雪蓮√ 題名:虎の娘と鳳凰の雛
雪蓮SIDE
「……はぁ…はぁ……」
祭を気絶させて、祭を支えたまま一刀は荒れた息をたてていた。
少し、様子がおかしい。
「ちょっと、一刀、大丈夫なの?」
「……あ?…ああ、…お前は僕のことより自分の部下のことを気にした方がいいんじゃないか?」
「………」
……?
これって、戦って息が上がったわけじゃないわ。
「ちょっと、あなた」
「っ?」
彼の額に触ろうとすると、一刀はそんな私の手を振り切って、代わりに祭を渡した。
「あ、ちょっと」
「勝ったからもう文句は言わないだろ。……ちょっと休ませてもらうぞ」
そう言いながら、一刀は明らかによろよろと動きながら前に歩いた。
そして、何歩前に進めずそのばに膝をついて倒れた。
「ちょっと、一刀?!」
「はぁ……はぁ……」
私が祭を冥琳に任せて一刀の近くに行くと、一刀の顔は真っ赤になって熱をあげていた。
「…穏!早く医者を連れてきて!」
「は、はい!」
「何だ、どうしたんだ、雪蓮」
「分からないわよ!とにかく、冥琳は祭を自分の部屋に運んでおいて」
そう言っておいて、私は一刀を腕を首に絡めて自分の部屋に向かった。
「……はぁ……はぁっ……」
「何よ…いつからこうだったのよ」
朝までは大丈夫だった……はず。
いや、そうともはっきり言えない。だって真夜中だったし、顔もちゃんと見てない上に互いに指一本触ってもいない。
もしかすると、ここまで来てる間、いや、初めて会った時から、一刀には熱があったのかもしれない。
そんな状態で私たちに会って、祭と戦った……。
「あなたは一体、何者なのよ」
「………」
「雪蓮さま、医員を連れてきました」
「遅いわよ!」
「ひっ!」
実際には早く来た方なのだけど、焦っていた私は穏に怒鳴ってしまった。
「…申し訳ありません。早速ですが、患者の様子を触診させていただいて宜しいでしょうか」
その反面、穏が連れてきた医者は落ち着いた顔でそう話した。
「……ええ、お願いするわ」
笠をかぶった焼いた肌の、江東出身らしき医者は一刀の居る寝床に近づいて、ゆっくりとその手で一刀の手首を触ってみた。
「脈が異常に早くなっております………今の状態で、何か激しい運動をしていたのですか?」
「さっきまで対練中だったわ」
「……もう少しで心臓麻痺で死ぬところでした」
「!」
「患者さんは…いつからこんな状態なのかは知りませんが、高熱が長時間続いていると思われます。そんな状態で更に激しい動きをしたせいで、心臓に無理がいっています。出来るだけ安定させて、熱が下がるような薬を作りますので、一日はこのまま休ませた方がいいでしょう」
「そもそも何故こんなに熱が上がってるのよ」
「…詳しくはわかりませんが、こんなに脈が打ってるにも関わらず動いておられるほどの武人である方が病気になるとは思いませんし、恐らく疲れていたせいで風邪になったのではないかと」
「疲れていた……?」
そんな様子はあったかしら……?
分からない。全然見ていなかった。
昨日からずっと彼を見ていたのに、大事な部分は全然見ていないし、気付かなかった。
「わたくしが介抱しても宜しいですが、いかが致しますか?」
「……いいえ、ここからはこっちで対処するわ。来てくれてありがとう」
「はい、ではわたくしは湯薬だけ作って、直ぐに下がります」
医者は拝礼して、穏を通りすぎて閉じた門を開いて……
コン!
「…!………」
開かずに歩こうとして一度門に頭をぶつけては、門を開いて出て行った。
……信じてもいいの?ちょっと藪医者のように覚えてきたわ。
「雪蓮さま…?」
「穏、私、今日は一刀の介抱に専念するから、後はお願いするって冥琳に言っておいて頂戴」
「ええーー?!…後で冥琳さまが怒っても知りませんよ?」
「良いから、あなたは冥琳を手伝いなさい」
「…はい」
穏を出させて、私は一刀の顔に目を移した。
医者に病気だと言われてやっと、彼の顔に異常が見られる。
鳳統たちと居た時からこうだったのかしら。
あの娘たちもずっと一緒に居たのに知らなかったの?
