No.290002

郷愁・強襲・共修中!完成版:其之弐

投稿66作品目になりました。
第2回恋姫同人祭り参加作品『だった』作品です、ハイ。
リアルに忙殺され、期間内の投稿が間に合わなかったのと、完成度に自分で満足がいかなかった為、急遽書き直して投稿する事にしました。
既に一部が未完成版でネタバレされてますが、どうかお付き合いしてやってくれたらと思います、ハイ。

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2011-09-01 01:01:43 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:7081   閲覧ユーザー数:6190

 

 

「…………」

 

 

 

―――――一人、歩いていた。

 

 

 

「……誰にも、言わない積もりだったんだけどなぁ」

 

 

 

―――――一人、呟いていた。

 

 

 

「何で、話しちまったんだろう……?」

 

 

 

―――――一人、悩んでいた。

 

 

 

「話しても、どうしようもない事なのに……」

 

 

 

―――――一人、抱えていた。

 

 

 

「あ、あの、一刀様っ!?」

 

「?……あぁ、凪。それに、沙和と真桜も」

 

「こんにちはなのっ、隊長!!」

 

「なんや、真昼間からしけた面しとんなぁ、隊長?」

 

「ははっ、そうか?」

 

笑い飛ばすように、しかし実際には弱々しい笑顔。

何処か力ないその表情は、姦しい三羽烏でさえも思わず口を噤んでしまうほどで、

 

(……アカン、前より酷なってない?)

 

(ここまでとは予想以上なの。早い所、連れ出すの)

 

沙和と真桜が顔を寄せ耳打ちし合うのを余所に、凪は緊張でがちがちの自身に鞭を打ちながら息を整えて、

 

「あ、あのですねっ、隊長?今から、ですね、その、我々と、街へ行きませんか?」

 

『凪(ちゃん)、緊張しすぎ(や/なの)……』

 

「ん?今日って、午後から警邏だったっけ?」

 

「はぁ……凪も凪なら、隊長も隊長やわ」

 

「今日、沙和達もお休み貰ってるの!!で、一緒に街に行こうって言ってるの!!これだけ言えば解るの!?」

 

「……あぁ、そういう事か。それで三人とも私服なんだな」

 

見れば彼女達は『公』の戦装束ではなく、『私』の普段着に身を包んでいた。

流石の彼も、そこまでは鈍くない。

 

「ん。行こうか、デート」

 

「あ、は、はいっ!!宜しくお願いします!!」

 

「たははっ、凪ぃ……ホンマに可愛ぇなぁ」

 

「やったの~!!今日は阿蘇阿蘇に載ってたお店梯子してぱーっと散財しちゃうの~!!」

 

了承した途端、我先にと進む三人を一歩退いた形で、ふと、進みかけた足を止める。

先刻華佗に、自然と胸の内を打ち明けてからは若干、曇天模様は晴れた気もする。

やはりカウンセリングというか、話す事の影響は大きなものであるらしい。

少し、ほんの少し、ずっと引き摺っていた荷物が磨り減ったような、そんな程度でこそあったけれども。

 

 

 

「……なぁ、神様」

 

 

 

天を仰いで。

 

 

 

「もし、本当にいるのなら―――」

 

 

 

天を睨んで。

 

 

 

「た~いちょ~!?何やっとるん~!?」

 

「早く行くの~!!」

 

「……あぁ、今行くよ!」

 

 

 

―――――ほんの少し、俺はアンタを恨むよ。

 

 

 

天の御遣いは、天に吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は弱冠遡る…………………………

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

城壁の上、微動だにしない影が一つ。

華佗であった。

思い返すのはつい先刻別れたばかりの、彼の言葉。

交わした言葉に見た、一刀の意志と、推測と、真意。

そして、彼の病。

……否、今や病と呼ぶ事は叶わない。

 

「……馬鹿な。それは、あまりにも、」

 

しかし、可能性がないとは言えなかった。

否定しきる事が出来なかった。

なぜならそれは、

それが真実だとしたならば、

 

「あまりにも、惨すぎる……」

 

「……あら、もう話は終わったの、華佗?」

 

「ど、どうでした、華佗さん?何か、御主人様の事、解りましたか?」

 

聞こえた声に振り向けば、三人の王達がこちらを窺っていた。

 

「……一体、どうしたのかしら?顔色があまり良くないようだけれど?」

 

いち早く、華琳が気付く。

彼の躊躇、困惑、そして、憤慨。

 

