No.278221

郷愁・強襲・共修中! 其之壱(第2回恋姫同人祭り参加作品)

投稿62作品目になりました。
タイトルの通り、前回に引き続いて恋姫同人祭りに参加させていただきました。
時間軸的には萌将伝の美以達の帰郷話『里帰りなのにゃ!の巻』の後日談。
続き物ですので、そこんとこ宜しく。

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2011-08-19 02:31:30 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8706   閲覧ユーザー数:7541

 

 

 

 

―――――それは、実に突然の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一刀(御主人様)の様子がおかしい?』

 

 

 

帝都―――否、今となっては天都と言い換えるべきか、洛陽は玉座の間において、三国の王達はそれぞれ眉間に皺を寄せ、頓狂な声を上げた。

三人の視線の焦点にいたのは、ふんだんにフリルの盛り込まれたメイド服に身を包んだ、小さな二つの影。

北郷一刀の補佐兼女中、月と詠、その人であった。

 

「はい、その……最近の御主人様、どこか上の空と言いますか」

 

「今朝も、僕達が起こしに行く前に起きて仕事してた事自体はいいんだけど、少し経つとすぐに筆を止めて、窓の外をぼけーっと、ね……落ち着きがないと言うか、その割には嫌に落ち着いてるというか」

 

「……それって、どういう事?」

 

「何て言ったらいいのか、自分でも解んないのよ。……取りあえず、ついて来て。説明するより、今のアイツを見た方が早いわ」

 

「そう……なら、早速行きましょう」

 

 

 

と、言う訳で、五人は連れだって一刀の執務室へと向かったのだが―――――

 

 

 

 

パラ、パラ……

 

「……普通に仕事してるじゃない」

 

「今の所は、そんな様子は見られないけれど?」

 

サラサラサラ……

 

「そのうち解るわよ、いいから黙って見てなさい」

 

「詠ちゃん、声を抑えて。御主人様に気付かれちゃうよ」

 

「あの、そもそも覗き見なんてしない方がいいんじゃ……」

 

執務室の前、ほんの僅かに扉を開いて覗き込む縦一列の5組の双眸の先で、一刀は黙々とデスクワークに励んでいた。

竹簡を捲り、目を通し、筆を走らせ、印を押し、ひたすらその繰り返し。

何てことのない、普段通りの光景であった。

 

 

 

―――――の、だが。

 

 

 

「―――ふぅ」

 

『?』

 

その一つの嘆息が、合図だった。

ふいに止まる両手。

筆を傍らに置き、椅子の背凭れに身体を預け、虚空へ向いていた視線はやがて、ぼんやりと窓の外へ。

位置関係から表情こそ窺えないものの、その背中は何処か無気力すら感じさせる。

寂寥のような、惜別のような、後悔のような、明瞭でこそないものの、間違いなく『負』に属する感情さえも。

 

「……確かに、あんな顔の一刀なんて見た事ないわね」

 

「でしょう?ここ最近、偶にだけど、ああいう顔を見せてくるのよ」

 

「身体の調子が悪い、って訳でもなさそうねぇ。顔色はむしろいい方だし」

 

「はい。先日、お風邪を召してしまってからは、体調には気をつけてらっしゃるみたいですし」

 

「どうしちゃったんだろう、御主人様……」

 

三者三様ならぬ、五者五様の率直な意見を述べる中、

 

 

 

ぼそりと、一刀が漏らした。

 

 

 

「…………沙耶」

 

『っ!!』

 

 

 

 

明らかに女性の名前であった。

まぁ、咄嗟にそんな言葉を耳にして平然としていられる程、彼女達は鈍くも寛容でもない訳で、

 

「かぁぁぁぁずぅぅぅぅとぉぉぉぉ!!!!」

 

「ご~しゅ~じ~ん~さ~ま~?」

 

「あ、アンタって男はああああああああ!!!!」

 

蹴破る扉。

憤怒の形相。

流石の一刀も驚愕と共に振り返り、

 

『こっちは、本気で心配してたって云うのに……』

 

「っ!?は、え、何、どうしたの?」

 

