No.309902 不可視猛毒のバタフライ (2/3)Rowenさん 2011-09-30 00:34:05 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:1172 閲覧ユーザー数:1155 |
0.338247
8月12日。
Dメールは過去を変えることで未来を変える。軽い気持ちで既に変えてしまったものを修正するため、岡部はタイムリープマシンを使って記憶だけの過去回帰を繰り返していた。これは他の世界線の記憶を引き継げる岡部にしかできない。もし私が回帰しても、今の記憶を維持することができない以上、同じ失敗を繰り返すだけだろう。
阿万音さんのいた未来では、私はSERNの手先としてタイムマシン研究をしていて、まゆりは死に、未来はディストピアとなる。この世界が続けば確実にそうなる。だから必要があればタイムリープマシンを完成させて、岡部を確実に過去へと送りださなければならない……時間はないけれど全ての計器を細かくチェック。寄せ集めのパーツで作っているから漏電なんかしたら洒落にならない。
「牧瀬紅莉栖、何やってんの?」
ピザを持ったままの阿万音さんが、いつの間にか音もなく私の後ろに立っていた。
「チェックよ。確実に動くようにしておきたいの」
「ふうん、牧瀬紅莉栖はあたしが失敗すると思ってるんだ」
「違うわ。でも、万が一のときに使えないと困ると思ったから」
「……そうだね。その方がいいかな。失敗してもこの装置がなかったことにしてくれるって思えば、少しは心強いかも」
それから、ごめんねと小さな声が聞こえた。未来のことを説明してもらってから、彼女の私に対する態度もずいぶん柔らかくなった。彼女は私がSERNに通じていると思い込んでいたけれど、それが真実でないことをやっと信じてくれたからだ。逆に今は、本当に自分がSERNと繋がっていないと言い切れるのか、私の方が不安になっている。直接のつながりはなくても大学や研究室のスポンサーに関連団体が入っている可能性はある。新学期に向こうに戻ったら詳しく調べてみたほうがいいかもしれない。
「みんなは?」
「向こうで騒ぎ疲れてうとうとしてるよ。みんなで夜通しパーティするのってはじめてだけど楽しいね」
言って、にんまりと笑った。私に向かってこんな顔をしてくれたのは、はじめてだと思う。
明日になれば彼女はタイムマシンで過去へと向かう。聞いてみるなら今しかなかった。
「阿万音さん……タイムリープについて聞きたいことがあるんだけど」
「んー、あたしも父さんの作ったのを使わせてもらってるだけだから、難しいことはわかんないよ?」
「わかるところだけでいいの。今の私たちは何も知らないのと変わらないもの。タイムリープできるのは岡部が証明してくれたけど、正直言って、Dメールで過去が変えられるなんて、たぶん誰にも証明できない……」
「Dメールでの過去改変は間違いないよ。オカリンおじさんが証明したって父さんが言ってた。全ての因果に干渉できるわけじゃないけど、タイムリープに比べると影響の規模が段違いだって」
「待って、タイムリープでも因果に干渉できるの?」
「世界線に大きな影響を与えるものでなければ、って条件つきだけどね。……岡部倫太郎が何度もタイムリープして、その度に『彼女』の死に方は色々と変わって、でも、『彼女』が死ぬって結果は変わらない。そういうレベル」
隣の部屋でうとうとしているはずのまゆりに聞こえないように、声をひそめてくれた。
「世界を変えるほどの変化を起こすためには、Dメールが絶対に必要ってことか」
「タイムマシンもだね。この2つは世界線の影響を受けないって聞いてる。他の技術ではどうしても世界線の収束に打ち勝てないって」
「言葉の定義として、因果律と世界線の収束は別物と考えていいのね?」
「世界線の収束は絶対だよ。AをするとBになるって見た目の関係性が希薄で、状況によっては因果よりは相関関係に見える」