いや、そう思うよりは、私の登場があの娘たちにそんなことに気づく余裕を失くしたと考えた方がいいのかしら。
全部、なんだかんだ言って私のことを警戒していたしね。
一刀も、私が来ることを知っていながら皆に痛いのを知らせたくなかったのでしょうし。
私があの時行って居なければ、あのまま一刀は鳳統ちゃんたちに病気を気付かれて、介抱されて、そのまま無事に豫州を立つことができたでしょうね。
それが私が来て、色々と調子が狂って、挙句にはその娘たちを巻き込みたくないからってここまで一人で来た。
あなたにとって、私ってそれだけ警戒されるべき存在なの?
一刀SIDE
一週間もちゃんと寝ないでいたのが、豫州に着いたことをきっかけに気を抜けすぎたのか、そのまま風邪に引いてしまった。
雛里ちゃんたちが市場から戻って来た時から、『あ、まずい』と思っていたが、ちょっと寝たら大丈夫だろうと思っていた。
それが孫策が現れて、夜中馬で走って寝た時間はせいぜい一刻半ぐらい。起きてみたら調子は寝る以前よりも悪くなっていた。
そんな状況で、呉の老将と言える黄蓋と戦えなんて、色々と無茶すぎた。
『師範たる者、剣を持って戦いに挑む時は常に全力で向かうべきじゃ。ただ、師範たる者、下手である者の成長を望むのなら、常にその人より一手上回るに戦うべきだ』
要するに、全力を出す時と、手加減する時を選べ、
という矛盾した持論は亡くなった祖父さんからの教えだった。
孫策と初めて戦っった時は全力だったけど、二度目あった時は手加減だったのもそのせいだった。
でも、調子が不調だとそうもなかなか行かないもので、しかも相手は剣でもない。
弓の達人となんて、現代の止まった的に当てる弓術しか見たことがない僕にしてはまったく新しい世界だった。
最後には結局自分が有利な状況を作って勝つのが精一杯だった。
もっとも、体が限界だったので最後に爆発させるという感じだったので、あの時は力加減ができなくて、どうかなっても仕方ないと思っていた。
剣を扱う者として有り得ない考え方だったが、相手も達人級だったのでこっちも色々助かったと言える。
……何故僕は意識も朦朧としているのにこんな話を述べているのだろうか。
きっと熱のせいだ。
ぺちゃっ!
「あ冷たっ!!」
「あ、起きた」
「何すんだ!」
いきなり人の顔『全面』に冷たい布巾をかぶせるとか殺すつもりか!
「だってその方が直ぐ熱が落ちるかと思ったんだもん」
「お前…小さい頃痛かったことないだろ」
「ない!」
威張るな……
「それよりも黄蓋はどうなった?」
「祭も自分の部屋でまだ寝ているわ。彼女にあなたが戦っていた時の状態を教えてあげたら、きっと武人の恥とか言いだしながらあなたを連れだして酒盛りをするでしょうね」
「何かおかしくないか、それ?」
「そうかしら?戦った後は酒を交わることで仲良くなるもんでしょ?」
「なんか違うような気がする…」
そういえばこの世界に来て酒なんて呑む機会なかったな。
「蜂蜜の件はどうなっている」
「冥琳に調べさせてるわ。そんなことより、あなたは少し自分のことを心配したらどうなの?」
己のことを心配?
