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IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~ 第十四話

暗躍の影…

2011-05-21 04:58:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3411   閲覧ユーザー数:3071

 

全ての始まりは、きっと此処からだったと私は思う。

 

それは、IS学園の合格通知が届いたその日。合格を祝って、お嬢さまやお姉ちゃんそして私だけで開かれた小さなパーティーでの事だった。

 

『本音ちゃ~ん。来年からIS学園の一員だね!おめでと~!』

『おめでとう。本音』

『わ~い!ありがと~!』

 

いっぱいいっぱいかんちゃんと一緒に勉強したもんね~♪

 

『そんな君に仕事をプレゼントだよ♪』

『わ~い。さよ~なら~』

 

コドモノワタシニハスコシハヤイトオモウ…。

 

逃走を試みようとしたけどガシッとお嬢さまに腕を掴まれて逃走失敗。無念だよ…。かんちゃんのお祝いをせずこっちに来たのはそう言う理由だったんだね…。本当はかんちゃんも含めて4人でパーティーしたかったんだけど私達は使用人だからねー。仕方ないかー。

本当はかんちゃん本人がパーティーを拒否したんだけどね。残念無念。

 

『こらこら逃げるな使用人♪』

『私はかんちゃん専属だよ~』

『関係ありません。当主の命令です。布仏家の役目を果たしなさい』

『鬼~』

 

合格祝いで仕事を押し付けるなんてどうなのさ~?

 

『あはは、そう脹れない脹れない。別に難しい仕事を押し付ける訳じゃないんだから』

『ほんとかな~?』

『ホントホント♪それで、仕事の話に戻るんだけど―――』

 

これが始まり。みこちーに出会う切っ掛け。

 

…そう、私、布仏本音がみこちーことミコト・オリヴィアと出会ったのは偶然では無くそうなる様に仕組まれてたものである。クラスや部屋割りもそう。全てが学園の、そしてお嬢さまの指示で私はミコト・オリヴィアと接触した。

私の与えられた役目は3つ。一つは対象の監視、二つ目は対象の護衛、三つ目は対象の良き友であること。この3つが私の役目。

でも、これだけは言える。例え、それが命令だからと言っても、みこちーは私の大切な友達であり掛け替えのない人だってこと。この想いに嘘偽りは決してない。断言できる。だから、私はみこちーの友達であり続ける。それが、悲しい結末しか待ってないと分かっていても。私はみこちーの友達なんだから…。

最後まで笑って、そしてお別れしたい。それが私の願いだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第14話「鳥籠」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫でしょうか?うまくお店の方に伝えられるでしょうか?あの子人と話すの得意ではありませんのに…」

 

とことこと駆けて行ったみこちーを見送って数分経過した頃、セシりんがみこちーが向かった先を背伸びをして見ようとしたり、目を細めてじーっと眺めたり、そわそわしたりと、落ち着きのない行動をし始める。本当にセシりんは心配性だねー。なんか昔テレビで見た『初めてのおつかい』っていう番組を思い出すよー。

そんなセシりんを皆は生暖かい目で見守ってる。もう周りからセシりんは母親として定着してるね。うんうん。良い事だよ。あ、でもそれだと山田せんせーがヤキモチ焼いちゃうかもだよ。罪作りだねみこちー。

 

「アンタはミコトの母親かっての」

「で・す・か・ら!わたくしはミコトさんの母親ではありませんわよ!」

 

ンガ~!と両手を上げて威嚇して来るセシりんに対してりんりんは「は?何言ってんのこいつ?」みたいな顔をする。

 

「今のアンタの行動を照らし合わせてみなさいよ」

 

うんうんと皆が頷く。説得力無いよねー。

 

「そんな、一夏さんまで…」

「ははは、でもセシリアだって嫌じゃないだろ?」

「な、ななな何を言ってるんですの?そんな訳ある筈ないじゃないですか。まったく、何を言い出すかと思えば。大体、あんな大きな子供をこの歳で持っていたら周りからどう思われるとお思いですの?冗談ではありませんわ」

