No.271557

真恋姫無双 天遣三雄録 第完話

yuukiさん

長かった反董卓連合の戦いの終わり。
それは、新しい時代の幕開けだった。

2011-08-12 23:59:33 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:7729   閲覧ユーザー数:5660

 

 

始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。

なお、オリキャラ等の出演もあります。

 

そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。

 

 

第完話 人の数だけある理想 ~そして伝説になるんすよ~ by仲君

 

    ワシらの出番、ここだけらしいぞ    by先生

 

    マジすっか!?            by仲君

 

 

 

北郷軍による汜水関攻略が行われた日の夜。

汜水関を見張る公孫賛軍の兵士達がいた。

 

「汜水関に動きはないな」 ←兵士1

 

「当たり前だろ。昼間、あんなに大騒ぎしたんだ。しばらくは大人しくしてるって」←兵士2

 

「だよな~。に、しても、昼間の北郷軍はすごかったよな~。汜水関は落とせなかったけど、たった一軍で董卓軍を足止めで来ちゃうんだもんな~」←兵士3

 

「「「「それに比べてウチの軍は、、、、はぁぁ」」」」←兵士一同

 

「いやさ、別に公孫賛様が悪いって訳じゃないよ。あの人、政務も人一倍頑張っているしさ。悪い人じゃないんだけど、なぁ」←兵士4

 

「、、、、けど、なんか、気づいたら死んでいたり、滅ぼされたりされてそうだよな」←兵士1

 

「「「「、、、、、、、、、」」」」←兵士一同

 

「、、、、その時は、俺らも巻き添えで死ぬよな」←兵士2

 

「「「「、、、、、、、なんとかしなきゃ!」」」」←兵士一同

 

「あっ、おーい!お前ら、汜水関になんか動きとかあったかー」

 

「「「「公孫賛様!お話があります!」」」」←兵士一同

 

「へっ?」

 

こうして、第一回公孫賛死亡フラグ回避会談が始まった。

公孫賛軍は仲が良いなぁ~。

 

 

議題1 公孫賛軍の未来

 

「いいですか!公孫賛様!このままでは、貴方は確実に死ぬ!戦闘描写とか一切なく説明文だけで!」←兵士1

 

「何を言っているんだ!?私がそう簡単に死ぬわけがないだろ!」

 

「はい!それ!『そう簡単に死ぬわけがない!』何を根拠にそう言っているのかは知りませんが、そういうのは『もうすぐ死にます!』と言っているようなものです!」←兵士1

 

「なっ、」

 

「確かにな~。あと、中途半端に強いと死にやすいよな~」←兵士3

 

「白馬長史とか呼ばれてるから噛ませ犬に丁度いいし」←兵士2

 

「お、お前ら、私に敬意とかないのか?」

 

 

議題2 戦い方

 

「け、けど私は真面目に領地を治めてるだろ?真っ先に死ぬのは麗羽とか袁術とか民に色々恨ませている奴じゃないのか?それに白馬義従とかも居て結構戦えるだろ」

 

「どうやって戦うつもりなんですか?」←兵士1

 

「どうやってって、ほら、剣だって何時も持ち歩いているぞ」

 

「はい!それ!それがだめなんですよ!剣をなんて使っている人なんて一杯居るじゃないですか!孫策に劉備、北郷も武器が剣でしょう!そんな生き残りそうな有名所と同じ武器を使っていたら、スパスパ死ぬのは世に常でしょうに!」←兵士1

 

「何処の世界の決まりだよ!」

 

「剣が武器とかは絶対にダメです!とりあえず、斧にしましょう。これなら被っているのは一人だけですし」←兵士1

 

「使ったこと無くて逆に危なくないか!?」

 

 

議題3 個性の問題

 

「死なない為には圧倒的な個性を持っていなければいけません」←兵士1

 

「個性か、まあ、確かに私には少し足りない、かな?」

 

「て言うか皆無だろ。公孫賛様、何でもそこそこ出来るのだけが取り柄だし」←兵士2

 

「もう、普通が個性だって言い張るしかないんじゃないかな~」←兵士3

 

「お前ら、、さっきから言いたい放題だな」

 

「そこで、考えたのですが、歌って戦うとかどうでしょう!敵陣の真ん中で歌を歌うくらいすれば圧倒的個性ですよ!」←兵士1

 

「それすぐ殺されないか!?」

 

 

「くっちゅん。、、、うぅ、お姉ちゃん、風邪ひいちゃったかな」

 

「姉さんが風邪なんてひくわけないじゃない。馬鹿なんだから」

 

「あ~、ちぃちゃんってば、ひっどーい!お姉ちゃんだって風邪ぐらい幾らでも退けちゃうんだから。えいえい!」

 

「天和姉さん。もう少しで長安だから、こんなところで風邪なんてひかないで」

 

 

議題4 交友関係

 

「桃香とかとは仲が良い友達同士だぞ。いざという時は、助けに来てくれるんじゃないかな?」

 

「『有名所の友人』という立ち位置は死亡率が高いってことを自覚してください」←兵士1

 

「そ、そうなのか。じゃあ、」

 

「で、伝令―!!伝令―!!」←伝達兵

 

「うおっと、い、いきなりなんだ。びっくりするじゃないか」

 

