<注意>
この作品の桂花は一刀の妹という設定の為、恋姫シリーズでみられる一刀への罵声や毒は一切言いません。というよりもむしろ逆に甘えてきます。
それにオリキャラが何人も出てきます。一例として桂花の母や妹、華琳の母などまだまだ沢山出す予定です。
そしてキャラの仕官時期が違ったり所属が違ったりするかもしれません。(そのあたりはまだ未定です。)
あと一刀にオリジナル設定を設けていますので、恋姫シリーズの一刀とは身体能力や言葉遣いなど多少変わっています。ですが根本的な所は一緒のつもりです。
それと一刀には以前の記憶がありません。なぜ無いのかはそのうち出てきますのでそれまでお楽しみに♪
ですが一度読んでみてください!それで「おもしろい」と思ってさらに読み続けていただけたらうれしいです。
<王佐の才>
『帝王を補佐するにふさわしい才能(武・智)又はそれを持つ者のこと言う。(辞書引用)』
これは、平和な世を作ろうと乱世を駆け抜けた双子の男女の物語である。
話は一刀と桂花が父を探しに出発する少し前に遡る。
ここは黄巾党の青州攻略部隊大将趙弘の天幕。中では大将である趙弘と三人の黒い外套を頭から被った者が話をしていた。
「それであんたは何の用があってここに来たんだ?あんたらのいる国と俺達が攻めようとする青州とは何も関係無いはずだ」
「それはそうです。ですが我が主にとって青州に多少思い入れがありましてね」
「思い入れ、だと?」
「ええ、まぁ青州というよりも青州にいる者に、ですがね」
「では今回来たのはそいつと関係が?」
「実はそのことで趙弘殿にお願いがありまして…」
「ふむ、それは内容によるな」
「簡単な話です。人を殺してもらいたいのです。“荀鳳”という斉南国の太守の長男をね」
「しかもただ殺すのではなく絶望させてから殺してもらいたいのです。それこそが我が主のただ一つの願いなのです」
「なるほど、そいつはおもしろい。だがな…」
「もちろんタダでというわけではありません。協力をしていただけるのでしたら資金と食料、そして私どもの部下をお貸しいたしましょう。どちらも優秀なので青州攻略の手助けになるかと…」
趙弘は少し考えたあと、笑いながら答えた。
「がはははははっ、いいだろう。その依頼引き受けてやろう!!」
「ありがとうございます。ではこちらの二人をお貸し致しましょう。実力は折り紙付きなので趙弘殿もきっと気に入るかと。二人共前へ」
「「はっ」」
後ろに控えていた二人が前にでた。
「右の者が『黒影』左の者が『白影』と申し、黒影は武に、白影が智に長けております。どうぞご自由にお使いください」
「ふん、能力が高いのはいいが名前は偽名か…」
「申し訳ありません。なにぶん我々は素性を知られるわけにはいかないもので…」
「まぁいいさ。俺様の役に立つのならそれで」
「そう言ってもらえると助かります。それでは私はこれで失礼させていただきます。このことを主に報告しないといけませんのでね。では二人共、あとを頼みましたよ」
「「御意!!」」
そう言うとその者は外に出ていった。
「さてと、それじゃあまずは白影と言ったか?お前の考える策とやらを聞こうか」
「はい。それは……」
時は戻って一刀と桂花が出発したあとの斉国。その執務室では夫の行方不明の知らせを受け一度は挫けそうになったがなんとか子供達のお陰で持ち直した凛花の姿があった。
今は先ほど一刀から届いたこの城へ黄巾党が攻めてきているという知らせをうけ、急ぎ戦の準備と避難してくる村人達の対応をしていた。
「え~っと、おそらく糧食は倉庫にあるのだけでは足りないから商人から買って…武器も多分今あるのだけでは不十分だから一通り買い揃えないと駄目ね……う~ん、やっぱり役人達が横領したお金を全て回収できなかったのが痛いわね。それで避難民はとりあえず(コンコン)どうぞ」
「大変です凛花様!!」
入ってきたのは風里だった。だがその表情は険しく、何か良くないことが起きたのだと容易に想像できた。
「どうしたの?」
凛花もその空気を感じ取り真面目に答えようとした。だが…
「実はふみゅっ!?」
ペタン☆
風里は可愛い音をだして転んでしまい、一緒に持ってきていた書間をばら撒いてしまった。しかも同時に風里の連れてきた緊迫した空気が一瞬でどこかに行ってしまったのだった。
「まったく風里ったら、私はどこへも行かないんだからそんなに慌てたら駄目よ?ほら、つかまりなさい!」
「ふみゅ~~~ありがとうございます凛花様…」
「別に気にしてないからいいわよ。それよりも一体どうしたのよ?」
「あっ!そうでした。実は焦和と名乗る方が何進将軍の署名入りの書状を持って訪ねていらして…」
「焦和……聞かない名前ね?でも何進将軍の署名入りの書状なんて持ってこられたら断るわけにもいかないわね。いいわ、すぐに行くから玉座の間に通しておいてちょうだい」
「ぎょ、御意です!」
そのあと凛花が準備をしてから玉座の間に向かったのだが、玉座の間に入ろうと扉に手を掛けた時、
『ふみゅ~~~!?そ、そこで何してるんですかぁ!!』
いきなり中から風里の焦った声が聞こえてきた。
「風里、一体どうしたの!!って、えっ!?」
その風里の声に驚いて急いで入った凛花だったが部屋に入って中の光景を見て言葉を失くしてしまった。なぜなら、
「案外来るのが早かったね。それで貴女が荀緄さん?」
焦和と名乗る男はあろうことか風里の注意を無視して堂々と玉座に座っていたのだ。
「そうですが…」
「そうですか。それはよかった♪」
「凛花様ぁぁ申し訳ありません。中に通したらこの方がいきなり玉座に座ってしまいまして…」
「そう、ご苦労様風里、あとは私がやるわね。それで、焦和さんですね?そう言う貴方こそそこで何をしているのです?そこは玉座、この城を治める者だけが座ることを許される神聖な椅子。何進将軍の署名の入った書状を持っている方とはいえ許されることではありませんよ?」
凛花は怒りたいのをぐっとこらえ、冷静になって尋ねた。
「何ってそんなの決まっているじゃないですか。座っているんですよ。“私の玉座”にね♪」
「ちょ、ちょっと待ってください!私の玉座って…一体どう言うことですか!!詳しく説明してください!!」
「ふふっ、その話は揃ってからのお楽しみですよ」
「それってどういう…」
「お話中失礼します。焦和様、言われた通り荀緄殿の臣下達をお連れしました!」
「貴方一体何言って…」
凛花は兵士の言葉に耳を疑った。たった今、兵士は凛花には“殿”をつけて呼び、焦和を“様”づけで呼んだのだ。この国の州牧である凛花にではなく、外からやってきた男に…。
そのことに驚いていると兵士の後ろから琴に美雷、それに鏡佳達侍女と近衛兵達と斉南国の頃から仕えていた者達がやってきた。
そして全員揃ったのを確認した焦和は玉座から立ち上がり話し始めた。
