No.32924

ブラックコーヒーとうみねこ

ちきちさん

ある日手渡された拳銃
私はそれをどう使うだろう

殺すため?
生きるため?

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2008-09-27 13:06:31 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:622   閲覧ユーザー数:598

 

ある日のことだった。

 

目覚めると

とりあえず目の前にモデルガンがあった。

 

―なにこれ?

 

私はとりあえず手に取る。

 

ずし・・・

 

重く冷たい感覚が手から全身へと響き渡る。

 

「・・・・・・」

 

とりあえず

 

「・・・・・仕事しなきゃ」

 

ディスクへと向かう。

私はしがない漫画家だ。しかも売れない。

漫画は少女漫画と少年漫画といろいろ扱っている。

・・・・BLなど同人漫画はまだ抵抗があって描けないが。未知のジャンルなのでいずれは挑戦したいと思っている。まぁ、接吻程度なら、だけど。

 

―今回の読み切りどんなのにしようかな・・・・・

 

 

             +

 

久しぶりに少年漫画から読みきりの依頼が来た。

なんでも人気作家が逃亡(逃亡!?)したと家田さん(以前担当をしてもらっていた編集者)から電話をいただいた。

「大変ですねー」

他人事のようにコーヒーに砂糖とミルクを入れようとしたが・・・・・ない。

あーそういえば切らしてたんだ。やばいやばい。

明日近所のスーパーで買おう。あ、確か「醤油が月曜に安売りですってよ」と近所のおばはんが言ってたな。ありがとうゴットマザーよ。

さすがおばはん情報網。さすがタイムセール。砂糖とミルクも安売りしてありますように。

と心其処なくラビリンスだったが家田さんは底抜けな私の態度に正直イラっとしたのか痺れを切らしていった。

 

『あのさ、わかるかな。君にこう言ってるんだよ?その連載スペースを描かないかって?』

「あ、描きます」

 

・・・・昔から自分は冷めていると思ったがこんな好機が訪れたというのに相変わらず驚きはしない。だから人気作家の代役なんて重いものを簡単にうけとめてしまった。

 

期限は一か月

 

さて、ブラックなコーヒーでも飲もう。

 

 

             +

 

 

 

そんなこんなで始まった読みきり漫画。正直描こうにもかけない。

私は机に伏せてから考えて寝床に向かった。

 

カーテンで閉め切っていてどことなく薄暗い。厚手のカーテンを買って正解だった。

私は暗闇が好きだ。

 

―ボフンッ

 

ベットに倒れこむ。あーこの感じいいなぁ。羽毛布団ならもっと気持ちいいんだろうなぁ。

雑なことを考えて目的のものを探る。

 

ベットの上に放置してある『それ』―もといモデルガンを握りしめる。

 

「・・・・ー本物かなぁ」

 

握りしめて確かめる。グリップが吸い込むようになじむ。

あ。

私はこの感覚を知っていた。

 

・・・・・・私「モデルガン」を手に取り、部屋を後にした。

 

 

 

向かった先は家から歩いて二十分の港だ。

 

「久しぶりに来たな・・・・」

 

あの頃私はイキがっていた。

 

 

 

数年前。

私はヤクザの幹部だった。

何故漫画家になったかというと、自分でもわからない。

ただ、血の色が嫌いになった。

 

 

女で組の幹部なんてイキがってるほかなかった。

けど、生まれついての恐怖心のなさや身体能力でやりきっていた。

 

私は満足だった。

殴り殴られの快感。病院送りは私が決める。

狂うがいい。

おのれの無力さを呪って。

狂うがいい。

おのれの無力さを祟って。

 

私は死にながら生きていた。

 

 

 

          +

 

 

昔から手に入れたいと思ったものは

手に入らなくて

あきらめてはないて

あきらめてはわらっていた。

 

 

ある日、私は殺しに手を染めかけた。

組の命令だった。

 

私は相変わらず冷めていて。とりあえず殺しに行った。

 

相手は敵対する組の長の孫に値する少年だった。

 

 

それが、私と彼の運命の出会い。

 

 

コーヒーを飲むようになったきっかけだった。

 

 

 

 

彼は行きつけの喫茶店があった。

そこで毎日コーヒーを飲む。それから港へと行く。

どうやら海に焦がれるものがあったらしい。

 

高校は行ってない。不良だ。ヤンキー。金髪。

 

殺してもよさそう。快感がよぎる。

 

 

さて、いつ頃が頃合いだろう。

よる?あさ?

 

ううん、待てない。

眺めてる今からでも、

 

 

殺したい。

 

 

初めての感覚が、快感が、待ちきれない。

ママの香水を勝手に使ったような。

パパからご褒美に図書館をプレゼントされたような、そんな感覚。

 

ああ、たまらない!!

 

 

気がつくと私は彼の前に立っていた。

 

「・・・・・・・」

 

無言の目線が会話する。

 

殺し屋と諭したのかどうかはわからないけど、彼はスタバのブラックコーヒーを一口飲むと、

 

「お互い苦労するね」と笑った。

 

 

 

あれ、どういう意味なんだったんだろう。

聞く間もなく彼とは距離を保ちつつ仲良くなってしまった。

 

 

どうしよう、とは思わなかった。

 

組長にばれたら指がなくなるな、とか考えるだけ。

 

あとはどーでもいい。

 

 

彼は名前を言わなかったから私は海が好きな彼を単純に「うみ」と呼ぶことにした。

彼は私に名前を聞かなかった。勝手に「猫に似てるから」という理由で「ねこ」と呼ばれた。

 

とりあえず。

私たちはあっては海に行き眺めては会話した。

 

「親友が死んだんだ」

 

と彼、うみはいつの日かいった。

 

「海に突っ込んで死んだ」

 

私はうみのことばに聞き入ったがそれが嫌で漫画を読んだ。

ストーリは青春グラフティ。甘酸っぱいダルダル。

 

うみは続ける。

 

「おれは引き留めようともしなかった。見殺しにした。・・・・・別に気に病んでないけど」

 

うそつけ。ならなんで学校行かないんだよ。とは言わなかった。

 

代わりに

 

「お迎えが待ってるかもよ。親友があっちで手招きしてるかも」

 

と茶化していった。

 

そうだね。とうみは言った。表情は見なかった。

漫画を借りて別れた。

 

それがうみとあった最後の日。

 

 

次の日うみは死んだ。

 

敵の組長に当てつけで目の前で心臓を刺したと聞いた。

 

馬鹿だな。

どうして死んだんだろ。生きてればいいのに。

私が殺してればよかったかも。

 

そうすれば痛くしないで殺したのに。

心臓なんて痛いじゃん。

 

 

 

気が付いたら泣いてた。

悲しかった。

 

あちゃー、失敗。

 

「・・・・好き」

 

だったんだ。

 

少し海に似た彼が。

海に帰った彼が。

好き、だったんだ。

 

 

私は漫画をもって泣いた。表紙が汚れた。構わなかった。

 

 

          +

 

 

しばらくして私は逃げた。そして田舎へと逃げた。

 

ここで生きている。ここには港がある。

うみと居たとろに少し似ては似つかない湊。

 

 

私は「モデルガン」を・・・・拳銃を海に捨てた。

 

捨てたんだ。

 

そして歩き出す。

 

―漫画を描こう

 

青春漫画がいい。甘酸っぱくてダルダルな。

 

そしてかえってブラックコーヒーを飲もう。

 

 

―――投げた拳銃は音をたてて海の中へと消えた。

 

 

私は猫。持つのは鉛筆と消しゴムでいい。

拳銃なんて二度と持つもんか。

 

 
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