多くの知識人――どこの軍勢にも属さぬ賢者が多くいる。彼らを政に巻き込みます。そして、それだけではない。この街を昔から纏めている街の長たちにも――仮に彼らが文字の読み書きが出来なくても、政には参加してもらい、意見を言ってもらいます。つまり、江陵は民による、民のための街になるのです」

 

 ば、馬鹿な……。そんなことが本当に可能だとでも言うのか? つまり小蓮様と袁術の立場は、確かにこの街を治める統治者として君臨するも、実際の政の意見は民たちから得て、それを纏めることだとでも言うのか?

 

「ほ、北郷殿、しかし、それでも曹操軍の襲来は――」

 

「俺はこのことを曹操軍にも流すつもりです。果たして彼女はそれを承知の上で攻めてくるでしょうか? この街は民によって平穏が保たれます。そして、それは民の望みでもあります。江陵を落とすということは、そんな彼らの平和を壊すことにならないでしょうか?」

 

 確かに、もしも北郷の言う通りの政が可能だとするならば、民が主体となってこの江陵を発展させることになる。それは民にとっては――これまで官匪どもが民の血税を簒奪していたという過去がある以上、野に伏す賢人たちがこれに乗ってくる可能性も否定できない。

 

 そして、北郷がこの情報を曹操軍に流すということは、おそらく中原や河北に住まう者も、希望さえすればこの街に移住することを許すということだ。もしも、これが功を奏せば、大陸中の行商人は挙ってこの街を交易の場に活用するだろう。この街は更なる発展をすることが出来るかもしれない。

 

 そう。全ては可能性の話――机上の空論に過ぎないのだ。そんなこと、これまで誰も考えたことがないのだから、想像の仕様がない――いや、想像出来たとしても、否定的な意見が噴出するのが当たり前だ。だが何故だ。どうしてこやつからその話を聞くと、出来るのではないかと思ってしまうのだ。まるでこやつ自身がそれを経験しているかのような。

 

 それにこの話はそれだけでは済まない。益州と孫家による共同統治――それはこの乱世を終わらせるきっかけにもなるのだ。私たちが同盟を組んだ以上、倒すべき相手である曹操とは遅かれ早かれ決着がつくだろう。

 

 その後、私たちが背反して雌雄を決するのか、それとも同盟を組んだままでこの大陸を統治するのかについては、未だに不鮮明になっている。それは当たり前の話だが、今回の話が成立してしまえば、初の共同領土になる。

 

 そして、それがきちんとした形で収まれば、この共同統治の流れは急速に加速し、益州と孫呉がそのまま一つの国にだってなれるはずなのだ。もしかしたら、北郷はそこまで見通しているのか? 小蓮様との縁談をそこまで広い視野で見ているというのか?

 

「どうでしょうか? 俺自身、これが成功すると確約は出来ません。全てはこの二人がどれだけ民を纏めることが出来るかに依ります。最初は混乱するでしょうから、俺たちも全力で支援します。しかし、いずれはこの二人だけに任せてみたいんです」

 

 何なのだ、この男のこの柔軟な――いやそんな言葉では語ることすら出来ない発想力は。これが天の御遣いの力とでも言うのか? 私はこの男に恐怖すら感じてしまう。このような考えをすることが出来る人間など、この世にいるはずがない。

 

 私はこの男が味方でいてくれることに安堵感すら覚えている。この男が何の邪気のない想いで、民を平和に導こうとしていることに、安心してしまう。もしも、これだけの発想力のある人間が、自分の欲のためだけに力を使えば、とんでもないことでも出来るのではないかと思ってしまう。

 

 小蓮様との縁談という話を、ここまで深く掘り下げることが出来て、しかもそれが両国の信頼を築き、小蓮様の想いまで叶え、最終的には大陸を制したときのことまで考えられているなんて、この男には私程度では勝てないのかもしれない――

 

七乃視点

 

 ――なんて周瑜さんは考えているのかもしれませんねー。この人の思考の深さと鋭さは本当に呆れるばかりですよー。いや、まぁ一応誉め言葉ではあるんですけど、一つの事柄をそこまで発展して考えられるなんて、逆に疲れないんですかねー?

