#47
汜水関の戦い、三日目・夜―――。
連合軍の大天幕には、兵達の調整を終えた各軍の代表者が集結していた。中には会話を交わす者、表情もなく天井を仰ぐ者、難しげな顔をして瞳を伏せる者と様々であったが、それらの意味は大きく2種類に分けられた。一方はあの化物染みた武を持つ『天の御遣い』に、片目を失うほどの重症を与えられた事に安堵の息を吐く者。もう一方は、一刀をよく知る者で、彼の負傷に何かしらの想いを抱く者。幕内がざわつくなか、入り口から3つの影が姿を現す。
「遅れて申し訳ありません。これより軍議を始めたいと思います」
連合軍の総大将である袁紹だ。彼女の後ろには、腹心である顔良と文醜も立っている。彼女の言葉に諸侯は口を閉ざし、天幕に沈黙が満ちた。皆が袁紹の言葉を待つ。
「まずは、本日の戦果についてですわ。汜水関を落とす事は叶いませんでしたが、我らの策が成り、あの『天の御遣い』に傷を負わせることに成功いたしました」
彼女の言葉に、再度、安堵の溜息が聞こえる。
「策を出した華琳さんをはじめ、彼の者と直接あたった方々には、心からの賛辞を送らせて頂きますわ」
華琳や雪蓮、翠は頭を下げ、自軍から武将を出した劉備と諸葛亮も頷く。その様子に頷き返すと、ですが、と前置きをして袁紹は言葉を続けた。
「我々の被害も相当のものです。私どもが遅れたのも、軍の被害状況を調べていたからですわ。各々損害はあるでしょうが、それを踏まえた上でお聞きします――――――」
それはかつての袁紹からは考えられない言葉。自軍の事に関してはそのすべてと言っていいほどの事を顔良に任せていた彼女が、自ら兵達の下に赴き、そして調査を行っていたのだ。諸侯はゴクリと唾を呑み、華琳や雪蓮ですらも真剣なそのかつてない程の真剣な瞳に、口を閉ざす。それぞれの軍の被害はさておき、この3日間で、連合軍はその数を戦死や重傷を合わせて3万の脱落者を出していた。それは珍しい事ではない。むしろ、後世まで語り継がれるのは、今回の戦のように、寡兵で大軍に打ち勝つという戦記譚なのだから。
「――――――進むべきか、退くべきか」
自陣へと戻る道すがら、華琳は考えていた。袁紹の賛辞に素直に頭を下げはしたが、今日の戦果は正直に言って予想外のものだった。己が策を出したとはいえ、本当に一刀に傷を負わせられるとは思っていなかったのだ。華雄に加えて、袁術軍から引き抜いた紀霊という名の新しい将を入れ、3人で9人の武将と戦う。それはどれほどの偉業なのだろうか。
確かに一刀は強い。だが、雪蓮は言っていた。華雄ならば、彼女だけで十分だと。彼女の武は知っている。母親から受け継いだその才能の噂も、一刀からわずかだが聞き知っていた。その孫伯符が言うのだから、間違いはなかったのだろう。
そして、元袁術軍の紀霊。彼の軍に関してはその威光と数についての情報は知り得ていた。だが、今回夏候姉妹を含めた5人の猛将を足止め出来るほどの武将がいたという噂を耳にした事はない。もし戦の当初からその強さを持っていたのならば、初日の一刀の特攻に対して、もう少し袁術軍も粘れたのではないだろうか。
ふと華琳は足を止める。董卓軍は1万の兵で3万の死傷者を出した。武将は3人で9人を相手取り、春蘭と秋蘭をある意味で先頭不能にした。奇しくもその同じ比率に気づいた華琳は、馬鹿らしいと頭を振る。もちろん董卓軍もそれなりの被害を出し、その数は2000にも上るのだが、それを彼女は知る由もない。だが、それでもそこに何か感じてしまうのは、一刀がいるせいだろうか。
「まったく馬鹿らしいわね…それよりも………」
本当に予想外だったのは、春蘭と秋蘭の表情であった。彼女達が一刀を慕っている事は知っている。もしかしたら、男として惹かれているかもしれないという事も。だが、幼い頃より彼女達と共に過ごしてきた華琳は、2人の忠誠心を理解していた。そんな彼女たちが、あのように苦しんでいる姿に驚いたのだ。
