No.305469

真・恋姫無双~君を忘れない~ 五十三話

マスターさん

第五十三話の投稿です。
ついに三国が荊州にて相見える。敵を率いる将は魏武の大剣、春蘭こと夏侯惇。そしてその武を最大限に活かそうと、風の知略が冴え渡る。
相も変わらずいろいろすみません。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

続きを表示

2011-09-22 17:29:20 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:11657   閲覧ユーザー数:6712

風視点

 

 いやー、孫策さんと袁紹さんの戦いは意外なところで纏まってしまいましたねー。袁術ちゃんを保護している益州軍と、まさか孫策さんが同盟をするなんて思いもしなかったのですよー。

 

 袁紹さんは――華琳様があの戦いのときに見逃したことは知っていましたけど、思わぬ相手に成長しているみたいですねー。大局的に特化して戦略を構築することによって、まさかあの周瑜さんを出し抜くなんて驚きなのです。

 

 まぁ同じ軍師としての立場から言わせもらうと、袁紹さんのあれだけ成長――もはや、あれは成長なんて程度ではないですけど、あれは軍略の理から大きく外れたものですから、読み違えてしまうのは仕方ないかもですねー。

 

「おい、風よ。そろそろ私たちも出陣の準備をするべきか?」

 

「そうですねー。手筈通りにお願いするのですよー」

 

 今回の戦の指揮を任されている春蘭ちゃんがやって来て、今後の風たちの動きを確認しました。

 

「分かった。すぐにでも準備させよう」

 

「春蘭ちゃんもよく我慢していますねー?」

 

「ん? 何がだ?」

 

「今回の戦の話ですよー。いつもだったら、敵を目の前にしたら、脇目も振らずに向かっていくじゃないですかー?」

 

「あぁ、何だそんなことか。馬騰との戦いやら羌族の反乱やらで、あまり犠牲の出る戦いは控えろと華琳様に言われているしな」

 

「…………」

 

「それに、風も言っていたじゃないか。秋蘭がいなくても、私は将としての務めを果たすことくらい出来る」

 

 そんなこと――ですかー。他人の成長というものは、誰にでも生じ得ることであるのは風たちも知っているのです。目の前にいる春蘭ちゃんもその一人なのですからねー。

 

 以前であれば、風たち軍師の言うことなんて耳を貸すことなく、ただ敵を殲滅することだけしか頭になかったのですが、今の春蘭ちゃんは、様子を見るということを覚えました。

 

 将であれば、それくらいのことは念頭にないといけないんですけどねー。春蘭ちゃんのことですから、それだけでも驚嘆に値します。桂花ちゃんが今の春蘭ちゃんも見たら、逆に病気じゃないかと心配するんじゃないでしょうかー。

 

 馬騰さんとの戦いは、同じ王を打ち破った華琳様だけでなく、様々な人に影響を与えています。黒騎兵と直接対決をした霞ちゃんも、戦術を力で捻じ伏せられた稟ちゃんも、それぞれが高みを目指しているのです。

 

 あの戦いの始末は秋蘭ちゃんが仲達ちゃんと共に命じられて、寡兵でありながらも、巧みに領土を制圧しながら、西涼連合を解体して、今は国境沿いで暴れている羌族と終わりの見えない戦いに従事していると聞き及んでいるのですー。

 

 まぁ智勇を兼ね備えた秋蘭ちゃんだからこそ出来るようなことですが、妹が獅子奮迅の働きを見せる中で、自分だけこれまで通り猪武者ではいられないって自覚したあたりは、やはり春蘭ちゃんもお姉さんなのですねー。

 

「ふふふ……」

 

「むう? 何が可笑しいのだ?」

 

「何でもないのですよー。今回は春蘭ちゃんが総大将ですから、頼りにしているのです」

 

「無論だっ! 華琳様に盾突く者など、私が一刀両断に粉砕してくれよう!」

 

