No.324599

外史異聞譚~反董卓連合篇・幕ノ二十四/洛陽編~

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2011-10-27 11:06:25 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3647   閲覧ユーザー数:1941

≪洛陽宮中・評定の間/田元皓&沮元明視点≫

 

さてさて、私達は洛陽に戻って早速評定に入っています

 

諸侯の処遇を決める評定という事で、実際やることはほとんどないと思うんだけど、やっぱり形式として必要かな、と思います

 

これに関しては実際に一番忙しかったのは元直ちゃんで、諸侯豪族に間諜を貼り付けてその動きをしっかり監視してました

当初は一番警戒されていた曹孟徳は実際には動きもなく、むしろ先に軍と共に戻った荀文若がかなり積極的に動いています

これは元直ちゃんの筋からでなく、外交筋からの情報です

荀文若さんには残念なことに、今の洛陽で相国の側にいない官吏というのはほとんどいなく、先の反乱と大粛清が尾を引いているため目立った効果はあげられていないようです

 

同様に、現在宮中に残っている官吏に働きかけている諸侯豪族は多数いますが、これらは結果的には自分の首を締める事になるでしょう

 

荀文若さんは、その点では非常に慎重なので、これを理由にする事は難しいところです

 

後宮や官吏に贈物を急いで届けようとしているのと、友誼を基準に後日“お礼はする”と手紙で言うのとではやっぱり違います

 

この事を報告した時、評定の場で一刀ちゃんが苦笑していたので、多分内心で荀文若さんを褒めてたんだろうなと思います

 

いつだったかな

「恐らく今の大陸で一番の政治家は荀文若だ」

とか言ってた覚えがあるから、この想像は間違ってないんじゃないかな

 

評定では、この後に及んで宮中工作をしようとしていない諸侯と豪族に対しては手を緩めよう、という事で大方は落ち着いています

 

それと、予想通りというべきか、馬孟起さんはかなり活発に動いていたようですが、保身の為というよりは理解者の獲得に奔走していたようです

元直ちゃんの報告では、目立った成果はあげられていないようだとの事で、これも予想通りといえるかと思います

 

そういう訳で元ちゃん達の出番です

 

袁公路さんと曹孟徳さん、事実上諸侯連合の中心にいた二人の処遇を決めなくてはいけないので、所見を提示しなくてはなりません

 

大筋は事前の会議で話し合っていましたが、一刀ちゃんが

「細かいところは二人に任せるから」

などという、相変わらず投げっぱなしな事を言い出したからです

 

誰も反対しなかったので、元ちゃん達が進めないといけません

 

「それで、曹孟徳の処遇ですが」

「ついでに、袁公路の処遇もですが」

『両者共に転封という事でいいかと思います』

 

これにはさすがに反対意見が出る気配すらありません

なのでそのまま私達が考える処遇を述べたいと思います

 

「袁公路に関しては、この際徹底的に私財を吐き出してもらって、一族闘争の餌食になってもらう方向で、河北に転封して汝南を没収し洛陽から官吏を派遣して直轄地として扱う事で周辺豪族の抑えとすればいいかと思います」

「この任に充てるのは、相国寄りの重鎮よりも陛下や漢室寄りの方が適任かと思います

できれば名望が高く公正な人物で、内政に詳しい人物が望ましいかと考えます

補佐に2名程武官を選別し、船に慣れている方なら尚良しでしょう」

『事実上は袁家の取り潰しの宣告ですが、そこは匙加減でぎりぎり立て直せる程度にするのが良策かと思われます』

 

陛下が表情で

「多少やりすぎではないか?」

と言っていますが、三族皆殺しにも平民への身分剥奪もしない以上、表向きは温情措置です

陛下の他には相国が

「ちょっと可哀想かも」

という顔はしていますが、他は

「殺されないだけ感謝しろ」

という感じです

後は勝手に転落していくのを待って、頃合を見て介入すれば、苦もなく袁家の領地を切り取って直轄地にできる訳で、急ぐ必要もないのです

 

それで曹孟徳さんの処遇ですが

 