 

口ではキツイ事言ってるけど明らかに動揺してる。図星だね?やれやれ、素直じゃないねぇ~。

 

「そんなに心配なら見に言ってきたら?こう電柱に隠れて心配そうに見守る母親みたいに」

「鈴さん。そろそろ決着をつけるべきでしょうか?」

「あらやるの?受けてたつわよ?」

「はいは~い。こんな街中で喧嘩しないの~」

 

一気に緊迫した空気となりバチバチと火花を散らし始める二人の間に私は割って入り今にも激突しそうだった二人を止める。ていうか熱い!?この火花本物だよぉ!?

代表候補生は無駄にプライド高くて何かと喧嘩早いから面倒だね。何かとISで解決しようとするのはどうかと思うよ~?

 

「心配なら追いかければ良いじゃん。別に悩む必要も喧嘩する必要もないよね?」

「わ、わたくしは心配でありませんわよ!ふんっ!」

「どの口が言うのよ…」

「まったくだ」

 

強がってそっぽを向くセシりんに皆呆れたてやれやれと首を振る。本当に素直じゃないよセシりん。まぁ、おりむーの周りに居る女の子は皆同じ事言えるよねこれって。あっ、勿論私やみこちーは除くよ?

 

Pruuuuuuu…

 

「あっ、私の携帯だー」

 

セシりんが素直じゃないと言う事を再確認したところで、携帯の着信音がポケットから鳴り響き、誰からだろうと携帯を取り出して相手を確認すると画面に表示されている名前にうげ~と顰め面になる。画面にはこう表示されていた【お姉ちゃん】と。つまり私のお姉ちゃんだ。なになに?今日はお仕事は嫌だよ~?

 

「もしも~し。本日は生徒会はお休みで『本音!今ミコトちゃんと一緒にいる!?』…え?」

 

私の呑気な声とは逆に、お姉ちゃんの声は切羽詰まるものだった。身体全体に流れる血がまるで冷水に変わったかのように冷たくなるような錯覚に陥る。お姉ちゃんはみこちーの名前を出した。つまりそれはみこちーに関わること。お姉ちゃんの声からは余裕を感じられず緊急の事態だと理解するのに時間は数秒も必要は無かった。そしてそれと同時に嫌な予感が胸の中をざわめき始める。

 

「…みこちーがどうかしたの?」

「ん?ミコトがどうしたって?」

 

おりむーがそう聞いて来るけどそれを無視して携帯に意識を集中する。おりむーには悪いけどそんな場合じゃないのごめんね。

 

『ちょっと気になる報告があって、思い過ごしだと良いのだけど…あのね――――』

 

ドクン…

 

『先日、急な転入があって、その所為もあって生徒会も対応に遅れたのだけど…その生徒の経歴を調べた結果―――昔、織斑先生の教え子で―――もしかしたら、ミコトちゃんに危害を――――』

 

ドクン…

 

『…本音?聞いてるの?本音?本―――ッ』

 

「……………っ!」

 

話を最後まで聞かず私は携帯を切り駆け出した。みこちーの後を追って…。

 

「お、おい!どうしたんだよ!?」

 

「布仏さん!?」

 

おりむー達が突然走り出した私に驚くが構っている暇は無い。今は一刻も早くみこちーの所に行かないといけないんだ。

 

「はぁ…はぁ…っ」

 

自分が運動が苦手だという事に構わず息を切らしながら必死で走る。一秒でも早くみこちーのもとに着く様に。嫌な予感がするの。とっても嫌な…。歩道橋を渡り階段を駆け降りると公園に飛び込んだ。公園は夕方だという事もあって人気が無く不気味なまでに静けさに更に私の不安が駆り立てられる。

 

「…っ!いた!」

 