 高笑いを浮かべながら、春蘭ちゃんは去って行きました。根っこの部分では変わってはいませんが、急場ではこれまでとは違った働きをしてくれるのでしょうねー。

 

 それにしても、今回の相手は厄介ですねー。孫策さんと周瑜さんだけでも、風の手には負えないのですけどねー。それに加えてあまり情報の多くない益州軍もいるんですからねー。

 

 まぁ、ここ最近は稟ちゃんと仲達ちゃんばかりが活躍してしまって、風が目立っていませんから、ここら辺で風の実力を見せるのも悪くはないのかもしれませんねー。

 

一刀視点

 

 曹操軍の進軍の報を聞いて、そのまま同盟の話し合いから軍議に移った。

 

 曹操軍と旧劉琮軍を合わせて、敵軍はおよそ十万――一方、こちらは先ほどの戦もあり、戦力して使える兵士は八万程であった。兵力差はあるものの、相手に旧劉琮軍の兵士がいることを考えると、戦況は五分であろうというのが主な意見だった。

 

「敵将は夏侯惇か……」

 

「何か気になることがあるの、冥琳?」

 

「ああ。これまで曹操軍は我々の戦いをずっと静観していたが、夏侯惇という将は、敵を目の前にしながら、黙って見ていられる将だとは思えない」

 

「夏侯惇さんってどんな人なんですか?」

 

 俺の質問に周瑜さんが夏侯惇さんの人柄を簡単に説明してくれた。どうやら猪突猛進タイプの将らしい。しかし、黄巾の乱や、反董卓連合でその戦い様を見てきたが、武に関してはおそらく曹操軍でもトップクラスであろうというのが周瑜さんの判断だった。

 

 俺の知る夏侯惇のイメージは、曹操と対等に接して、側近として生涯を支えてきた武将というものだったが、どうやらこちらの夏侯惇さんは、曹操さんを信奉しているらしい。

 

「でも、冥琳がいるんなら心配ないんじゃないかしら? 夏侯惇ただ闇雲に突っ込む戦いしか知らないじゃない」

 

「いや、そうでもないぞ。もしも、夏侯惇が軍師のいうことに耳を傾けて、敢えて静観していたのなら――いや、夏侯惇自身の意志で静観を決めたのなら、相手は以前のままだと考えない方がいい」

 

「それって……?」

 

「私たちはついさっき人が常識で測れない程に成長を遂げたところを見たばかりではないか」

 

 その言葉に孫策さんが麗羽さんを見た。

 

「あら? わたくしの顔に何か付いておりますの?」

 

 きっと何が言いたいのかは分かっているのだろうが、麗羽さんはそんなことを言って恍けてみせた。

 

 俺は以前の麗羽さんを見たことがないから、彼女がどのような人物だったかは知らない――演義での袁紹は、猜疑心が強く、また判断力に欠けたため、優秀な人材が麾下にいても、彼らを重用することがなかったと言われている。

 

 荀彧も郭嘉も袁紹の許を一度訪れ――荀彧は一度仕えたが、曹操の許に移ったことから、大器ではないのだろうけど、今の麗羽さんも見る限りだと、そんなところは全く見受けられない。

 

「一刀さんまで、そんなに見つめられると恥ずかしいですわ」

 

「あ、す、すいません」

 

 ついつい俺は麗羽さんの綺麗な横顔を凝視してしまったみたいで、麗羽さんから頬に手を添えて優雅に微笑みながら、注意されてしまった。

 

「んっ! んんっ! ……軍議を続けてよろしいか?」

 

 わざとらしく咳き込みながら軍議の続きを促す周瑜さんにも謝って、対曹操軍の戦略が練られた。

 

 敵軍には参謀として程昱がいるらしく、やはり夏侯惇だからといって油断することは愚策で、慎重に戦うべきではないかという意見が多かった。

 

