No.235577

リンゴに弦 (スマブラ/リンピカ)

野次缶さん

大乱闘スマッシュブラザーズ、リンクとピカチュウ中心にグレーなピット、普通のマザー組とルカリオ、とばっちりマリオ、最後に少しだけ三剣士。

2011-07-26 23:08:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2637   閲覧ユーザー数:2626

 

 

ある晴れた午後。

誇らしく枝を広げた大樹の下は絶好のお昼寝の場所。

ちらちらと輝き降り注ぐ木漏れ日は身体に暖かく、さわさわと木の葉を撫でて通り過ぎる風は心地よい。

年輪を重ねた樹の胴に凭れかかると、葉脈を感じられるような、そんな気もする。

膝の上には可愛らしい小動物が身体を丸めてすうすうと穏やかな寝息を立てており、その柔らかな毛並みを撫でると暖かな体温と命の鳴動が感じられる。小さな後頭部を手で撫で包むと、くすぐったかったのか長い耳がぴょこぴょこと数回跳ねた。

それでも起きる様子もなく、相変わらずくうくうと寝息を立てている。小さな小さな指が、ベッド代わりになっている彼の緑の服をきゅうと握っているのが何とも愛らしい。

穏やかな心地のよい日に、この子と共にゆっくり過ごせるこの日々に限りない幸せを感じる。

爽やかな風が眠気を誘うが、今は眠るよりもこの子の眠りを守る方が大事だと思った。

そのまま、幸せを噛み締めつつ穏やかな午後を過ごす二人……一人と一匹の元に、突然の来訪者があった。

 

 

 

 

「リンクとピットって、両方弓を使うよね」

「使うな。姫様もだけど」

「あ、そっか、ゼルダ姫も使うよね。でも普段よく使ってるのはリンクとピットだよね」

 

共に木陰に座りながら、三人の少年……ネスとリュカとピットが頷きあう。

賑やかな子供達の声に寝ていたピカチュウも眼を覚ましてしまったが、特に気分を害する様子もなくリンクの膝の上で会話に耳を傾けていた。

そのピカチュウの頭を撫でながらリンクも頷く。

すると、ふとネスがリンクとピットの顔を見比べて首を傾げた。

 

「じゃあ、一番弓が上手いのって、誰?」

 

子供の純粋な疑問に。

 

「……え」

 

弓使い二人は、一瞬固まった。

しかしその後に、すぐ気を取り直してリンクが人差し指を上げる。

 

「誰がって言ったら、一番は姫様だな。で、その次に俺、最後にピット。その順」

 

しかしそのリンクの言葉に、ムッとしたピットが異議を唱える。

 

「ちょっと待ってくださいよ! 僕の弓は、パルテナ様から直々に頂いた弓なんですよ!? 僕だってリンクさんには負けないと思いますけど!」

「いやでも、経験差っていうものがあるじゃん?」

「僕だって親衛隊長ですから! そもそもリンクさんってDXとは違うリンクさんじゃないですか!」

「それは言うな! でも俺は一応初代からのレギュラーなんだから、年齢で言っても経験で言っても俺の方が上だろ!」

「僕は納得出来ません!」

 

ぎゃいぎゃいと大人気ない言い争いを始める二人。

二人の口論を見ながら、リュカがぽつりと言う。

 

「あ、じゃあ、比べてみたらいいんじゃない?」

「! それだな。よしピット、乱闘だ」

「望む所です!」

「ぴ! ぴーかー!」

 

立ち上がりかけた二人に割って入るように、突然ピカチュウが声を上げた。

 

「ん? どした?」

「ちゅう! ぴーか、ちゅ!」

 

身振り手振りで何かを伝えようとしている。

だが、いわゆるピカチュウ語であるせいで、何を伝えたいのか肝心の内容がさっぱり解らない。

 

「何て言ってるの?」

「んー……何か、ちょっと待て、って言ってるみたいだけど……細かい所はよく……」

「…………ちょっとリンクさん、あなたいつもピカチュウと一緒にいるじゃないですか。それなのに解らないんですか?」

「ぐっ……」

 

ピットの言葉にダメージを受けかけたリンクだが、

 

「乱闘だと意味がない、と言っているみたいだが」

 

横から入ってきた声にそちらを振り向いた。

大きな樹の後ろから、騒ぎを聞きつけてきたのかルカリオが立ってピカチュウを見下ろしている。

同じポケモン同士、言葉が解るらしい。

しかしその内容に、ピットが眼を見開く。

 