見つけた!あの色素が抜けきった白い髪を見間違える筈が無い。良かった、無事だった。お姉ちゃんの言う通り思い過ごしだったのかと胸を撫で下ろすと走っていた足を止める。いやいや私に走らせるなんてみこちーも罪作りな女の子だよー。私は走るの苦手なのにさー。

 

「みこち…?」

 

紙袋を大事そうに抱えて此方に歩いてくるみこちーに声をかけようと手を伸ばしたがそれはピタリと止まる。何処からか現れた銀髪の少女がみこちーの道を遮り私の視界からもみこちーの姿が隠れてしまったから。

 

「…誰?」

 

あんな子私は知らない。みこちーも学園内での交流は広いけどあんな子知り合いにいた?あの制服はカスタマイズされてるけどIS学園の物だし…え?

 

…IS学園の制服?

 

学園外で何で制服を?みこちーはただ私服がないから制服を着て出かける事は多いけど、他の生徒は皆年頃の女の子ばかりで制服で出掛けるなんて滅多にない。全寮制ならなおの事。じゃあ、何であの子は制服を着てるの?

 

―――先日、急な転入があって…。

 

まさか…。

 

つい先ほどお姉ちゃんが言ったいた言葉が脳裏に過ぎりはっとして銀髪の少女を見る。此処からでは彼女の顔は見えない。でも、その異様な殺気は此処からでも感じ取るには容易で、まるでそれはナイフを連想させる程鋭くて…。

 

まさか…あの女の子が…?

 

お姉ちゃんの言う転校生?と、疑問に思ったその時だった。銀髪の少女が動いたのは。少女は何かをポケットから取り出す。大きさは携帯よりもう少し大きめで色は黒?それにあれは金属製?陽の光が鈍く反射して…っ!?

 

―――拳銃っ!

 

そして漸く私は彼女が何を取り出したのかを理解すると地面を蹴り、自分の有らん限りの力を振り絞ってみこちーに向かって走り出す。世界がスローモーションで動いている。私も風に揺れる木々も、街も、全て…。一歩また一歩と走りみこちーへと駈け寄るけど銀髪の少女に取り出した拳銃の銃口は既にみこちーへと向けられている。私は手を伸ばす。間に合え。そう願いながら…。でも、そんな私も願いを嘲笑うかの如く。無慈悲に紡がれた少女の『死ね』と言う呟きと共に引き金は引かれ。私はそれに絶望しながらも最後の希望に縋りみこちーに向かって飛び込む。

パァンッ!乾いた銃声が響き弾丸が放たれる。奇跡。そう言った方が良いかもしれない。ううん。本当に奇跡だった。一か八かに賭けて飛び込んだ私はみこちーを押し倒してみこちーに向けて放たれた弾丸を避ける事に成功する。私の頭を翳めて頭上を通り過ぎていく。そして、弾丸が当たったのか髪留めが砕け散り纏めてあった髪がファサリと広がる…。

 

「チッ……邪魔が入ったか」

 

倒れる私とみこちーを見て少女は忌々しそうに私達を見下ろしてくる。

 

「…君。何をするのかな?私の友達に何をするのかな!?」

 

銀髪の少女から目を離さない様にして、みこちーを見て、そしてみこちの視線の先にある地面に無惨に散らばるたい焼きを視線を移す。

 

―――皆の分。買ってくる。

 

許せなかった。何が許せないかって。みこちーを傷つけようとした事は勿論だけど、みこちーが私たちのために買って来てくれたたい焼きの事についてもだ。どう償いをさせてやろうか?そんな自分には似つかわしくないと自分でも自覚できるどす黒い感情が胸の中で蠢いていた。

 

「………」

 

「なんとかいいなよ!」

 

キッと睨みつけて怒鳴り散らすも目の前の少女は何も言わない。唯、みこちーを蔑む様な目で見下すだけ。その目が私にとって何よりも不快だった。…何、その目?そんな目で見るな。そんな目でみこちーを見るな!

