No.320530

そらのおとしものショートストーリー3rd アッカリン

水曜定期更新。
今回も他作品に頼った更新です。
テーマはアッカリン


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2011-10-19 00:22:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3142   閲覧ユーザー数:2219

アッカリン

 

ある秋の晴れた日、わたしはイカロスさんとアストレアさんと一緒にテレビを見ることになりました。

 イカロスさんのレーダーにビビッと反応したということで今日見るのはアニメです。

 ”ゆるゆり”という作品らしいのですが、一体どんな物語なのでしょうか?

 ゆり、というのは花の百合のことでしょうか?

 となると、園芸部員の話でしょうかね?

「……さあ、早く見ましょう」

 鼻息荒くイカロスさんはテレビのスイッチを押しました。

 

『あっかり~ん』

『は~い♪』

 

 元気よく返事をしたこのお団子頭の女の子、赤座あかりちゃんがこの物語の主人公みたいです。

 あかりちゃんは女子校に通う中学1年生。

 幼なじみで先輩の京子ちゃんと結衣ちゃんに誘われて、廃部になった茶道部の部室を使ったごらく部に入ります。

 茶道部入部希望者のちなつちゃんも加わってごらく部は4人体制になります。

 あかりちゃんはごらく部のみんなと共にどんな活躍を見せてくれるのでしょうか?

 

『最近気になってたんだけどさぁ~。あかりって影薄くない?』

 

 えっ? あれっ?

 このゆるゆりという作品はあかりちゃんが主人公の筈です。

 なのに第1話からキャラが立っていないと京子ちゃんたちにダメ出しされてしまいました。

 そして主人公であるあかりちゃんが目立たないという現象は1話限りのネタではなかったのでした。

 

『みんな遅いなぁ~』

 

 誰もいない部室で他の場所で活動している部員たちを待つぼっちのあかりちゃん。

 あかりちゃんはどんどん影が薄く、物語の進行上で要らない子へと化していきました。

 まるで存在感のない空気と化していったのです。

 大事な所でハブられています。

 

『さぁ~っ! 行くぞぉ~っ!』

 

 あかりちゃんに代わる物語の実質的な主役は京子ちゃんでした。

 京子ちゃんは明るくて可愛くていつも話題の中心で、みんなを引っ張っていくリーダー的タイプで主人公にぴったりです。

 対してあかりちゃんはとても良い子なのですがいつも後ろで微笑んでいて縁の下の力持ちなのですが地味です。

 

『あっ、あかりちゃん忘れてたぁ~。ちょっと探してきます』

 

 地味すぎてみんなによく存在を忘れ去られます。

 あかりちゃんは主人公タイプではないのかもしれません。

 でも、そんなあかりちゃんだからこそわたしは応援してしまいます。

 あかりちゃんと自分を重ねて見てしまう部分が多いのです。

 わたしも1巻当初は智ちゃんの彼女候補、つまりメインヒロイン候補としてとても目立っていました。

 わたしは学校のみんなに智ちゃんとのカップリングを冷やかされていました。

 智ちゃんとわたしが良い雰囲気になることも多く、智ちゃんもわたしの為に一生懸命動いてくれる場面も多かったです。

 そして、ニンフさんもアストレアさんもカオスさんもおらず、イカロスさんはまだお人形さんのように感情を表さない時期でした。

 わたしは智ちゃんの彼女候補ナンバーワンでした。

 でも、その後、イカロスさんたちはどんどん魅力的になり、智ちゃんは彼女たちと行動することが増えていきました。

 そしてわたしはいつの間にか智ちゃんがエッチなことを考えた時のムフフ要員の1人でしかなくなってしまったのです。

 わたしは物語の進行上要らない子になってしまったのです。

 わたしは空気と化していきました。

 そんなわたしだからこそ、あかりちゃんを応援したくなるんです。

 せめてあかりちゃんには主人公として輝いて欲しい。

 そしてわたしにも希望の光を照らして欲しい。

 そう願ってしまうのです。

 でも現実は残酷でした。

 

