No.325936

星降る夜に

ヒロさん

真夜中の小さな冒険者たちの目的は…。

お題を使っての掌編、3作目です。

・2作目「白き航路」http://www.tinami.com/view/316656

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2011-10-29 20:27:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:469   閲覧ユーザー数:468

 身を焦がす夏の暑さの名残も消えた頃。

 薄いブランケットを丸め、少年と少女は夜道を走る。

「大丈夫だった?」

「たぶん」

 待ち合わせ場所で顔を合わせた瞬間、楽しそうな笑みを浮かべる。

 この計画を互いの両親に話したら絶対に反対されると分かっていた二人は、内緒で実行したのだ。

 でも帰宅した時に見つかってしまったら、たぷりのお説教としばらくの遊び禁止を言い渡されるかもしれない。

 それでもよかった。

 抜け出せてしまいさえすれば。

 このしばらくの時間を二人で過ごせれば、それでよかったのだ。

「早く行こう」

「うん」

 一本道を走る。

 午前零時を過ぎた道に人影はない。

 見つかることを恐れて灯りも持たずに走るが、毎日通るこの道で迷う事はない。

 小さな林を抜けるとなだらかな丘が見え、その一番上で二人は立ち止まった。

「よし!」

 少年は大きな布を広げ、その上に自分の持ってきたブランケットを敷いた。

「準備完了」

 二人同時にブランケットの上に飛び乗り座る。

 少女の持ってきたブランケットが二人を包むと暖かさは倍になった。

「絶対見られるよね」

「うん、絶対だよ」

 断言してから少年は「時間かかるかもしれないけど」と付け加えた。

「それは大丈夫」

 ニコと笑顔を見せると少女は持ってきたリュックの口を広げ、

「ね?」

 中から取り出したのはクッキーで、他にもキャンディやチョコレート、水筒まで入っている。

「すごいや! これなら朝まで大丈夫だ」

「うん」

 そして二人は天を見上げた。

 月のない夜空は、微かな輝きの星さえもその光を地上に届けている。

 言葉もなく星空を見ている二人の熱を夜の大気が奪い、自然身を寄せ合ってじっとその時を待った。

 五分、十分。

 少女はリュックに手をのばしてクッキーを取り出すと少年に渡し、自分も一枚囓る。

「ゆっくり待とう」

「うん」

 見つめる夜空に星は瞬き、静かな光を降り注ぐ――子守歌のように。

 

 

 気がついた時、空は水色で白い雲が薄く波のように広がっていた。

「あ!」

 飛び起きた少年の声に少女も目を覚ます。

「ああっ」

 悲痛な声が緑の丘に響く。

 そして寄せられた眉の下の瞳が潤んだ。

「また今夜――」

「だめよ。朝になる前に家に帰れば見つからなかったかもしれないけど……」

「…………」

 大目玉必死の二人の心は重く沈み込む。

 一年後は遠い。

 今年、二人で見たかったのだ、流れ星を。

「……どうしよう」

「でも……帰らないと。僕がいっぱい謝るよ。無理矢理引っ張り出したって」

「最初に見たいって言ったのは私だもん」

「そうだけど! そうだけど僕も見たいと思ったんだ」

 起き上がってブランケットを丸め、少年は少女の手を引いて帰り道を急いだ。

 

 少女の家の前には母親が立っていて、少女の姿を見つけた瞬間、名を呼び駆け寄ってきた。

 それを聞きつけた少女の父親がやってくると少年は頭を下げて謝る。

 そうじゃないのと言おうとした少女を父親は黙らせると、少年に何故深夜に二人で出かけたのか理由を問いかけた。

「流れ星を見せたかったんだ。だから僕が無理矢理連れて行った。ごめんなさい」

 父親は娘の手から落ちたブランケットとリュックを見て、無理矢理連れて行ったのではないと推測したのかもしれないし、他の理由があったのかもしれない。

 少年を叱らずに父親は問いかけた。

「見せられたのか?」

「……ダメだった」

「何だ。目的が果たせなかったのか」

「…………」

 言い捨てると父親は家の中に入ってしまい、そしてすぐに戻ってきた。

「パパ、ごめんなさい。私が見たいって言ったの。本当は私がお願いしたの」

「二人とも、上を見るんだ」

 言われて青い空を見る。

「そらっ」

 父親が合わせた両手を天高く振り上げると、何かが太陽の光に輝いた。

「あっ」

 落ちてきたのは金平糖だった。

 

「ママも子供の頃、金平糖の流れ星をパパに見せてもらったのよ」

 


 
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