「幸いなことに、敵は旧劉琮軍というお荷物を抱えている。五万もの部隊となれば、それを崩して潰走させれば、曹操直属の部隊も無事では済まないだろう」

 

 やはり戦略としては、旧劉琮軍を先に叩いて、曹操軍諸共潰走させてしまおうということで結論が出た。

 

「先鋒は私たちに任せてくれないかしら?」

 

「俺たちは構いませんけど、孫策さんにお願いして良いんですか?」

 

「私たちの方が多くの兵を抱えているし、御遣い君たちには旧劉琮軍を任せたいわ」

 

「分かりました」

 

 陣立てが決定して、俺たちも曹操軍を迎え撃つために城外に布陣した。

 

 魚鱗の陣を布いた孫策さんの軍勢に、俺たちの本陣が加わり、麗羽さんたちには騎馬隊を率いて、遊軍として動いてもらう。

 

 騎馬隊で素早く旧劉琮軍の部隊を撹乱するのが狙いだ。騎馬隊は多く有していない孫策軍よりも、俺たちの方が適役と言えるだろう。

 

「よしっ! じゃあ、皆行くぞっ!」

 

「はっ!」

 

 そして、曹操軍との戦いは始まったのだ。

 

麗羽視点

 

 ついに曹操軍が姿を現しましたわ。こうして直接戦うのは初めてですわね。以前の戦い――わたくしがまだ河北にいたときは、幽閉されていたので詳しい戦いは知りませんでしたが、斗詩と猪々子の話を聞く限りだと相当な苦戦が予想出来ますわ。

 

 華琳さんは都にいるようですから、再開するときはまだ先のようですけど、今回の戦いでわたくしが以前のわたくしではないことを、彼女に伝えることが良い機会にもなりますわね。

 

 曹操軍は十万の軍勢を四段に構え、中央を直属の部隊で固めていますわ。 劉琮軍が足手纏いになることは、相手も承知しているのでしょう。戦の邪魔にならないように、半分は後ろに控えさせ、もう半分は右翼に集中していますわ。

 

「攻めるなら右翼ですか?」

 

「いいえ、斗詩。おそらく敵はそれを誘っているのでしょう。右翼を不用意に攻めてしまえば、敵の術中に嵌まる可能性がありますわ」

 

「じゃあ、どうするんですか?」

 

「まずは牽制として中央付近に攻め寄せましょう。それから敵の動きを見定めても遅くはありませんわ」

 

「分かりました」

 

 相手は夏侯惇さん――周瑜さんも仰っていましたが、本来のあの人であれば、わたくしと孫策さんとの戦いに手を出していたはず。それをしなかったということは、あの人もまた何か思うところがあったのでしょう。

 

「では参りますわよ」

 

「あらほらさっさー」

 

 右手を掲げて進軍の合図を出すと、わたくしが率いる騎馬隊は一斉に駆け出しました。孫策さんとの戦いではあまり犠牲は出ていなかったことは幸いですわね。

 

 敵の参謀の程昱さんは、わたくしはよく知らない人なのですが――きっとわたくしが幽閉されている間に、華琳さんに仕えた始めた人なのでしょうが、華琳さんから此度の戦を一人で任されているところを見ると相当知略に優れていると見た方が良いですわ。

 

 敵の目的さえはっきりすれば、彼らの狙いも自ずと明らかになりますわ。今回の出兵は勿論江陵を制圧することなのでしょうが、それ以上にこちらには孫策さんと一刀さん――江東と益州の君主が揃っていますわ。二人を捕らえることこそ敵の真の狙いでしょう。

 

 相手も旧劉琮軍がこちらから狙われていることを知っているはずですの。だからこそ、わたくしたちを誘い込んで、本隊から離したところで、主力となる曹操軍直属の精鋭で一気に本陣を陥落させる目論見なはずですわ。

 