『今回中立を保った劉君郎と同じく、中央に置いておいては多少の租税の増加や身分剥奪などものともしない人間でしょう』

「だから辺境に飛ばしてしまって時間を無駄にさせるのが良策です」

「交州あたりの州牧にしてしまって、無駄に苦労してもらいましょう」

『表向きは唯一位階があがるということで、諸侯豪族とも折り合いが悪くなります』

 

本当はああいう人を辺境に送ると劉邦になりかねないんですが、中央に置いておくとそれはそれで面倒極まりない人物なので、辺境で風土病と少数民族と地方豪族相手に苦労してもらって、その覇気が削げ落ちるのに期待したいところだったりします

隣にそれまで袁公路さんが抱えていた豪族一同の勢力がこれから独立に向けて台頭してくるはずで、相当な苦労を強いられるはずです

 

これもなんというか、一刀ちゃんが基本を提案したことなんだけどね

 

「人材と権力に貪欲な曹孟徳に、人と物の流れのいい場所を与えていいことはひとつもない」

 

これを基本に考えた元ちゃん達は、いっそ南の辺境に位階をあげるという名目で放り込んでしまえ、と思った訳です

 

位階をあげる名目は

「諸侯連合に与した事は誤ちであったが、その後の統率による功績は評価すべきである」

という屁理屈そのものです

 

似たような理由で、北平の公孫伯珪さんをはじめとした贈物を用いた宮中工作を行わなかった諸侯豪族も課税なしという優遇を行うので、特に功績を認めたという屁理屈を通します

 

「まあ、危険物は遠くに置いておけ、って事よね」

 

賈軍師のこの一言で、これも採用となりました

 

残る涼州と巴蜀の処遇に関しては、さすがに元ちゃん達の仕事ではないので、一刀ちゃんに目配せをして着席します

 

一刀ちゃんはそれに頷くと、ゆっくりと喋りはじめました

 

 

私達は全員がその大要は聞いていてその内容にも納得しているけど、それをどう陛下達に飲み込ませるのか

 

元ちゃん達が今まで見てきたなかで最高といえる政治力の持ち主である一刀ちゃんのお手並みを勉強させてもらおうと思います

≪洛陽宮中・評定の間/北郷一刀視点≫

 

さて、ここまでは順調といえるかな

元ちゃん達の交渉能力が大きいんだけど、同じことを期待されても困るんだけどな…

 

俺は内心で溜息をつく

 

天の御使いが言う事だから、という部分で押さないといけない提案なのは理解しているんだけど、失敗したら笑えないんだよ

 

いや、これ本当に

 

まあ、やるしかないか

そういう訳で俺はゆっくりと喋りはじめる

 

「以前、董相国には言ったと思うんだけど、先の約束の空手形を貰いたい

ふたつのうちひとつは“天譴軍を認める”という形でいただいたから、残るひとつという事になるね」

 

既にこの話を聞いていたのだろう、劉弁が真剣な顔で尋ねてくる

 

「それは朕も承認が必要な事柄ではないのか?」

 

俺はそれに頷く

 

「確かに陛下の裁可も必要だが、まずは相国に納得してもらわなければはじまらない内容なんだ」

 

全員が訝しげな顔をする中で、俺は要求を告げる

 

「董相国には洛陽の東側、陳留や許昌、濮陽といった要衝を統治してもらい、俺達に上庸と涼州をくれないか、という事なんだ」

 

俺の言葉に慎重に質問してきたのは賈文和だ

 

「私達の故郷を得る事で、五胡との関係をより進めたいという事?」

 

俺はそれに頷く

 

「当然、相国の出身地である天水には最初のうちは便宜は計る

 必要なら馬や兵の徴募に関しては譲っても構わない

 ただし、俺達が統治する場所、という名目は譲れない」

 

この言葉に少し考え込んでから、董仲穎が尋ねてくる

 

「一族や私達に友好的な豪族の安全は保証してくれるんですよね?」

 

俺はこれには灰色の返答で答える

 

「天律に障らない範囲でなら便宜は計ろう

 不安なら長安なり洛陽なりに移住してもらった方が確実だと思う

 俺達の統治下では豪族だからといって旨味はないと思ってくれていい」

 

これに陛下が面白そうに聞いてくる

 

