No.28242

SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガール ACT:10

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!(一週抜けましたが)フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その10。

2008-09-01 01:08:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:649   閲覧ユーザー数:624

 高校の屋上。

 逆光の中に建物が作る日陰に沿うようにして身を隠し目立たぬようにはしているが、目を凝らしてよく見れば見事な金茶色の髪に気づいたことだろう。

 中背の男子生徒だった。

 彼のことを知らない者なら「ずいぶん派手に髪を染めているヤツだな」と思うだろうが、もし順光で向き合えばエキゾチックな顔立ちとグレーっぽい瞳の色にも特徴を見いだせるはずで、彼が西欧人の遺伝子を持っていることは容易に予想がつく。

 だが、その眼は獲物の様子を間断なくじっと窺うハンターのそれだった。

  

 

 何気なく遠くを見ているようで、実は視界に入るものすべてに対して間断無く注意を配っているのである。

 ブリックパックの牛乳で購買部売れ残りのタマゴサンドを食べながら、だが。

 彼の名前は三宅亜郎(みやけ あろう)。

 去年までは一年生でありながらこの学校の新聞部で副部長をしていたが、三年生が卒業し、亜郎が部長となって全権を掌握するやいなや、エコ運動を盾にしてそれまでの紙媒体による学校新聞を全廃し、あっという間にインターネット・サイトとブログを活用した『デジタル新聞』に全面移行させてしまった。

 最初は教師たちや生徒会、いや一般生徒までが亜郎の強引なやり方に面を喰らい反発もあったものの、結局今では紙媒体時代の学校新聞など足もとにも及ばない人気とアクセス数を誇るオンライン・デジタル新聞にまで成長し、誰一人文句を言わせないほどの実力を備えるまでになっていた。

 

 もちろん、学校新聞というスタイルを採っているので、いかにも学生に役立ちそうな情報で誌面を飾ってあるが、実際は程度の差こそあってもいわゆるゴシップ記事が読者確保の吸引力になっている。

 

 ゴシップ記事はうまく当てるとアクセス数や人気度が面白いように上がる。もっとも、たかが学校新聞にいくら人気が出たところでなんだというのか、と思われるかも知れない。

 たしかに学校新聞ではあるが、亜郎たちが通う高校は私立なので、多少なりとも姉妹校や関連企業などのバナー広告が存在するのだ。

 といっても、本来は学校紹介のためだけの広告というのもおこがましいようなお粗末な素材だったが、亜郎が編集長就任以後は定期更新の度にアクセスが集中して貧弱なサーバーが何度もパンクするほどになり、それならばと、亜郎は一定量以上のアクセスとバナー広告のビュー…すなわちネット上での表示数を越えたときは、1ビューあたりいくらかの超過報酬を追加部費として新聞部に支給せよと学校経営者の交渉に成功する。

 ひとつのバナー広告が一回表示された場合の報酬などは、イマドキそんな金銭の単位などあったのかと感心するほど微々たるものだが、これが“塵も積もれば山となる”のたとえ通り、今では部の運営費用はここから捻出できてしまうほどの潤沢な金額を生んでいるのである。

 

 そんなこともあるので亜郎の生み出す新聞はますますあちこちから注目され、それがまたアクセスに繋がって…という永久機関的なサイクルを生み、ついには放送部も併合してメディア部というひとつの部に昇格までさせていた。

 

 亜郎自身としては、他人のゴシップを漁って売り物にすることに抵抗などないが、媒体が学校新聞である以上は個人を誹謗中傷するまな板になってはならない。あくまで清廉潔白な視線と切り口で記事にしてゆかねばならない、という点では大新聞が掲げる表看板と同じである。

 が、そんなことは建て前オモテ看板にすぎないというのも大新聞と同じだった。

 ただ、学生が作っているという名目上、世間が押しつけてくる倫理規定の壁は厚いが、当然回り道もあれば抜け道もある。

 

 だからといって低俗系マスコミの芸能記事のように興味本位の醜悪な記事にはしたくない亜郎としては、プライバシー侵害ごときで自分をおとしめるリスクまでは犯したくない。

 そもそも記者が男で取材対象が女子となれば世間的にもかなり不利だ。

 そうは思うが、須藤家の怪異は気になる。なにか匂うのである。

 実は亜郎はもともと神秘系オタク属性である。それだけにこの匂いは彼にとってはフェロモンにも等しいのだが、だからこそその手のガセネタやでっちあげ、エセ学者の嘘くさいヤラセ解説が許せない。まして自分が憶測だけのデタラメ記事を書くなどありえないのである。やるなら納得が行くまで徹底的に調べたい。

 

 迷った挙げ句、亜郎はこう考えることにした。

 ───好奇心の誘惑に抗えるジャーナリストはいない。とにかく調べる、とにかく書く。公開するかしないかは知り尽くしてから悩めばいい事だ───と。

(まずは、何が起こったのか実際に見聞することだ…火傷を怖がって火事の見物はできないからな)

 

 とはいえ、実際どう探ったものか…と亜郎はふと目線をあらぬ方へやると、電線にカラスが留まっているのが見えた。カラスは獲物を探しているのか、きょときょとと落ち着かない様子で周りを見回していた。

(あ!その手があった。)

 取材用にと生徒会と学校側へ上申していたハイビジョンカメラ付きラジコンヘリの導入案が通って、つい先頃現物が届いたものの、いまだ出番を待っていることを思い出したのである。(相手は山の上なんだからな。屋根と庭しか撮せなかったとしても、とりあえず輪郭から攻めるのも手だ)

 と、その時カラスが飛びたった。

 カラスが去った、そのはるか向こうに青い空を背景に建築中の高層ビルが見えた。すぐ傍らには寄り添うように赤く巨大なクレーンがタワーのようにまっすぐ天を指して高くそびえ立っているのだが、なにか違和感がある。

 どうしてなんだろうな、と亜郎が考えていると、本来平行であるべき鉄骨の城とクレーンの塔のような支柱がそうなっていないせいである事に気づいた。

 しかも互いの距離は少しづつだが確かに近づいている。

 

「気のせい…じゃない?」

 

 亜郎は乾いてパサついたタマゴサンドの最後のひとくちを放り込み、残りわずかな牛乳でそれを流し込んだ。

 

 

〈ACT:11へ続く〉

 

 


 
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