「みなさん初めまして。まずは自己紹介を、私の名は焦和と申します。そしてこのたび荀緄殿に代わり私が斉国ひいては青州の新しい州牧に就任したことをここにご報告させていただきます!!」
『!?!?』
「つきましては「ちょっと待ってください!!」はい?あぁ、荀緄殿どうかしましたか?」
「どうしましたかではありません!!私はつい先日この地に赴任するよう言われているのですよ?それなのにひと月も経たずに交代だなんておかしすぎます!きっと何か手違いが起きたのではないでしょうか?」
「いいえ、間違いなどではありませんよ。これは正式なものなのです。それが証拠にほら、この書状に全て書いてありますからどうぞお読みください」
そう言って焦和から指し出された書簡を読んでみると確かに大将軍何進が焦和を青州の州牧に任命する旨が書かれていた。しかも玉璽、つまりの帝の印もしっかりと押されていた。
「確かに書いてあります…なら私達はどうなるのです?元いた斉南国は後任の太守に任せてきてしまったのでもう戻ることはできません。それに私が個人で連れてきた兵や将、侍女達は一体どうすればいいのです!それに攻めてくる黄巾党と避難民の対応などもまだ……」
「ああ、そのことならご心配なく。私が引き継ぎますので何も問題はありませんよ。それと兵や侍女達のことなら安心してください。この城を出て行くのは貴女と貴女の家族だけですから」
「なっ!?」
「つまり、貴女の連れてきた将と侍女は私が引き取るということです。どうやら将も侍女も優秀なようですからね。私が有効に使わせてもらいますよ」
「少しよろしいでしょうか?」
すると焦和の言葉に耐えかねて琴が声をあげた。
「貴女は?」
「私は鄧艾と申します。荀緄様の軍で第二部隊の隊長を務めさせていただいている者です」
「そうですか!貴女が鄧艾さんでしたか武勇は聞いていますよ。それで?」
「はい。ではお聞きします。あなたは我々を引き受けるとおっしゃいましたがなぜ荀緄様達荀家の方々は置いては頂けないのでしょうか?」
「なんだそんなことですか…」
「そんなことって!」
「簡単な話です。元々そういうやくそ」
「「(あっ!?)」」
「いえ、何でもありません。簡単な話ですよ。荀緄殿、貴女がいつまでもここにいられては私の統治に支障をきたす恐れがある。だからこの城から出て行ってもらうのですよ」
「そんな理由で…」
「それにすでにこの国の人事の決定権は私にあるのです。誰にも文句は言わせませんよ」
焦和はにやりと笑いながらそう言い放った。
「そうですか……わかりました。ならば私も荀家方々と一緒にここを去らせていたただきます」
「なんだと!?貴様正気か!!」
「はい。元々私は荀家に拾われた身、ですから私の生きる意味は最初から荀家の方々に仕えることのみ。なのでそのお話は辞退させていただきます」
「琴…」
すると後ろで控えていた鏡佳が前に出てきた。
「私達侍女、そして近衛兵一同も鄧艾様と同様、最後まで荀家に付き従うだけですので私達もそのお話しお断りさせていただきます!」
「なにぃ!?お前達もだとぉ!」
焦和は琴達の言うことが理解できなかった。なぜなら焦和は全員喜んで前の主を捨て、自分の下に来ると思っていたからだった。
「くっ、ならお給金はそいつの所いた時の倍は出してやる!それなら文句はないだろう?」
「申し訳ありませんがお金では私達の心は変わりません」
侍女と近衛兵達は全員首を縦に振り、鏡佳の言葉を肯定した。
「くっ!」
「はーい!私と風里ちゃんは荀緄様の息子の荀鳳様に一生仕えるつもりだからあなたの所になんて行きませよ~だ!!」
「…うん!」
すると美雷と風里も声をあげた。まあ二人の場合、荀家というよりも一刀個人に仕えているので断ったのだが…
「くっ、減らず口を!!つまり全員私の臣下にならずに最後までその女の下に居続けるつもりだというのだな!!そいつにはもはや帰る国も家も何も無いのだぞ!!」
『はい』
「もういい!!ならお前達全員今すぐにこの国から出て行け!!折角私が救ってやろうというのに…ぶつぶつ……」
それだけ言うと焦和は顔を真っ赤にして玉座の間から出ていった。
「はぁ~、大変なことになったわね…それにしても貴女達、本当にそれでよかったの?私達は帰る家がないし貴女達に払うお金も無くなってしまったのよ?それなのに…」
「凛花様、気にしないでください。我々は好きで貴女様のお側にいると決めたのです。それに先ほども言いましたが元々私は凛花様と空夜様に拾われた身、お二人は既に私にとって親にも等しい存在なのです。だからどうか最後まで荀家の皆様のお側に居させてください」
「そうですよ荀緄様!」
「最後までお供します!」
「そうですよ。しっかりお世話させていただきます!」
「……あなた達。みんなありがとう!」
凛花は皆の温かい気持ちに涙を流しながら感謝の言葉を述べたのだった。
「あの~、凛花様」
「風里も美雷もありがとうね」
「ふみゅ~~、い、いえ、そんな///」
「風里ちゃん!」
「そ、そうだった!こほん、実は一つ気になることがあるんです」
「気になること?」
「はい。凛花様はさっきのあの人が口を滑らせた“約束”って言葉どう思いますか?」
「そのことね。実は私もさっきの言葉が引っかかっていたのよ」
凛花は風里の頭を撫でていた手を引っ込め、先ほどの言葉について考えた。
「それなら私にも聞こえました!」
「それで前後の話から私なりに推測して見たのですがおそらくあの人、焦和さんは実力でなく、誰か他の者の手引きによって青州の州牧に就任したのではないでしょうか?そして州牧になる条件の一つとして凛花様達荀家の皆様をこの城から追い出すことが含まれていた」
「そうね。確かにそれなら辻褄が合うわね」
「じゃああの焦和って人、実力で州牧になったんじゃなくて他人のおかげでなったんだ!」
「でもそうなるとあの男を影で糸を引いている者はかなりの権力者ということになるわね。州の州牧なんてお金を積むにしても地位の低い役人や官僚では簡単にどうこうできる代物ではないわ。九卿以上…それとも帝の親族かしら?」
「でもそんな大物が一体何の目的があって凛花様達を追い出そうとするのでしょう?」
「もしかして凛花様達が邪魔だから、とか?」
「それだったら暗殺とかのほうが確実だよ美雷ちゃん!」
「あっ、そっか!」
「(………まさかね)」
「風里ちゃん?」
「ううん、なんでもないよ!」
風里はある一つの可能性が浮かんだがそれは無いだろうとすぐに否定し、頭の中から追い出した。
「とりあえず私達を陥れた相手が誰であれ、起きてしまったことはしょうがないわ。だから今はその話はここまでにして、これからのことを話し合いましょう」
『はい!』
こうして城を出ることになった凛花達は話し合いをしたあと各自で荷造りと資料整理をするため解散した。
そしてその夜、
「すみません凛花様。少しよろしいでしょうか?」
部屋で荷造りをしている凛花の下に風里が訪ねてきた。
「風里?いいわよ、入りなさい」