思い当たるところがある。岡部が言っていた漆原さんの性別がそれに当たる気がする。常識的に考えればメール1通で性別が変化するなんてありえないけれど、恐らくDメールによって起こされる漆原さんの母の行動ではなく、Dメールが所定の文面で届くという事実そのものが重要なのだろう。世界線の収束の結果、ポケベルにDメールが到着するのと漆原さんの性別が変化することに、因果はないが相関があるように見える。
「オカリンおじさんは、複数の世界線を貫いて影響を及ぼすような相関関係も存在するって言ってたんだって。SERNが時々理性的でない行動を取るときには、世界線上での相関関係に縛られていることが多いんだってさ」
Dメールのように明確ではないけれど、何かと何かをつなぐ、見えない関係。
「例えば、この世界線上でも、誰かの何気ない行動が重大な事態のスイッチになっている可能性がある……」
「あたしたちにはわからないし、岡部倫太郎も彼自身が観測していなければわからないスイッチだね」
つまりは、この世界のどこかに見えない巨大な蝶が飛んでいて、誰かが触れた瞬間に大風が起きる……その風にひょろひょろの岡部が吹き飛ばされていくイメージに、ふうと息を吐く。
「正直想像もつかないけど、案外世の中ってそんなもので、しかも誰も気づいてないだけなのかもしれないわね……誰もコントロールできないものの心配までする必要はないか」
「それが賢明だよ牧瀬紅莉栖。岡部倫太郎のことが心配なのはわかるけどさ」
「は?」
阿万音さんが急に変なことを言いだして、これまでそんなことを欠片も考えてなかった私は動揺する。今までの質問はあくまで科学的な興味によるもので岡部がどうとか一切関係ないじゃない! なのにどうして唐突に名前が出てくるのかな!!
「そうかーまさか牧瀬紅莉栖がそんなわけないって思ってたから噂で聞いたときは絶対嘘だって思ってたけど本当だったんだなーうんうん!」
「えっ、えっ? 阿万音さん何言ってるの? 私が? 岡部を? なんで??」
「あーこれが伝説のツンデレ!」
伝説ってどういうことなの!?
「でも伝説に比べるとあんまりデレてないよね牧瀬紅莉栖。てっきりもうこの頃には倫太郎~とか言ってるかと思ったのに、名前で読んでるのオカリンおじさんだけだったんだ」
「なななななんで私がおおお岡部のことを倫太郎、なんて呼んでなきゃいけないのよ!!」
確かに今の岡部は私のことを名前で呼んでいて、それにちょこーっとだけドキドキしてるのは内緒だけど……。
「2人とも、話は終わったのかー?」
急に聞き慣れた大人の声が後ろでした。岡部をよく下で怒鳴ってるあの大きい人。
「あれー店長どうしたの? ……」
気楽に振り返った阿万音さんの顔が見る間に厳しくなって、何の迷いもなく背中に隠していた大きなナイフを引き抜き、かざし、突進する! あわてて振り返る私が見たのは、開発室からブラウン工房の店主を一気に出口へと押し出していった阿万音さんと、話し疲れて寝ている……いや、寝ているところを不意打ちされて、不自然な態勢で倒れてもがいている仲間たち。その中でひとり、右足を真っ赤にした岡部がよろめきながらも立ちあがって、戸惑いながらもこちらに足を引きずりながら歩きだす。
ねえどうして岡部。なんでミスター・ブラウンが。
「……紅莉栖!」
岡部の叫びに私は困惑から現実に引き戻される。事情はわからない。けれどこの世界線がダメだってことはわかる。岡部を開発室に支えて連れ込み、携帯を持たせてヘッドセットを装着。
「牧瀬紅莉栖! 42インチOK!!」
いつの間にか階下まで降りていた阿万音さんが叫ぶ。私は迷いなくタイムリープマシンを起動した。
0.408957
8月14日。
まさか3日連続で同じ悪夢を見ることになるとは思わなかった。見えない巨大な蝶に吹っ飛ばされる岡部の夢。恐らくはバタフライ・エフェクトを示しているのだろうけれど、私がDメールで世界が変わるって教えられたのは昨日で、11日から同じ夢を見続けている理由にはならないと思う。……それに、夢の中でその巨大な蝶を岡部にけしかけているのは自分なのだ。
