No.210180

境界のIS~第四話 俯瞰風景~

夢追人さん

やっとこさ投稿。これぞ夢追人節。

2011-04-05 23:18:04 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1949   閲覧ユーザー数:1872

 「……どういうことだ」

 

 「ん?」

 

 午前の授業が全て終わって昼休み。僕たちは学園の屋上に来ていた。

 晴天の下、花壇には四季折々の花々が咲き誇る。他にもヨーロッパをイメージさせるシックな石畳、円テーブルにイスのセットなど、屋上よりも小じゃれたカフェテラスと言った方がしっくりくるような気がする。

 無機質なコンクリートに金網フェンス、給水タンクといった『学校の屋上』が僕は好きなのだが、これはこれでいいかもしれない。

 いつもの昼食時は女子たちで賑わうのだが、今日は皆世界やシャルル目当てで学食にでも行ったのだろう。僕たちの貸し切り状態だ。

 

 「天気がいいから屋上で食べるって話だったろ?」

 

 「そうではなくてだな……!」

 

 納得いかん、という顔でなおも食い下がる彼女は篠ノ之箒。クラスメートであり一夏の幼馴染でもある。長い髪を今時では珍しいポニーテールにした、古風な口調の剣士系少女。実家が神社だか剣道の道場だかで本人の剣の腕前も相当なものというリアルサムライ・ガール。

 そんな彼女の手には包みに包まれた手製の弁当が握られていた。恐らく一夏のために早起きして作って来たんだろう。

 一夏のために。これ、重要。

 

 「はい一夏。アンタの分」

 

 「おお、酢豚だ!ありがとな、鈴(リン)」

 

 「アンタ前に食べたいって言ってたでしょ。早起きして作ってきたんだから、感謝しなさいよ」

 

 フフン、と胸を張る鈴と呼ばれた少女――鳳鈴音(ファン・リンイン)。これまた一夏の幼馴染で、中国の代表候補生。跳びはねるツインテールが特徴的な、ツンデレちっぱい「カナタ、アンタなんか言った?」――また睨まれた。なんでさ。

 中学のときに家庭の事情で中国に帰ったのだが、『一夏に会うため』に代表候補生にまでなって戻ってきたというのだから、なんともご苦労なことだ。

 

 「コホンコホン。――一夏さん、わたくしも今朝はたまたま偶然何の因果か早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの。よろしければおひとつどうぞ」

 

 「お、おう。あとでもらうよ、セシリア」

 

 ずずい、とサンドイッチが入ったバスケットを手に詰め寄るイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。イギリスの名家出身、金髪碧眼縦ロールの完璧なお嬢様である。そしてこのセシリア、料理がからっきしダメであるというある種典型的な欠点を持っているらしい。見た目はものすごくきれいなのだが味がすざまじくまずい、というのは実際に体験した一夏の談。

 

 「ええと、本当にボクが同席してよかったのかな?」

 

 僕の隣でシャルルがそんなことを言う。

 思っていても口に出すな。それは僕も同じだ。

 

 「そう言えばカナタ、古京さんは?」

 

 「お前の確保に失敗した女子連中に拉致されていったよ。あのセリフのおかげだな」

 

 「や、やめてよ、もう。恥ずかしい……」

 

 「『ボクのようなもののために咲き誇る花の一時を奪うことはできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』――だっけか。流石だよ」

 

 「うう……」

 

 堂々とした姿勢。優がかつ繊細な振る舞いに、その儚げな印象がそっと華を添える。イヤミやワザとらしさなど微塵もない、純粋な高貴の輝きを感じた。

 

 男の僕でもドキリとした。身体が、震えた。

 

 思わず新しい自分に目覚めてしまいそうだった。

 ――いかんいかん。ソイツには手を出すな。

 

 嬉しいような恥ずかしいような、そんな表情で女子たちは退いた訳なのだが、代わりにとばかりに連れ去られたのが世界だ。

 

 『初回の起動でトンデモ機動を魅せた天才美少女』

 

 この噂はたちどころに広まったらしい。シャルルを諦めた連中に捕まり、彼女の小さな体躯が人波に飲まれて消えていく様子は、圧巻の一言につきた。

 こうしてフリーになったシャルルを一夏が誘い、シャルルがせっかくだからと僕を誘い、ついでに鈴音とセシリアがついてきて今に至る。

 

 「ぐぬぬ……」

 

 「一夏ァ!さっさと食べなさいよ!!」

 

 「さ、一夏さん。どうぞ召し上がって下さいな」

 

 元々は箒が『一夏を』昼食に誘ったらしい。女が男に手料理を振る舞う。これにはそれなりの意味が込められているというのに、この男は……

 何というか、ご愁傷さまだ。本当に。

 

 

 

 購買で買ってきた『特大メロンパン』を食べきると、コーヒーのパックと一緒にゴミにまとめる。某コーヒーチェーン店から出ているエスプレッソ・ラテ。

 持ってきていた文庫本を取り出し、目当てのページを開く。自然と視線は手元のページに落ちるけれど、思考のベクトルは目の前を向いていた。

 

 「どうした?腹でも痛いのか?」

 

 「違う……」

 

 「そうか。ところで箒、そろそろ俺の分の弁当をくれるとありがたいんだが――」

 

 「……」

 

 相も変わらず無神経な発言をする一夏。無言で弁当箱を差し出す箒。恨めしそうにそれを見つめる鈴音とセシリア。

 一夏と、彼を取り巻く三人の少女が織りなす風景。

 既に見慣れてしまった、ありふれた光景。けれど僕の感覚には、心には、未だにどうもしっくりこない。

 あの輪の中に自分は混ざってはいけないのだという、時折感じる部外者感。

 普段は意識しないような、仲間はずれにされたような疎外感。

 