 

「お~い!何かすごい音が聞こえたけどどうしたんだ~?」

 

「ほう…」

 

突然走り出した私を心配してか、私の後を追いじかけておりむー達が遅れて公園へとやって来る。すると、何か因縁でもあるのだろうか?少女は先頭を走るおりむーを見て小さく声を漏らし目を鋭くさせた。まるで、獲物を見る獣の様に…。

 

「…なんだ?どうしたんだ!?」

 

やって来たおりむーが倒れている私達を見て唯事では無いと察したのか慌てて私達に駈け寄り、険しい顔をしたセシりんとりんりんが私達を守る様にして私と彼女の間に割って入って立ちはだかる。既に二人は状況を理解したみたいだ。

 

「穏やかではありませんわね。街中で発砲?正気の沙汰とは思えませんわ」

 

「まったくね。銃刀法違反?それとも殺人未遂?どちらでも良いけど、こんな事してタダで済むとは思って無いでしょうね?」

 

既に戦闘態勢に入っている二人は敵意を隠す事無く少女にぶつける。友達、そして知り合いが殺されかければ怒るななんて無理な話だけど…。

 

「殺人、か…クッ…クククククッ…アハハハハハ!」

 

突然笑い出した彼女に私達は戸惑う。

 

「何が可笑しいのよ!」

「ハハハッ…何が可笑しいかだと?これがどうして笑わずにいられる。この国では犬畜生を殺しても罪に問われるのか?…ああ、そう言えば動物愛護法とやらがあったな。まぁ、そこに転がっているのは畜生にも劣るがな」

「…なんですって?」

 

皆の雰囲気が一気に変わる。おりむーも、セシりんも、りんりんも、もちろん私も…。あの子、今何て言った?みこちーが何って…?ああ、ダメだ。全然思考が定まらない。何も考えられない。怒りで如何にかなってしまいそう。でも怒りに任せて動く事は無い。何故なら、まだ彼女の銃口はこちらを向いているから。

 

「っ!てめぇ!!」

「一夏っ!ダメ!」

 

でも、おりむーだけは違った。りんりんの制止を無視して、向けられる銃口に臆することなく銀髪の少女に掴みかかろうと前へと飛び出し手を伸ばす。しかし…。

 

「ふっ…」

「っ!?…がぁっ!」

 

その手は少女に届く事無く手首を掴まれて少女の冷笑の下、地面に叩き踏められてしまう。

 

「げほっ…ごほっ…っ!」

「一夏!大丈夫!?」

「一夏さん!」

「っ!…一夏!」

「おりむー!」

 

地面に打ちつけられ身体を丸めて呻くおりむーにセシりんや倒れていたみこちーも慌てて起き上がっておりむーに駈け寄る。

 

「なんと情けない。これがあの人の弟だと?やはり、貴様にあの人の弟である資格など無い」

「ごほっ…何…言って」

「チッ…時間切れか」

 

おりむーの疑問に耳も傾けず、騒がしくなり始めた周りを見て少女は忌々しそうに舌打ちをする。流石にこれだけの人の目がある中でこれ以上の違法行為をする程彼女も愚かじゃないのか、拳銃を懐に仕舞い、此処立ち去ろうと私達に背を向けて歩き出す。

 

「お待ちなさい!これ程の事をしておいて何も無かったで済むとお思いですの!?その制服。IS学園の物ですわね。まさか、学園が匿ってくれると思って!?」

 

ピタリと足を止め、少女はこちら向こうとせずにそのままセシりんの問いに答えた。

 

「問題無い。この件について国は一切関与しないだろうからな。そして、貴様達にも私を拘束する権限は無い」

 

信じられない言葉にこの場に居る全員が自分の耳を疑った。国が…一切関与しない?つまり、殺人未遂を見逃すってこと?