「紅莉栖ちゃん、オカリンのこと嫌いなの?」
夕方、コンビニへの食料の買い出しの帰り。コミマから戻ってきて一緒に買い出しにきたまゆりに、自分が繰り返し見ている悪夢について話したら、心底悲しそうな顔でそんなふうに聞かれて、私は困ってしまう。
「嫌いなわけないわよ。……好きでもないけど」
本人に教えるわけにはいかないけれど、これまで岡部が頑張っているのはまゆりのため。まゆりには見えないところで、心からの愛情がなければできない無茶をやっているのを私は知ってる。……だから、最初から自分に勝ち目なんかないってことくらいわかってるつもり。
「紅莉栖ちゃんとオカリン、お似合いなのに」「いきなり何を言い出すのかなまゆりは」「えー?」
正直言えば、あなたに言われるのが一番困るのよ。
「オカリンはねー、ほんとは一緒に同じ話ができるくらいかしこいひとが好きなんだよ。まゆしぃはあんまり頭よくないからだめだねぇ」
秋葉原のいつもの雑踏。コンビニの袋を両手にぶら下げ、夕焼けに顔を赤く染めながら、えへへーと困り眉で笑うまゆり。
「紅莉栖ちゃんはオカリンより頭いいし、かわいいし。いつも2人で夢中になって何か話してるでしょ? ……いいなー。まゆしぃは紅莉栖ちゃんがいつもうらやましくてしかたがないのです……」
まゆりが背を丸めると、小さな体がさらに小さく見えてしまう。
「まゆりは……岡部のことが好きなのよね?」
夕日の中で、白い帽子がゆっくりと、肯定に揺れた。
「……岡部は、まゆりのことが好きよ?」
「でもね、まゆしぃはよくばりなのです。オカリンにも、まゆしぃと同じくらい、まゆしぃのことを好きになってほしいのです」
言葉をかみしめるように、ゆっくりと呟くまゆり。
「オカリンは、紅莉栖ちゃんのことばかり見てるの。紅莉栖ちゃんが電話レンジちゃんに夢中になってるとき、オカリンは紅莉栖ちゃんに見とれたり、赤くなったりして。……いいなぁ。まゆしぃも紅莉栖ちゃんみたいだったらよかったなぁ」
まゆりの言葉に心臓が跳ね上がりそう。袋を持ってない左手でそっと押さえる。
本当にそうだったら、もし岡部が私のことを好きだったら。
「そんなわけないでしょ? 気のせいよ、気のせい!」
えー本当だよーと反論するまゆりを置き去りにするように私は早足になる。でもまゆりは楽々とついてきて、熱い夏の夕日の中で体力のない私の方が先に疲れてしまう。中央通りを渡るところで信号が赤になり結局2人で並ぶ態勢に逆戻り。早足分の体力が完全に無駄に……。
「紅莉栖ちゃんなら、いつかオカリンの名前を呼べるようになるんじゃないかな」
「まゆりだってダルだって、呼んでるじゃない」
「オカリンって呼ぶことはできるけど、名前は呼べないんだー。オカリン、名前呼ばれるの嫌いだから」
なぜか鼓動が早まる。なぜかさっき話していた夢のことを思いだす。岡部を吹き飛ばす、透明の蝶。
「えーと、なんだっけ? ナマ? ミミナ? だから呼んじゃだめなんだって」
「……もしかして、真名?」「ああそれだよ! やっぱり紅莉栖ちゃんはすごいやー!」
まだ鳳凰院だった頃の岡部が延々とほざいていた言葉をなんとなく覚えていた。真の名を支配する者はその存在の生命を握ることになるのだとか言ってたような気がする。今はもう遠くなってしまったあの気楽な日々が、今ではひどくなつかしい。まだ8月は半月あるけれど、私たちの夏はもう終わってしまったのかもしれない。
「まゆしぃもね、いつかはオカリンじゃなくて、倫太郎さん……って呼べる日が来るかなって思ってたんだけど」
少し前を歩くまゆりが振りむく。逆光で、表情は見えない。
「オカリンは、今、まゆしぃのせいで困ってるんでしょう?」
ふいに投げられた言葉に、息が詰まる。