 中央付近に仕掛けますが、やはり防備は固く、敵の騎馬隊がこちらの攻めを遮るように上手く動きましたわ。馬騰さん――直接会ったことはありませんが、皆さんの話を聞く限りだと、大陸で最も精強な騎馬隊を率いていた方を打ち破っただけのことはあり、素早く部隊がこちらを包囲しようと展開してきましたの。

 

 一度中央から離れてから、今度は旧劉琮軍が率いる右翼へ攻め寄せますが、こちらの抵抗は弱々しく、ぱらぱらと弓矢が射かけられる程度で、本気で攻めれば崩すことは容易でしょう。

 

「本陣へ伝令ですわ」

 

 わたくしは本陣へと、旧劉琮軍への攻撃と同時に、本陣は密集隊形を布いて、敵の主力が押し寄せてくるのをしばらくの間耐えるように伝えました。

 

 こちらも本当に右翼へと攻めなければ、敵が動くことはないでしょう。先ほど攻めたとき、相手がこちらの動きをしっかり見定めていたことを、わたくしは見逃してはおりませんわ。

 

「斗詩、猪々子、右翼へと突撃後、速やかに反転。そのまま敵中央に楔を打ちますわ」

 

 手で合図を出しながら、右翼へと突撃する。最初の一撃は敵の気炎を挫き、二度目の攻撃で恐怖を煽り、三度目で全て蹂躙する――部隊を三隊に分けて、わたくしと猪々子と斗詩がそれぞれ右翼を切り崩す。

 

 そこで敵は完全に算を乱し、潰走を始めようとしましたわ。本来ならば、そこで敵に猛烈な追撃を仕掛けるのが定石ですが、わたくしたちは陣を突破すると、馬首を巡らしましたわ。

 

 思った通り、中央の主力部隊がわたくしたちの本陣へ向けて進軍を開始していました。騎馬隊を先頭に立てているため、その突破力は見事なものでしたわ。

 

 ――ですが、それはわたくしの読み通りですのよ。

 

 敵の脇腹に痛烈な一撃を与えるように、わたくしたちは馬を疾駆させて、敵へと向かって行きましたわ。

 

冥琳視点

 

 さすがに曹操軍は精強な兵士が揃っている。まだ本格的なぶつかり合いはしていないというのに、敵の中央からは強烈な気が放たれており、こちらの兵士の表情にも強張りが見える。

 

 相手はあの曹操軍なのだ。今や天下の半分を手中に収めており、誰よりも大陸の覇者に近い人物。これまで何度となく死線を乗り越えた軍勢の精強さは最早語るにも及ばないだろう。

 

 一方私たちの軍も、厳しい調練に長い間耐え、袁術の呪縛を解き放つ程の勇猛さを有していることには疑問はない。しかし、曹操軍と比べると実戦経験――強大な敵と向かい合ったことが明らかに少ないのだ。

 

 兵士一人一人の武が優れていようとも、戦において何度も死の恐怖と戦い、生き抜いてきたという経験は、大きな武器となるのだから、こちらの兵が曹操軍を相手に委縮してしまうのも理解出来る。

 

 だが、その負の感情を払拭してくれるのは、やはり我らが王である雪蓮である。別段何かを語るわけでもなく、その姿を兵士に見せてやるだけで、兵は安心して戦に身を投じることが出来るのだ。

 

「袁紹殿から伝令です」

 

 本陣に袁紹から伝令が訪れた。

 

「これってどういう意味かしら?」

 

「おそらく袁紹は敵の本陣を破るつもりなのだろう」

 

「え? それじゃ軍議での話と違うじゃない」

 

「いや、これで良い。ふむ、ここまで敵の動きを読むとは、私もあやつを本当に認めなければならないな」

 

 雪蓮たちに袁紹の真意を説明した。当初の予定では、こちらに殺到した敵の主力を、茴香が率いる部隊が受け止め、私たちが素早く包囲した後に殲滅するつもりだったのだが、袁紹に助力してもらった方が、危険が少ない。