「失礼します。お忙しい中、申し訳ありません」
「一段落した所だから大丈夫よ。それで?私に何か話しがあるのでしょう?」
「は、はい…そ、その、凛花様にお願いしたいことがありまして…」
「お願い?」
「実は城から持ち出す荷物の中に弓と矢を余分に手配したいのでその許可をお願いしたくて…」
「弓と矢を?それは構わないけど……何か理由があるのでしょう風里?」
「確証は無いのですが…」
「貴女の考えを聞かせて」
「はい、今回の一件なんですが私にはどうも話が出来すぎている気がするんです」
「出来すぎている?」
「はい、凛花様の昇進から始まり、空夜様の生死不明と第一部隊の全滅。そして黄巾党の大群の接近に極め付けが半月も経っていないのに州牧の交代。たった一月たらずの間に起こる出来事にしては少々不自然かと」
「そう言われてみればそうね…ってことはもしかして!?」
「我々を始末しようと何者かの待ち伏せがある可能性があります。現に今の我々の戦力は斉国に来た時の半分以下にまで下がっています。この状態で黄巾党や敵軍に襲われでもしたらひとたまりもありません。なのでどうか…」
「わかったわ。武器の手配を許可するわ」
「ありがとうございます。でも私の思い過ごしだといいのですが…」
「そうだったら笑い話で済むだけよ。それに私としてはそう願いたいわ」
「そうですね」
「それじゃあ頼んだわよ風里」
「御意!!」
そう言って風里が出て行くと凛花は溜め息を吐き、
「本当に、ね………」
そう呟いた。
翌日、荷造りを終えた凛花達は追い出される形で城を出た。しかもこの城に来た時よりも荷物は少なくなっていた。なぜなら家具や家財道具など大勢の人手が必要なものや、国に関する極秘資料などは持ち出せないため置いていくしかなかったからだった。
「それじゃあまずは一刀と桂花と合流しちゃいましょう。知らせがあったのは一昨日のことだから村人を連れているとはいえもう近くまで来ているはずよ。それで合流して村人を無事城まで送り届けたら陳留に行きましょう」
玉座での話し合いの結果、一刀と桂花と合流し、村人を城まで送ったあと琳奈や華琳達のいる許昌に押しかけることになった。
と言っても居候ではなくきちんと志願してである。
「はい……」
「みんなそんなに落ち込まないの。確かに私だって悔しいわ。でもね、悔やんでいたって何も始まらないわ。だから前を向いてこれからのことについて考えていきましょう!」
「そう…ですよね」
「えぇ……」
優しく風里に微笑みかける凛花だが本当は不安があった。行方不明の夫、空夜の安否、それに昨日風里が言った待ち伏せのこと、そしてこれからのこと……無事に一刀と桂花と合流できたとしても問題は山積みだった。
「(弱気になっては駄目ね。私は荀家の当主。私達を慕って付いてきてくれたみんなの為にもしっかりしないと!!)」
気合を入れた凛花はみんなに向かって叫んだ。
「それじゃあ出発するわよ!!」
『御意!!』
こうして一刀と桂花と合流しようと移動を開始した凛花達だったが、やはりそう都合よく合流はさせてもらえなかった。
「ご報告します!!前方二里先に黄巾党あり!!数はおよそ二千!!」
「そう…」
「やっぱり来ましたね…」
「ふみゅ~~、危惧してた通りになっちゃったよぉ~~~~~!!」
「落ち着きなさい風里。それにしても本当に貴女の予想通りになっちゃったわね」
「はい……」
「大丈夫よ。こんな時の為に色々準備して来たんだからきっと私達は勝てるわ」
「は、はい!」
そう答えた風里の瞳にはさきほどの返事の時には無かった力強さというものが感じられた。
「そう、それじゃあ風里、みんなへの采配は任せたわよ!!」
「はいです!!すーーは~~~。で、ではまずは部隊編成を発表します!まずは左翼ですが琴様お願いします!」
「御意!」
「それで琴様の兵ですが近衛兵達の中の騎馬隊を率いてください」
「わかった」
「そして右翼は美雷ちゃん」
「まっかせて♪」
「で、兵だけど美雷ちゃんには歩兵部隊を率いてもらうね!」
「了解だよ~♪よ~し、歩兵隊集~合!!」
「おう!!」
兵も含め全員が冷静に風里の指示に従っているのには訳があった。実は城を出てすぐに凛花は全員に昨日の風里の考えを聞かせ、それぞれに待ち伏せの可能性を伝えていたのだった。
だからみんな焦ることなく冷静になって迎撃に出ることができたのだった。
「次に本陣ですが大将は凛花様、軍師は私がします。そしてここの兵は近衛兵の弓矢隊。ちなみに弓矢隊への指示は私がしますのでよろしくお願いします!」
「御意!!」
「そして弓矢隊には侍女の方たちも加わります。昨日戦闘に参加してくださると言ってくれた方々お願いします!」
「お任せください!!」
そう言ったのは鏡佳達侍女達数名だった。実は昨日あの後、風里は侍女達の所を回り明日もし戦闘になった場合、臨時の弓矢兵になってくれるか頼んでいたのだった。もちろんこのことは兵達にも話しておいた。もし本当に戦闘になった場合、いきなりだと連携が取れないからである。初めは渋った彼らだが、もし戦闘になった場合人数が少しでも多い方が楽になるので最終的には了承してくれたのだった。
「みなさんありがとうございます!!隊列ですが各列に三~四名ほど侍女達臨時弓矢兵が入ってください。正規の弓矢兵のみなさんお手数ですがよろしくお願いします」
『御意!!』
「そして残った侍女のみなさんは弓矢の補給や衛生兵として後方支援をお願いします」
『かしこまりました』
「これで配置は決まったわね。とても厳しい戦いになるけど私達はこんなところで負けるわけにはいかないわ!だから必ず奴らを倒すわよ!!」
『おう!!!』
「御意!!!」
「では騎馬隊は私と共に左翼に突撃する!この命にかえて主と仲間を護るぞ!!」
『おう!!』
「よし!鄧艾隊突撃ぃぃーーー!!」
『うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
琴は自らの武器『旋陣双牙』を持ち騎馬隊と共に突撃していった。ちなみに『旋陣双牙』とは普通の剣よりも長い刃が前後についている琴専用の武器である。
「私達だって護りたい気持ちは負けないよね!」
『おう!!!!』
「あははっ、いい返事だね♪それじゃあ、鐘会隊も突撃だよぉーーーーーーっ!!!」
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
美雷も自らの武器『武刃』を持ってこちらも歩兵達と共に突撃していった。この『武刃』も琴の得物と同様、美雷専用武器で、前は大きな偃月刀、後ろには金棒のような打撃武器のついている斬打両方の攻撃が行える特注の武器である。
「では、前衛が敵と衝突する前に一当てします。みなさん敵に向かって一斉に矢を射ってください!!」
『はい!!』
風里がそう叫ぶと正臨両方の弓矢兵達が黄巾党に向かって一斉に矢を射った。
シュバババババババッ!!!!
『ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』
『ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
「もう一度です!!!」
『はい!!』
シュバババババババッ!!!!
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』
『ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
「三射目は指示があるまで射らないでくださいね!黄巾党と交戦している仲間達にも当たる可能性がありますから!!」
『御意!』
『はい!!』
「後方支援のみなさんは矢や医療道具などをそれぞれ持っていってあげてください!」
『かしこまりました!』
『御意!!』
「蘭花、貴女は私の後ろから絶対に離れては駄目よ!いいわね?」
「う、うん…」
そう言う蘭花の声には力が無く微かに震えてもいた。あの時、城門では啖呵を切ったものの実際にまだ戦場というものを経験したことが無い為、この戦場の空気に押し潰されそうになっていた。
「いい子ね。貴女達!蘭花のこと任せたわよ」
『はい!!』
そのことを理解している侍女達は蘭花を囲むように集まりなるべく戦の場面を見せないようにしていた。
こうして始まった『荀緄軍』対『黄巾党』の戦いは兵数こそ黄巾党の方が多いものの策と将達の質で荀緄軍が勝るため一進一退の攻防が続いていた。だがこのまま時間が経てば数では押し切られるのは目に見えているので風里は次の一手を打とうと指示をしようした。しかし…
「報告します!鄧艾隊、鐘会隊共に負傷者が増えてきた模様、ですので次の手の指示を欲しいとのことです!!」
「わかりました。なら部隊を合流させて「(ガサッ)」えっ?」
「荀緄覚悟!!」
「なっ!!!」
なんと横にある茂みから黄巾党が出てきてそのまま凛花に向かって飛び掛ってきた。もちろんその手には剣が握られており真っ直ぐ凛花の心臓を狙っていた。
「ふみゅ~~~~!!凛花様ぁぁぁ!!」
「母様ぁぁ!!!!」
風里と蘭花はいち早く異変に気が付いたのだが体が動かず、ただ声を出すことしかできず、また周りは二人の声でようやく事態を把握したため、反応が遅れていた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!」
「(もう駄目!!!)」
凛花は自らの死を悟り目を瞑ったが……
「…………………………………………あれ?」
凛花は一向に衝撃がこないのでそっと目を開けてみた。すると目に飛び込んできたのは、
「……………………」
凛花の足元で頭を矢で一突きされ死んでいる黄巾党の姿だった。
「えっ?これって…」
「母゛様゛ぁぁぁぁぁ!!」
「蘭花…」
「凛花様ご無事でなによりです。ですが一体誰が…」
「それは……私にもわからないわ」
凛花は泣いている蘭花を抱きしめながら、風里は足元に転がっている黄巾党の死体を見ながら誰の仕業か考えていた。すると、
ジャ~ン、ジャ~ン!!
「「「!?」」」
すると突然、後方から銅鑼の音と共に武装した一団が凛花達のところにやってきた。そしてよく見ると漆黒の旗に紫色の【曹】の文字、つまり…
「危機一髪だったわね凛花♪」
「琳…奈?」
なんと凛花を助けたのは凛花の親友で「元」陳留の太守であった曹嵩こと琳奈だった。
「はあ~い♪そうよ、貴女の親友琳奈ちゃんよ♪」
「琳奈!?貴女なんでここに?……いいえ、それよりも先にお礼を言わないとね。ありがとう。貴女のお陰で命拾いしたわ」
「そんなの当然じゃない♪気にしないでよ!それじゃあ詳しい話を聞きたいから彼らには退場してもらいましょうか♪」
「ええ!!」
すると急に琳奈の目が鋭くなり、後ろを振り返って従えてきた兵達に向けて叫んだ。
「いいか、みなの者!!敵は我が友を暗殺しようとした外道どもだ!!遠慮はするな!八つ裂きにしろ!!目にものみせてやれ!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「風里!伝令を前線に送りなさい。援軍が来たから共に連携して黄巾党を殲滅しなさいとね!」
「御意です!!」
「「全軍突撃ぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」」
そのあとの展開は早かった。琴と美雷達は琳奈が連れてきた兵と協力してものの一刻半たらずで黄巾党を全滅させてしまった。中でも特に凄かったのは琳奈で、彼女が戦場に立つや否や、
「私の大切な親友を襲う外道はこの私があの世に送ってあげるわ!!!!!」
「なにを!こしゃぎゃあぁぁぁぁ!!!!!!!!!
「あはははははははっ!!!!私の前にいると死ぬわよ!!!ほら、ほら!!!!!」
ズバッ!!ザシュッ!!