「……いや、自分自身の無力さに腹が立っているだけだ」

 

『?』

 

眉根を顰める。

首を傾げる。

各々の示す疑問の表情を尻目に、華佗は首を振り表情を改めて、

 

「それで、どうしたんだ?俺に、何か用か?」

 

「あぁ、そうでしたそうでした!!私達、というか華琳さんが考え付いた案があるいんですけど、聞いてくれませんか?」

 

「案?……それは、一刀の、」

 

「えぇ。私達は素人だし、少しでも経験のある貴方に判断してもらった方がいいと思って。下手に動いて、それが後から『逆効果でした』なんて笑えないしね」

 

「ふむ。解った、聞こう」

 

了承と同時、華琳が一歩前へ歩み出て、

 

「有難う。それで、こんな企画を立てようと思っているのだけれど―――」

 

差し出された竹簡に目を通して、

 

 

 

「…………なぁ、この『立食ぱーてい』とは、一体どういうものなんだ?」

 

 

 

『あ~』

 

 

 

そこからか、という三人の溜息がパーフェクトシンクロで漏れたそうな。

 

 

 

 

「……ふむ、悪くないと思う。むしろ、今のアイツには一番効く薬かもしれないな」

 

「そう。なら、本格的に準備に移りましょう」

 

そう言う華琳の表情は、何処か和らいでいるようにも見えた。

 

「よ~し、それじゃ早速皆に話に行きましょう!!」

 

「そうね。それにはまず、一刀を城から離れさせなきゃならない訳だけど……」

 

「だったら、うちの三羽烏に任せましょう。普段から一緒に警邏してるんだし、臨時の休暇でも出来た事にすればいいわ」

 

姦しく議論を交わしながら去っていく背中を見つめ、思うのはやはり、

 

 

 

「一刀、お前が言うなと言うのなら俺は言わん。今のお前は俺の患者であって、患者の意思を尊重するのが医者だからな」

 

 

 

「だがな、お前があまりに見てられなくなったその時は、俺の判断で動かさせてもらうぞ?」

 

 

 

「俺は医者だ。医者は、人を癒し、生かすものだ。お前の為と判断したなら、俺はお前の意思すら捻じ曲げる。それだけは、覚えておけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~っ、新作の靴が出てるの~!!見に行ってくるの~!!」

 

「うわっ、絡繰夏候惇・巣駆水(すくみず)ば~じょんやんか!!防水・防塵仕様の限定生産でもう手に入らん思うてたのにぃ~♪」

 

「さ、沙和、真桜!!勝手に行動するなと……も、申し訳ありません、隊長」

 

「ははっ、いいさ。あれだけ楽しそうな顔を見ると、邪魔する方が却って野暮ってもんだろう?」

 

「はぁ、有難う御座います。……まったく、何の為に隊長を連れ出してきたと思ってるんだ」

 

「ん?何か言ったか?よく聞こえなかったんだが?」

 

本日二度目の洛陽の街並みは屋台街の喧騒ではなく、市場の賑わいで満たされていた。

三人の先導のままに、通り過ぎていく人の群れの中を、ただひたすら歩き続ける。

新たに興味を惹くものを見つける度、子供のように表情を輝かせる二人と、それを諫めるように頬を膨らませる凪。

そんないつもの光景を眺めている方が、幾分かではあるものの、確かにマシだった。

 

と、そんな時だった。

 

「…………あれ?」

 

「? どうした、沙和?」

 

ふと、沙和がそんな声を上げる。

真桜も物色を止め、三人で沙和の視線を先を追うと、

 

「…………あれ、霞か?」

 

『そう(ですね/なの/やね)』

 

いたのは張遼文遠その人であった。

彼女にしては珍しく、何処か不審というか、やたらと周囲を警戒しながらゆっくりと向かう先は、

 

「服屋?珍しいなぁ、姐さんがああいう店に入るんは」

 

「これは、お洒落の探究者の一人としては見過ごせないの」

 

「沙和、お前はいつからそんな大層な二つ名を賜ったんだ?……でも、確かに珍しいな」

 

三羽烏達がそれぞれの感想を零しながらじわじわとにじり寄る中、

 

「あの店は、確か…………」

 

一刀の脳内には、一つの推測が浮かんでいた。

彼女が向かうその店構えも、ふと視界に入った店員にも、見覚えがあった。

 

(ひょっとして…………)

 

 

 