 

「なっ…」

「馬鹿言うんじゃないわよっ!公衆の面前で拳銃ぶっ放しておいて無罪ですむ訳ないでしょうがっ!」

「そうですわ!そんな馬鹿げたことっ!」

 

有り得ない。仮にIS学園の生徒だからと言っても犯罪が許される訳が無い。いくらあらゆる機関・組織が干渉出来ないIS学園でも犯罪を犯した生徒を匿う事も、入園を認めることも絶対にある筈が無いんだ。

 

「貴様らが認め様が認めまいがどうでも良い。ああ、しかし銃刀法とやらは該当するな。まぁ揉み消す事など容易いが」

 

悪びれる様子など全く見せないその姿が、更にみこちーを除く全員を苛立たせる。みこちーを殺す事に罪の意識すら無いどころか殺す事が当然と思ったいるんだ。あの子は…。

少女は憤る私達の顔を見て満足したのか口の端を吊り上げて笑うと、再び歩き出す。

 

「待ち…やがれ…っ!」

 

立ち去ろうとするその背に、おりむーが這い蹲る身体を無理やり起こし振り絞る様な声で呼び止めた。

 

「………」

 

再び少女は立ち止まる。

 

「もう、一度…ミコトに手を出してみろ…その時は…俺はお前を…絶対にゆるさねぇっ!」

「そうか、楽しみだ」

 

怒りと言う感情がぎらついた瞳で彼女を睨みつけそう叫ぶと、その言葉に少女は小さくそう呟き、今度こそこの場から立ち去り、私達はその背をただ見送る事しか出来なかった…。

 

「く…そ…っ!」

 

彼女が見えなくなると、おりむーは握り締めた拳を振り下ろし地面を叩く。鈍く響いた音が虚しかった…。

 

「一夏…だいじょうぶ?」

 

不安そうにそっと触れておりむーを気遣うみこちー。自分の命を狙われたというのに他人の事を気遣えるなんてみこちーらしいね。

 

「いつつ…ああ、平気だ。ミコトは怪我無いか?」

「ん?」

 

何でそんな事聞くの?とでも言いたいかの様に不思議そうに首を傾けるみこちー。いやいや、さっきまで命狙われてたんだよ?鉄砲撃たれたんだよ?

 

「…まさか、自分が襲われたって言う自覚ないのか?」

 

頬を引き攣らせながらそう訊ねるおりむーにみこちーは「ん」と頷くと、皆が一斉にズッコケル。そりゃないよみこちー…。危機感が無いというか。お菓子あげるからついておいでって言われたらホイホイついて行きそうで本当に放っておけないよー…。

 

「はぁ~…」

「ア、アンタねぇ…」

「危機感がなさ過ぎですわ…」

「?」

 

へにゃりとへたりこんで脱力する私達に、みこちーはただ首を傾げるだけ。本当に分かってないんだね。一瞬、ほんの一瞬私が遅れてたらみこちーは死んでたかもしれないんだよ?

 

「あ…」

 

みこちーは何かに気付いて私に寄って来るとペタリとしゃがみ込んで私の顔をじーっと覗きこんでくる。はて?どうしたんだろう?

 

「どうかしたの?みこちー」

「髪…」

 

そう言って、そっと手を伸ばすと、髪留めが無くなったためにツインテールの片方の束がばらけてしまった髪に触れてくる。ああ、何を気にしているのかと思ったらこの事だったんだ。

 

「あー…さっきので切れちゃったんだねぇ」

 

お気に入りだったんだけどなぁ。まぁ仕方ないよぉー。みこちーの命には代えられないからね。むしろ、あの髪止めもみこちーを助けられて喜んでると思うよ?

 

「んー………」

 

じーっと私の髪を眺めていたみこちーは何か考える仕草を見せると、私とお揃いの長い袖に手を突っ込んで探り始めた。

 

「これ…違う。これも…だめ」

 

あれも違うこれも違うと、次から次に袖の中からポイポイと色々な物を取り出してくるみこちーにおりむー達が唖然とそれを眺めている。

 

「それ…そう言う仕組みなんだ?」

「ん?」

「いや、ん?じゃなくてさ…」

「駄目だよーおりむー。乙女の秘密を聞くのはー」

「何だよ、乙女の秘密って…」

 

秘密は秘密だよー。訊くのはマナーに反するよ?

