「……どういうことなの?」
どうして……
「左慈さま!」
ギューッ!
「…!結以」
「左慈さま……よかったです!」
結以に抱きつかれている。
感覚がある……
体が……!
「!一刀ちゃん!」
「左慈さま!」
鏡の方へ向かう。
あの鏡は僕の魂を入れたもの。
それが、僕の魂と体が回復されている。
ということはまさか……
「一刀ちゃん!」
「………左慈…」
鏡が割れてしまった場所には、華琳さま一人だけが残されていた。
「……何を…したんですか?」
「…………」
「一刀は何をしたんですか!!!!!」
突然一刀が私の前から消えたかと思ったら、私は元あった、鏡に入る前の場所に戻っていた。
「……」
周りを見回した。
一刀の姿が見当たらない。
「一刀ちゃん!」
「!」
後から左慈の声が聞こえた。
「……左慈……」
四肢がちゃんとある左慈が私の前に走ってきた。
彼女の顔が赤くなっていた。
「……何を…したのですか?」
「………」
一刀は消えた。
だけど、私はここに居る。
「私は……」
私は、何をしたの?
一緖に居ると言ったのに、
あの子とずっといっしょに居てあげるって言ったのに……
あの子を…
「一刀は何をしたのですか!!!!!」
「………わからないわ」
何もかもがわからなかった。
救えると思っていた。
なのに、あの子は自分から消えることを決めた。
何故?
何のために?
私を連れて行くことが出来ないといっていた。
私には、他の皆が居ると。
彼女たちも私が必要だと言いながら……
「…………」
左慈は唖然とした顔で私を見ていた。
多分、それは私も同じ。
あの子を無くしてしまった。
私も、多分左慈も同じことを考えただろう。
「………」
「……あぁああああああ!!!」
ガーン!!
左慈が拳で横にあった石で出来た柱を叩くと、柱には縦にヒビが入った。
「最後に来て…!!」
「………」
「最後になってあの子を失ったというのですか!」
「私にも分からないって言ってるでしょ!」
わけが分からないわ。
一刀はどこに行ったの?
私が聞きたいぐらいよ。
「……失敗したわけではないのです」
左慈が口を開けた。
「僕の体が元に戻っている。これは僕の能力を超えている。なら、これは一刀ちゃんが鏡の力を使ってやったとしか思えません。一刀は実際自分が幸せになれる世界を願ったのです。……ここに……」
「……あなたの言う通りだと、一刀は今どこに居るの?」
自分が自分のために望んだ世界に、自分の姿が居ないっておかしい。
「それが分かればこうイライラしません…それとも何ですか?実はあなたがあの子についていけなかったのではないんですか?」
「何ですって!」
シャキッ!
絶を構えて左慈をさす。
「訂正なさい!」
「……」
「私があの子のことを思っていることはあの子を私に託したあなたが一番知っているはずよ」
「なのにあの子を一人したのは誰ですか!」
「………」
「あなたはここに居るのです。なら、一刀ちゃんは今どこかに一人で居るというわけではないですか!僕にもわからないのです。あの鏡を通った先に何が待ち伏せていたのか……なのに、どうしてあなたは……」
「……」
「………あなたを信じた僕が間違っていたというのですか?」
「っ!」
ガチン!
「っっ!」
左慈が蹴りを絶で塞いだ。
すごい威力。この強さだと凪以上……。
「あの子が僕の元を離れることは我慢できます……。だけどあの子を一人にしたあなたは許せない……」
「………」
「…左慈、少し落ち着いたらどうなのです?」
後で私と管路のやりとりを黙って聞いていた管路が口を開けた。
「状況を冷静に見てもらいましょう、左慈。鏡の効果は確かにありました。あなたのその回復された体。北郷一刀がそうしたとしか思えないです」
ふと見ると、左慈の姿は以前の紗江の姿をまんまと移したような姿とは少し違った。
あの子の長く白い髪の代わりに、男のような短い髪になっていて、顔も紗江にはない刺青とかが入っていた。
「北郷一刀はまだ不安定だった時のあなたの魂の中からそのあなたの以前の姿の情報を見たのでしょう。途中でそれが少し混ざったようですね。
「そんなことはどうでも良いのです!今は一刀ちゃんが…!」
「はぁ…やはり以前の性格のあなたは少し頭に来やすいところが難点ですわ」
「なんですって…!」
管路はゆっくりとこっちに歩いてきた。
「孟徳さん、北郷一刀が最後にどのような事を言っていたか教えてくれますか?」
「……どのような事って?」
「何でもいいです。そのまま話してください」
「……たしか…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さようなら、華琳お姉ちゃん」
「ボクはどこにも行かないよ。ずっと華琳お姉ちゃんの側に居る。だから……安心して」
「うん、ボクもずっとここに居るよ。だけど、もうちょっと待っててね」
「……お母さん、今までありがとう。またね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「と、言っていたわ」
「なるほど……ふふふっ」
管路は何か分かったような顔でいつもの笑いをした。
「何?一刀がどこに居るのか分かるの?」
「ええ、大体分かりましたわ」
「一体どこに…!」
「左慈、北郷一刀はあなたとは違って、真実を言わないことはあっても、嘘は吐かない子ですよ」
「……?」
「…………北郷一刀はそこにいるではありませんか」
「え?」
どういうこと?