前線から戻った2人の暗い瞳を目にした時、華琳は思った。どうにかしてあげたい、と。だが、その時は兵の手前もあるし、また軍議を開くという指示も受け取っていた為に言葉をかける事はしなかったが、ずっと気になっていた事があった。一刀と出会う前の自分であれば、果たしてそのような事を考えただろうか、と。以前の自分であれば、覇王として部下を叱咤し、その士気を上げる事は出来ただろう。だが、そこに先のような感情が芽生えるかと問われれば、否と即答できる。主と部下としての線引きはきっちりするのが彼女の主義であり、覇王としての在り方だった。だが、今は………。
「(私も丸くなったものね………)」
華琳はひとり自嘲する。そして思い出す。二日前の一刀からの伝言を。
『俺の友であろうとするのなら、俺が君に何を望むのかを考えろ』
それを聞いた時は、覇王として相対しろという意味と受け取ったが、この3日間考えて、そこに違和感を感じ取った。一刀が望むものとはいったい何なのだろうか。彼と交わした会話はそう多くはない。可能な限りその内容を思い出している中、彼女は気づく。
「(………覇王である私を望む言葉なんて、かけて貰った事なんてない)」
一刀は、仮面を外した彼女の苦悩を聞くことはあったが、そこに覇王であれ、という助言をしてなどいない。しばらく彼女は考えた。そして、唐突に思い出す。
『覇道を求める為に何かを捨てたのなら、またそれを拾えばいい』
彼から受けた、唯一の助言のような言葉。
「まったく…今さら思い出すなんてね………」
少女は再び自嘲する。何故今まで忘れていたのか。そして思い出す。彼の暖かさを。
「また……まだ、拾えるかしら………?」
その問いに答える声はない。だが、彼女は聞いた気がした。
『それでも、どうしても無理だった時は………その時は、俺が手伝ってやるよ』
記憶の中から響く、彼の声。
「嘘吐き………手伝う、って言った癖に…いないじゃない………」
咎めるような言葉。しかし、そこに言葉通りの響きはない。彼女は顔を上げ、再び歩き出す。きっと、まだ間に合う。もう一度、拾える筈だ。東の空に浮かぶ月の光に浮かぶ彼女の顔は、力強い。
「春蘭と秋蘭はどこにいるかしら?」
自陣の天幕に戻った華琳は、何か書き物をしていた荀彧と稟に声をかける。2人は手を止めて顔を上げると、代表して荀彧が口を開いた。
「お疲れ様です、華琳様。2人ならつい先ほど騎馬の様子を見に行くと言っていましたが」
「そぅ、ありがとう」
短い返事とともに華琳は踵を返して天幕を出て行く。その様子にどこか違和感を感じた荀彧と稟であるが、その正体は知る由もない。
曹操軍の陣から僅かに外れた空間、多くの騎馬が脚を折り曲げて休む光景を前にしながら、2人の女性は並んでいた。片方は膝を曲げてしゃがみ込んで地面を見つめ、もう片方は遠く夜空を眺めている。言葉はないが、そこに気まずい雰囲気などない。それは生まれた時からずっと共にある故の信頼からか、愛からか。ふと、しゃがんで地面に点在する草をぶちぶちと千切っていた黒髪の女性が口を開いた。
「なぁ、秋蘭………」
「………なんだ、姉者?」
「お師匠様、怒ってた」
「………………怒ってたな」
力なく返事を返すのは、妹の秋蘭。姉が本当に言いたい事を理解し、だがそれを問い詰める事もなく、言葉を紡いでいる。
「初めて、怒られた………修行の時も厳しかったが、怒っている訳ではなかった………でも………………」
「姉者………」
泣いているのか?そう問おうとして、出来なかった。秋蘭もまた、その頬に瞳から流れる涙を感じていたのだから。
「お師匠様、怪我は大丈夫かな………」
「どうだろうか…死にはしないだろうが、だが………左眼はもう使えないだろうな」
「………………卑怯、だったのだろうか?」
「どうだろうな。だが、一刀も言っていただろう。これは戦だとな。………私は思うのだよ」
「………?」
「戦に善も悪もないのではないか、と。攻めている立場で言うのもおかしな話だがな。だが、仮に董卓が暴政を敷いていないとして、それならば洛陽まで軍を進めさせればよいだけのことだ。洛陽の様子は姉者も知っているだろう?」