 周りの全てがどうでもいい雑音に聞こえ、妙に意識がはっきりする。

 

 自分だけ、窓の外から眺めているみたいだ。

 

 目の前に広がる空間は紛れもなく現実なんだろうけど、それを見ていることしかできない。

 

 僕はピラリ、とページをめくった。

 傍観者としての僕。

 

 僕にはもう一人僕がいて、そいつが一夏たちを眺めている僕をさらに俯瞰しているのかもしれない。

 

 この僕も、この世界も、全ては俯瞰する僕が観ている幻であって、本物の僕はどこか別のところにいるのかもしれない。

 

 根拠のない、ただの空想への逃避かもしれないけれど、そこに奇妙なリアルを感じる。

 

 だとしたら。

 

 僕を含めた『今、ココ』が幻だとしたら、本当の僕の現実はどこへ?

 

 ページをめくる。

 止めよう。考えてて虚しくなる。

 

 「本当にうまいから箒も食べてみろよ。ほら」

 

 「な、なに?」

 

 「ほら、食ってみろって」

 

 「い、いや、その、だな……」

 

 一口サイズに切り分けられた鶏の唐揚げを箸で持ち上げ、落ちないように左手を添えて差し出す一夏。差し出された箒はしどろもどろになって頬を

赤く染めている。俗に言う『はい、あーん』というヤツだ。

 

 「はい、あーん」

 

 「あ、あーん」

 

 多少ぎこちないながらも口を開け、もきゅもきゅと唐揚げをほおばる箒。恥ずかしそうだが、どこか嬉しそうだ。

 

 「一夏!はい、酢豚食べなさいよ酢豚!」

 

 「一夏さん!サンドイッチもどうぞ!一つと言わずにどうぞ全部!」

 

 箒の後に続けとばかりに詰め寄る鈴音とセシリア。それに対してただただ戸惑うばかりの一夏。弁当といい今の『はい、あーん』といい、どうやらこの

三人は一夏に対して好意を抱いているらしい。僕にでも解る。競って彼の気を引こうとしているが、面白いように気付いてもらえない。

 

 三人の少女が一人の男子をスキになる。

 

 甘々の恋愛小説みたいな展開だ。良くできてる。

 

 最初からそうなることが決まってたみたいに。

 

 ページをめくる。ページをめくる。

 そこに答えなんて書いてないのに。

 

 ページをめくる。

 

 「ね、何読んでるの?」

 

 隣にいたシャルがひょっこりと手元を覗き込んできた――シャル?

 僕はパタンと本を閉じる。『ツァラトゥストラはかく語りき』

 

 「ポジティブになれる本だよ」

 

 僕は答えた。

 

~こんなISがあってもイイじゃない スーパーロボット編~

 

 西暦二千XXX年。登場と同時に世界に革新の風を巻き起こした女性にしか扱えないマルチパワード・スーツ、『インフィニット・ストラトス』が広まって数十年後の世界。

 ISは開発当初の目的から外れ『兵器』として進化の道をたどっていた。既存の兵器群を圧倒する戦闘能力。絶対的な、力の象徴だ。

 

 そんな中でISの有用性にいち早く目を付けていた大国『カメリア』は、世界の保護と平和を名目に人種や国家を超越した『超合衆国構想』を提唱。ISを中心とした軍事力にものを言わせ、他の国々を武力で『説得』。またたく間に勢力を拡大していった。

 

 力によって作られた偽りの平和。決められた日常をただ無気力に生きる日々。

 併合された国々に与えられたのは、『自由』という名の束縛であった。

 

 しかし、そんな絶望の中で、救いの主は突如として現れた。全てを飲み込むような暗闇を、引き裂くように駆け抜ける希望の流れ星。

 

 カメリア軍による攻撃の際に出現した、合体能力を持った『ISを越えるIS』である四機の『スーパーIS』と、それらの機体を駆る四人の少女たち。

 カメリアの武力に真っ向から立ち向かい、次々となぎ倒していく彼女たちを人々は『救世の女神(ヴァルキリーズ)』と称え、四機のスーパーISが合体した、神の如きその姿をこう呼んだ。

 

 反抗の意志。偉大なる紅き力。『グレンバスター』と。

 

 

 

 「グレンファイター、システムオールグリーン!いっくぞぉぉぉぉ!コンタクト・エンゲェェェエジッ!!」

 

 「レッグ=ガード、アーム=ガンナー、ウイング=イーグル、コンタクト百パーセント。往けます!」

 

 「よっしゃぁ!往くぜ、皆!!」

 

 「応!!!」

 

 「超鋼合神!」

 

 『グレンバスター!!!!』

 

 「世界は、アタシたちが護る!!」

 

 

 

 

 夢追人です。IS七巻が延期の末発売されたようで、見つけた瞬間即購入。ざっと全体に目を通したところ、とにかく『やってくれるな公式がァ!』という内容に。まだやるか、と。もういいだろう、と。作者の欲望とリビドー(?)の深さに感動しました。こうなったら次辺りに『人妻』だの『未亡人』だのが本気で来そうで怖い。全属性網羅も夢じゃなさそう……

 

 『スーパーロボット編』は、ISの二次創作をやろうと思った時に一番最初に頭に浮かんできたアイデア。スパロボやってて閃いたことが原因だと思われる。

 モチーフは「やあぁぁぁってやるぜ!!」で有名な、アレ。


 
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