「ぎゃああぁぁぁぁっ!!!」
「ぐあああぁぁぁぁ!!!!」
琳奈とほぼ同じ大きさの巨大な鎌『刹』を振り回し黄巾党を片っ端から切り殺していったのだった。
「ありがとう琳奈。おかげで助かったわ」
「何言ってるのよ♪そんなの当たり前のことじゃない♪」
「ふふっ、それにしても貴女の“死神”の通り名、未だに健在だったわね」
「当然よ、家督は華琳に譲ったけど武人としてはまだまだ現役のつもりよ♪」
「あら、家督もう華琳ちゃんに譲ったの?それでその華琳ちゃんと側近の二人はどうしたのよ。今回は一緒じゃないの?」
「ああ、あの子達なら漢王朝から黄巾党討伐の命が出たからそっちに行ってるわ。そんなことよりも詳しく話してもらえるかしら凛花?太守である貴女がなぜ少数で、しかも侍女連れで行動し、その上戦闘まで始め、そして更にその非戦闘員である侍女の娘達までもが戦っていた理由をね。あの時私が来なかったらみんなここで死んでいたかもしれないのだから当然その権利はあるわよね?」
「そう、ね。どこから話せばいいのかしら…」
それから凛花は琳奈に今までのことを話した。突然州牧に任命されたこと、引っ越ししてすぐに偵察に行ったはずの空夜の部隊が生死不明になったこと、そしてそれを確認しに一刀と桂花が出掛けたあとすぐに新しい州牧が来て城を追い出されたことなどここ最近起こったことは全て話した。
「そんなことがあったの……」
すると今まで話していた凛花が急に琳奈に抱きついた。
「ちょ、ちょっと凛花!?い、いきなりどうしたのよ……って凛花?」
「少しの間だけこのままでお願い。すぐにいつもの私に戻るから今だけ、今だけだから…」
「うん、わかった」
「ありがとう」
琳奈はそっと凛花を抱きしめ頭を撫でてあげた。夫の生死不明の知らせ、未だに帰らない息子と娘の安否、そしていきなり居場所を奪われた悔しさと悲しみ…それら全てのことを抱え、それでも皆を引っ張っていかなければならない上に立つ者の責任と重圧を抱えた凛花には心安らぐ暇もなかった。だから唯一同じ経験を持ち、なおかつ親友である琳奈の登場で張り詰めていた糸が緩んでしまったのであった。
「琳奈ありがとう。おかげでスッキリしたからもう大丈夫よ」
「そっ、ならよかったわ。それで?これからどうするの?」
「とりあえず今はあの子達と合流したいわ。それでその~、そのあとのことなんだけど…お願い!私達を凛奈の所で客将として働かせてくれない、かな?」
「ん?いいわよ」
「え!本当にいい、の?」
「当然じゃない!むしろ大歓迎よ!!凛花がうちに来てくれたらなら一緒にお酒飲んだりお話したり狩りをしたり……ふふっ、楽しくなりそうね♪」
「ありがとう琳奈!」
琳奈の申し出に感極まった凛花は思わず抱きついた。
「ふふっ、そんなの気にしないで。私達親友で戦友でしょ?」
「うん」
「よ~し!そうと決まったら早く二人を見つけて許昌に帰りましょう♪」
こうして一刀と桂花を探し始めた凛花達だったが二人を見つけるのにさほど時間は掛からなかった…
「申し上げます!」
琳奈の連れてきた偵察の一人が戻ってきた。
「報告を」
「はっ!臨藩城の近くで村人と思われる人々を連れた一軍を発見致しました」
「そう、それで?その一軍の中に『荀』と書かれた旗はあったの?」
「はい、ありました」
「!?」
「よかった~!!」
「ほっ」
凛花達はその言葉を聞いて安心し、大きく息を吐いた。しかし兵士の報告はそれで終わりではなかった。
「ですが『荀』と書かれた旗の本数が聞いていた二本ではなく一本、しかも牙門旗は無く【荀】と書かれた薄い緑色の旗が一本だけだったのですが…」
「そんな!?」
『えっ!?』
「そう、わかったわ。ご苦労様。休んで構わないわ」
「いえ、まだ報告が」
「あら、まだあるの?」
「実は【荀】と書かれた旗の他に黄色い【袁】の牙門旗、それに緑の【文】と紺色の【顔】を確認しました」
「黄色い【袁】…(ってことは揚羽かしら?でも確か揚羽は黄色だけではなくて朱色も入っていたはずよね?う~ん、なら娘の麗羽ちゃんかしら?)」
ちなみに揚羽(あげは)とは麗羽(袁紹)の母親である袁逢の真名である。そして彼女も琳奈同様娘の麗羽に家督を譲り、一線を引いているらしい。
「凛花はどう思」
ふと横にいる凛花達のほうを見るとそこにはすでに凛花達の姿は無かった。どうやら琳奈が考え事をしている間に行ったようだ。少し先に馬に乗った集団が駆けていくのが見えた。
「あらら、まあしょうがないわよね。それで報告は以上かしら?」
「は、はい!」
「そう、ご苦労様。下がって結構よ」
「はっ!」
「それじゃあ私達も行きましょうか」
そうして琳奈も兵を率いて凛花の後を追いかけた。
~臨藩城城門前~
村を出ておよそ二日、途中一刀が黄巾党を足止めをしたおかげで桂花と麗羽は無事黄巾党に襲われずに城まで辿り着くことができた。このあと凛花に事の経緯を報告したらすぐに一刀の応援に行こうと考えていた二人だったが…
「ちょっと!!なんで村人達は入れるのに私達は中に入れないのよ!!私達は母に火急の用があるの!!だからさっさと通しなさいよ!!急がないとお兄様が…」
「そうですわ!!どうしてわたくし達は入れてくれないのです!!」
「申し訳ありませんがそういう命令なので…」
そう言う門番の兵士の横を村人達と荷物が城の兵達によって中に入れられていた。しかも、半ば強制的に城に入れられているため桂花達にお礼を言おうと村長が戻ろうとしても戻らせてもらえないようだった。
「そういう命令って私はこの城の州牧、荀緄の娘である荀彧よ!娘に母様がそんな命令するなんて…」
「何を言っているのです?命令を出したのは荀緄殿ではありません」
「「えっ!?」」
「今の州牧は焦和様です。荀緄殿は州牧を解雇させられ今朝方ここを発たれましたのでもうここにはおりません」
「「………」」
門番の思いもしない言葉に桂花も麗羽も言葉を無くしてしまった。特に桂花にとって半月という短い間ではあったが暮らしていた我が家が偵察から帰ってみると家族はいなくなっており、しかも自分達の代わりに別の人物がこの国を治めている。そんな現実をつきつけられればそうなるのは当然のことであった
「そういうことですのでどうかお引取りください。さもないと…」
そう言うと中から兵士が武器を持って出てきた。全員本気の目で武器を構え、合図があれば即攻撃に移れる状態だった。
「実力で排除することになりますので」
「わたくし達とやる気ですの?いいでしょう、格の違いというものを」
「麗羽、行くわよ」
「見せて、えっ?け、桂花さん今なんて…」
「ここから離れるって言ったのよ。母様達がここにいないのならもうここに留まる意味はないわ」
「あー、それもそうですわね。おーっほっほっほっほっ!では全軍反転!この場を離れますわよ!!」
こうして袁紹軍、荀鳳軍共に城を離れていった。
「これで我々の任務は終わりだ。後は彼らがやってくれる…」
「そう、ですね。ですがこれで本当によかったのでしょうか…」
「私だってこんなことしたくなかったさ。だがしょうがないだろう?我々は所詮一介の兵士にすぎないんだ。それに我々には家族を養っていく義務がある。彼女達には申し訳ないが命令に背くことなんて最初からできないんだよ…」
「それはわかっています。ですが…」
「それ以上言うな!それ以上言うと私はお前を反逆罪で捕まえなくてはならなくなる。私にそんなことをさせるな!!」
「も、申し訳ありませんでした!」
「いや、私もつい怒鳴なってしまった。とにかく、我々にできるのは元主達が無事に逃げてくれることを祈るだけだ」
「ですね…」
そんなことを兵士達が言っていたとかいないとか…
一方、城から離れ、少し開けた所までもどった桂花と麗羽達はというと…
「麗羽、実は話しがあるの」
「奇遇ですわね。わたくしもありますわ!」
「なら先に言わしてもらうわ。……お願い!!お兄様を助けるのに力を貸してちょうだい!!」
突然桂花が頭を下げて麗羽に頼みごとをした。
「け、桂花さん!?」
「悔しいけど私達だけの軍じゃ人数が少ない武器も最低限しかないの。だから…」
「ふふっ…」
「ちょっ!?何がおかしいのよ!!こっちは真剣に頼んでいるのに…」
「失礼しましたわ。別に笑ったわけではありませんのよ。ただ考えていることが同じだったからつい」
「…麗羽?」
「わたくしもそれを提案しようと思ってたのですよ。それで?ご家族のほうはいいんですの?」
「大丈夫よ。戦力的に欲しいところではあるけど今は一刻も早くお兄様を助けに行くのが先決よ。それに母様には琴や風里や美雷が付いてるから心配ないわ。みんなとはお兄様を助けてから合流すればいいわよ」
「それもそうですわね。ではお国は?」
「別にあの国に未練なんて無いわ。私の故郷はあくまで斉南国だけよ」
「そうですか。なら我々は一刀さんを助けに行きしま」
ガサガサッ!!
