「野球のルールを教えて欲しい?」
私が彼の言葉に頷くとにっこり笑って承諾してくれた。
彼、山本は並盛中学校の野球部に所属している。
今度他校との交流試合があるとボスから聞いて、京子ちゃんやハルちゃんも来るから一緒に応援に行かないか、と誘われた。
でも、私は野球のルールが全然わからない。
それをボスに言ったら、せっかくだから山本に聞きなよと言われ、今に至るわけである。
だけれど。
「バッターがドカンって打つだろ?そしたら一塁にびゅっていくのな、それで間に合ったらセーフでダメだったらアウト!」
私の基礎知識の少なさも要因の一つではあると思うけれど、図に書くこともせずに口頭で説明している上に、ところどころに擬音が入って余計に混乱してきた。
「…っと、混乱してるのか?わかんない人に説明するのって意外と大変なんだな」
「…ごめん」
「いーっていーって」
山本はうーん、と考えると何か閃いたように手を叩いた。
「これなら簡単にわかるな。客席にボールが入れば、ランナーがいる分の点数が入るんだ」
「…それくらいなら、わかる」
「よっしゃ、それ"ホームラン"って言うんだけどな。俺、クロームのためにホームラン打つから」
楽しみにしててくれよな、と頭を撫でられた。
試合当日。
朝早くに起きて、京子ちゃんやハルちゃんと一緒にお弁当を作った。二人に比べて見た目は劣るけれど、食べれないほど酷い失敗はしなかった。
ランチボックスを持って、並盛グラウンドへ行くと想像以上の盛況ぶりだった。
試合は順次進み、並盛側がやや劣勢。得点板には5‐7と書いてあった。
得点がないまま、試合は展開されていく。
バットを持って歩み出たのは山本だった。
「2アウト満塁で、バッターが山本なんてすごい」
ボスが感激したような口調で呟く。言っていることはなんだか難しくてわからなかったけど、とにかくすごいことなんだってことはわかった。
声援を一身に受ける山本はいつもの優しい顔じゃなくて、どちらかというと戦闘中の表情に近い。じっとボールを投げる人を見据えているのが正面からよく見えた。
「やまもと…!」
がんばって。
私の声は周りの声援できっと山本には届かないだろう。でもどうしても言わずにはいられなかった。
一瞬静まり返って、ボールが山本に向かって来る。
刹那、並盛の空に乾いた音が鳴り響いた。
白球は大きな弧を描いて、もう一度乾いた音を響かせた。
それは紛れも無く、特大ホームランだった。
山本がグラウンドを一周走ったときには並盛の点数は9点に変わっていた。
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(約束どおりに打ってしまうなんて、あなたって本当に、)■(お題はこちら(kaori.halfmoon.jp/) からお借りしています。 ■十人十色 (id51.fm-p.jp/459/10people/) に提出させていただいた作品です。全然野球がわからないクロームちゃんが山本のために一生懸命野球のことを勉強するとかすごくかわいいと思うの。(URLがうまくつなげられないみたいです…すみませんorz 頭にhttp://をたしてください)