「公孫賛様も白馬義従の方々も何をのんびりやっているのですか!虎牢関に動きがありました!呂、張、華の他に、青紫の董旗と、、、紅蓮の漢王旗が立ちましたあぁぁ!」←伝達兵

 

「「「な、なんだってぇぇ!」」」←一同

 

 

 

 

虎牢関に立つ董旗に寄り添うように、はためく漢王旗をみて、みんなが一様に息をのむ。

あれが立っているっていうことは、虎牢関には官軍と皇帝陛下が居るという事だ。

それは、ありえてはならないことだった。

 

分かりやすく言うとRPGで魔城から救いだす筈の姫が魔王を引き連れてきたようなものだ。

そんなことをされては、勇者御一行は何のために村を飛び出してきたのか分からない。

 

連合の陣内は、正しくその戸惑いの渦中にあった。

 

「あの虎牢関の様子は、どういうことなのかしらね」

 

「どうもこうも、そういうことなのでしょうよ」

 

孫策が苦虫を潰したような表情そういえば、華琳は一も無く返している。

流石は華琳ちゃん、この状況を即座に冷静に返すなんて、いやー、流石だよ。

流石すぎるよ。

超流石だよ。

 

賈詡ちゃんの考えた策はなった。

後は、この件に俺が関わっていることを悟られない様に穏便にことをうやむやにしてしまえば、全てが終わる。

ふっ、ちょろいな。

この世の全てがちょろすぎる!

 

「で、これはどういうことなのかしら?一刀」

 

「へっ?」

 

なんて、調子に乗ったことを心の底で思っていたら、華琳の視線が俺に突き刺さった。

浮かべている表情は陳留に居た頃よく見た気持ちのいい笑顔。

 

「どういうことって、なにが?」

 

「わかっているのよ」

 

「、、、、、、、」

 

「“わかっているんだから。”私は」

 

気持ちのいい笑顔は、一瞬にして虎をも射抜くようなものに変わった。

数年ぶりに、恐怖というものを俺は味わった。

華琳ちゃん、まじパない。

 

「、、、、は、はは。やっぱ、華琳ちゃんには嘘つけないよな」

 

俺は反董卓連合の前で、全てを話した。

 

 

「つまり、洛陽で董卓は暴政なんておこなっていなかったということね?」

 

「そうだよ。洛陽の治安が悪かったのは張譲を筆頭とする一部の官史の所為だ」

 

俺の言葉が天幕の中に木霊する。

この連合の最初の過ちは、“反董卓”というところから始まっていた。

 

「そ、そうだったのじゃな。なら、これから先は反張譲連合としてやっていくのかの?」

 

「いや、それももうすでに終わってるよ。皇帝陛下が此処にきてるってことは、張譲を屈服させたってことだろうから」

 

「そ、そうなのかの?」

 

俺は立ち上がった。

必然、視線が一身に集まる。

あんまり注目されると、、照れるな。

 

「暴政を引いている董卓なんて存在しなかった。断罪されるべき張譲も既に糾弾された。救いだすべき皇帝陛下も、自分の足で立ちあがっている。なら、もう戦う理由はないんじゃないのか?」

 

劉備を見ながら言う。

 

「救い出すべき民なんていない」

 

袁術と張勲を見ながら言う。

 

「行うべき正義なんてない」

 

馬超を見ながら言う。

 

「皇帝陛下への力添えも必要無い」

 

全員を見ながら言う。

 

「なら、もう戦う理由なんてない。この戦争は、もう終わりだ」

 

目をつぶって、呟いた。

 

「和を以て貴しと為す」

 

だれも反論できないほどの正論を並べ立て。

あらゆる思いを踏みつぶす正しさを以て。

俺はこの戦いを終わらせた。

 

けれど、静まり返る静寂の中で華琳ちゃんは呟いた。

 

「まだよ。これで終わりになんてさせない。天命は私にこそ相応しいのだから」

 

その呟きが齎した不安が、まさか本当のことになるなんて俺はまだ、思いもしなかった。

 

 

 

 

中平6年

 

世界は変わった。

漢王朝代18代皇帝 壊帝 劉弁の言葉によって。

 

「黄巾の乱を始まりに、この大陸には暗雲が立ち込めた。そして、ここに起こった反董卓連合。朕はその過ちを、止めることが出来なかった。この戦争で失った命、その責の全ては朕にある。故に、その贖罪して漢王朝はこの大陸の支配権の一切を放棄するものとする!」

 

虎牢関の城壁の上で叫ばれたその言葉に、全員が唖然とした。

無論、俺も。

笑っていたのは、劉弁の隣に立つ賈詡と張譲。

そして、華琳ちゃんだけだった。

 

「(完全に、裏目った。まさか劉弁君が此処までするなんて、この戦いを終わらせるだけでよかったのに。張譲を近づけ過ぎたのが間違いだった)」

 

こんなことになったら平和も何もへったくれもない。

 

「(時代は変わるか。乱世へと)」

 

 

 

 

 

董卓軍陣内

 

 

その場は静寂に包まれていた。

 

「、、ちょっと、アンタ達なんかいいなさいよ」

 

賈詡がそう言うが、返す者は誰ひとりとしていなかった。

 

「やっと、反董卓連合は解散したわ。戦いが終わったのに、いつまでそうやって落ち込んでいるつもりなのよ」

 