「え、乱闘だとダメ? なんで?」

 

リンクの腕の中のピカチュウに背を屈めて問いかけると、ピカチュウはピットに向って言葉を重ねた。

 

「ぴかちゅ、ちゅあ、ちゃー、ぴっか! ぴいー」

「……乱闘だと二人とも弓以外も使うから、だそうだ」

「あぁ、なるほどー」

「そいえばそうだね。二人とも剣もあるし、リンクはブーメランとかもあるしねー」

「なるほどな。さすがピカチュウー!」

 

でれでれと嬉しそうに笑いながらピカチュウに頬擦りをするリンクを冷めた眼で見上げ、それじゃあ、とピットが腰に手を当てる。

 

「どーするんです? どーやって決めましょうか?」

「あ……そういえばそうだよな……」

「僕いい考えがあるよー!」

 

考え込む二人に向って、ネスが手を上げた。

 

「弓の腕を競うんでしょ? だったら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、これは?」

 

リンクが問いかける。

リンク達は先程いた大きな樹の下から少し離れた草原におり、リンクの立っている場所から数メートル離れた場所にある樹の前にピカチュウが立っていた。その頭の上に真っ赤なリンゴを乗せて。

 

「ウィリアム・テルだよ。あのリンゴを上手く打ち抜いた方が勝ち!」

「いや待て待て待て待て! 何でそれでピカチュウの上にリンゴを置くんだよ!」

「だってウィリアム・テルだもの」

「理由になってない! こんなもん出来るか!」

「あれー、自信ないんですか、リンクさん?」

 

激昂するリンクの後ろから、くす、と小さく笑いながらピットが声をかける。

その言葉に、リンクは動きを止めた。ゆらり、とピットを振り返る。

 

「……誰が自信がないって?」

「リンクさんが、です。ここで降りるなら、リンクさんより僕の方が弓の腕が上ということで!」

「いや、待て、それは俺のプライドにかけて許せん」

「なら、構わないですよね?」

 

ぐっ、と言葉に詰まり、リンクは困った顔でピカチュウを見た。ピカチュウは楽しそうに頭の上のリンゴを落とさないようバランスを取っている。ぴこぴこと動く長い耳は機嫌のいい事を告げている。

ふと大きな眼がリンクを見て、そしてにこおっと愛らしく笑いかけた。

 

「ぴか! ぴいー!」

「……あいつは構わないそうだぞ」

「ううっ……」

 

ルカリオが翻訳する言葉に、更にリンクは悩む。

 

「はー、リンクさんよりピカチュウの方が度胸あるんですねー。普通、怖いと思うのにな! ピカチュウは凄いですねー」

 

ピカチュウに感心しているのかリンクをけなしているのか、ピットが言う。

それにまたしてもムッときたリンクは、そうだ、と顔を上げた。

 

「待て。俺一人だけウィリアムるのは不公平だ」

「なんですかその新しい動詞」

「うるさいな。とにかく不公平だ。俺の的がピカチュウの上のリンゴなら、お前だって別の誰かの頭の上のリンゴにしろ!」

「え、ええー?」

「俺は、お前の腕は俺に劣っていると思ってるから! そんなお前にピカチュウの命なんか預けられるか!」

「ええー……」

「でも確かにリンクの言う事も最もだよね。ピットも誰か探してきたら?」

 

言いだしっぺのネスがまたそう言う。

しかしまあ、ごもっともではある。ピットは考え込んだ。

そして。

 

「で、何故私ぃー!?」

「大丈夫ですマリオさん! パルテナ様(の弓)は絶対です! 安心してください!」

「何がどう大丈夫で安心なんだ!?」

 

ピットが選んだのは、尊敬する先輩のMr.任天堂・マリオ。

 

「なあピット、マリオすげー嫌がってるけど……」

「大丈夫です!」

「…………まあ本人達がそう言うなら」

「ちょっとリンク! 止めてくれよ!」

「頑張ってマリオさーん!」

 

ネスとリュカまで声援を送っている。ルカリオも止めようとはせず、冷や汗をかくマリオの少し離れた隣にはピカチュウが愛らしい笑顔でマリオを見ている。

……どうも、逃げられそうにもないようだ。

マリオは覚悟を決めた。

自分に何かあったら、ピーチ姫とキノピオの国の安全はルイージに任せよう、少し頼りない弟だが、いざという時は何とかしてくれるはずだ。

既に心の中では遺書の心境でマリオは深呼吸をする。

的の下が大人しくなったところで、ネスが指を上げた。

 