『アッカリ~~ン』

 

 その文字表記と共にあかりちゃんは透明になって消えてしまったのです。

 あかりちゃんは完全に空気と化してしまったのです。

 以降、アッカリンは空気を表す代名詞となりました。

 あかりちゃんに希望の光は差さなかったのです。

 そしてあかりちゃんの悲劇はそれだけに留まりませんでした。

 

『きゃぁああああああああぁっ!? 誰か助けてぇえええええぇっ!?』

 

 お風呂として浸かっていたドラム缶と共に転がっていくあかりちゃん。

 あかりちゃんはとにかく不幸な、不憫な子なのでした。

 短冊を吊そうとすれば風に飛ばされ、海に行けば足が他の子に引っかかって転び、花火には着替えに戸惑い遅れ、番組冒頭のコールでは毎回トラブルが起きる。

 出番も見せ場もないのは勿論のこと、あらゆるトラブルに巻き込まれる。

 最終回の最後では爆発に巻き込まれて大空に笑顔でキメていました。

 あかりちゃんを見ていると涙が止まりません。

 出番がある度に不幸に見舞われているのもわたしそっくりです。

 わたしはあかりちゃんを他人とは思えないのです。

 

 

「はいはいは~いっ! どうしてこのアニメではみんな女の子が女の子を好きになるんですかぁ?」

 そしてアストレアさんが手を挙げてした質問。

 それがこのゆるゆりのもう1つの特徴でした。

 ちなつちゃんは結衣ちゃんのことがガチで好きです。

 生徒会の綾乃ちゃんは京子ちゃんのことがツンデレだけど大好きです。

 京子ちゃんと結衣ちゃんもちょっと良い雰囲気ですし、生徒会の櫻子ちゃんと向日葵ちゃんも喧嘩しあいながらも良い感じです。

 軽い百合の花があちこちで咲き誇っています。

 緩い百合ということでゆるゆりという名前なんでしょうかね?

 ちなみにあかりちゃんは全然恋愛に絡みません。

 ここでも不憫な子です。

 恋愛に絡まない代わりに野獣と化した女の子にはよく襲われます。

 ちなつちゃんや生徒会の千歳ちゃんに唇を無理矢理奪われてしまいました。

 ここでも不憫な子です。

「え~とね、アストレアさん。人間の恋愛には色々な形があってね」  

 百合をどのように説明すれば伝えられるのか難しいです。

「……百合、女同士の恋愛は男同士の恋愛と同じぐらい素晴らしいです」 

 イカロスさんの瞳はこれ以上ないぐらいにピカピカと輝いています。

 そう言えばイカロスさん、人間らしく生きる為とか言いながら最近はBLと百合にはまっています。

 その手の同人誌をたくさん持っており、最近は自分で描く側に立っています。

「はいはいは~いっ! 恋愛は男女でするべきだと思います。女の子同士とかおかしいと思いま~す」

「……ゲート・オブ・バビロン」

 アストレアさんはウラヌス・システムの攻撃により、羽1枚残さずにこの世から消し飛ばされてしまいました。

 

「……2人きりになってしまいました」

「そ、そうだね」

 喋るイカロスさんの様子が何か変です。

 瞳は潤んでおり、頬は赤みが差しています。

 風邪でも引いてしまったのでしょうか?