賈詡の言うことは最もだった。

洛陽に辿り着かれることも無く、ほぼ勝ち戦と言っていい結果だというのに、流れるのは敗戦国の空気。

 

「わかってる。わかってるけど、ウチは素直には喜べへん。ウチは、何も知らんで、考えもせんで、一刀を、殺そうとした」

 

霞が飛龍堰月刀を振るえる手で握りながらそう言うと、周りの人々も続けていく。

 

「恋も、、一刀の腕、無い、、かも。恋、いけないことした」

 

「私は、、なんのいうことを。左慈に、合わせる顔が無い」

 

「だ、大体。こういうことになるのなら、最初から話してくれればよかったのですぞ!そうすれば、こんな思いをせずに済んだのですぞ!」

 

「けど、お陰で知ることができたでしょう。この世界が、どれだけくそったれかってことを」

 

音々の言葉で一瞬、全員は賈詡に責めるような視線を送ったが、その後呟かれた苦々しげな言葉で、そんなものはすぐに消えさる。

 

「確かめる必要があったのよ、これからのことを考えてアンタ達が月と北郷、どっちを選ぶかをね」

 

「これからのこととは、どういう意味だ?」

 

「何度も言わせないでよ。この世界はくそったれなのよ」

 

いつもと違い、脈絡を得ない話し方の賈詡に全員は困惑しながらも耳を傾ける。

 

「月は洛陽で誰よりも頑張っていたわ。民の笑顔を一番に願ってね。けど、結果として起こったのは何?反董卓連合、あの月を暴君だっていう風評よ!ふざけないで!どうして、誰よりも頑張っている月が誰よりも不幸にならなきゃいけないのよ!努力も、誠意も、全部全部!踏み躙るこの世界は間違ってる。くそったれなのよ!」

 

「、、、、詠っち」

 

「けど、それが私達の生きている世界。強くなくっちゃ、優しいだけじゃ何も守れやしない。だから、私は決めた。月を、董卓を天下人にする。、、、、それがボクの夢なの!」

 

賈詡の言葉が、空まで木霊する。

それは不運な少女が願う、切ない夢。

薄幸の少女がもう二度と、理不尽な涙を流さぬようにと願う、この世界で最も幸福な理想。

 

「、、、、アンタ達に、聞きたかったことはこの夢について来てくれるかどうかってことよ。あの男より、月について来てくれるかどうかってことを、この連合で見たかったのよ」

 

試すような真似して悪かったわね。

と、賈詡はばつが悪そうにそういうと、静かになる。

静けさが場を包んだ後、さっきと同じくまずは霞が口を開く。

 

「ウチは、一刀が好きや。だから、こんな、一刀と争わせるような真似した詠には怒ってる」

 

「、、、、、」

 

「けど、この気持ちを気づかせてくれたのも、詠。多分、この戦いがなきゃウチは好きって気持ちがようわからんかったと思う。一刀と離れて、初めて会いたいって思えたんや。だから、ありがとな。詠」

 

「霞、、、」

 

「私も同じ気持ちだ。それに、左慈を信じられなかったのは私自身の未熟さだ。文和に責任を転嫁するなど、武人がすることではない」

 

「恋も、怒ってないよ」

 

「恋殿がそういうなら、ねねも許してやるのです」

 

自分に笑顔を向けてくる仲間達に、目尻が熱くなるのを感じながらも、賈詡はそれを隠すようにいつもの様な不機嫌そうな顔を造る。

 

「そ、そう。まあ、その、ありがとう。で、あの、あっちの方は、どうなの?」

 

「あっちの方って、どっちだ?」

 

「だから、私の夢って言うか、月を天下人にするとか、そのつまり、これからも、私達は仲間ってことで、良いのよね?」

 

顔を赤くしながら、しどろもどろにそういう賈詡の姿を見て、その場の全員は笑いを堪えることが出来なかった。

 

「ちょ、な、なに笑っているのよ!」

 

「くっ、はは、だって、なあ?確かに、ウチは確かに一刀のこと好きやけど、だからって月っちを裏切れる訳ないやろ?」

 

「私は、愛した男も愛した主君もどちらも守るつもりだぞ」

 

「ん、みんな、ずっと仲良し」

 

「何を当たり前なことを聞いていやがるのですか、詠は」

 

「そ、そう、なら良いのよ」

 

ふんっ、と顔を逸らす賈詡の肩を霞は抱き寄せる。

 

「それに、月を天下人にするために絶対一刀と敵対しなきゃいけないちゅーわけでもない。だ・か・ら、詠も安心して一刀のこと好きになってもええんやで?ウチ、別に嫉妬とかちょーっとしかせえへんから」

 

「な、あぁぁぁ!ボクがあんな変態ピーー(自主規制)を好きになったりするわけないじゃない!」

 

「あの、皆さん、どうかしたんですか?いま、詠ちゃんの変な声が聞こえたような気がしたんですけど、、」

 

騒ぎを聞きつけたのか、別の部屋に居た月が扉を開け、しずしずと入って来た。

 

「いや、ちょっと月はすっごい可愛ええなぁ、って話をしてただけや」

 

「え、へ、へぅ、あ、ありがとうございます」

 

「ちょ、月をからかうんじゃないわよ!霞!」

 

