No.330632

現世はいかが、来世はいかが

子供と二人で迷い込んだ。大きな川があり、つり橋と船のどちらを選ぶか言われた。子供たちは船を使い、私はつり橋を渡った。
私の名前はなんだっけ。私は何でここにいるんだっけ。この景色はなんだっけ。
…なんていう非情な奴らだ。

2011-11-06 17:59:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:435   閲覧ユーザー数:434

来世はいかが、現世はいかが

 

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まいったなあ…。

道に迷ってしまったみたいだ。

 

「お父さん、ここどーこ?」

小学生の息子が訪ねた。どこと言われも、と父親は返すに困った。

「…何をしていたんだっけ?」

高校生の娘が訪ねた。何をしていたんだろう。

ただ、目の前は、大きな川。大きく分かれていて、下へ降りると船があり、目の前を進めばつり橋がある。

どちらも先は見えず、ずーっと濃い霧が立ち込めていた。

ずっと…。

 何をしていたっけ、何をしていただろう。

こんなところに来た覚えはないのだが…。

 

丁度分かれ道まで進んだところで、ボロボロの布を纏った人物が話しかけてきた。

見てびっくり、それは骨で、手も足も露出したところはすべて骨たった。

 けれど、ずいぶん明るい声で気軽に三人に話しかけた。

「はいはい、いらっしゃいいらっしゃい、この度は…おやぁ?」

三人の顔を見るなり、その骨は首をかしげる。

「あ、分かりました。迷い込んでしまったんですね。せっかくだから体験してみてはいかがでしょう」

「すみません、何をしにここに来たのかわからないのですが」

父親は、ほとほと困り果てて仕方なくその骨に話しかけた

一体何を体験しろと。

まずここがどこだかわからなければ帰れない。

「すぐ分かります。それより現世と来世どちらがお好き?」

言っている意味が全く分からない。

すると、小学生の息子・春明はわかれ道の下を指差した。

「あの下の船のってみたい」

人が五人乗れる程度の船の上には、白い布をはおった人物がいた。

だがそれは目の前の骨ではなく、ちゃんと人間の形をしていた。あちらの方が何だかまともな話ができそうだ。

「あの船に乗りたい?」

骨はけらけら笑いながら、春明をなでた。

「私もそっち行きたい吊橋怖い」

娘の春香まで言いだした。

何より怖いのは、先がみえないことだ。今の状態で船やつり橋を使って平気なのだろうか。

困った。帰り道を聞かなければ。

 そう思って口を開いた時、突然後ろから誰かに突き飛ばされた。

骨は親切にも受け止めてくれたが、振り返れば行列ができていた。

何だ、皆何でこんなところにいる。

「早くしてくれないかな」

「船に乗らなきゃ…」

ぼそぼそと声が聴こえた。

けれど彼らはとても疲れた顔をしていた。

よく見れば自分を突き落とした男は、病気を患っているようで、ゴホゴホと何度か派手な咳をした。

「申し訳ないです。それではそちらの小さい方々は御船で、あなたは?」

「つり橋の先には何が?」

分かれ道、滑りそうな斜面を下りて行く娘息子を見守りながら、視線をつり橋に戻した。

随分と大きな川だ。それに比べて、二人並んでいけるくらいの小さな橋。一体どこまで続いているのだろう。

「あちらは来世、こちらは現世です」

はあ。言いたいことがよくわからない。

「早くしてくれよ!」

後ろの咳がうるさい男に後押しされて、無理やりつり橋を渡るはめになった。

 

つり橋を渡る決心はついたが、とにかく後ろがつかえている。

ギシギシ揺れるつり橋を渡り、下を見てみた。大きな濁った川が流れ、子供たちののった船はゆっくりと同じ方向へ行った。

 

つり橋を渡って霧の向こうに見えたのは、街だった。

夕暮れの街。

激しくデジャヴュを感じる。

 平たい屋根の家が並び、その向こうは田んぼが広がっている。

突然轟音がとどろいたので見上げてみれば、大きな飛行機が見えた。大きい、というのは、すぐそばを飛んでいるからで、この音は懐かしく思えた。

「のしくん、またね!!あー!!待って、そろそろだよね」

子供がすぐそばを通るが、どうもファッションセンスがふるい。最近の子供にしては、古いランドセルを背負い、かなり昔に流行したと思われる服を着ていた。

 

現世はこちら。

 