「おや?」
『うおぉぉぉぉ!!』
「な、なんですの!?」
麗羽が話している最中、いきなり大きな叫び声と共に四方の草むらから黄巾党が飛び出してあっという間に桂花達を取り囲んでしまった。
「て、敵襲!?斥候と見張りは何をしていたのですの!!」
「斥候は誰も帰ってきてないから多分全員消されたんでしょ?見張りはおそらくぼんやりしてて見逃したんじゃない?」
「きいいいぃぃぃぃぃ!!使えませんわね。一体どこの兵ですの!!」
「アンタの兵よ」
「えっ?あっ、お、おほほほほほっ!!まあそんなことはどうでもいいですわ!!」
「良くないわよ!!まったく」
「チッ、黄巾党か!ったく、こんな時現れるなんてツイてないぜ」
文醜こと猪々子がそう言いながら背中に背負っていた大剣を抜いて構えた。
「麗羽さまと桂花さんはお下がりください!!みんな、袁紹様と荀彧殿をお守りしてください!!」
『ぎょ、御意!!』
顔良こと斗詩も麗羽と桂花の周りに兵を移動させ、自分は大槌を構えた。
だがすぐに戦闘になると思いきや突然黄巾党の群れが二つに割れ、そこから厳つい男がやってきた。
「わははははっ、俺様はこの隊の大将白波様だ。おい、そこの小さいの!!お前が荀彧か?」
そして桂花を指名してきた。
「小さいって言うな!!で、そうだったら一体なによ?」
「そうか、お前か!なら話しは早い、別にお前に恨みはないがここで死んでもらうぞ!」
「私を殺す?はっ、誰がアンタみたいな木偶の坊なんかに殺されるもんですか!やれるものならやってみなさいよ!!逆に返り討ちにしてあげる」
そう言うと桂花は上着から折りたたみ式の棍『鳳支連牙』(ほうしれんが)を取り出しあっという間に組み立てると目の前の男に向かって突き出した。
実はこの『鳳支連牙』、兄の黒牙刀と同じ木が使われている。と言っても全部同じだと重すぎて振り回すのはおろか持ち運ぶ事すらできないため、全体の一割程度にしか使われてはおらず、それ以外は軽くて丈夫な他の木でできている。しかし、桂花にとって大好きな兄と同じ素材を使った得物のため人一倍愛着があるので、兄同様肌身離さず持ち運んでいるのだ。
「わっははははははっ!威勢がいい小娘だな!ではお望み通り殺しにしてやる!野郎共!!やっちまえ!!!」
『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!』
「ふんっ!私の邪魔するなら一人残らず蹴散らすまでよ!麗羽!!」
「そうですわね。わたくし達は先を急いでいますからさっさと片付けて一刀さんを助けに行きますわよ!!猪々子、斗詩、やぁっておしまい!!」
「「あらほらさっさ!」」
だが麗羽の号令にノリノリで答えた二人が兵士達と黄巾党に向かって突っ込もうとした瞬間!
ジャーン♪ジャーン♪
『撃てーーーーーー!!!!!!!』
シュバババババババッ!!!!!!
突然黄巾党のさらに後方から銅鑼の音と共に矢が黄巾党目掛けて降ってきた。
「うあああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
当然矢が当たった黄巾党の賊達は次々と倒れていき、あっという間に元いた人数の半分以下にまでなってしまった。
「こ、これは一体……」
「あの銅鑼の音……もしかして」
「な、なんだ!?一体どこから……」
「私の娘に手を出すなんていい度胸じゃない。覚悟はできているんでようね?」
すると白波の後ろに槍を構えた凛花が立っていた。
「母様!!」
「お義母様!!」
「ちょっと!?誰がアンタのお義母様よ!!寝言は寝て言え!!」
若干ゆるい空気が桂花と麗羽に流れるが白波にとっては一大事だった。
「なんで荀緄がここにいるんだ!奴の話しだとすでに始末されているはず…それなのに……聞いてないぞこんなの!!」
「へ~これを命令した奴がいるの?ならそいつが誰か教えてもらおうかしら?琴と美雷!!」
「誰が…うっ!?」
凛花の言葉で一瞬で間合いを詰めた琴と美雷が白波を地面に組み伏せた。
「うげぇぇ!?ちぃ!お、お前ら俺様を…」
白波は助けを求めようと周りを見るが他の黄巾党も全員すでに倒されていた。
「そ、そんな…」
戦闘が終了したのを確認すると桂花と麗羽は凛花と合流した。
「母様、無事で良かったです!!」
「貴女達も無事で何よりだわ。でもその前に…」
優しい笑顔を桂花達に向けたあと、凛花は捕まえた白波に目を向けた。
「さて、さっきも言ったけど、私達を襲うよう命令したのはどこの誰かしら?」
「へっ、誰が言うかよ!!」
「そう、な「ならこういうのはどうかしら?」」
すると草むらから出てきた琳奈がいきなり白波にむかって『刹』を投げた。
「ぎゃっ!?」
そして投げた『刹』回転しながら進み、白波の頬の皮膚を軽く引っかいたあと弧を描いて琳奈の元に戻ってきた。
「次は耳でも切り落とそうかしら♪」
琳奈は『刹』についた血ぺろりと舐めながら言った。
「「「!?」」」
その顔を見た凛花を除く全員は背筋が寒くなった。
「どうする?全部話す?それとも…」
「ひぃ!!は、話す!!話すから命だけは!!!!」
「そう♪」
琳奈は『刹』を下ろすとニコリと微笑んだ。
「ご苦労様、琳奈。相変わらずの手際ね」
「まあね♪」
「母様と琳奈様って昔どんなことしていたのかしら…」
「き、聞かないほうがいい気がします…」
「そ、そうね…」
「じゃあ話してもらいましょうか。あなた達に私達を殺すよう頼んだ者について」
「わ、わかった。それは…」
「!?みんな、伏せなさい!!!!」
『えっ?』
白波が話そうした瞬間、何かに気付いた琳奈は叫びながら凛花を抱いて白波から離れた。すると…
バシュッ!