「あぁ……あれは………酷かった」
思い出すのは、かつて訪れた洛陽の街並。民は痩せ細り、路地裏には死体が転がる。その癖、王宮は豪華を極めた、あの腐敗した街。
「その様子は総大将の袁紹だって知っている筈だ。むしろ我々よりもな。我々が洛陽に乗り込むが、かつての街の様子が改善され、民には活気が満ち溢れている。そのような光景を眼にすれば、我々が悪となるという事は一目瞭然だ。それを………董卓は軍を出して迎え撃った。どういう理由があるのか、本当は暴政など敷いていないのか、その事はわからない。だが、相手も軍を出した以上、そこに善悪は存在しない。卑怯という言葉もな。それを……一刀は言いたかったのではないだろうか」
秋蘭は思い出す。斬りかかった春蘭だけではなく、自分にも言葉をかけ、そして叱咤した。戦である以上、怪我など普通だ。死ぬ事ですら、当然と言える。あの時は、憧れる男が傷ついた様に膝を着いた。だが、その本人が言ったのだ。これは戦争だと。自分に傷を負わせた事を誇りに思えと。
「姉者はどうする?そうして膝を抱いたまま此処でじっとしているのか?」
「…秋蘭?」
「私は…私はまた一刀と戦うぞ。何度だって彼に挑むつもりだ。それが一刀の望む事ならば、私は彼に傷を負わせた事を誇りに思う。鍛錬では一度として触れる事の出来なかったあの無双とすら言える男に、傷を負わせたのだからな。
そして………敵として相対する以上、気を抜けば、一刀は間違いなく私を斬るだろう。殺すかどうかは別としてな。そんなのは嫌だ。私は華琳様に忠誠を誓っている。ずっと共に在りたいと思っている。だがな、姉者よ………私は一刀とも共に在りたいと思ってもいるのだ。その為に、私は私の誇りを貫く。たとえ、彼を傷つける事になってもな」
「………………」
「姉者がそのまま泣いているというのならば、それもよいだろう。華琳様には私が伝えておく。だがな、姉者も理解している筈だろう?姉者のそのような姿を見ても、一刀が慰めに来ることなど、無いという事を」
妹として生まれて、愛する姉に初めてかける酷な言葉。しかし、それが今は必要な事だと秋蘭は感じる。姉の苦悩はわかる。自身も同じ苦悩を抱えているのだから。それでも彼女は姉を叱咤する。自分の生き方を確かめるように。
彼女はそれ以上口を開く事はなく、背を向けた。その様子は春蘭にも感じられただろうが、その背にかかる言葉はない。秋蘭が歩き出して顔を上げると、そこに主の姿を認める。しかし、秋蘭は何も言わずに頭を一度下げると、そのまま歩き去った。
「………………」
華琳も口を開かず、その視線を春蘭に向ける。その背は、これまでに見たこともない程に小さなものだ。秋蘭は己でその苦悩を克服した。ならば春蘭は?つい先ほどまでは、2人を慰めようと考えていた彼女だが、その考えを改める。
一刀ならばどうするだろう?優しく声をかけるのだろうか?答えは、否。もし彼がこの光景を目にし、秋蘭の言葉を耳にしたのならば、姉にも声をかける事はしないだろう。彼女が自身でその苦悩を克服するまで、じっと待つ筈だ。華琳はそう結論付ける。本人でない以上、答えを知る術はない。しかし、華琳には、それが間違ってはいないような気がした。
「それにしても、まさか一刀が負傷するとはのぅ………」
「………そうね」
孫策軍の天幕では、雪蓮と祭が酒を酌み交わしていた。いや、正確には酌み交わそうとしていた。それぞれの手には杯が掲げられ、その中には透明の液体がゆらゆらと波打っているが、それは一度だけ口をつけられたきり、その量を減らしていない。
「まぁ、策殿の対応は見事なものじゃったぞ?」
「ありがと………」
祭の言葉に雪蓮はどこを見るともなしに虚空を見つめ、一言返す。そう、彼女の対応は正しかった。動けなくなった春蘭や秋蘭とは違い、彼女は王である。その王が、戦場で揺らぐ事などあってはならない。だからこそ動揺する心を抑え込み、一刀に斬りかかった。しかし、時を経たいまでは、彼女の心もまた苦悩に満ちる。