「…!まさか……!」
その時、左慈も分かったかのような顔をする。
「結以!」
「はい!」
「結以?いつからそこに……ちょっ!」
「少し失礼します、華琳さま」
いつの間に結以がここに居たのか聞く暇もなく、突然結以が私を襲ってきて私は驚いて後に倒れた。
「何…を…!」
「シーッ!」
「何をして…」
「しーっ!」
「……」
私の口を止めた結以は静かに私の胸の上に手を載せた。
そして、それをどんどん下に下ろす。
「………」
「どうですか、孟節?」
「……………はぁ…」
結以は沈黙の後深くため息をついた。
「本当に?」
左慈も呆れた顔で言う。
何なの。一体?
「おめでとうございます、華琳さま」
「え?」
「……懐妊なさいました」
は?
状況をまとめましょう。
だから、
「一刀が私の中に入ったって?」
「それが一刀様とは限られませんけど…取り敢えず、今華琳さまの懐中に赤ちゃんがあることは間違いないかと……」
「冗談でしょう…私は男と一緖に寝たことなんて一刀以外にはないのよ」
「………まさか」
「ないから!それ以上言ったら殺すわよ!」
「となると、やはり、一刀ちゃんの魂が華琳さまの中に入ったと見た方が正しいかと……」
左慈もいつもの調子に戻って、冷静に状況をまとめる。
「とは言え、そんなことが可能なのですか?管理者たちの技術力で?」
「さーね、二百年ぐらい前に西洋、ローマ辺りでそんなことがあったとは耳にしているけど……確かあの人の名前が…」
「管路、それ以上いうと危険」
「あ、そうでしたわね」
管路が口を閉じると、結以は途中で質問の答えが絶たれたことに不満そうな顔をしながらも、またこっちの方に集中する。
「まだ形は良く分かりませんし。恐らく今この時間で妊娠なさった?って感じですが……やはりあの鏡の力なのでしょうか」
「冗談じゃないわ。となると、私は夫も無しに子をはらんだということになるじゃない」
「華琳さまとしてはいい話ではなくて?どうせ男嫌いなあなたなら世継としても養子で済ませようと思ったでしょうし…」
「今冗談言う気分じゃないんだけど、左慈」
「僕も冗談で言うつもりはありませんよ。考えてみてください。もし一刀ちゃんが本当に華琳さまの子供として生まれるとしたらです。いつも華琳さまと一刀ちゃんが望んでいたことではないですか?本当の母子になるのですよ」
「とは言っても………」
となると、やはり一刀はまた親が一人ない子になるじゃないの。
「子供を生むとが怖いとかは思ってないんですね?」
「あら、私がそんなこと思うと思ったの?」
「いえ、まぁ……マリアさんの場合そうでしたので」
「左慈!」
「おっと……」
さっきから左慈と管路の言いようがおかしいけど、まぁ、そこについては深く入らない方がよさそうね。
「あの、これ、どうしましょうか。帰ってみなさんにどう説明すれば……」
結以が心配そうにそう言う。
「ありのままに言えばいいじゃない」
「信じてもらえないかもしれませんよ」
「少なくともうちの娘たちは信じるわ。後は…他の国の人たちだけど…あなたがそこで見ていたと言ったら、少なくも蜀の人たちは信じてくれるんじゃないかしら」
「それは……とは言ってもあまりにもふざけた話ですし」
「まぁ、子供が考えた始まり方ですわ。ふざけたことでもしょうがないというものです」
まぁ、管路の言うとおりね。
とは言っても…
「一刀の本当の母親ね……悪くないわね」
「…………」
「……左慈、あなたは大丈夫なのかしら」
「…ええ、大丈夫ですわ。こうなることなんて想定内です」
先私に暴言を放っていた口から出せるような言葉じゃないわね。
「さっきの焦りは演技だったとでも?」
「うるさいわ、管路」
「ふふふっ」
笑いながら口を防ぐ管路をイライラする顔で見ていた左慈だったが、直ぐにため息をついて私を見た。
「……一刀ちゃんは結局、あなたと最初からやって行く方法を選びました。これ以外にどんなことが起こっているかは調査しなければわかりませんが、僕があなた様に言いたいことは一つだけです」
「……」
「一刀ちゃんを幸せにしてください。あなたならそれが出来るはずです」
「…ええ、言われなくてもそうするわ」
必ず、この子がこの大陸の中で一番幸せな子に育つように……
くぐぐぐぐーーー!!」
「!何?」
「そろそろ時間切れですわね」
「どういうことですか?」
突然周りから轟音が鳴り始める。
まさか…