「具体的にはどうなるのだ?」

 

「今となっては隠す理由もないから言うが、漢中で利権にしがみついた豪族や貴族は残らず駆逐したよ」

 

さらりと答えた俺に、陛下が息を飲むのが判る

 

「俺達が民衆やまっとうな官吏将兵に絶大な支持を得ている理由のひとつがこれだ

 身分が上だからとか縁故があるからという理由で不正を見逃しはしない

 そういう事さ」

 

俺のこの言葉に苦しそうに苦笑する陛下が憐れではあるが、つまりはそういう事なんだよ

 

「朕にとっては耳が痛いどころの話ではないな…

 相国はこの提案をどう考える?」

 

考え込む董仲穎を他所に、陳公台が質問してきた

 

「今提示された条件を考えると、この連合で中立を言い出した巴蜀も天譴軍で面倒を見る、という事で考えていいのですかな?」

 

………こういっては悪いが意外だ

このちまころ軍師に戦術眼があるのは理解していたが、上庸を欲しがった理由をそこに結びつける戦略眼があるとは俺は思っていなかった

 

ふと周囲を見回すと、うちの面々が苦笑して俺を見ている事から、相当顔に出ていたらしい

 

見れば陳公台はぷくーっと頬を膨らませている

 

うん、これは俺も評価を改めて相手をする必要がありそうだ

 

先入観って恐いよな…

 

「劉君郎に野心があるのは明白だし、その息子達は愚物ばかりと聞く

 であれば漢中に俺達がいる以上、いずれはやりあわないとならない

 そう考えるのはおかしいかな?」

 

自身の不明を謝罪しながらそう伝えると、賈文和が答える

 

「劉君郎の失策のせいで頻繁に侵攻してくるようになった西側の五胡も面倒を見てくれるってことよね?」

 

それは事実なので俺は頷く

まあ、一番の理由は劉備が最後に逃げ込む場所を無くしてしまいたいから、という、ここでは絶対に言えない理由なんだけどね

漢室に連なる姓をもち、その証明である靖王伝家を持つ劉備は、逆に辺境に置いてはいけない人物だ

元々外には向きづらい性質を持っているのだから、近くで監視しておく方がいいに決まっている

 

そして、巴蜀を基盤に荊州を睨む事ができれば、孫呉の台頭にも対処が容易となる

 

そのまま大陸東部を董卓に飲み込んでもらえれば、後はいくらでもやりようはある、という事だ

 

元々五胡との交易を声高に主張していたのもあるのだろう、俺の言葉に納得がいったのか董仲穎が頷いた

 

「天水にいる希望者が長安と洛陽に移住するのを認めてもらえるなら…」

 

俺はそれに頷く

元々、現在の漢中では人口の飽和が見え始めていたので、極端な事を言えば天水の人民が空になっても俺達に不都合はない

むしろ、冒険心の強い商人達を直接西側に送り込む事ができるようになる、という利点だけでも涼州を得る価値は十分にある

 

俺が望む結果を得られた事に満足していると、不意に劉弁が声をかけてくる

 

「朕らがそれを認めるのは構わぬが、涼州も上庸も素直に従う保証はないが、よいのか?」

 

俺はそれに笑って答える

 

 

「素直に従うならそれで問題はありませんが、恐らくは違うでしょう

 その時は俺達の名乗りが伊達ではないと思い知ってもらう事にしますよ」

 

特に涼州には、悪いとは思うが犠牲になってもらう必要がある

 

目先の利得で動く遊牧騎馬民族と友好的に付き合うには、一度は力を示す必要はあるのだから

 

 

陛下や董仲穎達がドン引きしているのを知りつつも、俺は笑うのを止める事はしなかった

≪洛陽/馬孟起視点≫

 

結局のところ、あたしらは味方を見つける事はできないまま洛陽に着いた

 

これは思い返せば仕方がない事なんだけど、どうにも白黒つかない状態で動くのをあたしが嫌がったために起こった事だ

 

涼州は漢室の盾でありその忠臣だっていう思いがあって、どうしても弓引くつもりにはなれなかったのを公言したのがいけなかったらしい

 