「そうだよ、楽しみなんだー」

子供は四人かたまって、これから帰るところらしい。別れようとしたところかで、一人の男の子が、もう一人、背の高い男の子に話しかけた。

誰かに似ている。

「生まれたら真っ先に教えて!!」

「うん!すぐ報告に行くから!!じゃ、これからお母さんの手伝いあるからー」

全員は手を振ると、別々の道を目指していく。

のし君と呼ばれた子供の後をついていこうとすると、どこかで見た景色がさらに広がった。狭い路地、並ぶのは木造住宅。

「ちょっと君」

彼に話しかけるが、きこえないようで振り返らない。わくわくと帰るのは、本当に誰かに似ている。

のし君。

のし…

「君!!」

走っていけばすぐに追いついて肩に手をかけようとしたところで気づいた。

背に夕陽があり、こく影を作っているのに、自分だけに影がない。

そしてその手は、彼の体をすり抜けた。

一体どういうことだろう。

不思議な体験だ。

 そういえばつり橋を渡る前、本当に何をしていた?

何か衝撃は感じたけれど、あの奇妙な骨男、あの男も反応がおかしかった。おためしというのが気になった。

夢でも見ているのだろうか。

それなら、その夢を楽しんでみようか。

 少し肩の力が抜けてきた。

「ただいまー!!」

のし君は、並んだ住宅の、一軒家に入っていく。さびた黒い小さな門を開ければ、柴犬が、小さな庭にいた。

(あれ、なんだっけ)

「おかえりー、裕也、おかえりぃ」

しわがれた声がのし君とやらを出迎えた。表札を確認してみれば、野塩と書かれていた。

「ただいまばっちゃん!!まだ!?まだ!?」

野塩か。やはり思いだそうとすると頭が痛くなるとても身近な気がする。

そういえば、温かい笑みをうかべてのし君、いや、裕也というらしいが、それを迎えたのもどこかで…。

頭が痛いな。

思い出せば思い出すほどわけがわからなくなる。

 言ってしまえば、行くあてがなくてついてきて、ひたすら会話を聞いている。

そして、彼らには自分が見えていないようだ。

「お、おばあちゃん…、陣痛が来た見たい…」

奥から随分と弱い声が聞こえた。

それを聞くと、裕也は素っ飛んで行った。

 遅れて、老婆は慌てて向かう。

ちょっとお邪魔してしまうが、夢なのだから仕方ない。どんな夢か見させてもらおう。

「大丈夫かい!?破水しているじゃないか、早くお風呂行くよ」

どうやら子供が生まれるらしい。大きなお腹をさすって、痛みに耐えている様子だった。

(あー、うちの場合もそうだった)

 うちの場合は…。

そういうことか、先ほどの少年たちの会話は。

 裕也は、慌てた状態で行き来するが、老婆はなれた手つきで、浴槽にお湯を張りだす。

病院へ行かないで自宅で出産するのか、と、妙に冷静に見ていられた。

『長いですから早送りしますね』

突然、頭にあの愉快な声が響いた。

あっという間に景色が変わる。

 一瞬真っ暗になったかと思うと、今度は風呂場からリビングに移動していた。

変な夢だなあ。

 

ポン、とゴム製の安そうなボールが転がった。

足元には、生後十カ月くらいの子供がいた。

そして、隣には裕也、安い椅子に腰かけている老婆と先程の女性。だが、女性のお腹は大きくない。

そしてもう二人増えていた。老婆よりちょっと若い男女である。

皆、子供二人が遊んでいるのを笑みを浮かべてみていた。

「歩き出したんだってね」

少し歳をとった男が、満足そうにつぶやいた。

お茶を啜り、少し間をおいてまた見つめる。

「そうなのよ、お父さん。春樹ったらね、最初に言った言葉がママ、とかじゃなくて、パパなの」

女性は怒っているかと思いきや、笑い飛ばして告げた。

四人は談笑が続く。

十か月になる子供は、近くの壁に手をかけて歩きだした。

裕也は、おいでおいでと、手を広げていた。

「春ちゃんおいでー」

…春樹…誰だっけ…。

『時間、早送りしますか?』

またあの声が響いた。いつまでもこんなところ見せられていてもつまらないので、頷けば、目の前が一瞬でぐるぐると回った。

子供は成長し、裕也は中学生ほどに、春樹という子供は五歳ほどになった。

その間に現れたのは、ずいぶん自分によく似た男性だった。

 子供たちの父親だというのが分かったのは、直感だった。

何度も何度もその一瞬の間に出てきた。

懐かしいな、誰だっけ?