 

 一刀さんは勿論そんなところまで考えていませんからねー。それは周瑜さんの過大評価です。発想力自体はいつも驚かされるばかりですけど、この人の場合は詳細に関しては私たちに投げっぱなしにしますからね。きっとこの後、私や麗羽様に泣きつくんですよー。

 

 ま、まぁ、それでも私も麗羽様も断ることが出来ないんですけどねー。本当に癪ですよねー。

 

 ですけど、実際の話、この共同統治が可能かどうかに言及させてもらえば、確かに出来なくはないですねー。この街に知識人が多く住み、そして、政に対して重要な意見を言ってくれる長老も多くいます。

 

 それに、曹操軍を撃退してから、主にこの都市の統治を任されていたのは私と麗羽様なんですけど、私たちは既に袁家の名を捨てています。それにもかかわらず、この街に住む人は私たちの正体に気付いているんですよねー。

 

 さすがに知識人が多いだけあって、かつて私たちの許に仕官に来た人もいたわけで――まぁきっと当時の私たちの政治を見て、絶望して隠遁していたんでしょうが、それでもこの街を治める者が袁家の者であると知った人は何を感じたのでしょうねー。

 

 しかも、麗羽様は一刀さんから江陵を任されたのが相当嬉しかったらしく、それはもう気合の入りっぷりったらなかったですよー。旧劉表政権下に比べても遜色ない――いいえ、それ以上の善政を布いていましたからねー。

 

 結果的にそれは袁家の信頼を大きく回復することになりましたよー。既に民たちは私たちを完全に受け入れ、きっと麗羽様が一声かければ、挙ってこの政策にも協力すると思います。最近では隠遁していた知識人たちも政に口を挟みたがっていましたからねー。

 

 そして、長老を政に参加させるという件に関しては、永安でも実は実施されていたりするんですよねー。以前は一刀さんが趣味というか、別に誰に頼まれたわけでもないのに、定期的に長老たちを訪れては意見を仰いでいたんですけど、それが意外に正鵠を射ることが多いので、もっとそれを政に反映しようというものでした。

 

 一刀さんの思い付きだったんでしょうねー。詠さんが毎日のように一刀さんに文句ばかり言っていたのを憶えています。まぁ、民を政に参加させるなんて突拍子もないことを言い出して、そのとばっちりに遭う詠さんにも同情しますけどねー。

 

 ですが、一刀さんの良いところは――自身を無能と思っているのは、あの人の過小評価なんですけど、一刀さん自身が何かを生み出すのではなく、生み出す人物を集めたり、あるいは誰かをそういう人物に変えてしまうんですよねー。

 

 その犠牲者というか相手というのは、麗羽様であったり、桜ちゃんであったりするんですけど、本来の性格を捻じ曲げてしまうことすら出来てしまうんですから、本当に驚きますよねー。

 

 そして、お嬢様もその一人だったりするんですよねー。実はその共同統治は、確かにお嬢様と孫家の姫君だから効果を発揮するんですけど、それだけではなくて、お嬢様だから上手く出来ることもあるんですよねー。

 

 お嬢様は誰よりも近くで一刀さんの政務を見ています。簡単なものから難しいものまで――しかも、一刀さんもどういうわけかお嬢様に意見を相談したりするものですから、お嬢様の思考回路はおそらくは益州でもっとも柔軟なのではないでしょうかー。

 

 お嬢様はかつて袁家の人間でした。きっと麗羽様もそうなんでしょうけど、あそこの教育は異常なまでに歪んでいます。おそらくその影響は、麗羽様よりもお嬢様の方が顕著に表れているんじゃないでしょうかー。

 

 すなわち、お嬢様の思考回路は常に誰かに依存してしまうということです。袁家に在籍していたときは老人たちの思考に、そして、今はお嬢様が誰よりも慕っている一刀さんの思考回路を、自然と読めるようになっているんですよー。飽く迄もお嬢様は無意識的にだと思いますけどねー。