「月が可愛いのは本当」

 

「だな」

 

「ですぞ!」

 

「み、皆さんまで、、へぅぅ~」

 

部屋の中に広がるのは、いつも通りの董卓軍の光景。

時代が変わろうと、乱世になろうとも、決して変わることのない物。

 

そんな彼女達が目指すのは、この世で最も幸福な理想。

 

 

 

 

元漢王朝 官軍 現漢王軍陣内

 

 

張譲は部屋に置かれた長椅子に座り、杯に酒を注ぎ飲んでいた。

劉弁はその隣に座っているが、その手には何も持たれていない。

両手の指を絡ませて、不安げに震えていた。

 

「のぉ、張譲。これで、よかったのだろうか?」

 

「よかっただ?はっ、いいわけがあるまい。小僧も、儂も、結局全てを失った。儂が持つ官位も、漢王朝自体が無くなったとあっては、何の意味もないではないか」

 

「、、、すまぬ」

 

「謝るな、胸糞悪い。言ったであろうが、糸を登ったところで、地獄の釜の底だとな」

 

張譲は酒を一気に煽ると、杯に新しい酒を注ぐ。

 

「、、、、、、、」

 

「小僧、いつまで儂の隣に居る気だ。酒がまずくなる。田舎者の所なり、あの男の元なり、何処かに行け」

 

「、、、、、、、」

 

「ちっ。なんだというのだ」

 

「、、、、のぉ、張譲。漢王朝が滅びたのは、世が乱世になったのは、朕の所為なのだろうか?」

 

「はっ、当然であろうが。小僧さえ上手く立ち回っていれば、漢王朝に復興の芽はあった。それを消し飛ばし、世に乱世を招いたのは全て、貴様が不甲斐なさすぎたせいだ。この暗愚が」

 

「、、、はは、」

 

「、、、、、、何を笑っておる」

 

「そうやって、朕を責めてくれるのはお前だけなのだ。董卓や北郷の元に行けば、きっと二人は朕を慰めてくれる。優しくしてくれる。けど、今は、無性にそれが嫌なのだ」

 

「、、、、、、、、、」

 

「全ては朕が悪かったのだと言ってくれるお前の隣が、今は無性に心地よい」

 

膝を抱え、そう泣きながら呟く劉弁を見て、張譲は忌々しそうに口元を歪める。

そして、手にした杯に入っている酒を劉弁の頭に上から乱暴にかけた。

 

「っ、ぷっ、な、なにをする!張譲!」

 

「うざい、暗い、気蝕が悪い」

 

「うっ、そ、そこまでいわずとも」

 

「小僧。覚えているか、洛陽で儂が言った言葉を。上った先は、地獄の釜の底。しかし、奈落ではない。前は見える、地獄の業火に焼かれていようと、その業火が灯りとなってくれているではないか」

 

顔を上げた劉弁の眼を、張譲は真っ直ぐと見ながら言う。

張譲の瞳に浮かぶのは悪意であり敵意だが、正しい悪意で敵意だった。

人はそれを、誠意とも呼ぶ。

 

「前を見ろ。貴様はどうしたい?全てを失ったこの世界で、貴様は何を得たい?」

 

「、、、朕は、そうだな」

 

劉弁の頭に思い浮かぶのは、洛陽に残してきた妹の姿。

腹違いとはいえ、たった一人の血を分けた兄妹。

 

「せめて、協の奴だけには、人並みの暮らしをさせてやりたい」

 

「く、くはは、くははは」

 

劉弁のそんな小さな願いを、張譲は笑い飛ばす。

 

「くく、漢王朝も!治世も!民草も!何一つ守らなかったくせに、肉親だけは守りたいとほざくか!なんと強欲、なんと恥知らずなことか。流石は、皇帝の血脈なだけはある」

 

「、、そう、だな。やはり、、朕はもう、そんな夢を抱くことすら叶わぬのだな」

 

悲壮な笑みを浮かべる劉弁。

その胸倉を、張譲は掴み立ちあがらせる。

 

「ふざけるなよ、小僧。悲劇の主人公きどりか?わかっているのか?貴様が守りたいといった妹は、貴様の所為で、人並み以下の生活を強いられることになるのだぞ!」

 

権威を失った王族の子。

そんな立場の者がどうなるのか、想像はつく。

付けくわえ、妹は可愛らしい容姿も持っている。

閨事の好事家達にとっては、どれほど魅力的な“商品”か、それを考えると劉弁の眼からは止め処なく涙が零れる。

 

「、、っっ、、なら、朕は、朕は、どうすればいいのだ。わからぬのだ、なにも、わからぬのだ、、」

 

「何も知らぬ小僧に、一つだけ教えてやる。この世界はいつ何時も、誰にも優しくなどない。泣くだけ無駄だ、救いなどない。故に、立て。冷徹さに耐えうるには冷徹なるほかないと知れ!」

 

張譲の叫びが、色あせてしまった蒼天の空に木霊する。

その叫びを聞くのはただ一人、眼の前に居るたった一人の少年。

 

「、、、、、、、、そうだな、だが、この乱世に立つには、朕は弱い。立つことすら、出来ぬであろう」

 

「己の力で足りぬのなら、他者を利用し立てばいい。田舎者を、あの男を。まず、手始めは目の前に居る老害の塊だ」

 