劉玄徳は仁に篤く徳の高い人物だと聞いていたんで、少しは期待したんだけど、やっぱり無理だった

ただ、理由が他の諸侯とは違ったのを後で蒲公英から聞いて、あたしはしばらく頭を冷やす事を考えたんだ

あたしは涼州の代表ではあるけどあくまで母樣の代理であって、そういった部分を、はっきりいうなら涼州が董卓に与しなかった理由である天の御使いとかいう詐欺師を認めて交渉の場についていいものかどうか、それを悩んでいるうちに洛陽に着いてしまったという訳だ

 

陛下からは洛陽に到着した時点で、後日詮議に対しての評定を行うまで洛陽に留まる事を言い渡されている

 

もし洛陽から出たら、それは言うまでもない

 

そんなあたしにできるのは、涼州に戻ったやつらに頼んだ母様の判断が届くのを待つだけだ

 

もっとも、蒲公英はあたしの頭が冷えた事で、もう一度劉玄徳のところに話をしにいこう、と言っている

 

あたしもそれは悪くないとは思うんだけど、なんていうかなあ

 

頭使うの苦手なんだよ…

 

こう、槍でがーっととか、馬でばーっととか、そういう方が楽だし向いてるんだよな

 

蒲公英にそう言うと、ものすごく疲れたようなジト目で

 

「これだから体育会系は………

 蒲公英はそういうのと一緒にされたくないんだけどぉ…」

 

とか、ものすごく可愛くない事を言われた

 

でも、なんというか、どういう沙汰が降るにせよ、母様や涼州諸侯の意向がどんなものになるにしても、話を聞いてくれる味方を増やしておく事そのものは悪い事じゃない

 

考えてみれば、袁公路や曹孟徳にこの時点であたし達の味方になってくれってのは無茶もいい話だったし、他の諸侯や豪族だって遠方な事もあって五胡の脅威に曝されている一部の豪族以外とは話になるはずもなかった

 

だからあたしは、相当焦っていたんだと今なら判る

 

だったらまだ、詮議の場で賞揚を受けていた劉玄徳や公孫伯珪達が

「あたしが冷静になったなら話をしよう」

と言ってくれただけ有難い話だと思うべきだ

 

 

あの露骨な悪意に、今となってはどこまで間に合うかすらあたしには解らないけど、それでも自分で認めるくらいには馬鹿なあたしには、話をきちんと聞いてくれる人達がいるっていう事が今は大事だと思う

 

あたしは非礼にならないよう、先触れを出すために蒲公英に声をかける

 

「おい、今から玄徳殿のところに行きたいと思うんだけど、頼めるか?」

 

あたしの言葉に蒲公英はぱっと表情を明るくする

 

「うん!

 非礼にならないように、でも贈物をもっていくのは避けて酒肴だけ持っていけばいいよね?」

 

「それも断られそうな気はするんだけど、さすがに手ぶらじゃまずいだろうしなあ…」

 

「そうなんだけどぉ…」

 

額を付き合わせて悩むあたしらは、やっぱり従姉妹というか姉妹なんだと思う

 

多分これを言うと生意気にも蒲公英は怒るんだろうけどな

 

ま、こういう事こそ考えたら負けだ

 

あたしはそう思うのであっさりと言う事にする

 

「友人宅に手ぶらで訪問するやつもいない、とでも言っておけば多分断られないと思うからそれでいこう!」

 

「……お姉さま、熱でもあるの?」

 

あたしの意見に驚愕している蒲公英を思わず睨みつける

 

「……なんだよ、おかしな事いったか?」

 

「いやぁ…

 まさかお姉さまがそんなまともな事いうなんて思わなくて…」

 

上目遣いで“えへへ”と笑う蒲公英の額を軽く小突いて、あたしは言う

 

「ばっかやろ

 あたしだってたまにはそういう時もあるんだよ

 それはともかく、頼むな?」

 

「はーい!

 じゃあ行ってくるねー!」

 

そう言ってにぱっと笑って蒲公英が駆け出していく

 

それを笑って見送って、あたしは大きく深呼吸をする

 

 

よし!

 

もう一度、今度はしっかりと話をするぞ!

 

 

諦めるなんてあたしらしくないもんな!!


 

 
 
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