トクトクトクトク…
杯から酒が溢れ出しても尚その音は止むことなく
「…あの」
顔をひきつらせたままの彼の心情などお構いなしに、溢れ出たそれは彼の袖を濡らしていく
彼を囲う袁家の将達はいずれも徳利を180°ひっくり返し、重力にならった液体がダバダバと注がれていた
「旦那は~」
「此処にいる誰が~」
「いいぃ一番だっとととおお思いますかっ」
袁家が誇る二枚看板にその副将
その眼は三者共に彼をジトリと見つめやはり三者共に溢れ出る杯には眼もくれずにいる
何故こうなったか
今し方に鼻歌を携えて去っていた彼女がチラリと見せた舌
(…やってくれましたね)
事態の収拾に酒を注ぐに飽きたらずに爆弾を仕掛けていった彼女
その舌が蛇よろしくにニョロニョロと踊っていたのを彼はその眼で確かに見た
(…悪魔め)
彼が内心舌打ちを打つより早くに目の前に飛び込んだ三人からひしひしと伝わる重いプレッシャー
酒に弱い彼は自身が口にそれが入らずともにぷ~んと漂う酒の匂いに早くも眩暈を起こしかけていた
とはいえ
(この状況じゃ全然酔えませんよ~)
普段に悪ノリに加担するはずがない斗詩すらもが酒に頬を染め詰め寄ってくる姿に
(…只の酒じゃありませんね)
その直前に三人に酒を注いでいたのもやはり七乃なわけで
「…完全にしてやられましたね」
視線を向ければ彼女は魔王が妹、白姫に出汁巻きを自身が箸に摘み
「はいあ~んしてくださ~い」
あむあむと小さな唇が踊るのを恍惚な表情で見つめている
…その尻からニョッキリと生えた悪魔の尾がパタパタと揺れていた
今正しくに彼女の至福な一時を邪魔する者は居ないのだ
「なに旦那…あの姉ちゃんばかり見てるのさ」
「そういう訳ではありません」
「今あの人のお尻見てましたよね」
「そういう訳ではありません」
「あああああいう女性がここ好みなんですかっ」
「そういう訳ではありません」
「「「じゃどういう訳なんですか」」」
「勘弁してくださいよ~」
そういえば
我が主はこの騒ぎ何をしているのかと視線を移せば
「まあ…それで」
「んでもって言ってやったわけさ“精々に馬と戯れてな猿“って」
「お~ほっほっほ愉快ですこと」
「…あんたイケる口だな」
………
……
「…意外だ」
もう紛うことはない
この袁家からなる騒ぎが向こうに飛び火することは今後有り得ず
七乃は最後まで至福の時間を過ごすのだった
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やられっぱなしになるのは目に見えてたさ