一抹の予感を胸に、一刀もまた三人の後に続いて―――――

 

 

 

 

「ちょ、あんまし押さんといてぇな。バレてまうって」

 

「我慢するの。あんまり目立つと霞様に気付かれちゃうの」

 

「既にばれてるんじゃないか……?正直、これで気付くなって方が難しいと思うんだが」

 

『明らかにお前達の方が不審者だからな』という言葉は呑み込んで、一刀は霞の様子を窺っていた。

普段の彼女の洞察力ならば、凪の言うとおり既に気付いているハズである。

しかし、彼女は相当落ち着きがないらしく、意味もなく周囲を気にしながら服飾店の店員に話しかけていた。

やがて店員が霞を連れて店の奥へと向かって行き、

 

「むぅ、ここからじゃ見えないの。もっと近づくの」

 

「これ以上近づくんは危ないんとちゃう?」

 

「いや、そもそも尾行を止めるという選択肢は―――」

 

『ない(の/な)』

 

(この二人は……)

 

何の躊躇いもない顔であった。

呆れと諦めの入り混じった溜息と共に、仕方なく後をついていく凪。

そんな三人の後をさらについていく一刀。

 

 

 

すると―――――

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

愕然。

呆然。

混然。

歴然。

三羽烏が揃いも揃ってポカンと口を開けているのを尻目に、

 

(あぁ、やっぱりな……)

 

一刀は一人、推測が確信に変わった事に納得の首肯を小さく繰り返していた。

まぁ、無理もない。

四組の視線の先、『試着室から出てきた』霞は、

 

 

 

「やはり、お似合いですよ。お客様」

 

「そかな……うん、やっぱ着心地ええわ」

 

何処か踊り子を彷彿とさせる、あの馬邑特有の衣装を身に纏っていたのである。

(解らないor思い出せない人は萌将伝『張遼の憂鬱』を見直してみよう)

 

 

 

当然、地方特有の衣装ともなれば、その意匠もまた独特であり、そう多くは市場に出回らない珍しいものが多い。

増してや、一刀が所見で見抜いた通り、彼女の故郷(正確には違うが)の衣服ともなれば似合わないはずもない。

そんな、普段目にする事のない、しかし見目麗しい姿を見て、服飾に並々ならぬ拘りを持つ『彼女』が黙っているハズもない訳で。

 

「……か」

 

「? 沙和、どしたん?」

 

「か」

 

「『か』?」

 

 

 

 

「可愛いのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

『ぬわぁっ!?』

 

突如、発狂したかのように大声を発し突撃をかける沙和に周囲の凪や真桜のみならず、かなり離れているはずの霞さえも肩を驚かせていた。

その隙に距離を一気に詰めた沙和は、まるで新しい玩具を与えられた子供のように涼の瞳を爛々と輝かせ、舐め回すように随所のデザインやら手触りやらを確認し始め、

 

「凄いの、こんなに露出が多いのに何処か清楚ささえ感じさせるなんて……こんなの、沙和も初めて見たの!!」

 

「ちょっ、沙和!?なんでここにおんの―――って、一刀!?凪に真桜まで!?」

 

そんな沙和から逃げるように身を捩じらると同時、やっと気付いた霞が声をかけてくる。

 

「あ~、いやな……たまたま見かけたら姐さん、随分挙動不審やったから、何してんねやろって気になって」

 

「申し訳ありませんっ!!私は一応止めようとはしたんですが……」

 

「俺は普通に興味が沸いたから。まぁ、それでも沙和ほどじゃなかったけど」

 

「あったり前や!!一刀にまでこんなん来られたら堪ったもんやない―――って、沙和っ!?ちょ、そんなとこ捲らんといて!!見える、見えてまうって!!」

 

「別に減るもんじゃないの!!それよりもこの服、一体どうやって仕入れたの!?意匠は誰が!?材料は!?この知的好奇心を満たさない事には止まれないの~!!」

 

「嫌やって!!せやったら直ぐに脱ぐからそれからにしてぇな!!」

 

「駄目なの!!衣装は人が身に纏って初めて完成するの!!いいから黙って動くな、なの!!」

 

「も、もう嫌やああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

―――――で、何であんな事になっていたかというと、

 

 

 

 

 

店員の証言によると『あの一件』以降、服飾というか、単純にお洒落に若干の興味が湧き始めたらしく、霞はこの服を購入、しかし城で着ると『このような事態になりかねない』と判断したらしく、店に預けてちょくちょく訪れては袖を通し、鏡の前で満足そうに微笑んでいたという。

