No.296934

Sweety Citric Acid Moon #4[Last]

前にボンヤリと綴った物の続きの様です。
思い付きで始まっただけに思い付きで締めてみました。
「なんだそりゃ?」とお思いになりましたらこれ幸い。
何は無くとも、わざわざお読み下さいまして誠に有難う御座いました。

2011-09-10 03:42:36 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:533   閲覧ユーザー数:529

 何時しか時計台は十二時を回り、太陽が真上に差し掛かった時。

 

 

 マイヤーズ家のガレージ前はちょっとしたカーニバルの様な賑わいを見せていた。

この町の人はおろか、遠方から遥々話を聞きつけて来たのか、車やバイクも多く目に付く。

通りの脇には移動軽食店が華を添え、交通整理の手を緩めた警官がサンドウィッチに舌鼓を打つ。

今日ばかりはアネットも友達と悠長に話す時間は無く、目紛しくレモネードを売る事に手一杯。

とは言っても、これ迄ママがやっていた事を見てきた所為もあり、幾らかは手際も良くなった。

その証拠に、「シロップはカップの1/4、良く冷えたお水を入れて、最後に皮をパラリ…、」と、

朝から呪文の様に繰り返してきたこの言葉も、すっかりアネットの身体に刻み込まれていた訳さ。

始めは不安そうに見守っていたママも、数時間後にはこっちを見ずにシロップの追加注文される始末。

アネットのお店のガードマンこと、ジョセフは何時しかガレージから軒先の芝生に警戒範囲を移す。

「ハイ、お譲ちゃん。調子はどうだい?」移動軽食店ディー&ティーズ・デリのトマスがやってきた。

「ハーイ、アネットよ。お陰様で。始めはとっても怖かったけど、ママやあなた達の楽しさが解ったわ!」

「客商売がかい?ハハ、こいつは見込みアリだ。」トマスはプラスティックのカップと包みを取り出した。

「このカップ2つにレモネードを淹れておくれ。そしてコイツは兄貴と俺からのプレゼントだ。」

包みの中にはディー&ティーズ・デリの名物、「グラハム・リペアガレージ」とオリジナルカップ。

「まあ素敵!一度食べてみかったの!」アネットの笑顔が一層明るくなった。「ははは、コイツは光栄だ。」

「それでこのカップは?」「そいつは店のオリジナルカップさ。友達の前でドンドン使ってくれよな。」

「あら、うちの学校は外での食べ歩きは禁止なのよ?」「なに、カップを使う事は何も問題は無いだろう?」

アネットはフフフと小さく笑うと、すっかり慣れた手付きで淹れたレモネードをトマスに渡す。

「アリガトよお譲ちゃん、頑張ってなー。」両手にカップを持ったトマスが移動軽食店のバンに戻る。

「もう!アネットよ!」遠ざかるトマスの背中に軽く怒って見せた。渡された包みの中から良い匂い。

 

 

 ゆっくりとその最後の一口を飲み干し、ふうと溜息を吐く。

 

 

 「さて。」仕事を終え、ガレージ前の道路を挟んだ樫の木陰で一息付いた私は、

先程まで言い合っていた若いカップルを昔の自分の事の様に照らし合わせつつ家に近付く。

「イアンとか言ったな。大丈夫、上手くやれるさ。」見知らぬ彼にエールを送りながら、

飲み終えたカップをアネットに返す。「ご馳走様、アン。今日のはとても美味しかったよ。」

「本当!?」多少の疲れを見せながらも、着々と店仕舞いを始めていたアネットがはしゃぐ。

「ああ、本当さ。ママのよりうーんと。」「本当?本当に本当?」「パパは嘘言わないだろ?

それにホラ、それが何よりの証拠さ。」25セント硬貨で一杯になったピクルス瓶を指差す。

「うん。みんな美味しいって、ありがとうって。」「な?みんなアンのレモネードのお陰さ。」

「レディ・アンのお店は来年も出来そうかい?」「うん、まだちょっと心配だけど大丈夫。」

「それは何よりだ。さあ、お片付けお片づけ。」風船と花で飾られたテーブルに手を伸ばす。

「パン!」腕時計が引っかかったのか、風船の一つが割れた。同時にジョセフが一吠えし、

その音を聞いてママが玄関から駆け出してきた。「まあ、なあに?急にけたたましいと思ったら。」

「やあ、ただいまママ。」照れ隠しの様に笑っておどけた。「パパったら風船割っちゃったの。」

「御免御免。ところでママ。見た所、アンのレモネードは開始から大盛況だったらしいね。」

「ええ。始めは[ママー、来てー!]なんて言ってたのが、[ママー、シロップ追加で持ってきてー!]だもの。」

「ハハハ、これは大物だな。」「でも、アンは本当に良くやってくれたわ。ママももう安心。」

恥ずかしそうに後手を組むアネット。「…ママ、今度もう一回ちゃんとシロップの作り方教えてね?」

ママは笑顔で答えた。「勿論よアン。来年はぜーんぶアンが作ったシロップのレモネードになるんだから。」

「うう…。」少し物怖じをするアネット。私は言った。「大丈夫、来年も美味しく作れるさ。」

ママがテーブルの包みに気が付く。「あら、その包みは?」ハタと思い出した様にアネットが叫んだ!

「いっけない!貰ったサンドウィッチそのままだった!」おやおや、アネットは昼も食べなかったのか。

「ママ、急いでアンに夕飯の準備だ。こっちは僕が片して置く。」「ええ、お願い。さあ、アン。」

ママがアネットを家の中に入れるのを見届けると私は今度こそ風船を割らない様にテーブルを片付け始める。

 

 見上げれば日曜の夜の帳がゆっくりと降り始め、淡く、甘酸っぱいレモネード色の月が微笑んだ。


 
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