……何を馬鹿な話を……
「僕は僕自身のことなんて心配しない。あの時、お前に殺された以来にな…」
「っ………」
「僕のことを心配する人なんて散々居るんだ。僕まで自分のことを心配してるぐらいなら、こんな旅最初から始めてもいない」
「…旅?何のために?」
孫策は分からないという顔をしながら言った。
「こんな世よ。女の子三人連れて旅だなんて……あのまま水鏡塾に残っていれば安全でよかったじゃない」
「あそこが安全ではないことを証明してくれたお前がそれを言うか?」
「………」
「この乱世、どこも安全なところはない。誰も安全な場所を求めるがそんな場所はない。なら作るしかないんだ。誰もが安全に暮らせる場所。人が人に殺されることを恐れなくていい場所。人が人に騙されることを恐れずに暮らせる場所。互いに助け合うことを躊躇しない集団。僕たちはそんな場所を作るために旅をしている」
そして、お前の妹に会ったんだ。
僕が知っている中で、蓮華は雛里ちゃんたちを除いて僕たちのことを一番良く理解してくれた人だったから。
だからこそ、僕は彼女の懇願を聞いた。
「孫文台は袁術と劉表の策に乗せられて死んだ。お前もまた白鮫の策に踊らされて僕と裴元紹たちを殺した。そして今回のこの事件も、また誰かが誰かを嵌めようとする謀略、僕たちはそんな世界に疲れて逃げ出そうとする人たちに道を与えてあげたい。かつて僕たちが救えなかった人たちのためにもな」
「……そのために旅を…?」
「そうだ」
「……そう」
人たちは良く人生の逆境を海の波に喩える。
波を乗るもの、波に飲まされるもの……でも、人生という海はそんなものではない。もっと深くに、海の下へ向かえば、波なんて居ない安らいだ場所の方がもっと多いんだ。外の汚く競いあう世界から、酸素ボンベ持って海に潜ると、そこにはいつも静かで綺麗な世界がある。僕たちはこの乱世にそんな場所を探して、そんな場所を求める人たちをそこに導いてあげたいと思っている。
「あなた、蓮華を知っているわね」
「!…何故それを?」
「寝言で言ってたのよ」
「……そう、確かに会ったな」
「彼女にもこんなこと言ったの?」
「言った」
「それで、蓮華はなんと答えた?」
「彼女は彼女なりの言葉を返した。だけど、お前に教えることはできない。ただ、一つだけ確かなのは、お前が今思っているのとは違う」
「……」
「だから多くの文台の旧臣たちがお前から離れていったんだ」
「っ!」
次の瞬間、孫策は僕の喉に剣を突きさそうとしたが、僕は彼女の誇りというものがそれを許さないことを知っていた。
僕が彼女の立場でも、きっとこの無礼な話をほざく男を殺すことはなかっただろう。理由は違えども。
「……他に看病させる者を入らせるわ。それじゃ…」
そう言って孫策は部屋を出て、門をうるさく閉じた。
……どうも孫策に向かって話をすると、蓮華の時のようにやさしくはできないのは、きっと雛里ちゃんにはああ言ったけど、僕も個人の恨みで孫策を憎んでいるせいなのかもしれない。
・・・
・・
・
拠点:祭 旧臣の誇り
祭SIDE
………
「はっ!」
「やっと起きられましたか」
「公瑾……」
儂が目を覚ましたら、儂は自分の部屋の寝床で寝ておった。
隣で公瑾が起きた儂に声をかけてきた時儂は何があったか思い出せたのじゃ。
「……そうか、儂の負けか」
「残念ながら…」
「………」
最初の時は策殿が言っておったこととはまったく違う童の様子に儂はあっけなくしておった。
じゃが、最後に一気に迫ってくるあの童の攻撃に―言い訳もできぬ―完全に気圧に押されておった。
突然の状況に慌てたという話も言えぬ。相手が堅殿だったとしても儂は同じことをして、そして負けたであろう。
そう、堅殿じゃった。
あ奴の動きはまるで生前の堅殿のようなものじゃった。
あんな者が戦場に立つと、きっと歯向かう敵を全て血祭りにあげるじゃろうと思わせる鬼のような動き。
策殿もその血を引いてはおるものの、普段の姿は堅殿には劣る。
「あの北郷という童は今どうしてる?」
「祭殿が倒れた直後、熱で倒れたのを雪蓮が自分の部屋に連れて行って看病しています」
「熱じゃと?」
「はい」
馬鹿な…
なら儂は熱上がりの病者相手に負けたということなのか?