 

「むー…無い」

 

どうやらお探しの物は見つからなかったみたいだ。長い袖を探るのを止めて不満そうにぷくりと頬を膨らませるみこちー。一体何を探してるんだろう?気になったので訊ねてみる。

 

「何が無いの?みこちー?」

「本音の髪飾りの代わり…」

 

あー…そう言う事かー…。

 

「気にしなくていいのにー。でも、ありがとね。みこちー」

「だめ。それ、私のせい。私が代わり、用意する」

 

一度決めたら曲げないからなー。みこちーは。本当に気にしなくても良いのに…。

 

自分の義務の事もある。でも、それ以上に友達を助けるのは当然の事だから、みこちーは気負う必要ないんだから。

 

「んー…あ、これがある」

 

暫し考えた後、みこちーは自分の制服のリボンをしゅるりと解き私の髪を纏めるとリボンでそれを固定して満足そうに微笑んだ。

 

「ん♪これでいい。今度、代わりの買いに行く」

「みこちー…ありがとね!でも、これで十分だよ!」

「? でも、これ…」

「ううん!これでいいの♪」

 

例え、どんなものだろうと、みこちーが私にくれたプレゼントだから…。

 

「…ん。本音が、それでいいなら」

「うん♪」

 

みこちーが結んでくれたリボンを触れる。これは私の宝物。大事な大事な宝物。ずっと、ず~~~っと大切にするよ。

 

「お二人さん。仲睦ましいのは結構だけど、時と場所を考えなさい。のんびりしてる場合じゃないわよ?」

「へ?」

「?」

 

ファンファンファンファンッ!

 

遠くの方からサイレンの音か此方へと近づいて来る。あれ?もしかしてこれって…。

 

「パ、パトカーの音か!?」

 

あ、あわわわわわ!?どうしよ~!?

 

「これに捕まったら今日は帰れませんわよ。確実に…」

「でしょうね」

 

罰を受ける事は無いだろうが事情聴取で時間を取られるのは間違い無しだね。ここはやっぱり…。

 

「に、逃げるぞ!?」

 

やっぱり、そうなるよねぇ…。

 

私達はサイレンの音に追われながら死ぬ物狂いでこの場から逃げ出すのだった。

 

 

 

 

 

 

――――Side 篠ノ之 箒

 

 

 

 

「ミコトが殺されかけただとっ!?」

 

珍しくセシリアや鈴と言ったメンバーが私達の部屋にやって来たと思ったら信じられない事を伝えられた。そう、ミコトが命を狙われたというのだ。しかも公衆の面前で堂々と!

 

「どういう事だ!?なにがあった!?」

「落ち着け、箒」

「これが落ち着いて居られるか!」

 

バシンッ!と竹刀で地面を叩く。友達が殺されそうになったのだぞ!?これがどうして落ち着いて居られる!?

まさか私が鍛錬に励んでいる時にそんな事が起こっているとは思いもしなかった。こんな事なら、こんな事が起きると分かっていたらな鍛錬なんて放り出してミコトの傍にいたというのに…!

 

「落ち着きなさいよ。怒る気持ちは分かるけど」

「ええ、そのお気持ちは痛いほどに…」

 

表情を歪め、唇を噛む二人を見て私はそれ以上は何も言えなくなってしまう。考えてみれば、すぐ傍に居たというのに何も出来なかったと言う悔しさや怒りは、一夏達の方が私なんかよりも遥かに上の筈なのだから。そんな一夏達を責め立てる事は私には出来ない。

 

「…ミコトはどうしているのだ?」

「自分の部屋で落ち込んでるよ」

「そうか…」

 

命を狙われたのだ。相当ショックだっただろうに…。

 

「皆にあげるたい焼きを駄目にしたって」

「…………は?」

 

思わず間抜けな声を出してしまった。たい焼き?何でたい焼き?