『こんの、種馬あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

「え、ちょ、な、ぶるあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!!」

 

華琳、桃香、詠のクリティカルヒットにより、種馬の残機1つロスト。

窓を突き抜け、ドップラー効果&錐揉み回転と共に描く鮮やかな放物線は、審査員がいたならば全員が10点札を上げていた事だろう。

 

「あっはっはっはっは!!最っ高、もう堪んない!!」

 

「雪蓮さん、悪いですよ。そんなに笑っちゃ」

 

飛び込んで行った三人を見ながら抱腹絶倒する雪蓮と、彼女をそっと窘める月。

 

「そんな事言ったって、ねぇ!!ふぅ、ふぅ……で、月は参加しなくてもよかったの?」

 

「あ、えと、御主人様は魅力的な方ですし、その……」

 

「ん?」

 

「……私と二人きりの時は、私だけの御主人様ですから」

 

「はいはい、御馳走様。月は健気で可愛いわねぇ♪」

 

「へぅ……」

 

からかい口調のまま、雪蓮はス○ンドを背負った三人と吹き飛んで行った一刀の方を見て、

 

 

 

「―――あら、そう言えば、」

 

 

 

ふと、思う。

 

 

 

―――――『沙耶』って、誰の事かしら?

 

 

 

 

 

それから数日。

 

 

この騒ぎをのちに耳にした恋姫達は一様に思った。

 

 

『また種馬か』と。

 

 

が、しかしである。

 

 

城や各陣営の関係者に『沙耶』という名の人物はおらず、

 

 

そもそも、多忙極まりない日々を送っている彼が、新たな出会いなどに現を抜かしている暇などあるはずもないのだ。

 

 

その事実に気付き、改めて生まれる疑問と、新たな疑問。

 

 

『一刀の変化の理由は?』

 

 

『沙耶とは一体誰なのか?』

 

 

執務中も、警邏中も、近頃は会議中でさえ見え始めた些細な、しかし確かな変化。

 

 

やがて、ふと凪が思い出したように言う。

 

 

「そう言えば以前、一刀様がおっしゃってたんですが―――」

 

 

それが、彼には天に残してきた『妹』がいるという事。

 

 

ここで、一つの推論が生まれた。

 

 

その『妹』の名前が『沙耶』なのではないか。

 

 

そして、その推論から生まれる一つの可能性。

 

 

 

 

つまり、それは―――

 

 

 

 

 

「それは多分、『懐郷病』だろうな」

 

後日。場所は再び洛陽は玉座の間。

いつものように三国の代表が集まっての会議の後、一刀が部屋に下がるのを確認してからの事。

偶々近辺に来ているとの情報を得、事情を話して来てもらった華佗の言葉に、再び集まった恋姫達は思い出したように顔を上げた。

 

「それって、ひょっとしてこの前の美以ちゃん達と同じ、あれなんじゃ?」

 

「あぁ、そう言えば一時的に帰ったんだったな。話は聞いている」

 

首肯する一同に、華佗は説明を続ける。

 

「だったら、話は早いな。その美以達の帰郷が切欠だったんじゃないか?」

 

思い返してみれば、一刀の様子がおかしくなり始めたのは、その頃からだったように思えた。

 

「華陀。貴方の鍼で、なんとかならないものだろうか?」

 

「病魔が相手なら、俺の五斗米道でどうにでもなるが、懐郷病は心の問題だからな……明確な特効薬や治療法があるわけじゃない」

 

「どうすればいいんですか?」

 

「一番いいのは知っての通り、一時的にでも『帰る事』なんだが、な……」

 

苦笑する華陀に黙り込む皆。

確かに一度帰って以来、美以達の体調はすこぶる快調であった。

むしろ、以前にも増して騒いでは周囲に笑顔と、結構な迷惑を振りまいていたりもする。

つまり、帰郷の効果は既に承知なのだ。

しかし彼の、北郷一刀の故郷は、

 

「『天』に帰る方法って、あるのかなぁ……?」

 

思わず漏れた桃香の呟きに皆、閉口してしまう。

『天の御遣い』そもそもが管輅の占いという、信憑性に欠けた存在。

その『天』に達する術など、どうして知る事が出来ようか。

 

(それに―――)

 

皆の脳裏に過る、一抹の不安。

もし、帰る術があったとして、そして彼が帰ったとして、『此処に戻ってきてくれる保証』はあるのだろうか?