どうも思い出してはいけないらしい。

自分の名前すらわからない。

夢ってこういうものなのか。

 

そして今度は、火葬場にいた。

火葬場、お棺の中に群がるのは裕也、春樹をはじめとする、何人もの大人と子供。

誰かがなくなったようだ。

やはり今度も自分の姿が見えていないらしいので、堂々とのぞいてみれば、なんと先程の老婆ではないか。

 裕也はびいびいと泣いていた。

裕也たちの母親も、何度もハンカチで涙をぬぐう。

春樹はよくわかっていないようで、父親に手を引かれて、最後の別れを惜しんでいた。

見たことがあるぞ、見たことが。

だがやはり思いだそうとすると、頭痛にさいなまれたので、ただ見ているだけにした。

 

そしてまた場面が変わる。次は、春樹の方が中学生になっていた。

裕也の方は高校生らしく、家は二階建てになっていた。

庭にいた犬が、今度は別の犬に変わっていた。

 自分は今、二階のベランダにいる。

犬を見降ろすと、中学生の春樹が、夕食の残りだと思われる残飯を持っていく。犬は喜んでそれを食べようと尻尾を振っている。

あの犬、名前。

「春樹、そろそろ勉強しなさい」

すぐ隣にはあの母親がいた。

やや歳をとっているようで、洗濯物を干しながら、同じように庭を見降ろしていた。

…に、そっくりだ。

ん?何だろう、やはり完璧には思い出せない。それに二階建てのこの家は、大事な何かだった気がする。

「わかったー」

春樹は返事をして、家の中へ。

少し気になって各部屋を回った。二階建て、部屋は二つある。どれも畳の部屋で、布団がすみにおいてある。机があって、網戸がない部屋だった。

土壁で、ポスターが貼ってあるが…。随分とレトロなポスターだ。

これは夏だったら大変そうだ。こういう家は蛾がよく入ってくるから、網戸が大事なんだ。

そうそう、自分の小さいころだってさ。

痛い、頭が痛い。

『時間、送りますね、懐かしんでいだけますかな』

また声が響いた。

それに対して答えた。

「思い出せない。けれど、大事なところだったのはわかる」

『なるほど、少し記憶が混乱しているのですね』

「夢なんだからしょうがない」

『夢ですか、まあ、人間らしいいいわけです』

骨は、少し声のトーンを落として答えた。

言い訳とは一体。

 

また、時間が早送りされた。

景色は巡り、子供だった春樹は高校生に、裕也は社会人になっていた。

また景色は変わっている。畑が少しずつつぶされて、綺麗な家が出来上がってきている。

 最近の街並みの様だなあ。

この坂を下れば公園があって、小さな川が流れていて、そこで蟹がとれた。沢ガニだが、あげて食べればおやつになったし、時期が来ればホタルだって見れた。

この坂を下って、まっすぐ行けば高校、その手前に踏み切りだ。

『思い出しましたかな?』

「懐かしいなあ」

『あなたの過去です』

そう言われた時、はっとすべてを思い出した。

『あなたの、取り返せない過去なんです』

老婆、裕也、春樹、そしてその父と母、さらにその両親。

春樹は、高校生。もうこのときに分かった。

『野塩春樹さん、あなたの過去ですよ』

二人は、普段着を着ていた。

 その二人が向かったのは踏切で、丁度電車が来る前だった。

取り返せない過去だった。

いけないんだ、この先、いけない。

「あっと、ごめんなさい!!」

踏切の前で並んでいる裕也にぶつかった女性がいた。丁度、電車が来る前だった。

随分強い力で押されたらしく、横を見た時すでに裕也はいなかった。

兄は、このときに

「兄さん!!」

昔の自分が叫んだ。忘れもしない、この光景。

目の前はあっという間に真っ赤に染まった。

 知らず知らず、涙を流していた。

裕也は兄で、自分の目の前で電車へ突き飛ばされてしまい、はねられた。

一瞬で周りは沈黙し、そしてすぐに混乱状態に陥った。

古い電車が急停止するが、ずいぶん先の方で止まった。

 春樹の着ている白い服には、血しぶきがかかる。

『思い出せましたかな』

「やめてくれ、この寸前に戻してくれ」

ざわざわと色んな人が自分をすり抜けて行った。ぼうぜんとする、高校生の春樹は、やがて腰を抜かしてしまった。

『出来ないのですよ。あなた、忘れていたでしょ』

「忘れたかった」

『さて、現世はいかがですか。この先を続けますか?』

目の前が真っ赤に染まった。

 