 

「…け、怪我とかショックは受けていないのか?」

「全然大丈夫だ。心配ない」

「そ、そうか…」

 

それなら、良いのだが…。

 

「…って!全然良くないぞ!問題はそこでは無いではないか!?」

「アンタが勝手に突っ走ってるだけでしょうが…」

「ぐぬっ…ぬぬぬぬっ!」

 

悔しいが正にその通りなので言い返す事が出来ずに言葉を詰まらせてしまう。仕方ないではないか。友が殺されかけたのだぞ?冷静な思考で居られるのがおかしいのだ。

 

「…ですが、箒さんの言う通りですわ。問題はそこではありません。これからです」

「そうね。近々、アイツがIS学園に転入してくるのは間違いないんだから…」

「しかし、本当なのか?その襲撃者がIS学園に転入して来るとは?」

 

一夏を疑う訳でも、現実から目を背ける訳でもないが、正直信じられない。それだけの事をして学園側が受け入れるというのだろうか?学園としてもそんな問題を起こすような人物を生徒とするのは避けたいと思う筈だが…。

 

「あたしも信じられないけどね。現にニュースになってないんじゃ…ね」

 

全員の表情が曇る。街中で発砲、それだけの事をしてニュースに報道されて無いとなると、情報を規制されたと考えるべきだろう。だとすればやはり、そう言う事なのか?

 

「事実にしても、学園内では幾ら彼女でもあのような行為は出来ないでしょう。忘れまして?どのような組織・機関もIS学園には干渉できない。学園内で問題を起こせば国際問題になりかねないのですから」

「そんな事関係無い」

「一夏?」

「どんな理由があったって、ミコトは友達だ。絶対に守ってみせる!」

「…ああ、そうだな」

 

理由なんて必要ない。友達だからそれだけで十分だ。

 

「そうですわ。あの様な方にミコトさんを傷つけることも、悲しませる事もさせません」

「あのちびっ子には借りがある事だしね。まぁ守ってあげるわよ」

 

一体、私達が知らぬところでどんな事が起こっているのかは知らない。だが、来るなら来るが良い。絶対に、絶対にミコトは傷つけさせはしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑 千冬

 

 

 

 

 

 

 

「…そうですか。わかりました。では」

 

要件を済ませると早々に通信を切り、通信相手が映らなくなったディスプレイに苛立ちを隠そうともせずに壁を殴る。…遅かったか。こうなる事は予測できた筈なのに未然に防ぐ事が出来なかったとは自分の詰めの甘さに嫌気がさす。

 

「織斑先生!大変です!ミコトちゃんが!」

 

部屋の主に許可もなく飛び込んでくる嘗ての教え子に頭痛を覚えながらも彼女の言おうとした言葉を自分が先に言い終える。

 

「校外で襲われたのだろう?既に報告を受けている」

 

本来、生徒を守る立ち場である筈の『守護者』から直接な。

 

無論、彼女に非がある訳ではない。今回は私の、そして学園側のミスだろう。急な事で報告が遅れたとは言え、ちゃんと伝達が行き届いていれば彼女も対応できていた筈なのだから。恐らくそれも計画の内だったのだろうが。

 

「何でそんなに落ち着いて居られるんですか!?ミコトちゃんが殺されそうになったんですよっ!?」

「落ち着け山田君。私達がどう取り乱した所でどうしようもない」

 

今回の件はそう単純な物ではないのだから。

 

「ですが!」

 

口で言っても分からない彼女を睨み目でこう語る「いいから黙れ」と。すると、分かってくれたのか、恐怖に歪んだ表情のままこくこくと首を壊れた人形の様に何度も動かす。…少し脅し過ぎたか。

 

「…既に、学園側からドイツに抗議を送った。まぁ、逆に『言い掛かりをつけるなと』抗議されたがな…」

「な、何故ですか!?現にミコトちゃんは襲われたんですよ!?」

 

確かに山田君の言う通りなのだが…。私は先程通信で聞かされた言葉を思い出し一語一句間違えずにそのまま彼女に伝えた。

 

「『ミコト・オリヴィアと言う人間はどの国のデータベースにも存在しない。その為、そちらの言う事件が起こりうる筈が無い』だそうだ」

「は、はあ!?」

 

気持ちは分かるよ山田君。現にこのような事態が起きているというのに、まさかこんな下らない返答が返ってくるとは私も思わなんだ。餓鬼の会話じゃないのだぞ?

