No.281933

ONE二次創作小説「夏降る雪」

浅月蒼志さん

数年ぶりのONE二次創作。なんだかなで鍵作品は私の原点なんだなぁ、と思う。今の文章も目指した結果だけど、当時はこういった「つながる」物語が好きだったんだよなぁ……それはそうとして茜さんかわいい名雪かわいい

2011-08-22 19:03:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1286   閲覧ユーザー数:1274

 浩平がいなくなってからどれくらい経っただろう。

 季節は夏。うだるように暑い日々が続いていた。

 晴れ晴れとした太陽とは逆に、私の雰囲気は鬱屈としたまま。

 友人の詩子はいつも気にかけてくれている。しかしその事実が、浩平がいないことを一層突きつけてくる。

 ある雨の日のこと。

 私はいつも通り空き地で傘をさし続けていた。誰もこない空き地で、いつ戻るかもわからないヒトを待ち続けている。

 夏の雨なのに、蒸すよりも寒さが際立つ。

 衣替えしたばかりの半袖には少し厳しいかもしれない。

「茜―」

「詩子」

 珍しい。いつもの彼女なら、直接学校に乗り込んでくるのに。

「今日もこんなところにいるの?」

「うん」

「ここにいて、何かがあるの?」

「なにもないんです」

「じゃあ」

「それでも、待たないといけないんです」

 浩平とはここで始まって、ここで途切れたままだから。

「そう」

 気を悪くしただろうか。でも、詩子は私に笑いなおしてくれた。

「おっけー。まあ、遅刻しないようにしなよ~」

 澪ちゃんもまってるんだし、と。私に背を向けて空き地をでていった。

 上月澪。言葉が喋れないけど、元気いっぱいの後輩。元々、彼女も浩平を通じて知り合った。だから出会いを聞けば浩平を思い出してくれるかと思ったけど、そうではなかった。

 浩平との思い出になると、靄がかかったように思い出せず、都合のいい解釈を返されてしまう。『あいつ』のときと、同じだった。

 時計を見る。もうそろそろ行かないといけない時間。

 普段なら諦めて学校に向かうのだけど……今日はここにいなきゃいけない気がしてならなかった。

 しとしとと降る雨。寒さは更に増していく。

 気づくと、吐く息も真っ白。寒すぎる。何かがおかしい。

「ゆき?」

 寒いはずだ。雨はいつの間にか雪へと変わっていた。今は夏。雪がふるなんて、ありえない。

 見間違えかとも思ったけど、雪は積もり続けている。空き地は枯れ草色から、真っ白い世界に埋め尽くされていた。

 一面の銀世界。半袖の私には、いくらなんでも寒すぎる。

 流石に帰ろうと思い、空き地の入り口を振り返る。

「え……?」

 出口がなかった。振り返ればそこにあったはず。雪がいくらつもっていても、すぐに見つかる程度の位置にあったはずなのに。

 寒さに腕を抱く。はぁ、と息は白くにごるだけで、全く暖めてくれなかった。

 もしかして、ここが『あいつ』や浩平の行きたかった永遠なのだろうか。

 そんなはずはない。こんな寒いだけの世界なんかあってたまるものか。

 それでも否定はできず、途方にくれていた。

 いつの間にか、私も永遠の世界を望んでいたのだろうか。そんなことまで頭に思い浮かんできたが、慌てて否定する。私は永遠なんかいらない。そもそも、少しずつ存在が削られていく終わりは、私に覚えはない。

「私は、浩平がくるまで待つんです」

 誰も聞いていない。ただ自分を鼓舞するためだけの独り言。

 傘の端をおろして、空を見上げる。

 灰色の空。どんよりとして、すぐにでも落ちてきそうな天体。

 

「雪、つもってるよ?」

 

