エピローグ -The Warmth Blue Ocean-
あの時、僕は処分されることを覚悟していた
世界の掟は必ず執行される
だからその前に一目だけ彼女に直接会ってありったけの想いを伝えたかったんだ
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夜空に太陽のように眩しい一瞬の閃光が煌いた
宇宙(うみ)に閉じ込められていた僕の想いの全てが僕の中に流れ込んできた
暗くて冷たい海にいた僕はやっと蒼い暖かい海に還ってくることが出来たのだ
金の糸のような無数の流星雨が降り注ぐ
ふとアリシアの金色の髪が思い浮かんだ
まるでスクルドのように美しく結われた髪が思い浮かんだ
あの僕の魂はヴァルキリーに導かれヴァルハラへと辿り着いたのだろう
目の前に着水していた強襲揚陸艇の底部ハッチが海中に降ろされてゆく
そこには巨大な水槽がしつらえられていた
数年前、僕の仲間を無理矢理連れ去ろうとした人間達が残した遺産だ
次は僕の番だ
僕はどこで消されるのだろう?
僕は水槽に滑り込んだ
漆黒の機体が軽々と浮かび上がってゆく
単体で大気圏離脱/再突入の可能な機体にとってそれは造作も無いことだった
”局長”がカーゴベイに入ってきた
”父”として我が子を自分の手で葬ること
それは”父”というものの持つ責任の一つ
僕の頭部の知性ユニットが取り外された
彼らが僕を”私”として識別するための証
僕が”私”であった最後の証
”局長”はそれを投棄口から海に捨てコックピットに戻っていった
その間、”局長”は終始無言のままだった
僅かな時間ののち、縮退弾の重力波が感じられた
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あれからしばらくの時間が過ぎた
僕は閑散とした管理局のドックにいた
軍事機密であるナノマシン”オメガ・セル”の除去作業
これが済めば”トランジエント-Ω”という僕は消滅する
そこに残るのは”ただのオルカ”の僕だ
それが局長とトレーナーが選んだ”アンタレスを消去する方法”だった
知性ユニットを失った僕はコミュニケーターがあってももう何も話せない
でも僕は彼らが”局長”と”トレーナー”であることよりも”父”であり”兄”であることを選んだと知っていた
僕を蒼ではなく彼女に還すことを選んだと知っていた
そしてその日が来た
約束の時が来た
ドックと海を隔てるゲートが開いてゆく
僕と彼女を隔てるゲートが開いてゆく
約束の海に還る時が来た
僕が彼女に還る時が来た
彼女の暖かい心が海の様に僕を受け止めてくれた
”おかえりなさい”
蒼に還る夏 終
追記
このSSを海に還ることが出来なかった”本当のジョーイ”
”星の墓標”に眠る”オルカ・キラー”に捧げます。by せだえんらc(旧carneades)
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2006年8月「天野こずえ同盟」様にて初掲載、2009年4月「つちのこの里」様にて挿絵付き細部修正版掲載