 

 この全く新しい統治方法は、どれだけ民の意見を効率的に吸収し、善悪に分けた上で政に反映させられるかが肝となります。一刀さんは――つまりお嬢様も同様ですが、他人の意見は真摯に聞きますが、その善し悪しは正確に判断できるのです。

 

 お嬢様は確かに我儘で自分勝手で傍若無人な性格です――そんなお嬢様だからこそ素敵ですが、お嬢様も、孫家のお姫様がお姉さんたちのために何でもする人なのと同様に、一刀さんに喜んでもらえるなら何でもする人ですからねー。

 

「主様、妾がここを治めればよいのかえ? そうすれば主様は喜ぶのかえ?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

「分かったのじゃ。ならば妾には異論はないのじゃ」

 

 ほらね? もう既にノリノリなお嬢様ですよー。本当に、自分がこれからどれだけ苦労するかも知らずに、ただただ一刀さんのために何でも首肯するお嬢様は本当に素敵ですねー。この七乃、お嬢様に惚れ直しましたよー。

 

 と言っても、きっと私も苦労することになるんでしょうねー。荊州をお嬢様と孫家のお姫様でも統治できる環境に整えるまで、どれくらいかかるでしょうねー。それにその間に曹操軍には情報工作をしておかないといけないですし、意外と忙しそうですねー。一週間もすれば出来るでしょうが、それまでお嬢様と遊べないのは寂しいですねー。

 

 あぁ、そういえばこの話はまだ決まってないんですねー。孫家の人たちはまだ一刀さんのことをよくご存じないみたいですから、自由そうな孫策さんや、既に一刀さんの雰囲気に呑まれている周瑜さんは別にして、孫権さんなんか露骨に怪しんでいる表情を浮かべていますからねー。

 

 私としてはお嬢様が喜んでくれれば、孫家のお姫様がどうなろうとも知ったことではないんですけど、正妻の座はお嬢様が狙っているんで、縁談自体は破談にしてもらわないといけませんねー。さて、どうなるんでしょうー。

 

一刀視点

 

 さて、一応はこれで説明は終わったけど、どうだろうな。真剣には聞いてもらったけど、さすがに意見としては際どいところだろうか。今のところ賛同してくれたのは美羽だけだし、味方にしては心許ないな。

 

 雪蓮さんは意外と興味深そうに話を聞いていた。周瑜さんは驚きを隠せないといった感じか。二人とも今のところ、この話の疑問点を指摘しているだけで、直接的な批判はしていないことからして、もしかしたら賛成してくれるかもしれない。

 

 問題は孫権さんだな。考えていることが表情に出やすいのか、露骨に俺の話を怪しんでいる。最初から俺の存在自体を妖しげな者と考えていたのだから、無理もないのだろうけど、ここで反対意見をもらうとあまり良くないな。

 

 他の面々に関しては、桃香は話をあまり理解できていないのか、首を傾げてばかりいるし、朱里がその桃香に説明している。紫苑さんはそっちよりもきっと俺と尚香ちゃんの結婚の方が心配してそうだしな。

 

 麗羽さんは何やら俺に熱い視線を向けているような気がするのだが、気のせいだろうか――あれ? こんな視線をちょっと前に雪蓮さんからも向けられた憶えがあるのだけど、それはきっと無関係だよな。

 

 七乃さんはというと、これまた何とも形容しがたい表情を浮かべている。この人だけは俺の思惑に気付いたみたいだけど、それでも反対意見を出さないのは賛成してくれているからかな――まぁ、この人は美羽が良いと言えば良いのだろうけど。

 

 ちなみに俺は七乃さんに一度だけ美羽がどこかの街を治めることが出来ないかどうかを打診したことがある。美羽はニートだ。ずっと俺の政務室に入り浸っては蜂蜜水ばかり飲みたがる困った娘である。

 

