“散歩”
まぁ、言葉のとおり
読んで字の如く
たかが、散歩
ーーーされど、“散歩”
幾ら考えたところで意味なんて、絶対に変わらないし
そもそも、そこまで深読みをするほどの言葉でもないだろう
むしろ、“深読みしろ”という方が無茶な話である
ともあれ、僕が八九寺と一緒に洒落込むことになったこの“散歩”だって、それほどの深い意味はなく
気分転換、息抜き、時間つぶし
そんな単純な意味合いであり、そのことは僕たち二人も互いに理解し、了承していたことだ
ーーー故に、故にだ
この後“あんなこと”になるなんて、この時はまだ予想していたはずもなく
また、想像することすら出来なかったのだということを、ここで重々述べておく
言い訳なんかじゃなく
いや、“彼女”からしたら、それはもう立派な言い訳なのかもしれないが
それでもやはり、僕からの言い分として
ここであらかじめ、言っておこうと思う
恐らく
いや、確実に
それすらも、無駄になるのだろうが
まぁ、いい
今はまだ、どれほど僕が必死に訴えようとも
泣きそうになりながら、こうして語り続けたとしても
恐らくは、これっぽっちも、伝わりっこないのだから
何故なら、これを聞く皆はまだ“知らないのだ”
この散歩の先に、“あのようなこと”が待っていることなど
まだ、誰も知らないのだ
ーーーこの、僕でさえ
≪こよみサンデー 其ノ貮≫
ーーー†ーーー
さて、前回までのあらすじ
散歩に出た僕が出会ったのは、“浮幽霊”として活動中の“八九寺真宵”
そんな彼女との、いつも通りのスキンシップ(八九寺曰く、犯罪スレスレな)を終えて
その後、まさかの八九寺からのお誘い
曰く、“一緒にお散歩と洒落込みませんか?”とのこと
まぁ、僕からしたら“渡りに船”というか
元々夕方までは時間があったので、断る理由も特になく
彼女のお誘いにのり、一緒に“お散歩”と洒落込むこととなったのだ
ーーーそれが、今から数分前のこと
「ん~、やっぱ外に出て正解だったぁ」
と、言うと同時に思い切り伸ばした体
小気味よく骨が音をたて、何とも言えない感覚に僕は目を細める
そんな僕の隣で、八九寺はクスリと笑いを零していた
「まぁ、私の場合はいつも通りのお散歩なのですけれど
そういえば、こうして阿良々木さんと一緒に歩くのは久しぶりですよね」
あ~、そうかも
ていうか、事実その通りだ
最近は勉強が、忙しかったのもあるし
八九寺と会う時は、学校に行く時とか、あんまり時間がないときばかりだった気がする
「たまには、こんなのも、その・・・良いですね♪」
ぐはっ!か、可愛すぎる!!
今日の八九寺は、いったいどうしたんだ!?
やばい、やばい可愛いよ、八九寺可愛いよ、クンカクンカしたいお・・・
「ば、“薔薇羅木さん?”
いったい、どうしたんですか?」
「い、いや・・・気にしないでくれ
なんていうか、その、ちょっと思考回路が暴走しかけてただけだから
というか、八九寺
僕の名前はそんな“ゴロが悪いうえ、深読みしたら凄まじくガチな男だと思われるような名前”じゃない
僕の名前は、阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、ワザとだ・・・」
「かみまみた」
「ワザとじゃない!?」
「“ガチでした”!?」
「だから、違うっつってんだろ!!!!」
これ以上、“薔薇”を引っ張るな、頼むから
そんなもん、僕は勿論のこと、読者だって一切望んでねーよ
第一、そんなネタは“アイツ”だけで充分だっての・・・
「はっはっは!
呼んだかな、阿良々木先輩っ!!」
「呼んでねーよ!