「ここ、もう少ししたら崩れます。早く脱出しないと死にますわよ」
「何ですって!?」
「驚くことは後です。取り敢えず逃げましょう」
「あ、左慈さま、実は南華老仙さんがわたくしの麻痺針に…」
「……はぁ、結以。こんな時に面倒なことを…」
「申し訳ありません」
「話は後にして早く三人は長安に行ってください。みなみちゃんはわたくしめが回収しますので…」
「頼んだよ、管路」
「ええ、また後ほど…」
と言って、管路は姿を消した。
「僕たちも行きましょう。二人とも手を……」
「ええ」「はいっ」
スッ
「ここは…?」
「長安の本城の後の庭です」
日はもう頂点に昇りつつあった。
「華琳さまーーー!!北郷!!」
「!あれは秋蘭の…」
「皆さんが華琳さまが居なくなって探しているのでしょう」
「……この状況、何といえばいいのかしらね」
「ありのままに、ご存知のとおり言ってください。信じらなければそれで結構。ただ、華琳さまさえそれを信じていれば良いのです。そうなれば、後はあの子の思うとおりに……」
左慈の目線が私の顔の更に下、私のお腹を見つめていた。
「あなたは最後まで僕を驚かせてくれましたわね。……やられました」
「あなたはこれからどうするの、左慈」
「へ?」
「あなたさえ良ければ、ずっとここに居ても構わなくてよ」
「………」
左慈は少し虚しく笑った。
「僕としては、あまりこれ以上一刀ちゃんの人生に関わりたくありません。僕が居ると一刀ちゃんにまた不幸になるかもしれません」
「そんなことはないわ。一刀があなたを生かしたのがその証拠よ」
「自信を持ってください、左慈さま」
私の言葉に添えて、結以も左慈に言ってきた。
「あなた様は自分にできることを全てしました。たった一人の子供のために自分の命を賭けることも迷わなかったあなた様が、一刀様を不幸にするはずがありません」
「……結以…」
「ですから、どうかわたくしたちと一緖にここに残ってください」
「………」
左慈は顔を俯いて何も言わなかった。
「……左慈さま」
「…そう。それも悪くないかもしれませんね」
「左慈さま」
結以の顔に明るくなった。
が、
「でも、今は駄目です」
「…え?」
「まだやり残していることがあります。それを済ませたら、また戻ってきて、あなたと一刀ちゃんのために働きましょう」
「……そう、分かったわ。待っていましょう、一刀と一緖に」
「はい…」
左慈はそう言って、私と私のお腹の中の一刀を見抜くように見つめて、後を向いた。
「わたくしも一緖に行きます!」
消えようとする結以が左慈にそう言った。
「…結以には僕が居ない間一刀ちゃんの主治医を頼みたかったんだけどね」
「そんなの華佗さんにでも頼めればいいです。わたくしはあなたと一緖についていきます。どうせ今回のように体がボロボロになるようなことをやらかすに決まっています!」
「……そうかもしれないわね。…いいわ。連れて行ってあげる」
「はい!」
結以は私の方を振り向いて言った。
「華琳さま、蜀の中に南蛮王の妹が居ます。あの娘にうまく言い伝えてください」
「ええ、分かったわ。お嫁入りしたと言ってあげればいいわけね?」
「えっ!……やだ、まだそんな……」
「ふふっ、かわいいわね」
「結以には目を付けないで欲しいですけれど」
左慈がふと警戒する顔になって言った。
「さーね、もしあなたが彼女に酷いことをすると、そのうち持っていくかも知れないわね」
「……申し訳ありませんが、わたくしはいつまでも左慈さま一筋ですので」
「あら、人間先のことはわからないものよ。覇道を諦めたからって、かわいい女の子を求める性質が変わったわけではないからね」
「…この人が母だと一刀ちゃんが将来どのような子に育つか心配でなりませんね」
ため息をつきながらも、本当に心配しているって訳ではない。
ただ、その目に少し残念そうな顔は残っていた。
一刀の姿をずっと見ていたいという感情が……
「それが心配なら、早く戻ってくることね」
「そうしたほうが良さそうですわね。…出来るだけ、早く片付けましょう…結以、行くわよ」
「華琳さま、それでは……」
「華琳さま、一刀ちゃんのことをよろしくおねがいします」
「ええ」
そして、左慈と結以は姿を消した。
「………」
「華琳さまーー!!」
「北郷ーー!」
「……さて、皆にどう説明すればいいのかしらね」
「秋蘭!春蘭!こっちよ!」
・・・
・・
・
――どういうことですか!