「、、、力を、貸してくれるのか?」

 

「力など貸さん。小僧が勝手に、儂を利用するだけだ」

 

張譲はそういうと劉弁の胸倉を離す。

劉弁が情けなく尻もちを付く姿を、鼻で嗤った後、張譲は長椅子に腰をかけた。

そんな張譲を劉弁は呆気にとられながら見る。

 

「のぉ、張譲。お前は、もしかして、優しい奴なのか?」

 

「その眼は節穴か?」

 

「ならば、なぜ、朕に協力してくれるのだ?洛陽に時も、朕に発破をかけてくれた。どうしてなのだ?」

 

尤もな疑問を漏らす劉弁に、張譲は哂いながら答える。

 

「小僧、貴様は紛れもなく暗愚だ。正義、法、秩序、“正しさ”に守られたこの世界で、貴様は悪で反社会的で反秩序、“過ちだ”。しかし、儂はそれが愉しい。なぜなら、儂が虚無主義者だからだ」

 

「、、虚無、主義者?」

 

「生きることに意味などない。すべてのものはやがて滅びる。そんな考えの儂にとって、貴様は、、いや、皇帝の血脈は正しく、滅びの象徴なのだよ」

 

嗤い、哂い続ける張譲を見て。

劉弁は、この日初めて、泣き顔以外の表情を見せた。

 

「そうか、そうなのか。張譲、お前はこの世の誰よりも無欲なのだな。朕とは、正反対なのだな」

 

それは意外にも爽やかな笑顔だった。

 

皇帝の血脈、四百年の時を過ぎ、今、再びの乱世に立つ。

彼らが望むのは、この世で最も古き理想。

 

 

 

 

北郷軍 君主様御一行

 

 

やっぱさ、別れの挨拶した方が良いよね?

とか思い立ち、撤退の準備を始めていた曹操軍に俺達は向かっていた。

 

「つーかよ。そんな呑気でいいのか?秋蘭とか春蘭辺りは本気でお前のこと怒ってると思うぞ。殺されんじゃねぇのか?」

 

「まあ、一刀君はこの連合で本当に色々なことをしましたからね。どうされようと受け入れる覚悟があるのでしょう」

 

「無いよ。そんな男らしい覚悟なんて」

 

于吉の言葉に力なく返す。

受け入れるったって、ねえ?

春蘭辺りは気を抜けばすぐチョンパするだろうし。

切腹もチョンパも相当ノリノリの時じゃなきゃ出来ないぞ、俺。

 

「まあ、あれだ。いざとなったら陳留を出た時と同じで季衣ちゃんだけに挨拶していくよ。あ、あとあれ、あの子。誰だかは知らないけど、季衣ちゃんの友達みたいな子」

 

あの緑色の髪をした子には恋とドンパチやった時、助けてもらったし御礼くらいはしておかなきゃ。

 

「あの子、可愛かったよなぁ。ザ・妹!って感じでさ。何処となく俺の妹にもにでぶぅっう!」

 

ぶぅっう

 

ぶぅっう

 

ぶぅっう

 

瞬間、俺の視界は暗転した。

周りから見れば俺が倒れる様はスローモーションになっていたことだろう。

そして正面、側面、上空からの三視点で倒れる瞬間が映されているに違いない。

 

そんなことを考えている間に、俺は背中を地面に強打するのだった。

 

「ぐおっ!せ、背中が」

 

「一刀君。顔に何か減り込んでいますよ」

 

俺の失敗は、于吉の言葉で飛んできた何かを防ぐため反射的に閉じていた目を開いてしまったことだった。

ドロリッと何かが眼球の中に侵入してくる感蝕。

 

「う、うおおををおをを!目が、目がァァァァ!」

 

某大作映画の某大佐のごとく、俺はよろよろと歩きながら左慈に助けを求める。

 

「さ、左慈。た、助け、て」

 

「ひ、ひぃぃ!お、おま、顔面が血まみれじゃねえか!寄ってくるな化け物!」

 

「ひ、ひどい」

 

「落ち着いてください、左慈。これは血ではありませんよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「はい。この赤色。この粘り気。、、、、ペロ」

 

「え、ちょっま!今何した!?なんか湿った物が頬に触れたんですけど!」

 

え?え?え?目が見えないからよくわかんないけど、今、触れたもの、もしかして于吉の舌!?

 

「やはり、美味しい。これは麻婆豆腐ですね。、、、ペロペロ」

 

「止めて止めて止めて止めてごめんなさいごめんなさいごめんなさいマジで気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」

 

不快指数が半端ない!

俺は于吉から逃れる為、服の袖で乱暴に顔を拭く。

白い制服に赤いシミが広がっていくが気になんかしてられるか!

ついでに手に付いた餡を舐めて見る。

辛いけどかなり美味かった。

 

「くそ、誰だ。こんなおいしい麻婆豆腐を顔面に投げつけた奴は。カーリーの神に祟り殺されるぞ」

 

「一刀君。別段、カーリーは辛い物の神ではありませんよふぅぅ!」

 

ふぅぅ!

 

ふぅぅ!

 

ふぅぅ!