っていうか、いつからいた!!?」
驚き、僕が振り向いた先
そこには、快活に笑い、ニコニコと笑みを浮かべる少女
たった今、僕が思い浮かべた少女
“アイツ”・・・“神原駿河”が、其処にいたのだ
“神原駿河”
バスケ部の元エースで、学園のスターで
趣味がBL本で、百合で、僕の彼女である戦場ヶ原が大好き(likeではなく、loveのほうだ)だという、ちょっと・・・いや、もう凄まじく変わってる奴だ
因みに、僕の一つ下
つまりは、後輩である
戦場ヶ原とは中学からの付き合いで、その頃から彼女のことが好きだったらしい
さて、そんな彼女もまた、怪異に関わったうちの一人だった
ーーー彼女は願ったのだ
願いを叶えるという、“猿の手”に
もっとも、後にそれは“猿”ではなく、“悪魔”だったのだと
僕はこの人間モドキな身をもって、文字通り“痛感”したのだが
そのことは、もういいだろう
できれば、あまり思い出したくはないし
あれ以来、“雨合羽”がトラウマになってしまったのだから
まぁ、察してくれとしか言いようがない
それでも知りたいというのならば、書店にでも行って、僕らの物語が綴られた本でも買って読んでみてくれ
さて、話題が逸れてしまったが
彼女・・・神原駿河の左腕には、未だに包帯が巻かれている
怪異は、未だに彼女の腕に宿っているのだ
だが、それも二十歳までの辛抱らしい
僕と違って、その頃には左腕の怪異も消えてなくなるそうだ
そんな彼女が
神原駿河が、其処にはいたのだ
動きやすそうな、何時か着ていた私服姿で
僕の視界の中、悪戯が成功した時の子供のような、純粋な笑みを浮かべて
確かに、其処に立っていたのだった
「い、何時の間に・・・」
「ふふ、つい今しがただ
ご覧のとおり、今日は天気が良いだろう?
だから、朝から走って汗をかいていたのだが
するとどうだ、遥か前方に、私の尊敬する、いや崇拝する
あの、阿良々木先輩がいるではないか!」
「あ、あぁ・・・そんで、走って僕のところに来たと?」
「うむ
流石は阿良々木先輩だ
私の行動を、そこまで正確に言い当てるとは」
いや、簡単だろ
もう殆ど、自分で言ってたじゃないか
というか、毎回のことだが、あの褒め殺しとでもいうのだろうか?
あれには、未だに慣れないな
正直、勘弁してほしいものだ
「阿良々木先輩は、いったい何をしていたのだ?」
「散歩だよ、散歩
戦場ヶ原との約束が、急に夕方からになっちゃってさ
そんで時間出来ちゃったから、ちょっと息抜きもかねて散歩してたんだよ
そしたら、偶然八九寺と会ってさ
そのまま一緒に、散歩してたんだ」
と、そこまで言って思い出す
そういや、八九寺って浮幽霊だから、見えない人には見えないんだよな
確か以前、神原には見えてなかった気がする
なら、言っても仕方がなかったかな
「あぁぁぁあああああ!!!
なんだ、この可愛い女の子はぁぁぁあああああ!!!!
って、もしや君が噂の八九寺ちゃんかぁぁぁああああ!!??」
「た、助けてください阿良々木さぁぁぁああああん!!!!」
「・・・あれ?」
おかしいな
僕の、目の錯覚だろうか?
僕の目の前
そこで、八九寺に向って、激しく頬ずりをしている変態かつ、犯罪者な後輩の姿が見えるんだが
無論、その変態とは、神原のことだ
「いや、いやいや・・・いやいやいや、ちょっと待て、神原」
「なんだ、阿良々木先輩」
「なんだって・・・お前、八九寺が見えてるのか?」
「はっはっは、何を言いだすかと思えば阿良々木先輩
そんなの、当たり前じゃないか」
「え、いやお前、当たり前って・・・前に八九寺と一緒にいた時、見えてなかっただろ?」
と、僕の言葉
それに対し、神原はフゥと息を吐き出す
それから、僕を見つめて笑うのだった
「八九寺ちゃんの姿が私に見えていた方が、今後の話が色々と書きやすいではないか!」
「メタかっけーーーーーーーーーーーー!!!」
いっそ、清々しいくらいに、ハッキリと言ったな神原
もう、僕も納得しかけてしまったぞ
だけど、頼むから
頼むから、メタ発言だけは自重してくれ
「まぁ、いいではないか阿良々木先輩
こっちの方が、八九寺ちゃんも寂しくないであろう?」
「まぁ、確かに」
神原の言う通りかもしれない
そう思い、見つめた先
八九寺は、何だか微妙な表情を浮かべていた
「セクハラをしてくる人が、増えただけじゃないですか?」
「はは、ぬかしおるっ(笑)」
おいおい、誤解しないでくれよ
僕のあれは、たんなるコミュニケーションだ
所謂、スキンシップだ
ムツゴロウさんだって、よく言ってるだろ?
