夜空を見上げるたびに思い出す。
「すごいよ、俺のいた世界じゃこんなに見えなかったよ!」
子供のようにはしゃいでいたあなた。
「見てよほら、まるで星が掴めそうだ!」
それが当たり前だった私には、あなたの言っていることがまるでわからなかったけれど。
「あ、流れ星!願い事間に合わなかった?」
たかが星空一つでそこまで喜ぶとは思わなかった。
「星に三回願い事をすると叶うんだ。」
不思議な風習だと思ったけれど、無邪気に笑うあなたにつられてわたしも笑った。
「信じてないな。本当なんだぞ。」
そういったあなたのその笑顔が、満月のように眩しかった。
あなたがあれだけはしゃいでいたのは、あの話を聞いた後だったかしらね。
「俺のいた世界じゃ、世の中はもっと明るくて、楽しくて、賑やかで、暗かった。」
笑いながらそういったあなたの顔が、少し寂しそうだったのを覚えている。
「夜でも星なんて見えないくらい明るくてさ。俺の声なんか聞こえないくらい賑やかで。」
それは栄えているということではないのと、答えた気がするわ。
「そんなことはないさ。いつだって、寂しいもんだった。」
首を横に振りながら、それでもあなたは笑ったわ。
「どっちがいいかって聞かれたら、俺はこっちのほうがいい。だってさ、星があんなにいっぱい観えるんだぜ?」
はにかんだあなたの笑顔は、星空のようにのように輝いていた。
あなたは流星と共に現れたと話した時も、はっきり思い出せる。
「そうか、じゃあ星は掴めたってことかな?」
辺りが暗くてよかった、と思ったことも、もう懐かしいわね。
「俺はさ、やっと太陽の下に出てこられた、そんな気がしたよ。」
一体どっちが寂しがり屋だというのかしら。
「俺はさ。みんなに会えて、本当に良かったと思うんだ。」
寂しそうな顔を隠して、あなたはすぐいつものように笑った。
「陽の光ってさ、すごく暖かいんだなって、そう感じられたからね。」
本当に嬉しそうに笑うあなたの笑顔は、陽の光のように柔らかだった。
月の満ち欠けに星の瞬き、目に映る多くのものに心を奪われて、手の中の星はこぼれてしまった。
「なぁ、知ってるか。月が欠けるのは影のせいなんだ。」
月明かりのないあの夜も、あなたは笑っていたのかしら。
「きっと話しても、信じてもらえないだろうけどさ。」
いつもの調子で続けるあなたに、私はなんて答えたかしら。
「これだけは覚えておいてほしいな。太陽がなかったら、月は輝けないんだ。」
あなたの言葉が、わからなかった。
「その太陽は自らを焼いて光るんだ。」
それ以上は、聞きたくなくて、でもあなたの声が聞きたくて。
「そして太陽に近づきすぎたイカロスは、最後にその身を焼かれ、地に落ちる。」
そう続けたあなたは、いつものように笑っていたのかしら。
「みんなは天の遣いと言ったけどさ。」
その時は何を言いたいのかわからなかったけれど。
「自分は覇王だって言うけどさ。」
その時は、何も言えなかった。
「寂しいときは、星に願いをかけてもいいんだよな。」
あの時、あなたはどういう顔をしたのかしら。
「流れ星…」
願い事は間に合った?
「たしかに、あなたならそんなこと言いそうね。」
どうしたんだい、一人なんて珍しいじゃないか。
「いえ、なんでもないわ。ただ、あなたの言っていたことが、少しだけわかったような気がしてね。」
俺が言ったこと?
「あなたがいなくなって、こちらはだいぶ栄えたのよ?夜でも火が灯るようになって、明るくて、声が聞こえないほど賑やかで、華やかで忙しくて。」
それは、いいことじゃないのか?
「あら、覚えてないの?私には、今の世界はすこしだけ暗いわ。」
たとえばどんな風に?
「星の見えない夜は寂しくて、それでも世界は賑やかで。」
それで?
「まるで世界中に一人しかいないような、変な気持ちね。」
まさかそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ。
「太陽に近づきすぎてその身を焼かれたのは、あなたではなく私のほうだったのかしら。」
なんでそう思うんだい?
「ふふっ。教えてあげないわよ。ただそうね。なくなった太陽の暖かさには、気付けたかしら。」
なんだからしくないことばかり言うじゃないか。
「あなたが言ったことよ。太陽のまぶしさも、月の優しさも。全部あなたが言ったこと。」
あれ?俺、そんなこと言ったっけ?
「えぇ。忘れたなんて言わせないわよ。私は覚えているのだから。」
まいったな…全然思い出せないや。
「そんなことだろうと思ったけどそれで…あなたは何を願ったのかしら?」
…なんだい?
「あなたなら、あの流星に何を願ったのかしら。」
なんだか恥ずかしいな。そっちは何を願ったんだ?
「フフッ…そうね…確か、願い事は三回だったかしら?」
そう、星に懸ける願い事は三回。
「また、あの太陽の光を浴びたい。」
…えっ?
「また、月の満ち欠けを見ていたい。」
…そうか、だから。
「わたしがもし、望んでもいいのなら。寂しいと思っていいのなら…」
いいに決まってるだろ。忘れたのかい、俺があの時言ったこと。
「覚えているわよ。覚えているからこそ…」
…つらい思いをさせちゃったかな。
「さぁ…あなたはどうなの?」
…さぁ?
「そういうことよ。それで?」
何?
「あなたは何を願ったのかしら?まだ答えを聞いてないわ。」
そうだね…なんだか恥ずかしいな…
「私には聞いたのだから答えなさい。」
…たぶん、一緒だよ。
「…えっ?」
最後の一回、まだ言ってない最後の一回と同じだよ。
星に懸ける願い事は三回。
聞こえた声が夢か現かなんて、関係なかった。
その一言が、ずっとずっと聞きたかったから。
その一言が、ずっとずっと言いたかったから。
最後の一回。
願い事の最後の一回を口にした。
「「また二人で、あの星空をみたい。」」
重なる声に驚き、振り返る。
空から零れた星は、願いを叶えるために流れていく。
変わらぬ笑顔でそこにいたあなたは、あの時と変わらない笑顔だった。
待ち望んだ太陽の光はとても柔らかで。
満月は目が眩むくらい眩しくて。
星空は、泣きそうなほど輝いて。
あなたの顔を見たときに、私はどんな顔をしたのかしら。
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皆さんこんばんは、初めましての人は初めまして、たくましいいのししです。
8/17~8/23まで開催中の第二回同人恋姫祭りに参加するべく二つめの作品投稿になります。
ではガイドラインに則って始めていきたいと思います。
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