 

どさっと、于吉は音を立てて倒れた。

顔面には、麻婆豆腐を乗せた皿が乗っかっている。

 

「め、眼鏡が、眼鏡がァァ」

 

「だ、大丈夫か于吉!」

 

「しっかりしやがれ!傷が浅いぞ!」

 

「さ、左慈、一刀君。な、舐め取ってください。ハァハァ」

 

「、、、、、、」

 

「、、、、、、」

 

顔面麻婆豆腐塗れで息を荒げて倒れる于吉は、正直かなり気持ち悪い。

出来ることなら一生関わりたくない人種の人間にしか見えない。

 

「左慈。舐め取ってやれよ」

 

「北郷、、俺に死ねというのかあぁ!」

 

かあぁ!

 

かあぁ!

 

かあぁ!

 

どさっと、左慈も倒れた。

 

「お、俺、辛いの、駄目なんだ」

 

その言葉を最後に、痙攣して動かなくなった。

あまりの光景に俺は震えながらも、なけなしの勇気を振り絞って麻婆豆腐の飛んできた方向を向きながら叫んだ。

 

「だ、誰だ、こんなことしたのは!」

 

すると、そこには

 

「流琉!次のお皿ちょうだい!」

 

「うん!わかってるよ!季衣!」

 

此方に向けて麻婆豆腐の乗ったお皿を構えている季衣ちゃんと隣に置いた中華鍋から麻婆豆腐をお皿の盛る、あの子の姿があった。

 

「え?なにしてんの?季衣ちゃん?」

 

「喰らえ!」

 

「ちょ、待ってってぇぇ!」

 

飛んできた麻婆豆腐を紙一重で避ける。

 

「ちっ」

 

「まっ、待った待った!季衣ちゃんは舌打ちとかする子じゃなかった筈だろ!魏で唯一の俺の心のオワシスだった筈だろ!何があったの!」

 

どんな変化があればあの季衣ちゃんがいきなり麻婆豆腐を投げつけてくるキャラ設定になるんだ?

何処の国の戦い方だよ。

 

「、、、聞いたんだから」

 

俺の言葉で、少しは冷静を取り戻したのか季衣ちゃんは麻婆豆腐を投げる手を止める。

けれど声は震えている。俺はビクビク震えている。

麻婆豆腐に恐怖を覚えたのは初めてだった。

 

「兄ちゃん!劉備のとこの張飛とエッチなことしたでしょ!」

 

「な、何言ってんだよ。そんなこと、する筈ないだろ」

 

過ちを犯しちゃったのは諸葛亮だ。

 

「嘘だ!袁術のとこの孫策から聞いたんだから!」

 

何処から入って来たんだ、その情報。

 

「ボクは、、ずっと待ってたのに。兄ちゃんのこと忘れたこともなかったのに、、それなのに兄ちゃんはちっちゃければ誰でもよかったんだね」

 

「そ、そんなこと」

 

「兄ちゃんなんて、大っ嫌い!」

 

 

グサァッ   

 

北郷一刀は9999ダメージを受けた。

 

 

心の大剣が突き刺さった直後、顔面に麻婆豆腐が直撃して俺は地面に倒れた。

 

「ふんだ。行こう。流琉」

 

「うん。でも、ちょっと待って」

 

倒れた俺に流琉と呼ばれている子はトテトテと寄ってきて、耳元で囁いた。

 

「兄様の ピーーー(自主規制) 」

 

 

グサァッ

 

北郷一刀は9999のダメージを受けた。

 

北郷一刀のライフは0になった。

 

パーティーが全滅しました。

 

 

「早く!流琉」

 

「うん!今行く」

 

 

ヒュ――――

 

風は音を立ててふく。

 

「、、、、、、、」

 

「、、、、、、、」

 

「、、、、、、、」

 

死屍累々だった。

 

「、、、曹操軍に行くの、止めにするか」

 

「、、、ああ、北郷、お前、嫌われ過ぎ」

 

「、、、それだけ、愛されているのかもしれませんよ?」

 

 

注意・使用された料理は全てスタッフがおいしく頂きました。

 

 

 

 

虎牢関、青空の下。

 

 

季衣ちゃんに嫌われる、、、、\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?

そんな一幕があった後、晴天の青空が広がる大地の元、俺は空を見上げていた。

 

「天下、天の下(あまのもと)と書いての天下。天下取り、するとは決めたけど、ぶっちゃけ出来んのかな?空を掴み取るのと同じくらい、あり得ない理想なんじゃないのか?」

 

でもな、やんなきゃいけないしな~。

先生と約束したし、月ちゃん達がまたあんな目に会うのは嫌だし。

何より、天下ぐらい取らなきゃ華琳ちゃんは俺のマイハニ―にはなってくれないし。

季衣ちゃんは麻婆豆腐を投げつけてくるし。

今はなぜか真面目にやんなきゃいけない空気だし。真面目は嫌いだし。

 

「そう!ただ一人の寂しがり屋の女の子を嫁に迎える為だけに天下を取らなきゃならないんだ!」

 

、、、、、ん?なんか、俺だけ天下を目指す理由が不純な気がする。

けどあれだぞ、原点に立ち返っただけだぞ。

最近、真面目にやり過ぎていただけで最初のころの俺はこれくらい軽い気持ちで天下を目指していたんだぞ?