「……そはらさん」

「何?」

 何か少しだけ嫌な予感がしました。

 でも、イカロスさんは大切なお友達です。

 邪険に扱うなんてできません。

 だけどわたしは自分の予感に従うべきだったのです。

「……キス、してみませんか?」

「へっ?」

 最初イカロスさんが何を言おうとしているのか全くわかりませんでした。

「……キスの練習をしてみませんか?」

 そして理解した時にはイカロスさんの顔がアップで近づいてきたのです。

「ダメ~~っ!!」 

 乙女の危機を感じたわたしは身を捻りながらイカロスさんのキスを避けます。

 そしてそのまま居間から逃げ出します。

「……逃がしません」

 でもイカロスさんも追い掛けてきます。

 わたしとイカロスさんの乙女を賭けた鬼ごっこ。

 わたしは唇を奪われないように必死に逃げます。

 イカロスさんのことは好きですけど、キスをして良いのは智ちゃんだけです。

 智ちゃんにキスしてもらう前に他の人にキスされるなんて絶対にダメです。

 でも、イカロスさんはシナプス最強のエンジェロイド。

 人間であるわたしとは比較にならない運動能力の持ち主です。

 わたしは段々追い詰められていきました。

「誰か助けて~っ! イカロスさんが乱心しちゃったの~っ!」

「……無駄です。今この家には誰もいません」

 そしてわたしは玄関前でとうとうイカロスさんに捕まってしまいました。

 後ろからタックルを受ける形で押し倒されてしまったのです。

「イカロスさん、冗談でしょっ!?」

 イカロスさんはわたしの両肩を掴んで仰向けに寝かせます。

「……そはらさん。捕まえました」

 ドヤ顔のイカロスさん。

 鼻息が荒いです。

 目は爛々に輝いています。

 イカロスさんが感情に乏しいと思っていたのはわたしの遠い幻想に過ぎなかったのです。

「ひぃええええええええぇっ!?」

 最大級の身の危険を感じます。

 その時でした。

 

 ピ~ンポ~ン

 

 救世主がわたしの元に現れました。

 玄関のチャイムが鳴ったのです。

「ほらっ、イカロスさん。お客さんだよ!」

「……どうせ訪問販売です」

 イカロスさんはチャイムの音を無視して顔を近づけてきます。

「ひぃいいいぃっ!」

 すると、チャイムの音が更に続けて鳴りました。

「ほらっ、智ちゃんが帰ってきたんじゃ?」

「……マスターとニンフは後1時間は帰って来ません」

 野獣と化したイカロスさんは訪問客を無視し続けます。

「……大丈夫です、そはらさん。こんなのただの練習ですから」

 イカロスさんがいよいよ顔を近づけてきました。

「ダメぇえええええええええぇっ!」

 わたしは顔を必死に横に振ってイカロスさんに思い止まってもらおうとします。

 でも、だけど……

 

「ああっ!?」

 

 わたしにはその先の記憶がありません。

 きっと覚えていたくないから忘れてしまったのだと思います。

 ただ、わたしの舌に絡まって来るもう1つの舌の感触だけは覚えてしまっているのです。

 

「何だ、開いてるんじゃねえか」

 智ちゃんとニンフさんが入ってきました。

 でももう、わたしには関係のないことでした。

 何か考えることができないからです……。

 

「……マスターっ!? ニンフっ!? 戻って来るのは1時間後では!?」

「部の用事が予定より早く済んだんで早く戻ってきたんだが……」

「取り込み中みたいだったわね……」

 3人の引き攣った声が聞こえます。

 でも、それが何を意味するのかわたしには考えるだけの力がもうありません。

 

「……ちっ、違うんですっ!」

「まあ、何だ。仲良いことはいいこと、だよな……」

「ごっ、ごゆっくり……私にはよくわからない世界だけど……」

「スマン、ほんとスマン」

「……ち、違います。ほんと誤解なんですっ! マスタ~~っ!」

 イカロスさんが智ちゃんに向かって絶叫します。

 でも、もうわたしの瞳は何も映していませんでした。

 

 

『はいはいは~いっ! 恋愛は男女でするべきだと思います。女の子同士とかおかしいと思いま~す』

 

 ただ頭の中を走馬灯のように在りし日のアストレアさんの面影と言葉だけが頭の中をグルグル駆け巡ったのでした。

 

 了

 

 


 
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