「ぐえっ!」
どこからともなく札が飛んできて白波に張り付いた瞬間、
ボオオオオオォォォォ
札が一気に燃え始めると瞬く間に白波は火に包まれ、あっという間に燃えカスになった。
「一体誰がこんなことを…」
「あ!あそこに人が!!」
桂花が指差したのは遠くに見える崖の上だった。そこには白い外套を被った者がいて、ちょうど後ろを向いて逃げていくところだった。
「あそこから狙ったというの!?」
「それだけではないわ。この燃え方は火薬じゃないわね。おそらく妖術の類よ」
「妖術…ということはあの者は妖術使いということですか?」
「多分ね」
「なら目的は口封じ…」
「おそらくはね…」
『…………』
「みなさんご無事ですか!!」
「大丈夫みんな!!」
「母様!桂花姉様!!」
すると異変に気付いた蘭花、風里、美雷が残りの兵達を引き連れてやってきた。実は蘭花は侍女達と共に戦場から少し離れた場所で待機していた。もちろん蘭花達だけでは危ないので護衛として風里と美雷が残ってはいたのだ。
「大丈夫、私達は無事よ」
凛花はさりげなく蘭花を死体から隠すように抱きしめた。先ほどの戦も侍女達が囲んだお陰で蘭花はあまり死体を見なかったが焼死体は普通の死体よりも酷いため絶対に見せないようにしたのだ。
「それはよかったです!それであの、桂花ちゃん、私達聞きたいことが…」
しかしすでに桂花は馬に跨り今にも出発しようとしていた。もちろんそれは麗羽達も同じで、すでに動ける者は移動の準備をしていた。
「あ、貴女達ちょっと待ちなさい!!そんなに急いでどこに行くつもりよ!!まだ話しが…」
「お兄様の所です!!」
「一刀の?一体どういうことかしら?」
「お兄様は…お兄様は……たった一人で一万を超える黄巾党と戦ってるんです!!!!」
「なんですって!!なら急がないと!!」
「くっ!?」
「そんな!?」
「うそっ!?」
「お兄ちゃんが!?」
「一大事じゃない!!全軍!急いで支度しなさい!!これから援軍に向かうわよ!!」
全員桂花の言葉で事の重大さを知り、各自すぐに兵に命令を出した。すでに準備を終えた麗羽の軍が出発しそうだったので桂花は
「風里と美雷達は戦闘に参加していないからすぐに動けるわね。麗羽!彼女達を連れて先に行ってちょうだい!!私達は準備が出来次第後を追うわ!!」
「わかりましたわ!では行きますわよ風里さん、美雷さん!」
「「はい!!(はいよ!!)」」
「それでは進軍しますわ!!全員駆け足!!!」
『御意!!』
「蘭花、貴女は侍女達と一緒に後から来させる輜重隊達と来なさい」
「で、でも!私もお兄ちゃんが心配だから一緒に…」
「駄目よ。多分着いたらすぐに戦闘になるわ。そうなった時、私はみんなに指示を出さないといけないからの蘭花、貴女のことまで見る余裕が無いの。お願い、言うことを聞いてちょうだい」
「はい…」
全力で馬を走らせる為、それぞれの軍の馬車や荷車で荷物を運んでいる輜重隊はついて来られない為、道を知っている桂花の隊の輜重隊の先導で来る手筈になっていた。なので正直足手まといになってしまう蘭花と侍女達は彼らと一緒に来ることにしたのだった。
麗羽達袁紹軍と鐘会隊と諸葛誕隊が出発したその後すぐに荀緄軍と曹嵩軍も支度ができたので出発した。その後蘭花と侍女達もそれぞれの軍の輜重隊の準備が整うと出発した。
一刀の所に向かう途中、桂花は母達にこれまでの事を話した。
「そう、あの人は見つからなかったの…」
「はい…」
「大丈夫、あの人ってば案外しぶといからきっと生き伸びているわ。だから今は一刀の無事を祈りましょう」
「はい、お兄様…」
それから途中雨が降ってきたものの、行きに置いた障害物を破壊している麗羽達と合流し、全員で一刀のいる戦場に向かった。
そして無事に戦場に着いた一行だったが、目の前の光景に誰も言葉を発さず、ただ立ち尽くすだけになった。なぜなら戦は既に終結しているのか誰も動いていなかったのだ。そう、“誰も”…
「……」
グラッ
「風里ちゃん!?」
ガシッ!
