Scene1:榛奈駅前商店街 スーパー「カミオカ」 PM05:00
首都東京から私鉄を乗り継いで1時間と少し、人工10万に満たない榛奈市随一の中心街こと榛奈駅前商店街。
火曜の夕方は特売と言うこともあって、夕飯の材料を買いあさる奥様方でごった返している。
商店街一の規模を誇るここ、スーパー「カミオカ」も例外ではなく、脳天気な店内BGMが鳴り響く中、割引シールを持った店員をそれとなく見張ったりかけずり回る我が子を追いかけたりと熾烈なサバイバルが行われていた。
と、そこへ。
骸骨を模すように黒白に塗り分けられた全身タイツに目出し帽、蛇をモチーフにした銀のバックル。どこの秘密組織の戦闘員だ、ってな格好の一団が、綺麗に列を作って乱入して来る。
予想外の事態に呆然とする店内。
丁度テープの切れ目に当たったのかBGMまで止まり静まりかえる店内に、一団の見事に揃った足音がざっざっと響く。
実に良く訓練された動きで、入り口のカート置き場に四列縦隊で整列。
「よーし、各員点呼でやんすー」
やけに間抜けなな声とともに登場したのは、グラマラスなボディに、牙とか骨を意匠化したようなとげとげのビキニアーマーを付けた美女。これまたどこの組織の女幹部か、ってな格好である。
店の用意したアトラクションか何かの撮影かとざわつく店内を尻目に、戦闘員達は順々に「イー!」と叫ぶ。
「よーし、全員分担はわかってるでやんすねー。では各自任務開始でやんす」
満足げに頷いた女幹部の指示に、再び「イー!」と声を上げて敬礼し……各自買い物かごを取ると、バラバラと商品棚に駆けてゆく。
「あ、あのー…」
ちょうど買い物かごを整理していたパートの吉仲さん(35歳)が、女幹部におそるおそる声をかける。
「なんでやんすかー?」
見た目に反して返ってきた答えは思いの外フレンドリー。ほっと胸をなで下ろして質問開始。
「これはなにかの撮影です…か?」
「はっはっは、カメラは回ってないでやんすよー」
腰に手を当て自慢げにからからと笑うのに合わせ、たゆんたゆんと揺れる胸のふくらみ。精肉売り場の奥から覗いていたバイトの竹中君(20歳浪人)が鼻血を吹いた。
「で……では。な、なんのご用なんでしょう?」
何を食べたらこんなになるんだろう…遺伝かなあ…あ、よく見たら肌もつやつや…とかなんとか、全然違うトコにめげそうになりつつも、果敢に尋ねる吉仲さん(77B近頃お肌の曲がり角)。
「スーパーに、買い物以外に用事があるんでやんすか?」
何を当たり前のことを聞いてるのかと言わんばかりの呆れた表情に、吉仲さんの頭に返って??が浮かんだ……その時、
「そこまでだ!」
出口(混雑緩和のため、出入り口分離にご協力下さい)から、またぞろ怪しげな集団が乱入してきたのだった。
赤青黄色に桃緑……基本モノトーンな最初の集団とは対照的にド派手な全身タイツに身を包んだ…まあてっとり早く言えば日曜朝によく見かけるような皆さんの登場に、店内の客は、これが店側の用意したアトラクションだと結論づけたらしい。やんやと拍手喝采が浴びせられる。
「むう! なに奴でやんすか!」
これまたお約束に乗っ取るかのように、ポーズまで付けちゃって誰何する女幹部。
「榛奈市の平和を守るハルナレンジャー!平和を乱すダルク・マグナよ、覚悟しろ!」
名乗ってびしいっと大見得を切るハルナレンジャー(自称)の面々。背後に爆発が起こらないのが不思議なくらいの決めっぷりである。
おおっとお客がどよめく。
お母さんに連れられていた幼稚園児くらいの男子が大興奮してばっちばっちと太股を叩いている。
が。
「……誰?」
間の抜けた女幹部の反応に、思いっきりずっこけるハルナレンジャーとお客さん。
「誰っておい!お前らが侵略しに来たって言うから出動した正義の味方だよ!」
辛うじて立ち上がったブルーが怒鳴る。
「そんな怪しげな格好をした正義の味方なんてちゃんちゃらおかしいでやんすー」
「お前に言われたくないわー!」
ブルーの魂の叫びに、店内全員が思わずうなずいたのであった。
「と、ともかく、貴様らがここに来た目的は何だ!」
ブルーは必死に問いつめるが、敵味方とももうなんかどっちらけな雰囲気。
「買い物でやんすよー。引っ越して間もないんで、色々物いりでやんすからなあ」
のほほんと答える女幹部。賛同するように「イー!」と叫ぶ戦闘員の皆さんは、きちんと整列してレジを待っている。
