こんな就職先
………………どうしてこうなった。
「おめでとう、恋!」
「…ありがと」
シャンパングラス片手に、紅いパーティードレス姿の雪蓮が声をかける。
「私も時々手伝った甲斐があったというものだ」
「……ん、ありがと」
雪蓮とは違い、黒いスーツ姿の冥琳もグラスを掲げた。
「よく1人で儂の店に来て何やらやっていたが、まさかこんな事とはのぅ」
「祭のご飯があると…はかどる………」
露出の少ないチャイナドレスは、それでいて祭さんの抜群のスタイルを隠そうとはしない。
「ウチはよーわからんけど、めでたい事はわかるで。おめでとさん」
「ん…」
霞は何本目かわからないグラスを片手に、顔を赤らめている。
「………一刀?」
そして、俺もまた着飾ってこの場にいた。恋がそっと俺の袖を引く。その小さな力に我を取り戻し、俺は口を開いた。
「えと…その、おめでとう、恋」
「ん…」
そう微笑む恋は、一人歩を進める。
とあるホテルの、中規模ホールを貸し切った会場で、恋は皆の視線を集めた。
※※※
いったいどういう事だろう。俺の目の前の3人組は、初対面でありながら俺の知る名を名乗る。
「………すまん、もう一回いいか?」
「一度で聞き取れないのか、お前は?………まぁ、いい。俺の名前は――――――」
その言葉に、俺の空いた口は塞がらない。
※
気がつけば、俺はだだっ広い荒野に倒れていた。起き上がって周囲を見渡す。
「………どこだ、此処?」
やはり見覚えなどある筈もない。遙か地平線の先に、山々が見える。日本にこんな場所があったのだろうか。訝しながら立ち上がった所で、声をかけられた。
「おう、兄ちゃん。なかなかいい服着てるじゃねぇか」
「………え?」
振り返れば、口髭を生やした男と、背の低い男、そして身長2mはありそうな大男が俺に剣を突きつけていた。
※
絡んできた3人を、何故か腰に挿さっていた日本刀で追い払った俺のもとに、30騎ほどの騎馬がやって来た。俺を取り囲むように円を作り槍を向けてくる。
「おいおい…いったい何の真似だよ」
「そこのお前、名を名乗れ」
敵意を示さないように両手を上げる俺の前に、1人の少年が出る。彼の後ろには2人の青年が立っていた。1人は赤い衣服に身を包み、背には大剣を背負っている。オールバックにした黒髪の下には、紫色の瞳が俺に警戒の視線を送っていた。もう1人は、蒼い髪を携えている。右眼は隠れて見えないが、覗く左眼は、隣の青年のように、射抜くような視線を送ってくる。背には弓を携えていた。
「どうだ、一刀。初めての戦は?」
「あぁ……」
本陣で、俺の隣に立つ少年が問う。何て答えるべきか………。視線の先には土煙が舞いあがり、辺りは怒号と血の匂いで満ちる。
「最悪の気分だな」
「そうか」
「だが……俺にも出来る事があるのだろうさ」
「………そうか」
彼が何を考えているのかは、俺には想像もつかない。だが、彼は腕をまっすぐに伸ばし、指を差す。
「行け、一刀。『天の御遣い』の名に恥じぬよう、その武を振るえ」
「あぁ、行ってくるよ――――――孟徳」
「ふっ…いまだ真名を呼ばぬか………それもよい。いずれはお前も、この俺の覇王としての資質に気づくだろうさ」
その言葉に何も返さぬまま、俺は左手を腰の野太刀に添える。そして、走り出した――――――このクソみたいな戦場に終止符を打つ為に。
※
―――夜も更けようかという頃、俺の部屋を訪れる2人の人物がいた。
「………元譲に妙才か。どうしたんだ、こんな夜遅くに」
「邪魔をするぞっ!」
「ちょっ!?」
俺を押しのけて、夏候惇が部屋へと入る。横を通る時には、酒の匂いが飛んできた。
「すまないな、一刀。兄者は酔っぱらっているのだ」
「いや、見ればわかるけど………って!?」
言い訳をしつつも、夏侯淵も兄に追随する。