“あっはっは、じゃれてるんですねぇ~”ってさ
それと、なんら変わりのないものじゃないか
それを、セクハラだと?
はぁ~・・・まったく
がっかりだ
がっかりだよ、八九寺真宵
お前が、僕のことをそういう風に思っていたなんて
僕はお前のことを、本当に友達だと思っていたのに
「これが本当に、世間一般的に言うコミュニケーションなのかどうか・・・羽川さんに聞いてみて、いいでしょうか?」
「「勘弁してくださいっ!」」
土下座した
それはもう、凄い勢いで
神原も一緒になって、土下座をしている
ちくしょう
ここで羽川の名を出すのは、反則だろう
羽川・・・“羽川翼(ハネカワツバサ)”
猫に魅入られた、僕にとって命の恩人である彼女
優秀にして、完璧である彼女のことだ
きっと、この話を聞いたら、長い長いお説教タイムに突入してしまうだろう
ああ、簡単に想像できてしまうのが、逆に恐い
「ふふふ・・・阿良々木さんの弱点なんて、お見通しです」
「くっ・・・やるじゃないか、八九寺
ちょっと見ない間に、随分と成長したじゃないか」
「今の私は、ただの八九寺真宵ではありませんよ
成長した、スーパー八九寺真宵です!」
むかし、戦場ヶ原も似たようなことを言ってたな
戦場ヶ原は、ハイパーまでいったみたいだが
そのうえ、デレも合わせれば、かなりのレベルアップである
まぁ、余談も余談
閑話休題も、いいところである
さておき、だ
「神原は、八九寺の姿が見えるんだな?」
「ああ、見えるぞ
よそしくな、八九寺ちゃん」
「はい、よろしくお願いしますね」
そう言って、握手する2人
そんな二人の様子を見つめ、僕は思うのだ
まぁ、これはこれで、悪くはないよな
八九寺だって、寂しくなくなるだろうし
やっぱり、話せる奴は、多いにこしたことはないだろうしな
ーーーっと、そうだ
「神原
神原は、この後って暇なのか?」
「今日は、特に予定はないぞ」
「そっか
なら、僕たちと一緒に散歩でもしないか?」
「それは、構わないぞ
むしろ、此方からお願いしたいくらいだ
八九寺ちゃんも、構わないか?」
「はい、私も構いませんよ」
ーーーと、いうわけでだ
散歩のメンバーが、一人増えたわけなのだが
やることなんて、特には決めていないし
目的地なんて、定めていない
まぁ、所詮は、唯の散歩だ
人が増えたところで、やることなんて変わらないし
今言ったばかりだが、やることなんて決めていない
ただ一人増えた分、少し賑やかになるくらいだろう
「さて、そんじゃ・・・散歩の続きと、洒落込むか?」
「そうですね」
「うむ、そうしよう」
と、三人で頷き合い、歩き出す
時間は、まだ昼にも満たない
まだまだ、散歩は続きそうだ
なんて・・・そんなことを、思った時だった
「暦、お兄ちゃん?」
「え・・・?」
という、声が聞こえてきたのだ
そして・・・誰に見せるでもなく
僕は、その声の主を見つめ、笑みを浮かべながら
小さく、手を振ったのだった
「よう、“千石”」
「あぁ、やっぱり暦お兄ちゃんだったんだ」
と、声をあげかけよってくる少女
そんな彼女を見つめ、僕は思った
あぁ
ーーー今日は、やけに知人に出会う日だなぁと
ーーー次回へ続く
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こよみサンデー其ノ貮
公開いたします
今回もまた、のんびりと、ゆるゆると
お読みいただけるお話です