レジの桃谷さん(42歳)は呆然と事の成り行きを見守りつつ、長年鍛えたパートの技で、てきぱきとレジ作業を進めていた。
実に平和な光景である。並んでる連中の外見を見なかったことにすれば。
「え、ええい、騙されんぞ!かくなる上は締め上げて吐かせてやる!」
一人叫んで戦闘態勢を取るブルー。残り四人もやれやれ、と言った感じに構える。
「めんどくさいでやんすねえ……戦闘員、適当に相手してやるでやんすよ」
深いため息を一つついて、ほんっとーに邪魔そうに、ぺいっぺいっと手を振って指示する女幹部。やる気がそがれることこの上ない。
とはいえそこはどうやら場慣れしているのか、機敏な動作で買い物を詰めたレジ袋をまとめて脇に置き、わらわらとハルナレンジャーを囲む戦闘員。
もう大盛り上がりのお客さん達の中、
「私の店がー!」
店長の神岡泰典さん(52)の絶叫が響き渡った。
「はっはっは、ハルナレンジャーと言えど多勢に無勢、物の数では……なにいい!」
「イー……」
余裕ぶっこいていた女幹部の足下に転がる戦闘員達。
「に、二十四人が一瞬でやんすか?」
慌てる幹部を取り囲むハルナレンジャー。
「さああて、残るはお前一人だなあ?」
ぱきぱきと指を鳴らして近寄るブルー。女幹部は腰を抜かしてへたりこむ。
「ひ、ひいい?あ、あれでやんすよ?数を頼んで襲うのは良くないでやんすよ?」
しりもちをついたままの姿勢で、器用に後じさる女幹部。目の端にちょっと涙が溜まっている。
「ええい、問答無用!」
「タスケテー、おまわりさーん!」
「悪の秘密結社が警察呼んでどうする!」
もっともな突っ込みと共にブルーの拳が振り下ろされ……
「……やれやれ、遅いと思って来てみれば……これはなんの騒ぎだ?」
鈍い金属音とともに右手にはめた手甲でブルーの拳を受け止めたのは、スレンダーな体を血のように紅い軍服に包んだクールビューティだった。
「くっ、誰だ貴様!」
拳を押さえて下がるブルー。思いっきり鉄の塊を殴ったので、相当痛かったらしい。
「私の名はシェ
「くけーっけっけっけ!シェリー将軍が来たからにはお前らなんかけちょんけちょんでやんすよ!」
「お
「さあ、命が惜しければ土下座して許しを請うでやんす!」
「な
「ふははは、正義は我にありでやん……げぶあはっ!」
容赦なく振り抜かれた手甲が綺麗に鳩尾に入って目を回す女幹部。
「……失礼」
「い、いや……」
片手で軽々と投げ捨てられた女幹部を、ようやく立ち直った戦闘員達が慌てて抱きとめるのを横目で見つつ、ブルーはシェリーと呼ばれた女将軍に対峙する。
おちゃらけた風の女幹部と戦闘員達とは打ってかわって、悠然と立つシェリーから感じるのは、刃物の威圧感のみ。
短く刈り揃えた銀髪の陰から除くアイスブルーの瞳は何の感情も映さない。
無意識のうちに、ブルーは身構えていた。
だが、それすらも意に介さずシェリーはハルナレンジャーの面々を無表情に見つめる。
「いささか不本意な行き違いがあったようだが……ご説明願えるかな?」
「い、いや……お前らがこの町を侵略しに来ると言うから撃退に……」
「なるほど。だが、今回の彼らの任務は買い出しのみで、破壊活動は含まれていなかったはずだ。きちんと対価を払った正統な取引だった……そうだな?」
振り返られたレジの桃谷さん(娘が今年高校に入学)は、思わずこくこくと頷く。
「……よろしい。戦闘員、そこのポンコツと物資を抱えて撤収せよ」
「お、おい、待て!」
慌てて止めようとするブルーに振り返り、
「この国では、買い物をするのに官憲の許可がいるとでも?」
「い、いや……それは……」
完全に迫力負けして口ごもるブルーの肩を、レッドが叩く。
「……俺達の負けだな」
「先輩。でも……」
「こちらも失礼した。それでは」
なおも抗弁しようとしたブルーを抑えて、レッドがシェリーに頭を下げる。
シェリーは値踏みするようにレッドを見つめると、
「お互い、部下の育成には苦労させられるな」
にやっと笑ってきびすを返す。右手で合図すると同時に、戦闘員達は荷物と女幹部を抱えて出口から整然と出て行く。
ハルナレンジャーと観客達は、その後ろ姿を呆然と見送るしかないのだった。
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大昔VIPに上げた「三下女幹部」改稿
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