――説明をお願いします!
――会議に出ていた元老たちが全て皆殺しにされたというのは本当ですか!
――今回の事件で貂蝉さんを職務から解任させるべきだと言う声が高いですが、自らお辞めになるつもりはないのですか!
「まぁ、まぁ、みなさん、落ち着いてください。今回の事件は我々にとって大きな試練です。だけど私たちは今まで沢山の試練を乗り越えてきました。今回もうまく解決できると私は信じていま……」
「うまく黙認する、の間違いでしょうよ」
「!!」
――アレは…!まさか!
――左慈!左慈ではないですか。どうしてここに…!
――横に居る人は誰だ?
「左慈、また会ったわねん」
「…左慈さま、あの気持ち悪い人は誰ですか?」
「だーれが気持ち悪い化物ですってー!」
「彼は貂蝉。管理者たちの頭首で、この事件の黒幕よ」
――貂蝉さんが今回の事件の黒幕?
――どういうことですか、左慈!
――今までどこに居たのですか!説明を…!
「いいでしょう。説明してあげるわ。だけど僕が先に言いたいことがあるから、それから言ってもらいましょう」
「左慈、貴様……」
「もう貴様の時代は終わったわ、貂蝉。第二回戦の始まりよ」
管理者たちは安易になっていた。
自分たちの気に食わない外史を消して、外史の嬉しいところ楽しいところ美しいところだけを残そうとした。
だけど、世界はそれほど綺麗じゃない。
戦で人たちは悲しみ、絶望し、二度と幸せを感じられない体になるまで堕ちている。
そんな彼らの犠牲があってからこそ幸せな外史も存在した。
なのに、あなたたちはそれを否定した。
天の御使いの苦労を否定した。
一刀ちゃんを否定をしようとした。
そんなお前たちを、僕が許してあげると思うな。
今回は以前のように無様に挫けるつもりはないわ。
「たった一人で私に勝てると思っておるのか?」
「あなたはそんな変態な姿で僕に勝てると思うな、変態。そして僕は一人じゃない。帰るべき場所がある。貴様に勝って、僕はあそこに戻る」
また会おうね。
一刀ちゃん。
あなたが僕を忘れる頃に、また行くね。
ギュッ
「左慈さま、わたくしも側に居りますので…」
「…そうだったわね。これからもお願いね、結以」
「はい」
「華琳さま!どうしてこのような所に…!」
「ごめんなさい、心配させたようね……」
「……華琳さま、どうなさったのですか?」
「別に…私がどうかして?」
「………よくわかりません」
「…ふふっ、おかしい子ね」
「それよりも華琳さま、北郷の姿まだ見つかりません。ご存知ありませんか?」
「一刀なら、………」
「……華琳さま?どうして黙られるのですか?」
「……まさか…!」
「落ち着きなさい、秋蘭。一刀は死んでいないわ」
「…なら、今どこに…」
「…いるわ。ここに……」
「……え?」
「……後で分かるわ。さぁ、皆が居るところにもどるわよ」
「あ、華琳さま、お待ちください!」
「華琳さま、どういうことですか!」
一刀。
また会いましょう。
あなたの幸せが私の幸せ。
あなたの夢が私の夢。
これから二人で同じ道を歩いて行きましょう。
・・・
・・
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