 

「なるほどね。そこまでして私と御遣い君の首が欲しいのね」

 

「当たり前だ。仮に全ての兵を失って、江陵を制圧できなくても、お前ら二人の首級さえ上がれば、そのようなことは些末になる」

 

 常識で考えれば、相手は兵力を損耗しないように戦うことが予想できるのだから、全兵力を犠牲にするような戦いをするなんて考えないだろう。

 

「茴香に伝令を放て。敵が攻め寄せたら、上手く往なして先鋒を引き摺りだせ、とな」

 

「はっ」

 

 それからしばらくして、袁紹の率いる騎馬隊が右翼を攻めかかると、中央の主力部隊がゆっくりと前進を開始した。そして、右翼が崩されると、勢いを増してこちらの先鋒とぶつかったのだ。

 

 茴香はその攻撃を力で受け止めずに、徐々に後退すると同時に、私たちも陣形を鶴翼に移行させながら、敵をこちらまで深く誘い込んだ。

 

 外から見れば、相手がこちらの先鋒を突破して、その勢いに耐えられなくなった私たちが押し込まれているように見えるのだろうが、茴香は器用に犠牲があまり出ないように戦っている。

 

 敵もその勢いに乗じてかなり強引に押し進めて来た。さすがにいくら分かっていることとはいえ、曹操軍の怒涛の攻撃に少しでも気を抜けば、本当に潰走してしまいそうにすら感じられた。

 

 そのとき、袁紹軍が旧劉琮軍の追撃を敢えて行わずに、曹操軍に横撃を仕掛けた。縦に伸びた陣形では、その攻撃の威力を殺ぐことは出来ずに、曹操軍が動揺したように見えた。

 

「今だっ! 押し返せっ!」

 

 私の号令と共に、我が軍と益州軍は攻めに転じた。完全に虚を突かれた形になった曹操軍は、浮足立っており、両軍の攻撃に耐えられず後退した。

 

 先鋒を率いる茴香は、先の益州軍との戦いでも本領を発揮することが出来ずにいたので、その鬱憤を晴らすように、深く敵陣まで攻め入ると散々にそこで暴れた。

 

「よし、我らも――」

 

「待って!」

 

 全軍を以って攻め込もうとした瞬間、雪蓮が待ったの声を上げた。

 

風視点

 

 やはり敵は手強いようなのです。大軍を以っての圧力も、水流の如くに受け流して、こちらを正面からぶつかり合う覚悟を見せているのです。さすがに孫呉の王は容易な相手はないですねー。

 

「おい、風! どうして私が先鋒じゃないのだ!」

 

 ここまで静観することが出来ていたとはいえ、さすがに戦が始まったら暴れたい衝動に駆られているようで、春蘭ちゃんは風が先鋒を季衣ちゃんに任せると言うと、声を荒げて詰め寄ってきたのです。

 

「春蘭ちゃんには勝負所までここで力を溜めこんで欲しいのですよ。勝機は必ず来ます。なので、しばらく我慢してくれませんかー?」

 

「むう、しかし――」

 

「敵を討つには春蘭ちゃんの力を最大限に発揮してもらわないといけないのですよー」

 

「だが――」

 

「ここで我慢してくれれば、きっと華琳様から大いに誉められますよ?」

 

「…………」

 

「きっと、誰よりも寵愛されて、桂花ちゃんから羨ましがられるに違いないのです」

 

 その言葉が決め手になったのでしょう。やっと春蘭ちゃん首肯してくれたのですよ。正直に言えば、敵を策に嵌める上でもっとも肝要だったのが、如何に春蘭ちゃんに我慢してもらえるかだったので、ここまで来れば、風の策は成ったも同然なのです。

 

 両軍が動き出すと、まずは袁紹さんが率いる騎馬隊がこちらの様子を窺っているのが分かりました。中央と右翼の動きを見定めた上で、どのように動くのかを決めるのでしょうねー。