 

「私どもとしましても、張遼様の可愛らしい御姿を拝見出来るのは喜ばしい事でしたので」

 

ちなみに、他にも衣装を購入していたらしく、

 

「たいちょ~っ、霞様こんなのも買ってたみたいなの~!!」

 

「ちょっ、沙和!!やめ、止めてぇな!!」

 

「し、霞様っ!?それは確か『ばにぃ』という―――」

 

「あああああああああああああああああ!!凪、お願いやから見んといてえええええええええええええええええ!!!!」

 

「こんな事もあろうかと、『かめら』持って来といて良かったわ」

 

「ちょ、真桜まで!?あ、いやや、撮らんで、むっちゃ恥ずいってえええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

「……駄目だこりゃ」

 

収集のつきそうにない事態に嘆息しつつ、

 

「―――ま、眼福だったよ、霞」

 

「う、うわはああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」

 

完熟トマトと化した霞の虚しい声が洛陽の空に木霊したそうな。

 

 

 

 

 

 

 

―――――そうそう、余談ではあるがこの一件以降、霞の愛紗や凪に対するセクハラ染みたコミュニケーションは暫くなりを潜めたそうな。

 

「やって、あんな想いさせとったなんて、知らんかったんやもん……」

 

…………まぁそれも、ものの1週間ももたなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、満足したの……」

 

「沙和、なんや周りに神々しい光の群れが見える気がすんねやねけど?」

 

「今の沙和は満たされているの……例えるならそう、美味しいご飯をお腹一杯食べて、干したてのふわふわの布団に包まれているような」

 

「妙に例えが所帯染みてんな。まぁ、解りやすいからえぇけど」

 

真桜はそんな苦笑と共に振り返り、

 

「ほな、隊長。次はウチの行きたいトコ、行ってもええ?」

 

「あぁ、構わないが……大方、絡繰関係なんだろ?」

 

「と~ぜんやがな!!ほな、また北区画の李さん家にお邪魔すんで~!!」

 

「それって、前にも会った技師さんだよな?何か進展でもあったのか?」

 

「んとな、前に雪蓮様と冥琳様が絡繰の依頼に来た事、あったやんか」

 

「…………あぁ、あの一件な」

 

以前、絡繰の制作や部品の費用で懐が、という話を真桜から持ちかけられ、その打開策として出資者を募り、要求に応じた絡繰を提供するという形での『ギブアンドテイク』を一時的に行っていた事があった。

結局、真桜と冥琳の暴走で鎮静化したと思っていたのだが、

 

「あの後な、話を聞きつけて色んな人から依頼が来とってん。今日はその部品とかの買い出ししたいなぁ、って思てんけど……えぇ?」

 

「あぁ、別に構わないぞ。で、どんな部品が必要なんだ?」

 

「え~っと……ちょっち待っとって。作るもん『めも』してきとるから、それ見ながら買い出ししよ思てん」

 

言うや否や真桜は小さな竹簡を取り出し、読み上げ始めた。

 

 

 

 

ん~と、まずは『豊胸器』やね。数は五つ。

 

 

 

―――――……なんとなく、もう注文した人が解った気がするの。

 

 

 

あと、『くるくるマスィーン』を十個ほど。

 

 

 

―――――あ~、一時期なくなって大騒ぎだったっけ。

 

 

 

ほんで、『全自動蜂蜜録りマシーン』の改善と、

 

 

 

―――――そうか、そう言えば未完成だったな。

 

 

 

後は、全部等身大の絡繰やね。

 

 

 

―――――……ちなみに、誰のを作るか聞いてもいいか?

 

 

 

んとな、華琳様のが三体。

 

 

 

―――――……聞くまでもなく、想像がつくの。

 

 

 

んで、美羽のが一つ。

 

 

 

―――――自分で木彫りの沢山作ってるじゃないか……。

 

 

 

雪蓮様のが一つと、

 

 

 

―――――……諦めてなかったんですね、冥琳様。

 

 

 

桃香様のも一つやね。

 

 

 

 

―――――あぁ、うん、予想はしてた。

 

 

 

ほんで、恋様と月っちも一つずつで、

 

 

 

―――――(おいおい、こないだのでもう大丈夫だと思ってたのに……)

 

 

 

最後に、麗羽様のが一つやね。

 

 

 

―――――…………自分用(だな/ですね/なの)。

 

 

 

ほな、皆行くで~!!