 声が聞こえた。振り返ると、一人の少女。長い黒髪の、少し眠たげな表情と声。見たことのない制服。

「雪」

「あ、はい」

 いつの間に時間が経っていたのだろう。雪が頭にも肩にもつもっていた。

「今日もさむいね」

「……そうですね」

 私の中では、昨日までは暑かったのだけど、ここは合わせておく。

「こんなところで、何してるの?」

 言う義理などない。けど、知らず口に出ていた。

「人を、待っているんです」

「待ってるんだ」

「はい」

「ずっと?」

「ずっとです」

「じゃあ」

 少女は微笑んだ。同性ながら、どきりとした。

「わたしと、一緒だね」

 眩しそうに、暗い雲の向こうの太陽を見透かして。

「大切な人なんだね」

「はい」

「大好きな人なんだね」

「はい」

「さみしいね」

「……はい」

 でも、いつの間にか寒さはなくなっていた。

「わたしもね。人を待ってたんだ」

 ぽつりと彼女は話し始めた。

「その男の子とは、物心つく前に出会ってね。いつの間にか好きになってた。年に数回、期間限定で会うだけだったけど、いつも楽しみに待ってたの」

 その子、いつも苛めてきたんだけどね、と。楽しそうに微笑んでいた。その思い出が何よりも大事なのだろう。

「買い物いけば人を置いてどっかに遊びにいったり、お出かけの約束をすれば、朝早く一人で遊びにいっちゃったり」

 どことなく、浩平を彷彿させる。長森さんも、同じような目にあっていたのだろう。

「でも、ある日を境に、彼はこなくなった」

 その横顔は、どこか寂しそうで、だけどすごくきれいで。

「今日、七年ぶりに会うんだ」

 待ち人に出会えるというのに、どこか浮かない顔。なんでだろう。もっと喜んでもいいはずなのに。

「今日の、いつ会う予定なんですか」

「うん……実はね、もう約束の時間から1時間半ぐらい過ぎちゃってるんだ」

 大遅刻もいいところ。まあ、私も、学校に大遅刻しそうな身なので、そこまで言えないのだけど。

「やっと会えるのは嬉しい。だけど、すごく怖くもあるの」

 はぁ、と白い息を吐く。

「わたしのこと忘れてたらどうしよう。あのときの傷がまだ治ってなかったらどうしよう……てね」

 ああ、それは違う。本当はもっと違うことを恐れているはずだ。

「違うでしょう」

「え?」

「『また、会えなかったらどうしよう』」

 それは、私自身が恐れている未来。待つのはかまわない。けど、希望を裏切られるのはつらい。

 もし私に、明日浩平と出会えると言われたとしても、同じように逃げてしまうかもしれない。いや、逃げるだろう。

「うん、そうだね」

 痛いところつかれちゃったなぁ、とつぶやく。

「必ず会えるのはわかってる。だけど、それでもこわいんだ」

 好きなものを好きでい続けるのは難しい。

「そんなこと考えてたら、こんなところに迷い込んじゃった」

 つくづく、私たちは似ている。

 私も不安だった。浩平のことは信じている。けど、永遠の世界が居心地よかったら、戻りたいと思わないかもしれない。

 妹さんの件もある。もしかしたら、つらい記憶のあるこの世界など、とうにイヤになったのかもしれない。

「私は貴女が羨ましいです」

「え?」

「だって、自分から会いにいけるんでしょう?」

 遅刻したって、今から会いに行けばいい。七年間待ったのだ。二時間や三時間待たせても誰も怒らないだろう。

「私も、怖いです。だけど、今の私には信じ続けるしかないから。彼が帰ってくるのを待ち続けるしかないから」

 貴女の七年間には及ばないかもしれない。そこまで待てないかもしれない。だから――

「私に、夢を見させてください」

 ずっと信じて待ち続ければ、必ず再会できると。私の先輩として、一歩踏み出してほしい。

「うん、そうだよね」

 やんわりと微笑むその顔に、もう迷いはなかった。

「一つ、教えてください」

「なに?」

「七年間待ち続けて、もうやめようと思ったこと、ありますか?」

「うん、あるよ」

 何度も思った。待つのがつらくて、何度も送った手紙に全く返信がこなかったとき。

 夢の中で前にどんどん歩いていく後姿を追いかけて、置いてかれて。あの背中に追いつきたくて陸上をはじめて。

「つらかったときもあるけど、それでも、わたしは待っていたかったんだ」

 だけど、

「もう待つのはやめるよ。ちょっとだけ遅刻しちゃったけど、これから会いにいこうと思うよ」

「はい」

「ありがとう」

「こちらこそ……ああ、そうです」

「ん?」

「お名前、教えて頂いてもいいですか?」

「うん、わたしは名雪。水瀬名雪」

「きれいな名前ですね」

「うん、わたし、自分の名前好きだから」

「私は、里村茜です」

「茜ちゃんか。やさしそうな名前だね」

「私も、自分の名前好きですから」

 それじゃあ、と。背中を向けて。

 

「「いってきます」」

 

 雪は、もう止んでいた。

 気づくと雨も止み、空からは太陽の光が差し込んでいた。

「お嬢ちゃん」

「え?」

 いつの間にか人がいた。

「ここ、今日から工事始まるから、出て行ってもらえないかい」

 人も環境も、変わらないままではいられない。

「こんな土地を遊ばせておくのも勿体ないからねぇ」

 これもいい機会かもしれない。ただ待つだけではなく、探してみよう。浩平が帰ってくる方法を。

「そうですね。私も、もう行かないと」

「それじゃ、気をつけてな」

「はい」

 それでは、私も先輩に負けずにこれからを歩いていこう。

 

 

 

It continues to the ONE episode...

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「雪、つもってるよ?」

「そりゃ、二時間も待ってるからな」

「わ、びっくり」

 

「わたしの名前、まだ覚えてる?」

 

 

It continues to Kanon...


 
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