「少し策殿の部屋に行ってくる」
「もう大丈夫なのですか?」
「なぁに、一発食らったぐらいで倒れてるほど老いてはないわい。なにせお主らのことも堅殿に頼まれておるし、今ら荷物になっては困るじゃろ」
「祭殿………」
公瑾はそれから何をするか知らぬわけではおるまいが………
お主には済まんの、公瑾。
策殿の部屋に向かう先にふと策殿がこっちに向かってきてるのも見かけた。
「策殿」
「…?あ、祭、もう大丈夫なの?」
少し遅れて儂に気づいた策殿の様子は明らかに変じゃった。
「どうしたのじゃ、策殿?」
「うん?別になんでもないわよ。それより、一刀を見に行くの?」
「ああ、儂と戦った時は既に熱があったらしいのじゃが、策殿はそんな状態のあ奴を儂と戦わせたのか?」
「私だって知らなかったわよ!知ってたらあんなこと……!!」
「!」
「……ごめん、ちょっと通らせてもらうわ」
取り乱して一度儂に怒鳴った策殿はそのまま逃げるように儂を通り抜けて廊下の向こうへと消えていったのじゃ。
……あの童、策殿に何をしおった。
・・・
・・
・
「ん…黄蓋殿」
「よぅ、大丈夫なようじゃな、童」
「……」
策殿の部屋に入ったら、例の童は策殿の寝床で窓の向こうを見つめておった顔を儂に向けた。
「さっきのことは、大変失礼致しました」
「良い。病気の者を無理に戦場に出した儂らの方に非があることじゃ。それにしても、あんな状態で、あれほどの力を持つか。健気な状態だとどれだけの力量が見たいものよぅ」
「……剣を持ったなら、どんな状況でも相手に勝てるほどの力量を持っているべし」
「それは…?」
「亡くなった祖父さんの教えです」
「なるほどのぉ…」
大した祖父じゃろうの……。
「その祖父という者は、お主より強かったのか?」
「………五分五分…と言いたいのですが、亡くなる前日負けていました。最後まで武人としての誇りを忘れずに逝かれた方です」
「武人としての誇り…のぉ…戦場に亡くなられたのか?」
「…はい?……あ、いえ、病死…というよりは老死です。……自分の国では、剣で戦う戦争は既に終わってましたので…」
「戦がないということか?」
「はい」
この乱世にそのようなところがいたか。
「さてはお主とお主の祖父は大陸の出身ではあるまい。五胡の者か?」
「反対側です。東の海越えにある島国です」
「東にも国がおったか…まぁ、確かそういう記録もおったな」
「………まぁ、この時代だと…」
最後に童が小さく何か言っておったが、聞き取れんかった。
「しかし、それほどの力を持って、どの軍にも所属としないで、何をしておるのじゃ?」
「ちょっとした放浪生活です」
「我らの軍にずっと仕えるつもりはないのじゃな」
「はい、此度の事件が解決する次第……」
「………そうか」
策殿とは何の悪縁かは知らぬが、これほどの
「黄蓋殿。失礼を承知の上で一つ、伺いて宜しいでしょうか」
「何じゃ、改まって…良いじゃろう。言ってみれ。ただし、儂からもお主に一つ、答えてもらおうぞ」
「…解りました」
童はそううなずいて、自分の質問を申した。
「あなたは何を持ってここに居ますか?」
「……というと?」