「昨日夢を見たの……まゆしぃが何度も何度も繰り返し死んでしまって、オカリンがそのたびにずっと苦しんでいるの。今朝、目が覚めてからね? あの夢の方が本当で、この世界が夢かもしれないって思っちゃった……」
小さな彼女のシルエットは、雑踏のうごめきの中で一人きりぽつりと静止していた。目の端が光っている。
「まゆしぃがこの世界からいなくなったら、オカリンはきっと泣くと思うんだ。そのときは紅莉栖ちゃんが」
「まゆりがいなくなるわけないでしょう!」
私は叫んだ。周囲の視線が私たちに集まるのをわかりながらも無視して、驚くまゆりの肩を掴む。
「まゆりはね、この先も岡部の傍にいるの。そしていつか岡部を倫太郎って呼んで……幸せにならなきゃダメなのよ!」
直後に、凄いスピードで路地を走ってきた黒い外車。キキーッ、どん! 激しいブレーキ音。白い大きな何かが車にぶつかって、飛んでいく。
「オカ……リン……?」
まゆりが呟いた。車にはねられ、驚くほどきれいな放物線を描いて宙を吹っ飛んでいく岡部倫太郎。すぐそばにはフェイリスさんや黒づくめの秋葉原には似合わない男たちがいて、呆然とそれを見ている。
今日の岡部はフェイリスさんのDメールを取り消すためにUDXに向かったはずなのに、なぜここにいるんだろう。
そしてなぜ車にはねられているんだろう。
「オカリン!!」
まゆりが真っ先に走りだし、私もあわててそれを追う。雑貨屋の店頭に頭から突っ込んでいった岡部はDVD-Rのスピンドルの山に埋もれていた。2人がかりで引っ張り出すと幸い息はあったけれど、明らかに右足に余計な関節が増えている。このままでは岡部は入院させられる。それは、フェイリスさんのDメールの取り消しの失敗。それはそのまままゆりの死に直結する。
「紅莉栖ちゃん、救急車、救急車呼ばないと!」
「……ごめんまゆり。このまま岡部をラボまで運びましょう。このままじゃ、岡部のこれまでの頑張りが無駄になっちゃう!」
一刻も早く岡部をこの世界線から旅立たせなければならない。そう決意した私の顔を見て、泣き顔のまゆりも理由はわからないなりに覚悟を決めてくれたようだった。
2人がかりで気絶した岡部の両脇を支えて、すぐ近くにあるラボまで運ぶ。私は岡部の体を支えるので精いっぱいだったけれど、自分より小さなまゆりの方が想像以上に力強く岡部の体を支え、運んでくれたことに驚いた。
0.456224
8月15日。
今日も岡部は漆原さんとのデートに出かけていて、まゆりとダルはコミマに出かけている。私はクーラーなしで熱気が溜まりっぱなしの灼熱のラボでひとり、ドクペを絶え間なくあおりながらタイムリープマシンを調整している。事情の説明はもちろん受けているけれど、結果的に漆原さんと毎日デートしている岡部は絶対に許さない。絶対にだ。
「リア充なんて氏ねばいい」
呟きながら空になったドクペのボトルをゴミ箱に投げ込む。どうせ岡部が戻ってくるのは夕方だろうし、休憩してしばらくPCを使わせてもらうことにした。大学から供与されているIDを使って時間に関する研究情報を検索。電子ファイルになっている最新の論文のアブストラクトを流し読みしながらいくつか保存する。
思いついて、久しぶりに大学のメールボックスのメールもチェックしてみる。この時期は同僚たちもバカンスに出かけているから、スパム以外の読むべきメールはごくわずかしか入っていない。教授から自分が昔学位を得るために書いた論文の閲覧申請が来ていると連絡が来ていたので、許可をお願いした。取材申し込みはまともな学会誌と学内のもの以外は削除する。
そういえばしばらく忙しくて見てなかったなー、と、すっかり暗記してしまってるURLを入力、リターン。@チャンネルが開く。頻繁に出入りしていたのはあくまで学問・理系の板でニュース板などは主にROMなのだと主張したい。まあ釣りで掃除板に誘導したり台風が来ればコロッケを買ってくるくらいの教養はあるわけだが。