今度は、少し古めのオフィスにいた。

ここまでくればもうわかる。最初の職場だ。

兄が死んで、悲しみのあまり引き籠もったこともあるが、ふっきれようとして死に物狂いで勉強して。

母は兄の死で衰弱して、父は癌で亡くなった。

そのころには祖父母もだいぶ歳をとっていた。

「全く野塩は仕事ができないやつだな!!」

よく覚えのある声が耳をついたので、振り返れば、スーツ姿の若い自分が上司に怒られていた。

すみませんと何度も謝る自分の姿。

落ち込んで書類を渡されて、昼の時間になったらしい。屋上へ上がって行ったので、ついて行った。すると、そこには女性がいた。

随分と可愛い女性だった。

「あ、野塩君」

弁当箱を二つ持って、駆け寄る女性。

そうだった。

あの上司、この三年後、首をつって死んだな。

何があったか知らないけどさ。

この女性とは付き合っていた。名前は…千佳さんだったかな。

結局別れてしまったけれど。

『懐かしいでしょう』

「つまらないね」

自分が答えるのと同じように、過去の自分も答えた。弁当箱を受け取って、二人でフェンスに寄り掛かった。

「野塩君、新人だから仕方ないって。怒られるのが仕事の様なものだから」

「はは、ありがと」

二人がしばらく会話をするうちに、当時と違う自分を見た。

それは、食事が終わった時、過去の自分は千佳の肩を軽く掴んだ。

少し緊張が走る。

「あの…僕と…」

え、ちょっとまって。

どういうことだ。

「僕と、結婚してください」

こんなところでプロポーズなんてした記憶はない。

大体付き合って二年くらい、彼女は自分より少し早いだけで、自分だってそんな稼げなかった。

『どうですか、この過去は変えられますが』

この後自然と別れるのではなかっただろうか。

そして今の妻と結婚して子供たちがいる。

『どうします?』

またきいてくる。

過去を変えれば未来が変わる。ということはどうなる?

『勿論、お子さんは存在しませんが、別の未来が待っています。ここに来ることもないかもしれませんが?』

千佳さんは、とても優しくて、けれど芯が強くて、あこがれの女性だった。

そんな彼女と付き合えてとても嬉しかった。

結婚すると思っていた。

 けれど、結局自分が体調を壊して会社を辞めて、別の所で働いた。そのころには、縁がいつの間にか切れてしまっていた。

『ここに来ることはないかもしれませんよ』

「そのここって?」

自分は答える。

その間、時間が停止している様子で、過去の二人は見つめ合っていた。

『やっぱりそこは思い出せてないんですねぇ。あなた…ここに来る前に』

「あ、待ってくれ、この人と結婚したら子供たちがいなくなるんじゃ困る」

『はい、わかりました』

その言葉と同時に、時間が動き出した。千佳は照れているようで、頬を赤くした。

「でも、ごめんなさい」

千佳は、ぺこりと頭を下げると、逃げるように去って行った。

 