「…江東の虎、孫文台さまが亡くなった以来、孫家は江東の支配権を失って今や袁術の客将に落ちています。孫家は力の失い、多くの旧臣たちがバラバラになって各地に離されました。その中では孫策に仕えること自体を放棄したものまでもあると承知しています。そんな中で、孫家の旧臣であるあなたは、何を持ってここに居ますか?」
……なるほどの…そういうことか。
「約束、じゃの」
「約束?………文台さまとの?」
「そうじゃ。亡くなられた堅殿に、策殿と公瑾、そして今はバラバラになった己の娘たちを任されたからの」
旧臣と言っても、儂は堅殿と何十年も戦場を切り抜いた老将。袁術が儂のことを警戒するも策殿の近くにいることを見逃したのは、儂が老いて力がないと思ったからじゃろう。堅殿もそうなるじゃろうと思って儂にそうお願いしたはずじゃ。
「なら、もしその約束がなければあなたはここに居ないのですか?」
「まさか、例え堅殿がそう言わんでも、儂には孫家を守る義務がおる。一度仕えた孫家を離れることなでできぬ」
旧臣としての誇り、とでも言おう。
確かに策殿は堅殿に比べまだ至らぬところもあるじゃろう。
じゃがそれは時間が解決してくれるもの。策殿はいつか必ず孫家を建て直すお方じゃ。誰もそれを穿たうような者はおらぬ。
「質問はそれで済んだの?じゃあ、儂も2つ答えたから、お主にも2つ答えてもらおうぞ」
「……はい」
さて、何を聞こうかの。
「先ず一つ、策殿に殺されたと言ったのは、どういう意味じゃ。何があったのじゃ?」
「………黄蓋殿。自分は、確かに一度孫策に殺されました。それは何かの喩えでもなく、言葉通りの意味です。それに詳しい話は、孫策は周瑜に聞いた方がいいでしょう。自分が答えて良いものではないかと存じます」
「では、質問を変えよう。お主はあの場で策殿を見て、なにを思った?」
「……死」
「死?」
「あの赤く燃える森の中で、自分にとって孫策は、何もなくただ自分が敵だと決めた相手に死を与える者。それでしかありませんでした」
「……でも、今日黄蓋殿から答えを聞いて孫策に付いて分かったことがあります」
「何じゃ、それは?」
「…彼女が孤独だということです」
孤独…か。
確かに、策殿が心を許して話し合える者など、妹たちと公瑾ぐらいしかないであろう。そんな状態で孫家を率いることになったからの。
策殿はいつか堅殿に継いで孫呉の王になれる方じゃ。王にとって孤独はつきもの。それは仕方ないことじゃし、当たり前のことじゃ。
「黄蓋殿。自分は長江で孫仲謀、蓮華に会ったことがあります」
「何?」
権殿にあっておる?しかも真名まであずかってもらってるというのか?
この童は……
「最初自分彼女を見た時は、元から孫呉の家臣であったものの、まだ若い護衛武将一人しかいませんでした。でも、今や彼女の周りには多くの強者たちが集まって、彼女に忠義を誓っています」
「何じゃと?それはほんとか?」
「…孫策は今や孫家の長にいるものの、孫策の周りにある者は全ては自分の母、文台に仕えていた旧臣たち。本当に自分に仕えようとするものなんていません。それどころか、居た人たちまで離れていく始末。それに比べて蓮華には誰も居なかったのが、少しずつ自分の元に人が集まってきます」
権殿には人を引き寄せる力がおる。そして、策殿にはそういうものがない。
そう言いたいのか?