 

 

 

―――――こりゃ、大荷物になりそうだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふい~、すっかり日も暮れてんな~」

 

真桜の言葉通り、太陽はとうに西へ傾き、青空はその色を茜へと変え始めていた。

 

「ふぅ……これで買い出しは終わりか、真桜?注文量の割には、少ないように見えるんだが?」

 

「あぁ、うん。今日はここまで。足りんかった部品は全部買えたし、後はそこまで急がんでもええもんばっかやから」

 

「そうか。それじゃあ、そろそろメシにしないか?結構腹減って来たし」

 

『っ!!』

 

ふいにそう切り出したと同時、三羽烏は突如、困惑の表情を見せ始め、

 

「あ、えっと、隊長、そのですね……」

 

(どうするの、真桜ちゃん?)

 

(う~ん、華琳様は『陽が落ちるまで』言うとったけど、どうなんやろ……そろそろええんかな?)

 

「……どうした、三人とも?凪、遠慮しなくていいんだぞ?今日はまだ、一言も希望を言ってないだろ?」

 

「いや、その、激辛は食べたい所なんですが、そうしてしまうとこの後が……」

 

「この後?何か予定でも入ってるのか?」

 

眉をひそめ首を傾げる一刀。

そんな彼を前にしどろもどろになる凪と、顔を寄せ合い耳打ちし合う沙和と真桜。

やがて、

 

「―――隊長っ!!」

 

「ん?どうした、凪?やっぱり、何処か食べに行きたい店があるのか?」

 

「ちょ、凪?勝手に判断してええの?」

 

「華琳様の事だ、予定の時刻よりも早めに終わるようにされている……と、思う。それに、これ以上引き延ばすのは不自然だ」

 

「まぁ、確かにそうなの……行っちゃうの?」

 

「ほな、そうしよっか」

 

結論が出たのか、三人は何処か意気込んだような表情を浮かべ、

 

 

 

『隊長っ!!』

 

 

 

「なんだ?」

 

 

 

『これで、目を隠して(下さい/欲しいの/くれへん)』

 

 

 

差し出されたのは何の変哲もない、真っ黒な布切れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、何処に向かってるんだ?」

 

視界を塞がれた一刀は三羽烏の誘導の元、足の感覚だけを頼りに歩みを進めていた。

 

「直ぐに解るの。もう少しだけ待ってて欲しいの」

 

「堪え性ない男は嫌われんで、たいちょ」

 

「う~ん……」

 

周囲の空気や靴の裏の感触から、恐らく城内だとは思う。

それも、恐らく連絡用の通路だ。

頬を撫ぜる風の感触は、明らかに室内のものではない。

それでも、やはり推測の域を出ない訳で、一刀はしきりに疑問符を浮かべていたが、

 

 

 

 

「………あれ?」

 

 

 

 

ふと、鼻腔を擽った香り。

嗅ぎ覚えがあった。

というより、久しく嗅いだ覚えのない、ここで嗅げるはずのない香りだった。

そんな有り得ない筈の香りが幾重にも混じり合っているような、

心の奥底に仕舞い込んでいたものを引っ張り出されるような、

そんな、『懐かしい』香り。

やがて、

 

 

 

「隊長、着きました。布を外しますね」

 

 

 

凪の一声と共に、一気に広がる視界。

 

 

 

城の中庭、その大半を占めていたのは恋姫達に囲まれた、整然と並べられた木卓の上。

 

 

 

皿という皿に乗せられていたのは、口にしたくてもすることの叶わなかった品ばかり。

 

 

 

天の国の、故郷の料理が、そこには所狭しと並べられていたのだった。

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

今回もまた、魏成分多めでお送りしました……ハイ、プロットの都合上、どしてもこうなってしまうのですよ。

 

次回は蜀・呉成分大目になる……ハズなので、もう少しだけお待ちくだしあ。

 

 

 

で、

 

 

 

なんかもう、完全に『萌将伝』ネタ全開になっております。

 

皆、ついてこれてます?

 

元ネタが解らなかった人、もう一回プレイしなおしてみよう。

 

それからもっかい読んでいただけたらば、きっと解ってくれると思う。(結構広く引用してるので)

 

 

ほいでは、次の更新でお会いしましょう。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

 

…………実は没ネタで『着せ替え人形状態の霞』のシーンがあったんだが、労力と尺の都合上カットしました。


 
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