また早送り、今度は、今の妻と結婚した時だった。

祝福する友人、会社の同僚、祖父母。

とっても質素な結婚式で、結婚指輪だって安いものだけれど、とても充実した人生だった。

…だった。

 なぜ過去系なのだろう。

そう、この結婚式の時、すでに妻のお腹に、長女の春香だ。

春香が生まれたとき、とても嬉しかった。

妻は三十時間もかけて、大学病院で産んだ。

生まれて、駆け付けた時、妻は娘を抱いて、両親と妻の両親たちに囲まれて、涙を流して喜んだ。

『お子さんの誕生まで思い出しましたか』

「一体これはなんなんだ?」

また時が回る。

『お子さんのお名前決めるの大変でしたね』

今度は春明が生まれた直後。春香が、まるで過去の自分と兄のように、楽しく遊んでいた。

春明はクレヨンを持って壁に落書きして、春香はそれを止めている。

はは、この後妻に怒られた。

でもそのクレヨンの絵が中々消せなかったんだよなあ。

 だってそれ、いびつな形をした、家族の絵だったんだ。

『幸せな日々でしたね』

「幸せだったなあ」

だから、なぜ過去系。

時が過ぎて行く。それをただ見ている。

そして現在の家に引っ越した。

 念願の一軒家、今の家は耐震性があるし、庭もあるから、満足したんだっけ。

この家を選ぶために色んな街に行った。

子供たちも自分だけの部屋ができて喜んだ。

祖父母と母は、この少し前に亡くなった。

 念願の一軒家、今は家の中で犬を飼うのが流行っているからと、可愛いポメラニアンを飼った。

犬の名前は、昔買っていた二匹目の犬と同じで、ユーキだった。

…だった。

 

「あなたたち、気をつけて行ってね?」

妻の声がした。

今の自分がいた。隣に、立っていた。車に鍵をさして、頷く。

春香と春明も一緒だ。

『思い出しましたか?』

これは、数時間前の記憶。

 ドライブに行くと言って、妻を家に残して、子供と一緒に行った。

『もう分かりますよね』

そして、海の見えるところまで来た時、車がスリップして、海へ転落した。

そのあとの記憶がない。

「ああ…それでやり直すかときいたのか」

死んだんだな。

やりきれなくて、沈んでいく車を、見つめることができなかった。

雨の直後だった。曲がり角、壊れたガードレール。

他に車はなくて、気付いたらこのつり橋にいた。

『その通り!!あなたたちは迷い込んでしまいました』

「死んだのではないのか?」

『これは異例なので何とも言えませんが、まだ可能性はあります。元に戻りますか?』

 

はいを選んだ。

 

つり橋に戻ってきた。振り返れば、壊れたガードレールがあった。

やはり向こう岸は先ほどと違って霧で見えない。

丁度、下を見れば船から子供たちが帰ってくるところだった。

 

『では選択してください』

「…は?」

そうこうしているうちに、つり橋を渡り切る。入れ違いで何人もの人がわたっていった。皆、白い顔をしている。なかには、とんでもなく怪我をした人もいた。

死人のわたる場所だったのかとようやく気付いた。

ということは、この川は三途の川だろうか。

『三途の川なんてナンセンスなことを。これは来世と現世についていくことができるんです。ただ、死者だけは来世へどの道向かいます。ちょっと過去を思い出したい人だけ、このつり橋わたるんですよ』

そうこうすると、子供たちは何も知らないらしく、とても興奮した様子でかけよって来た。

「お父さん」

春明。

「あのね、お父さん」

春香。

「凄い面白いものを見たよ。私、アメリカで働く男性になってたの~!!面白いっ!!しかもね、有名人。モデルさんだって、凄すぎない?」

待ってくれ。

「僕、また日本人になってたー。あまり面白くなかったなあ…」

まさか、選択って…。

いつの間にかぼろ布を纏った骨は目の前に立って、大きな声を出した。

「はいはい三名様、どうします?戻ります?それとも未来へ行きます?どっちを選んでも後悔するかしないかはあなた次第!!選ぶ権利は、自分だけです」

「僕、戻るよ。なんか面白くなかったもん」

春明はつまらなそうに、そばの砂利をけった。

「私…」

春香。

まさか、と言おうとしたが、何も言えなかった。

口出しがどうやらできないらしい。

自分はどうしようか。

「戻るよ」

そう答えるしかなかった。

「はいはい、では娘さんは?」

やめてくれ、春香をまきこまないでくれ。

裕也兄さんと同じ所に行こうとしないでくれ。

「私、あっち渡る」

春香は川の向こうを指を指す。

パン!!と音が響いた。

それは、骨が手のひらをたいた音だった。

 

 

「あなた…!!」

妻の声だ。

 目を覚ますと、そこは病院らしき光景だった。

何だ、やはり夢だったのか。

いや。

「春香は」

思い出して、青くなった。

あちらへ行くといいだした春香は。

「春明は、無事なの。だけど春香は…」

泣き続ける妻を見て、春香はいってしまったことを悟った。

 

BADEND?

過去のあのプロポーズの時変えなければどうなっていた?

それともHAPPYEND?

春香は、来世を見てきた。楽しそうだった。

随分非情な奴だ、何でそんなものを見せたのだろう。

 

『それでは、今後の人生頑張ってください』

最後にあの声が聞こえた。

 

 


 
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