懐郷病。即ち、故郷を懐かしむ病。

それは『帰りたい』という願望とも捉えられる。

そう、捉えられてしまう。

それは、考えたくもないが、もしかすると、

 

 

 

―――北郷一刀は、この世界よりも、自分達よりも、『天』の世界を選んでしまうのではないか。

 

 

 

「他に、治す方法はないんですか?」

 

「そもそも、完治するものじゃないからな。時間が解決してくれるのを待つしかないだろう」

 

縋るような問いに返って来たのは、あまりに無慈悲な答えだった。

解っていたとしても、それはあまりに受け入れ難い事実で、

 

「皆、そんな顔をしないでくれ。俺だって、あんな顔をしている一刀を放っておく積もりはないさ」

 

「……華佗」

 

「怪我や病気で故郷に戻れずにいたり、仕事の都合で家族と離れて暮らしていたり、そんな患者も何人かは診てきた。話を聞いてやるだけでも効果的ではあるようだからな」

 

ここでの華佗はその経験から語っているが、現代医学においても医者とのカウンセリングは懐郷病に対する、非常にメジャーな対策とされている。

 

「他には、そうだな……それを忘れるくらいに熱中できるものでも見つけられればいいんだが」

 

「熱中、できるもの、ですか……」

 

「あぁ。一刀がこの大陸にやってきてから今まで、こういった症状は見られなかったんだろう?」

 

再び、一同がうなずくのを確認して、

 

「こう言ってはなんだが、群雄割拠の世が終わって、少しはそういう事を考えられる余裕が出来たのも、切欠の一つじゃないかと俺は思う。それまでは、故郷の事を思い出す事はあっても、ゆっくり考えられる暇はなかったんだろうさ」

 

その言葉に思う所があったのか、恋姫達はそれぞれに思いを巡らせ、言葉を交わし合い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――こうして、北郷一刀の懐郷病を治すための、恋姫達の奔走が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

(続)

 

後書きです、ハイ。

 

まず最初に一言。

 

 

『TAPEt殿と懐郷病ネタが被ったwwww』

 

 

こんな事あるのね……いや、原作にも出てくるからある意味、他のネタより被りやすくはあるんですけど。

 

まぁ、TAPEt殿の方は外史の管理者側を交えた、決断を迫られるであろう『一刀』にフォーカスが当たる(のではないかと予想している)シリアスな話で、今回の俺のはそんな彼の周囲に、出来うる限り傍にいたいと願う『恋姫達』に主にフォーカスを当てる、弱冠のギャグ要素を交えた日常話になる予定です。

 

それこそ最初に書いた通り、萌将伝の『里帰りにゃ!の巻』のアフター的なものを俺が妄想した産物だと思ってくれればおkです。

 

果たして、一刀のホームシックを治す為、彼女達はどのような手段に出るのか。

 

……まぁ、まず間違いなく一刀の受難話になるわけですが、オチはちゃんと真面目に締めるつもりですので、楽しみにしていただけたらなぁと思います。

 

 

 

――――あぁ、TINAMIに。

 

一刀の妹さんて、いる事自体は公式で認められてるんですが、名前って出てきてないんですよね。

 

で、今回名前を決めるにあたって『一~』は先達者が沢山いるしなぁ……と思いまして、なんとか違う名前を考えてみた所、

 

 一刀 → 刀 → 鞘 → 沙耶

 

で、『沙耶』という訳です。

 

 

 

さて、続きは恐らく今日の夜になるかと思われますので。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

 

…………一昨日39度の熱がありましたが、メシ食って寝たら一晩で治ったのでバイト帰りにカラオケ行ってシャウトしまくったら中○譲二さんみたいなボイスになりました。


 
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