 

「入学を拒否しようにも『貴校に我が国の人員の受け入れを拒否する権限は無い』の一点張りだ。ふふ、本当に良い度胸をしているよ…」

 

確かに、IS学園にはその様な義務は存在するがあれだけ好き勝手しておいてよくもそんな事を言えるものだ。今回の事件の主犯の独断だったにせよ、それ相応の責任を負うべきだというのに。

 

「この国も自分の領内で好き勝手されたというのに国際問題や何だので何も言えないらしい。まったく、我が国の事ながら情けないことこの上ない」

 

心底この国に失望する。IS学園の設立理由もそうだったが、今回の事もそうだ。この国は何時から他国の奴隷になったんだ?人一人の命が奪われそうになったというのに黙認するとは。

 

「そんな…」

「…ああ、もう一つ不愉快極まりない事があるが聞くか?」

 

むしろ、これが本題なのだが。今回の話をややこしくした原因は…。

 

「あまり聞きたくないです…」

「オリヴィアに関わる事なのだが」

「聞きます!」

 

オリヴィアに関わると言うだけで態度を一変させる山田先生に苦笑したくなったがやめておく。これから言う内容はまったく笑えない物だったからだ。本当に、虫唾が奔る程に…。

 

「『我が国はミコト・オリヴィアが関わる全てに一切関与しない』先程、政府から送られてきた通達だ」

 

つまりオリヴィアが誰に殺され様が日本は関わらないし、警察が動く事も法で裁く事もしないという事だ。まさに、この国はオリヴィアにとって無法地帯となったと言う事になる。これではオリヴィアにとってIS学園は鳥籠だな。

 

「お、おかしいですよ!何ですかそれ!?」

「ああ、明らかにおかしい。幾らなんでも今回の件は不自然すぎる。裏で何者かがそうなる様に仕向けたと考えた方が自然だろう」

 

殺人を公認する程この国が腐っているとも思えない。恐らく、オリヴィアが死んで得する何者かが今回の件を企んだに違いない。オリヴィアが生きていると都合の悪い者。もしくは、オリヴィア個人が所有しているISを狙う者。前者にしても後者しても私には心当たりがある。どちらもたった一人の少女にこれだけの事を起こすとは考え辛いが。しかし、後者だとすればこれだけの事をするのも可能だろう。

 

「ギリシャ…でしょうか?」

 

確かに、その可能性もある。しかしそれはかなり低いだろう。

 

「ドイツにオリヴィアの情報が漏れていた事でそれも考えられるが、そこまでしてオリヴィアを消す必要は無いだろう。寧ろ、何もせずIS学園に押し込めていた方があの国にとって一番安全だ。自ら手を下さずとも勝手に死んでくれるのだからな」

 

死ぬという言葉に山田君は表情を曇らせる。

 

「っ…では、誰が?」

 

ふむ…。

 

「…一つだけ、心当たりがある」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ…」

 

出来れば、外れていて欲しいのだがな…。そう思いながら、私は口を開いて告げる。

 

「―――『亡国機業』。この名に聞き覚えはあるだろう?」

 

私達姉弟にとっても因縁のある存在の名を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

少し書き方を変更してみました。どうでしょう?

 

今作でも勿論そうなのですが、原作でも良く仲直り出来たよね。昨日の敵は今日の友って奴なのか…。

 

まぁ、この作品にはミコトが居るから問題無いのですがね!(爆

 


 
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