No.256088

少年アリス

六坂のこさん

タイトルは坂本真綾さんのアルバム名と同じです。男の子の話です。
過去に私が描いた漫画を、愛する友人2人が文章にしてくれました。漫画とは比べ物にならないほど素敵な作品だったので私一人で読むには勿体なく、友人二人に許可をいただけたので公開させていただきました。
■一作目-文章:夕凪 泉
■二作目-文章:有吉 司
(敬称略) 

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2011-08-02 23:09:25 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:539   閲覧ユーザー数:530

少年アリス

             文 夕凪 泉

 

 闇夜の道を、今日もまたきみがやってくる。ゆっくりと、少しずつ遠ざかってゆく。見慣れたその背中。近くて遠い、そんな距離がもどかしくて、僕は走り出す。ただ、きみに会いたくて。

 気づけばいつも、きみはそこにいた。僕が見上げると、そっと微笑った。そうして行ってしまう。闇夜の道を、独り。

 なのに、追いつけない。走っても走っても、距離が縮まらない。離れてく後ろ姿。息が、くるしい。

 足元にぽたりとあせが落ちた。僕といっしょに、世界がゆれる。きみに追いつきたいよ。ただ。それだけなのに。

 いつのまにか止まってしまった足。からだが熱くて、なんだか痛かった。満足に息もできなくて、灼けつくような気持ちに目を閉じる。暗闇に浮かぶのは、優しげなきみの姿。……ああ、きみはもう行ってしまったのかな。足音さえ届かない。遠い遠い、彼方。

 追いつけなくても、やっぱりきみが見たくて。そっと顔を上げる。――僕の時間が、止まる。

「……ゆっくりおいで。置いて行きはしないから」

 ふんわりと微笑んで、きみはまた緩やかに歩き出す。振り返ったその姿を目に焼きつけて、僕は笑った。

「うん!」

 いつも、きみはそこにいる。たとえ、雲に隠れて見えなくても。いつも僕を見守ってくれているんだ。

 空に浮かぶまあるいきみに、おおきく手を振った。またあした。そう、小さくつぶやきながら。

                 (おしまい)

             文 有吉 司

 

彼は行く。

僕は行く。

彼は歩く。

僕は走る。

彼は行く。

僕は追う。

一定の差を、保ったまま。

 

僕は走り、

彼は歩く。

その差は一定。

縮むでも無く、広がるでも無く。

彼は歩き、

僕は走る。

一定の差を、保ったまま。

 

上がる息、

落ち着いた呼吸、

痛み出す足、

なめらかな動き、

止まる足、上がった息。

 

真っ赤な手、擦り傷のある膝。

白い顔、汚れのない服。

視線は空を見る。

視線は大地を見る。

 

『ゆっくりおいで』

『置いて行きはしないから』

 

止まった足は走り出す。

縮まらない差。

広がらない差。

一定の差を、保ちながら。

 

僕は君を、追って走る。

君に絶対、追いついて見せる。

 

 


 
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