「順番に一人ずつね。最初はリンク!」

「よし、解った」

 

覚悟を決めて、弓を取り出す。弦の具合を確かめて、顔を上げ――的のリンゴと、その下のピカチュウを見遣る。

ピカチュウは後ろ足で立ったまま、じいっと動きを止めてリンクの動きを見守っていた。

――今更ながら、心臓がバクバクと大きく動き始める。冷や汗が額を伝った。それらを振り切るように、表情を引き締めてリンクはピカチュウに語りかけた。

 

「ピカチュウ、……俺を信じてくれ」

 

ぴょこ、と耳を動かした後、ピカチュウはきゅっと眼を細めて笑う。

 

「ぴかちゅう! ちゅう!」

「大丈夫、リンクなら出来るよ、信じてる、だそうだ」

 

ピカチュウの返事と、それを訳するルカリオ。

その返事にでれっとなりかけるが、気を引き締める。

緊張で冷たくなる指先に力を込めて、ギリッと弓を構えた。矢をかけて、弦と共に引く。

音を立てる心臓がうるさくて仕方ない。今までこんなに緊張する場面があっただろうか。危うくすると貧血でも起こしてしまいそうだ。

集中力を眼と指先に統一させる。

耳から、音が消えた。

 

ビィン!

 

独特の音を立てて矢が放たれた。風よりも早く走る矢は。

 

音を立てて、ピカチュウの……後ろの樹に、リンゴを縫い付けた。

 

「やったあ!」

「リンクすごーい!」

 

ネスとリュカがわあっと歓声を上げる中、リンクは極度の緊張から開放されへたりとそこに膝をつく。

 

「ぴかーっ!」

 

その胸の中にピカチュウが走って飛び込んできた。

勢いよく抱きつき、ごろごろと額を擦り付けて甘えるピカチュウを抱きしめて、リンクは緩く笑う。

 

「あー……良かったあーっ!!」

 

ぎゅうっと腕の中のピカチュウを抱きしめて抱擁していると、その後ろからもう一人の声がかかる。

 

「さすがです、リンクさん。でも僕だって負けませんからね!」

「……ああ。」

 

お互いに笑いあい、次はピットがパルテナの弓を取り出した。

 

「そだ、次はピットだね!」

「ピットも頑張れー!」

 

子供組からの声援を受けてピットもきりと表情を引き締め、マリオの頭の上のリンゴを見る。

マリオも神妙な表情で、じっと眼を閉じた。

パルテナの弓が引かれ、――矢が放たれる。

その結果は。

 

 

 

 

 

 

「それで?」

「おあいこ。ピットもリンゴを打ち抜いて勝負はお預けさ」

「へえー。二人とも凄いんだねー」

「しかし、延長戦はしなかったのか? 更に距離を伸ばせば結果は出るだろう」

 

三剣士……マルス・アイク・メタナイト相手に先日の顛末を語ると、メタナイトが最後に問うた。

いや、と首を振り、リンクは今はマルスの膝の上にいるピカチュウを見る。

 

「あんな寿命の縮む思いは、もうこりごりだ」

 

苦笑してマルスの膝からピカチュウを抱き上げると、その頭をゆっくり撫でた。

まあそれはそうだな、と剣士三人も同意する。

しかし、とアイクが口を開いた。

 

「確かトゥーンとシークも使えたんじゃなかったか、弓」

 

……その言葉に、あ、と全員が思い至る。

 

「でも、さっきリンクが、一番弓の腕がいいのはゼルダ姫だって言ってたよね」

「ん、ああ、そりゃあ姫様だからな」

「ならシークも同位だとして、」

「は? 何でシークが姫様と同じなんだよ!?」

「……問題はトゥーンだな」

 

未だゼルダとシークの間柄を解っていないらしいリンクが反論するのをさて置き、一人忘れられていた小さな戦士について考える。

 

「ま、この次に俺とピットとトゥーンでウィリアムるとしたら……的は……そうだな、ガノンの上に置くか」

「外すことを前提にしてないか、それは」

「ははははははははまさかそんな」

 

晴れた午後。

気持ちのいい休日。

膝の上で丸くなるピカチュウを撫でながら、リンクは明るく笑った。

 

 

 

 
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