「しっかりして!風里ちゃんってば!?」
風里はあまりの出来事に気を失ってしまった。そしてそのまま落馬しそうになったがそれを美雷が寸でのところで支えたので事なきを得たのだった。
「衛生兵!その娘達のことは任せたわよ」
「御意!」
二人を衛生兵に任せた琳奈は前を向き周りを見渡した。辺りには大量の黄巾党の死体が無造作に転がっていた。
「それにしても…」
その中で琳奈が特に気になったのは坂の下に見える陥没地帯だった。
「あんなの、一体どうやったらできるのよ…」
遠くからなので詳しくはわからないがおよそ直径十五メートル、深さはゆうに三メートルはあると思われる巨大な陥没地帯でまるで空から隕石でも落ちてきたような形に抉れていた。
「黄巾党の誰か?それとも一刀君がやったのかしら?それとも自然?でもこんな穴自然では…………ってちょっと待って!!あれってもしかして…白い……旗?」
琳奈はふと陥没地帯から手前に視線をやった。すると大雨で多少視界が悪いものの、陥没地帯と坂の間に黄巾党の死体ではない白い何かを見つけた。するとその琳奈の声で正気を取り戻した桂花が琳奈の指差す方に目を向けるとそこには白い旗が立っておりその真下には何かが倒れているのが見えた。
「!?…………えっ!あれはまさか!?!?」
そう、それはどんな状況だろうと桂花は決して間違えるはずがないもの。白地に朱色で【荀】と書かれている旗だった。
「お……おに…お兄様ぁぁぁああああぁぁぁぁ~!!!?」
「桂花ちゃんってば待ちなさい!!」
桂花は琳奈の静止の声も聞かずに雨の中走りだして行ってしまった。あれは間違いなく桂花が兄の側でずぅっっっっと見てきた旗なのだ。だから桂花は必然的に思ってしまった。旗の下にある“あれ”はもしかして…と。しかも、走り出したのは桂花だけではなかった。
「一刀ーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「か、一刀様ぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
「一刀さーーーーーーーーん!!!!!!!」
凛花と琴、そして麗羽も大声を出しながら桂花同様、兵達を置いて真っ先に丘にいってしまった。
「黄巾党の生き残りがいるかもしれないから単独行動するのは危険だって言おうしたのに!しょうがないわね。伝令!」
「ここに!」
「多分どの軍も大将がみんな行っちゃったから動揺してると思うから伝えてくれる?荀緄軍は四人を追いかけるように。袁紹軍は私たちと手分けして周辺の捜索をするようにって。対象は一刀、じゃなくて荀天若と生き残っている黄巾党よ」
「黄巾党も、ですか?」
「そうよ。彼らにはここで何が起きたのかを話してもらわないとね」
「御意!!」
伝令が下がるともう一度桂花達が向かった方に目をむけた。
「まったく。でも、無理ないわよね。こんな状況じゃあ心配しない方がおかしいわよね…………同じ立場だったらきっと私も「いやああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!」桂花ちゃんの声!?」
すると突然、桂花の悲鳴が聞こえてきた。琳奈は考えを中断し、急いで全軍を率いて坂を駆け下りた。
「凛花!!桂花ちゃんに何が……」
坂を降りた琳奈が見たのは血だまりの中で黒牙刀を抱く桂花と凛花の後ろ姿だった。何が起きたのか?それを聞こうと凛花に声を掛けようと近づいた時、琳奈は全てを理解した。そこには、
布に包まれた凛花の夫“空夜の亡骸”が横たわっていたのだった。
そして一刀の…
「お……おに…お兄様ぁぁぁああああぁぁぁぁ~!!!?」
桂花は兄の牙門旗を見た瞬間、降りの酷くなってきたのも構わず雨の中を走り出した。目指すは坂の下にある陥没地帯の中心ただ一つ。
「桂花ちゃんってば待ちなさい!!」
後ろで琳奈が呼び止めたが今の桂花には全く耳に入らなかった。
「(お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様………)」
だが旗に近づくにつれ、桂花は不安になってきていた。この場所は少し前に麗羽や村人達と通ったばかりの道だ。その時は岩が転がっているだけのとても静かな所だった。けれど今はそんな面影などまるで無く、視界に入るのは抉れた大地やすでに死臭が漂う無数の黄巾党の死体が道端に転がるだけの場所になってしまっていた。だから思ってしまうのだ…お兄様はもう死んでいるのではないか?あそこにあるのはお兄様の死体ではないのか?と
「(ち、違うわ!!そんなわけない!!きっとお兄様は生きているに違いないわよ!!ぜ、絶対にそうよ!!だって…だってちゃんと約束したんだもん!!必ず帰ってくるって!!お兄様は……お兄様は今まで一度だって私との約束を破ったことがないんだから!!!!)」
膨らんできた弱気な気持ちをすぐに振り払い、桂花は坂を駆け降りた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、お兄様!!返事をしてくださいお……兄…さ……ま……」
だがそんな桂花を待ち受けていたのは兄では無く、
「父…様? 」
なんと牙門旗の下にいたのは行方不明だったはずの父、空夜だった。しかも兄、一刀が身に着けていた外套を体に巻き、目を瞑って横たわって…
「な…なぜここ…に……!?」
そしてそんな父に近寄ろうとした桂花は駆け寄る途中で気付いてしまった。
「い、息をして…な…い……」
そう、父親が“呼吸”をしていないことに。そしてそれはつまり…
「し、死んで…い……いるの…です…か?」
すでに死んでいるということだった。
「父様!!父様!!父様ぁぁぁぁ!!」
しかも、悲劇はそれだけでは終わらなかった。なんとか落ち着いた桂花が回りを見た時だった。旗のさらに奥、陥没地帯の手前に“それ”を見つけたのは…
「えっ?あ、あれは……ま、まさか…」
それは桂花にとってそれ単独で一番見つけたく無かったもの…。
「お兄様の…黒牙刀、と父様の剣……それと…」
あの時、単身で黄巾党に戦いを挑んだ時に一刀が身につけていた武器『黒牙刀』と父、空夜が使っていた宝剣『天下鸞武』が二本並んで地面に刺さっていたのだった。しかも、両方とも握りのところには血がついており、その周りにも大量の血があった。そして…
「私が誕生日あげた首飾り……」
そしてその側には以前誕生日に一刀に桂花が贈った手作りの首飾りが落ちていた。
「う、嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!嘘よ!!!!お兄様が死んだなんて……死んだ…なんて…や、約束…した…の……に…」
駆け寄った桂花は首飾りを拾い地面に刺さった黒牙刀と抜くと胸に抱いた。すでにその目からは大量の涙が零れ落ちている。
「お兄様がそんな………そんなの……………嫌!嫌!嫌……いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
この日を境に一年間一刀は桂花の前から姿を消したのだった…
~次回予告~
大切な者達を護るため、たった一人で三万を超える黄巾党に戦いを挑む一刀。しかし、そんな一刀の前に趙弘が姿を現し“あるもの”を見せた。それを見た一刀は……
次回[真・恋姫†無双~二人の王佐~]第二章 第三話「父の背中」
『父の想いを背負い、今ここに新たな鬼神が目を覚ます!!』なんてね♪
それではまた次回!!
Tweet |
|
|
66
|
3
|
追加するフォルダを選択
今回の話は荀家とそれに仕える者達にとって大きな分岐点となる話です。
一刀から黄巾党襲来の知らせを聞き急いで戦の準備を始める凛花達。だが、そこに男が突然やって来て衝撃の言葉を告げる……
果たして男が告げた衝撃の言葉とは?
続きを表示