 個人的にはずっと美羽をそうして甘やかせるだけなのはまずいと思っているので、七乃さんに相談したのだけど、お嬢様が城主になるのは、他にも適した人材がいる以上、序列的に良くないですねーと断られてしまった。

 

 だけど、そのとき決して七乃さんは美羽には無理だと言わなかったのだ――俺も七乃さんと話すようになって長いが、この人は思ったことははっきりと言うはずだ。あのとき俺は無理では出来ないかなと質問にしたのに対して、この回答を得たのだから、七乃さん自身は美羽に統治能力があると判断していると思う。

 

 やはり問題は孫権さんみたいだな――と思ったとき、事態は急展開を迎えた。

 

「北郷殿、私はやはり小蓮と袁術ではそんな途方もない話は無――」

 

「待ちなさい、蓮華」

 

「お、お姉様?」

 

「私は小蓮に自由に生きろと言ったわ。だから私は、これは小蓮に任せたいと思うの。小蓮、あなたはどうなの? 御遣い君の言う通りに自分が袁術と共に江陵を治められると思うかしら? それともやっぱりあなたには荷が重いかしら?」

 

「シャ、シャオは……」

 

「分かっているわね? これは孫呉と益州の将来、そして、江陵の民たちの人生に大きく関わるのよ。あなたはこれからそれを一身に背負わなくてはいけないの。あなたにその覚悟ある? その責任を果たすことが出来る?」

 

 どうやら雪蓮さんはこれが可能かどうかという議論よりも、尚香ちゃんにそれをやるだけの覚悟があるかどうかに委ねるみたいだ。真剣な表情で――それはきっと姉の雪蓮さんではなく、王としての雪蓮さんとして、尚香ちゃんに接しているのだろう。

 

 これに関しては、俺との縁談のように個人の話ではない。多くの人々の将来がそれで決定してしまうのだ。今度は、尚香ちゃんは本当に覚悟を決めなくてはいけない。間違った覚悟ではなく、本当の覚悟を。

 

「……やる」

 

「え?」

 

「シャオ、やるわっ! シャオが頑張って江陵を良くすれば、それが孫呉の評判に繋がるんなら、シャオはやるっ!」

 

 雪蓮さんの瞳を――やはり尚香ちゃん同様に澄んだ海色を湛えた綺麗な瞳を凝視しながら、尚香ちゃんはそう言い放った。その瞳にはもはや迷いなどなく、自分の無力さに諦観を抱いた姿はなかった。

 

「そう。分かったわ」

 

「お、お姉様っ!? そんな本気で――」

 

「私は小蓮を信じるわ。この娘も私の妹なら、やると言った以上は責任を果たしてもらう」

 

「ですが――」

 

「蓮華っ! 亞莎っ!」

 

「は、はっ!」

 

「は、はひっ!」

 

「蓮華はこれから小蓮に付き添って政の基本をみっちりと叩きこみなさい。それから、亞莎は袁紹と張勲の許で江陵の情報を整理しなさい。あなたにはこれから小蓮の補助役として頑張ってもらうわ」

 

「はっ!」

 

「わ、分かりましたっ!」

 

 ど、どうやらこれで決まったようだな。さすがに雪蓮さんの――王の一喝は迫力があるな。孫権さんももうこれ以上の反論は出来ないみたいだ。

 

「張昭も文句はないわね。あなたの忠誠には感謝しているわ。これからも私を支えなさい」

 

「御意に」

 

 それからは雪蓮さんの行動はとてつもなく早かった。孫権さんと呂蒙さんに速やかに今後の指示を出すように、周瑜さんにお願いすると、自身もこの共同統治に興味があるのか、城下への視察へ行くと言い出したのだ。

 

「わたくしもこれで失礼しますわ。七乃さん、行きますわよ。わたくしたちも美羽さんにきちんと引き継がせられるように準備がありますわ」

 

「はーい、ほらほら、お嬢様も行きますよー。これから大変ですからねー」

 

「うぅ、妾はまだ主様といたいのじゃ……」

 