「無論、今は孫呉にとって再興を企みながら身を伏せている時期。孫策の力は確かに必要でしょう。でもその後、孫策は何もすることができません。あなたたちは孫策を孫策に見ずに、孫堅の娘としてみて居ます。だから彼女を信じられなくて離れたり、ただ先代との縁を考えてここに残っています。これからも孫策は孤独であるでしょう。それは元を言うと本人の責任かもしれません。でも、黄蓋殿、文台さまがあなたに頼んだこと。もう一度ちゃんと考えてみてください」
「どういう意味じゃ?」
「黄蓋殿は確かに言いました。文台さまとの約束がなかったとしても孫呉に仕えた武人として孫策を裏切るつもりはなかったと……何十年も共に居た心腹のそんな忠義を知らなくて文台さまがあのような頼んだとは思えません。きっと、文台さまは黄蓋殿にそれ以上を願っていたのでしょう」
「それ以上……?」
童は少し言葉を選ぶかのように少し黙ってから答えた。
「孫呉の旧臣としてではなく、文台さまの心腹であった身としてでもなく……これはあくまでもその場に居なかった自分勝手な考えですが、文台さまは黄蓋殿が『自分の代わり役』を努めて欲しいと思ったのではないでしょうか」
「儂が…文台さまの代わり役じゃと?」
「はい、孫策は今や、心を許して己の考えを吐き出す相手が少ない。孫呉の旧臣たちと言っても、自分がヘタレな姿を見せては、皆離れていくかも知れませんから。自分の娘がそんな状況に置かれることを先に感じていた文台さまは、だからこそ黄蓋殿に孫策たちを守ってほしいと言ったのだと思います。母親として、自分が彼女たちを守れなかった分、黄蓋殿にその役割を任せたかったのではないかと…」
「…………」
この童の言うとおりなのじゃろうか。
先代は、策殿に優しくない方だと。でも、それでも堅殿が策殿の母であることには変わりはなかった。ただ江東を守る虎として、母としての優しい姿を見せられなかったせいなのが多かったじゃろう。
儂は今まで、ただ孫呉の旧臣としてここに居て、策殿本人を見極めてここにおるわけじゃおらんかった。寧ろ、策殿がどんな方であったとしても、儂はただ孫呉のために策殿に仕えたであろう。
でも、この童の言うとおり堅殿が本当に望んだのはそのような義務感から生まれるそのようなものではなかったのやもしれん。
……だとすれば…
「ただの童かと思えば……年増を教えるとはなかなかやるの」
「恐縮です」
「しかし、本当勿体ないの。お主ぐらいの者が策殿の友になれれば、策殿にも虎につばさというものを……」
「………」
童は何も答えんかったが、恐らく心ではそれを否定しておっただろう。
じゃが、この童と、先ほどの策殿の仕草。
まるで堅殿の先に旅立った殿方を見ているようで思わずにやけてしまいそうだ。
「そうじゃな。…うむ、今日はなかなか気分が良い。お主、酒は呑めるじゃろうな」
「……熱上がりですので酒はご勘弁願えたら…」
「ならば尚更じゃ。酒は百薬の長ともいうしの。酒飲んでいたら熱など病気にも入らん。良い強者が入ってきた祝に、儂がとっておきのものを持ってこようぞ」
「あ」
童の返事も聞かずに儂は外で向かった。
ほんと、策殿があの童ともう少し良い場面で出会えたらの……
うん?そういえばさっきあの童権殿とも会ったことがあると言わんかったか?
しかも真名もあずかっておったし……
ふふっ、これはなかなか面白くなるそうじゃわい。
・・・
・・
・
あとがき
はい、というわけで終わりました、幕間です。
「短くない。普段と比べて」
いつもが長すぎたんだ。今回は自重しようと思って……冥琳は犠牲になったけど。
「穏は?」
誰それ?
「…………穏好きな人たちが怒るわよ?」
前に言ったでしょ。苦手な三人、星、稟、穏の三人。どうすれば良いのかまったく分からないし、扱いにくいし、おまけに穏の場合どう足掻いてもエロのネタしかないんだよ。そういう外史じゃないから、これ。
「でも、この前雛里ちゃんと一刀結ばせたよね?」
…………いや、そろそろ頃合いじゃないだろうかと思って……だな。
「まぁ、それは別にいいけど…ちょっと聞きたいことあるけど」
……言いたいことは分かる。合ってる。
「どういうことよ」
この幕間の本来の目的です。
「あなたね……」
「いいじゃん、この外史見てる人の中でこれ何の話か気づいてる人ないよ。きっと」
たまには人に分かるフラグ立てて。
「…………韓国語でネタバレをいようと思ったら和訳するとモロバレだったのでやめました。最近は翻訳機も腕あげたね。どうせ勉強しないと行けないわけだけど、英語とか……日本語…というより中国語」
出来るの?
「出来ない。漢文はできたらいいとは思ってる」
何のため
「外史のため」
ですよねー
というわけで、次回はカメラを鳳統ちゃんの方へ移します。ちなみに私は出ないよ?今寝てるよ?
「てかここに居るよね」
あーん、遙火見に行きたいー
「まだ調整中(?)なので勘弁くださいね。そんじゃ
ノシノシ
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真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。
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