 

 ですけど、もう遅いのですよ。

 

 袁紹さんが風を見ていたように、風もずっと袁紹さんを見ていたのです。袁紹さんが、大局を重視してこちらの動きを先読みする――言わば心理戦に長けているのは、孫策さんとの戦いでよく分かったのです。

 

 きっと今頃は、風たちが何を狙っているのかを考えているのでしょうねー。確かに、ここで孫策さんと御使いさんの首を取ることに変わりないのですよー。そこまでは袁紹さんの読み通りです。

 

 しかし、残念ながら、袁紹さんが心理戦を得意とするように、風もまた他人の内面を読み取ることには自信があるのですよー。

 

 右翼が崩れるの確認してから、先鋒に伝令を放ち、敵の本陣付近まで深く侵攻するように命令しました。しばらく敵を攻め続けていると、風の予想通りに、袁紹さんは右翼から中央まで駆けてきたのです。

 

「風、まだか? このままでは先鋒が潰走してしまうぞ」

 

 春蘭ちゃんは戦況を見ながら、うずうずと身体を小刻みに動かしています。

 

「もう少しなのです」

 

 袁紹さんの横撃で先鋒は大きく乱され、さらに敵の本隊の猛撃に晒されてしまいました。さすがにこれ以上は季衣ちゃんも保てないでしょうねー。むしろここまでよく頑張ってくれたのですよ。

 

「春蘭ちゃん、そろそろ出撃の準備をしてください」

 

「待っていたぞっ!」

 

 飛び上がるようにして、春蘭ちゃんは部下に馬を曳かせてきました。そして、風にいつでも行けると合図をしてきたのです。

 

 さぁ、それでは風たちの本当の力を見せてあげましょうねー。

 

 孫策さん、御使いさん、覚悟して下さいねー。

 

「合図をお願いするのですよ」

 

 左右に控える兵にお願いして、大きく旗を振らせました。これで益州軍も孫策軍も、息の根を止めてみせましょうねー。

 

あとがき

 

 第五十三話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、今回から曹操軍との戦いになります。

 

 見れば分かる通り、少し風の描写がおかしくなってしまい、飄々としているというよりも、不敵なイメージが強く出てしまいました。なので、風ファンの皆様には、原作のキャラとは違ってしまったことを謝罪します。

 

 魏は番外編などで度々登場してもらっていますが、華琳様などの活躍が目立ってしまい、風や春蘭はほとんど出番がありませんでした。

 

 従って、今回まずは二人にスポットを当てた上で物語を展開させようかなと。

 

 春蘭は、麗羽様同様、少し頭が弱いところが魅力的なのですが、一軍を率いる将がそれでは、上手く兵を用いることが出来ないと思ったので、『突撃』以外にも『様子を見る』という選択肢が出来るようにしてあります。

 

 麗羽様や桃香も成長している以上、敵将であっても成長しなくてはフェアではないかなと。と言っても麗羽様のように人格まで変わっているわけではないので、春蘭ファンの皆様には安心して頂きたいなと。

 

 そして、麗羽様の鋭い読みが冴え渡るも、何やら敵には備えがあるようで、この辺は風を活躍させたいなと思っています。

 

 風はどのような策を繰り出すのか、妄想を楽しんで頂ければ幸いです。

 

 さてさて、前回のアンケートですが、予想以上の多くの意見を頂き誠にありがとうございました。意見の大半が1と2に集中したので、そうしようかなと思いつつ、4を選んだ方もいるので、まだ迷っているのが本音です。

 

 物語はまだ戦を主軸に進めるので、次回までには決めたいと思っています。多くの方に満足して頂きたいと思いますが、全ての方というわけにはいかないのが、非常に心苦しいところですね。

 

 今回はここまでです。また次回に会いましょう。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
60
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択