 まだ美羽は自分がこれからどれだけ大変な目に遭うのか自覚がないな。まぁ美羽は頑張れる娘だから心配ないさ。それに麗羽さんと七乃さんも側にいるからな。

 

「ほら、尚香ちゃん、君もお姉さんと一緒に行きな。これからが大切なときなんだよ」

 

「うん。……あ、そうだ」

 

 部屋を出て行こうとする雪蓮さんと孫権さんの後を追いかけようとして、尚香ちゃんは何かを思い出しかのように、俺の方を振り返った。

 

「何だい?」

 

「そういうわけだから、シャオは一刀と結婚出来ないの。ごめんねっ!」

 

 悪戯っぽい微笑みを浮かべてそう告げた尚香ちゃんは、元気良くお姉さんたちの許へと駆けて行った。

 

 あーあ、初めて女の子に振られちゃった。だけど、それでいいんだ。この縁談は俺が尚香ちゃんに振られてしまったことで破談になった方が体裁は良いだろう。俺が孫家の姫君を振ったなんて、孫呉に住む男を全員敵に回すようなものだからな。

 

 尚香ちゃん、美羽、頑張れよ。二人ならきっとこの江陵を素晴らしい都市に発展させられるはずだから。俺はそう信じているよ。

 

あとがき

 

 第七十三話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 何故でしょう? この雪蓮たちの絡みは、前回の南蛮編よりも好評というか、支援数が高くて、いや、それ自体は非常に喜ばしいことなんですが、今回は正直なかなか危険なことをしている自覚があるので、やはり精神的には苦しいですね。

 

 さて、一応小蓮との縁談についてはこうして決着がついた形になりました。

 

 美羽と小蓮の共同統治に関して、一刀くんが提案したこととは、民を政に巻き込んだ上で、民による統治という形にしたのです。そうすることで、民自身が江陵を守ることに繋がり、曹操軍にも攻めさせないということに繋がります。

 

 まぁここは突っ込みどころ満載で、実際問題、そんなことが可能かどうかは作者自身も分からないのですが、この作品はそういう統治方法に焦点を当てた作品ではなく、執筆当初から御覧になっている方は分かると思いますが、その辺は誤魔化し誤魔化し書いています。

 

 個人的には、七乃さんが出来なくはないと言っているのですから、出来なくないです。いや、ごめんなさい。もう少し練り込むべきでした。あまり突っ込まないで下さい。いくらでも謝るので。

 

 さてさて、どうしてこんな形で纏めたのかと言うことに関して、江陵が共同統治になることによって、将来的な孫呉との戦を避けることになるわけです。これはこの物語を終える上で重要なことではないでしょうか? 

 

 明言はしませんが、もしも仮に、一刀くんたちが華琳様たちを倒したら、その後はそのまま孫呉との決戦にはなりにくくなったわけですね。

 

 それにこうしたことによって、江陵は言わば自由な街になったわけです。益州に住む者だろうが、江東に住む者だろうが、中原以北に住む者だろうが、誰でもこの街を訪れることが出来るのです。これも大事なことだったりします。

 

 まぁ、何が言いたいかというと、これがこの後の展開に繋がるわけですので、どうなるかはしばらくの間はお待ち下さいってことです。

 

 さてさてさて、とりあえずは一刀くんが小蓮に振られることによって、この話も幕を閉じてしまったわけです。今回の件で小蓮が一刀くんに落とされると思った方、残念ながら、そうはなりませんでしたね。

 

 これで全ての舞台は整いました。益州は孫呉と同盟を組んだことにより、曹操軍との決戦を迎える準備が出来たのです。これからが最後の戦いになるでしょう。

 

 ですが、その前にヒロインたちのフラグ回収をしなくてはいけません。翠と麗羽様は回収しますが、コメント欄にてご要望頂いた恋姫たちはどうしましょう。とりあえずは書けそうなものは書いてみます。

 

 では、今回はこの辺で筆を置かせて頂きます。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
71
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択