「はぁ……いったい何しに来たんだ?」
夏候惇の曹操以外への独尊っぷりはとうの昔に理解している。俺は諦観の溜息を吐きながら問いかける。部屋の奥―――寝台の前で振り返った兄の顔は赤い。そして弟の顔も同様に。
しばしの沈黙の中、蒼い髪の弓使いが口を開いた。
「決まっているだろう。お前を抱きに来たのだ」
※※※
「それではご紹介します。この度、○○文庫最優秀新人賞を受賞した、【恋】さんです」
何人かのお偉いさんの挨拶も終わり、司会者が恋の名前―――筆名を高らかに謳い上げる。波のような拍手の音と共に視線が恋へと注がれ、彼女もまた、いささかも臆する事なくステージへと向かった。
「この度彼女が応募した作品『真・恋戦士†無双』は我が社の数々の作品が持つ世界観を色濃く表現しながらも、三國志を元にしたかつてないジャンルを開拓し、満場一致で審査員の推薦を得ました。現代からタイムスリップした主人公が、三國志では悪役として活躍する曹操に拾われ、共に大陸を制するという物語です。そのキャラクターは三国志、そして演義の性格を見事に表現しながらも、原作では決して語られない登場人物たちの人間性に鋭い切り込みを入れ――――――」
司会者の説明に、参加者たちは興味深げに頷く。その後ろで、親族枠として―――爺ちゃん達を呼ぶ事はできなかったので、代わりに俺や雪蓮たちが出席している―――参加している俺達も、壇上で照れてはにかむ恋を見ていた。
「それにしても、よかったじゃない、一刀」
「………何がだ?」
「そりゃぁ彼女の就職先が決まった事よ。それとも一刀に永久就職の方がよかったかしら?」
赤ら顔でからかってくる雪蓮を受け流しつつ、俺は1段高い場所に立つ恋へと視線を注ぐ。
『よかったな、恋』
などと言うとでも思ったか。
「それでは、恋さんにお言葉を頂きましょう」
作品説明も終わり、恋へのインタビューが始まる。現在の職業や経歴、そして執筆・応募を決意したきっかけに来たところで、彼女は俺へと視線を向けた。
「一刀…こっち………」
「ちょ―――」
マイクを通して、俺の名を呼ぶ。俺を見ながら手招きをする姿に、会場内の全視線が俺へと向けられた。
「はーい、一刀。彼女の御指名よ」
「せやで。ホラ、ちゃっちゃ歩き!」
雪蓮と霞に両腕を絡め取られ、ステージまで引きずられる俺の姿はさながらFBIに連れ去られる宇宙人のようだったろう。冥琳と祭さんの同情の視線を背後に感じながら、俺はステージ上に投げ出された。
「………一刀が、応募してみたら、って言ってくれた」
確かに言ったけどもさ。
「ちなみに、この方との御関係は?」
「………ん、彼氏」
「ちょ!?」
恋の発言に、会場内が今日1番の盛り上がりを見せる。司会者も、口下手な恋よりも相手にしやすい人間を見つけてほっとしたのか、嬉々として俺にマイクを向けやがった。
「いやぁ、彼氏さんでしたか。それにしても、よく自分を登場させる事を許可しましたね」
「あ、あはは……」
んな事許可するわけがねぇだろ!どこの世界に自分を男に凌辱させる小説を許可する彼氏がいるんだ、ボケ!?
様々な罵詈雑言が浮かんでくるが、恋の晴れ舞台を台無しにする訳にもいかない。俺は愛想笑いを浮かべながら、遠く腹を抱えて笑っている雪蓮と霞、口元を抑えてぷるぷると肩を震わせる冥琳に恨みの視線を送り続けるのだった。
あとがき
という訳で、30分で書き上げた駄作。
明日提出の課題があるというのに何をやってるんだか………。
本編は日曜日にでも上げられたらなーとか考えてます。
ではまた次回。
バイバイ。
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久しぶりの、恋ちゃん主役の外伝。
あんま長々と引き延ばしてもつまらないので、2ページで妄想はおしまいです。
ではどぞ。