嘘だと思うなら、読み返してみてくれ。

 

「華琳を得たい。愛した人を、自分の女にしたい、か。ふっ、俺って、本当に男の子だな。それが間違ってるとは思わないけど、たったそれだけの理由で天下を目指すには、俺も重くなりすぎたかな」

 

軽かった俺が重くなったのか、それとも元々天下が俺には重すぎたのか。

 

「随分と、いろんなもんを抱えたな。昔は、自分と左慈と于吉。三人だけだったのに」

 

それが、この世界に来てからというもの、増え過ぎた。

華琳、秋蘭と春蘭、季衣ちゃんと凪に沙和に真桜、あと、いちおう桂花。

仲君に先生。

月、賈詡ちゃん、霞、恋、陳宮、華雄。劉弁君に劉協ちゃん。

桃香に愛紗、鈴々と星、朱里ちゃんと雛里ちゃん。

 

「全員を守る。守りきって、この乱世を終わらせたい。けど、無理、かもな。華琳に月に桃香、全員バラバラの軍だしな。誰かが、、死ぬかもしれない。俺の守りたい人を殺すのは、俺の守りたい人かもしれない」

 

そう考えると、鬱になりそうだ。

この世界に来てから、殺し殺されには慣れたつもりだけど、やっぱり、知っている誰かが死ぬかと思うと、怖くなる。

知っている誰かが殺すかと考えれば、恐くなる。

 

けれど、そんな弱音は吐いていられないのかな。

思い描いた人たち全員を、守れるほどに俺は強くないから、優先順を付けなきゃいけないのかな。

 

多分、それが正しいんだろうな。

かかわりを持った人全員を救いたいなんて、ただの我が儘だ。

もし、そんなことを言いだしたら、この連合でかかわった人達、全員を救わなきゃいけなくなる。

袁招も、袁術も、孫策も、馬超も、公孫賛も。

、、、、、、全員を救えるなんてことはあり得ないのだから、俺は折り合いを付けなきゃいけない。

具体的に言えば、“誰を殺すかを考えなきゃいけないんだ”

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、具体的になんて、考えるんじゃなかった。

 

この連合で出会った人達は、ひと癖ふた癖どころか、むしろ癖しかないような人たちばっかりだったけど、悪い人たちじゃなかった。

 

「全員を救いたい、全員に生きていて欲しい。そんな甘い願いは、絶対に叶わない」

 

自分がいった言葉に落ち込みながらも、俺は笑った。

 

「けど、だからって諦めるのは、俺らしくないよな」

 

果てしなく続く空の下に、俺は生きているのだから。

 

「たった一人の男の理想も叶えられないで、何が天下だ。なあ?」

 

俺の問いかけは、空まで届いただろうか。

 

「勝者が正義で敗者が悪。戦えば、必ず誰かが死ぬのが戦の理だっていうなら、俺は戦い自体を否定する。昔のある人は言いました。平和を見つけられぬという者は、平和を探すことを怠った者だと」

 

なら、俺は探してみようと思う。

今まで多くの人達が探し、求めた物。

誰もが望み、誰かが願った物語。

欲望を持たなかった天の御使いの物語、一人の犠牲も出さず、涙が溢れる感動喜劇。

そんな、夢物語を。

 

「人は獣にあらず、獣の法が暴力であるように人の法は思考にこそあり。故に、今一度考えてみるべし、人とは何なのか。人とは何を成すべきなのか。俺の答えは、」

 

晴れ渡る青空に、俺は大きな声で叫んだ。

 

「和を以って貴しと為す!」

 

正し過ぎて、嘘臭くなるくらいの理想を。

天の御使いが語る理想は、この世で最も正しき理想。

 

「さてと、俺の理想を語ったんだ。次は、君の理想を聞かせてくれないかな?」

 

振り向かずに、後ろに居るであろう彼女に話しかけた。

彼女、華琳は微笑を携えたまま俺の隣立つ。

その横顔を見て、俺はようやく華琳と同じ場所に立てたのだと嬉しくなった。

 

「素人は和をもって貴しとするけれど、戦いの玄人は勝利をもって和を造るものよ。貴方の理想は素晴らしいものだけれど、青臭くて、私には合わないわね」

 

「なら、華琳ちゃんが目指す理想は?」

 

「私は、天下に布武を成す。そして、行き着く処にこそ、戦いのない正しい世界があると信じる」

 

戦わない為に戦って、戦いを終わらせるために戦う。

不毛に思えるかもしれないその理想は、今まで幾多の王が願い、そして時には叶えてきた理想だ。

 

「求める。我は求める。我は制覇を求める。我は布武を求める。我は――天下に布武を成し、天座へ至らんと欲す。然らば、我が道こそが覇道。我が身は悠久なる天へを挑む、一匹の龍。我が名は、覇王」

 

けれど、彼女がその理想を口にするならば、決して色褪せることなど無い。

これまで存在したどんな王よりも、華琳ならば正しくその理想を叶えられると、俺は心の底から思える。思わせてくれる。

彼女はきっと、叶えてみせるだろう。この世で最も気高き理想を。

 

「私の理想。貴方はどう思うかしら?一刀」

 

「いいんじゃないのか。俺の理想とは相容れないけど、それもそれで正しい一つの夢だ」

 

「あら、私は夢などという言葉で終わらせる気などないわよ。手に入れてみせるわ。理想も、貴方も。私が望むもの全てを私の手で、ね」

 