専ブラじゃないから探しにくいけれど、ジョン・タイターがここしばらく例のスレに降臨していないのを確認。ついでに鳳凰院も発言していない……そんな余裕ないものね。もし書いてたらVIPに「鳳凰院凶真がリア充過ぎて許せない」とかスレ立ててやろうかと思ったのでちょっと残念。
ふと思い出して、オカルト板を開いてみる。
8日12日から同じような悪夢を続けて見ていた。私が岡部の名前を呼ぶことで透明の蝶を飛ばす夢。この夢についてオカ板ならば何か参考になることが上がっているかもと思ったのだけれど、蝶が華麗なる変身やら成長やら恋愛やらを示すことくらいしかわからなかった……オカ板を頼りにしようとした自分が間違っていたと反省する。
私の携帯が揺れた。漆原さんからのメールだ。
TITLE: 岡部さんにふられました。
『もしかしたら、岡部さんの心を変えられるかなと思ったんですけど、やっぱり勝てませんでした』
ごく短いメールだったけれど、漆原さんがぽろぽろと涙をこぼしているのが見える気がした。
なのにそれを見てほっとしている自分に気づいてしまう。
あんな厨二病なんかどうでもいいのに。私は恋愛しか頭にないようなスイーツじゃない。高尚な学問に青春を費やす学究の徒、非リア充を自認してはばからないこの私がなんでこんなことで一々動揺したりほっとしたりするのかな?
……その答えだって、本当はわかっている。今日ずっといらいらしてたのだって、そのせいだ。
「でも、どうしよう」
たぶん、岡部のことを好きになってしまった。
でも、岡部はまゆりのことが命をかけるほど好きなのだ。
確かにこの世界線では、ディストピアという暗い未来が待っているのかもしれない。けれど岡部はそんな未来を避けるために動いているわけじゃない。幼馴染のまゆりを救いたいだけであんな無茶を繰り返していて、私はそんな彼の姿に魅かれてしまったけれど、自分の女子力のなさが絶望的なことも知ってる。
「漆原さんでも勝てないものに私が勝てるわけがないよね……」
間接的に自分も失恋してしまった。まだ告白すらしていないのに。
しょんぼりしていると、携帯が揺れた。今度は岡部からの通話着信だ。
『紅莉栖か? ルカ子の母の電話番号がわかった。今から読む番号をメモしてくれ』
「……ねえ岡部、漆原さんは大丈夫?」
『大丈夫って何がだ? そんなことよりも電話番号を……』
自分よりも恋愛にうとい朴念仁とはいえ、女の子をふっておいてそれはひどい。
「そんなことってどういうこと!? 漆原さんを傷つけておいてその態度はないでしょう!?」
『俺が傷つけた? いや、そんな覚えは……』
「ないわけないわよね!」次の言葉は何度も繰り返して見た夢の記憶に引きずられた。「この馬鹿倫太郎!!」
返事ではなく、岡部の悲鳴が戻ってきた。
漆原さんの悲鳴と激しい男の声。『お父さん! どうして!!』『お前を泣かせる男はどうしても許せなかったんだ!!』岡部のうめき。私はラボを飛び出した。柳林神社まで息も切れ切れで走ると、漆原さんの父に左肩を日本刀で切り裂かれた岡部の傍に、漆原さんが泣きながらつきそっていた。白衣が赤く染まっている。
その衝撃的な光景に、血の赤に……これまでもこんなアクシデントが何度もあって、その度に私は傷ついた岡部をラボまで運んでタイムリープさせていたという事実がふいに脳裏に浮かび上がって、私はついに気づいてしまう。
ああ。
私が「倫太郎」と呼んだ瞬間に、透明の蝶が舞うのだ。
(続く)
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シュタインズ・ゲート2次創作。真ENDまでネタバレしていますので、ゲーム全クリア後かアニメ全話視聴後にお読みください。
http://www.tinami.com/view/307783 (1/3) の続きです。
牧瀬紅莉栖視点で綴る、岡部倫太郎を繰り返し襲う理不尽な不幸。オカリン普通にかわいそう。
実は最後まで読むとほのぼのオカクリになるんです……が、段々信じてもらえなくなってきてますね。