「はは、相変わらずだね。日蔭者の俺には、やっぱり君は少し眩しすぎる」

 

――けど

と、俺は華琳の方へと向き直る。

華琳もまた、俺の方を向いてくれた。

俺達二人はいまここで、初めて正面から向き合った。

 

「俺は俺の理想が何よりも正しいって信じてる。誰にも譲る気はないよ」

 

「わかっているわ。一刀、いえ、和を語る王よ。この乱世の世で、共に舞おうではないか。私達の雌雄が決する、その時まで。、、、そして、その時が過ぎたなら、貴方はもう私だけのものよ。誰かに触れることも許さないし、誰にも触れさせやしない。未来永劫、私に尽くして死になさい」

 

「くっ、はは。ああ、そうだな。ハネムーンは乱世が終わるまでお預けだ。マイハニー」

 

笑いながらそう言うと、華琳は呆れながらも笑ってくれた。

 

そうして、俺と華琳は別々の道を歩いて行く。

 

迷ってしまうかもしれない、戸惑うことだってあるだろう。

けれど、そうなってしまった時は後ろを振り返れば良い。

そうすればきっと、俺と真逆の道を行く華琳の背中が見える筈だ。

その背が見えている限りは、俺があるいている道は間違っていないと知ることができるだろう。

願わくば、俺もまた、彼女の道の目印になれればと、そう思う。

 

 

 

 

理想、夢、正義、悪、その全ては人の数だけ存在する。

誰かが語る夢があり。

 

 

「ねえ、愛紗ちゃん。私はこれから、どうすればいいのかな?」

 

「前を向き、歩きましょう。この連合で得た物を忘れずに。私も、共に参ります」

 

「、、そう、だよね。うん!くよくよしても仕方ないもんね!私は、明日を目指すよ。みんなが笑っていられる明日を!」

 

 

誰かが夢見る明日がある。

 

 

「この乱世の幕開けを、吉兆と取るか凶兆と取るかは私達次第だろうな」

 

「もう、相変わらず固いわね。どうでもいいわよ、そんなこと。それより、この乱世に乗って、叶えるわよ。母様からの夢。孫呉千年の大計を。冥琳」

 

 

その全てが叶うことなど無いけれど、目指すことには意味がある。

 

 

「のぉ、結局、麗羽姉様は何処に消えたのじゃ?」

 

「さあ?董卓軍の人達も知らないって言ってましたし、何処に居るのか見当もつきませんね~。そ、れ、よ、り。よかったですね、美羽様!麗羽さんが居なくなったなら、袁家当主は美羽様です。麗羽さんが治めていた領地も、美羽様のものですよ♪」

 

「なんと!そうなのか!うはうはなのじゃ~。七乃!この調子で大陸全部、妾の物にしてやるのじゃ!」

 

「わー、誇大妄想な夢を叫ぶ美羽様も素敵ですー♪」

 

「、、、うぅ、姫~」

 

「、、本当に、何処行っちゃったのかな、麗羽様、、、」

 

 

空を見上げて、歩むことを、“生きる”というのだから。

 

 

「公孫賛様、この乱世を乗り切れるだろうか」←兵士1

 

「無理なんじゃないかな~」←兵士3

 

「まっ、俺らが頑張んなきゃなんないってことだな」←兵士2

 

「あっ、おい!お前ら!またこんなところで油売って。いいか、お前達は白馬義従。曲がりなりにも私の軍の精鋭なんだから、もっと自覚を持ってだな・・・」

 

 

「お姉様。これからどうするの?」

 

「さあ?それは母様が決めることだしな、取りあえず早く涼州に帰って今回のことを伝えるぞ」

 

「はーい」

 

 

生き続ける、この大陸に生きる英雄達が見る明日が何なのかは、まだ誰にもわからない。

 

董卓が願った最も幸福な理想が明日となるのか。

劉弁の望んだ最も古き理想が再びの花を咲かせるのか。

劉備が夢見る最も優しき理想が現実のものになるのか。

孫策が紡いだ最も長き理想が成就するのか。

袁術の目指す最も素直な理想が叶ってしまうのか。

公孫賛の見る最も普通な理想を、兵士達は守れるのだろうか。

それとも、涼州に眠る未だ姿の見えぬもう一人の英雄が別の理想を望むのだろうか。

 

どちらにせよ、天下は一つ。

叶うべき理想もたった一つ。

ならばと、彼女達は、彼らは争うのだ。

世界に溢れる止め処ない願いの内から、己の理想を叶える為に。

 

そして、天の御使いの語った最も正しき理想と覇王の持つ最も気高き理想が相対するときは、決して遠くはない。

 

 

彼らの、彼女達の戦いは、これからだ。

 

 

真恋姫無双 天譴三雄録 未完!

 

 

     後書き

 

 

ご愛読ありがとうございました!

yuuki先生の次回作には期待しなくていいですよ!

 

最初は一刀と左慈、于吉が馬鹿をやるだけの予定だったこの作品が、まさかの三十話越えをしてしまい、とても戸惑いましたが、なんとか此処まで連載を続けることが出来ました!

 

それも全て、この作品の題名を考えてくれたある御方や、並びにご声援を送ってくださった皆様のおかげです。

 

本当にありがとうございました!

 


 
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