「ねぇ、祭………」
「なんじゃ?」
「………母様だったらこういう時どうすると思う?」
「堅殿か?そうじゃな………」
懐かしい名前を口に出し、祭は杯を呷る。喉を焼く液体に、アルコールの混ざった息をほぅと吐き、しばし考え込んだ後、彼女は口を開いた。
「さてな、儂にはわからん」
「………」
「他人の考えを知ろうとする事ほどおこがましい事などないぞ、策殿」
「それもそうね」
「じゃがな………想像する事は出来る。もし堅殿が生きていたとして、彼女ならば、一刀に傷を負わせたのが自分でなかった事を悔やむじゃろうな」
「何よ、それ」
軽く笑う宿将に、雪蓮は口を尖らせる。その顔を見て祭は余計に声を大きくして笑うと、ふと、優しい眼になった。
「雪蓮よ…」
母親が死に、孫家の主となって以来呼ばれた事のなかった自身の真名。その懐かしい響きに、雪蓮は祭を見やる。
「………堅殿は、そういう御人なのじゃよ。愛する者を手にいれられぬのならば、殺して誰の手にも渡さん、というような御人じゃ。じゃが、堅殿は堅殿、策殿は策殿。血の繋がった親子ではあるが、同じ人間ではない。あの御方は孫呉の王であり、生粋の武人じゃった。策殿の同じ道を辿れとは言わぬ。勿論、王として忠誠を誓っておるし、策殿ならばあの御方を超えられるとも思っておる。いや、確信か」
「祭………」
一度きり呼ばれた真名。そこに含まれる意味など分かりはしない。雪蓮と祭は他人なのだから。しかし、雪蓮はじっと彼女の言葉を待つ。彼女が何か、大切な事を言おうとしている事を理解して。
「人の一生は短い。その人生を何に賭けるかは人それぞれじゃ。愛する者の為に、あるいは金の為に、もしくは儂らや公瑾のように武や智に生き、その中で弱き民の為に。それぞれが己の欲する事の為に生きておる。当然じゃ、人なのじゃから」
「………………よくわかんない」
「なんじゃ、策殿ももう少し公瑾に勉学を教わった方がよいのではないか?」
「………うるさいわねぇ」
不貞腐れる雪蓮に、祭は豪快に笑うと、要するに、と再び雪蓮に向き直る。
「要するにじゃ、策殿は愛する男が傷ついたからといって、その男を欲する事を諦めるのか、という事じゃ。それもよかろう。幸運な事に、策殿にはまだその人生を賭けるべき対象が山ほどある。呉の民、蓮華様に小蓮様。冥琳という友もおるな。その武も卓越したものを持っておる」
「………………」
「じゃがな、雪蓮よ」
もう一度だけ、祭は彼女の真名を呼ぶ。
「お主の人生は一度きりじゃ。決して、後悔などせぬ生き方を選べ。これは部下ではなく、姉としての儂からの願いじゃ」
応える声はない。しかし祭は満足げに頷くと立ち上がり、天幕を出て行く。残された雪蓮は、杯を傾けて空にする。その味は、はじめのひと口とは違い、わずかに美味く感じられた。
祭が天幕から去ってからしばらくして、今度は孫策軍の軍師がやって来た。
「聞いたぞ、雪蓮。一刀の負傷に心を痛めているそうではないか」
「何よ、冥琳、からかいにきたの?」
頬を膨らませて睨む雪蓮に、冥琳はそれも楽しそうだと微笑むと、彼女の正面に腰を降ろした。
「私だって驚いたさ。まさか、一刀が傷を負うとはな」
「………まぁね。あたしも最初は理解が追いつかずに動けなくなっちゃったし」
「だが、死んではいないのだろう?」
「そりゃそうよ。一刀があれくらいで死ぬわけないじゃない」
雪蓮は面白くもなさそうに返事を返すと、新しい杯を冥琳に手渡し、酒を注ぐ。冥琳もそれを受け、空になった雪蓮の杯に注ぎ返した。今日ばかりはその酒を咎める事もしない。一度だけ小さく杯をぶつけ合うと、冥琳はそっと口をつけた。
「ならばよいではないか。生きているのならば、また会える。会えるのならば、言葉を交わす事もできる。それだけの話だ」
「相変わらず軍師ってのは非情なのね」
「そう在ろうとしているだけさ。私も……それ以外の軍師と呼ばれる者はすべてな」
「やだやだ、達観しちゃって。それよりさ、なんか冥琳が嬉しそうに見えるのは気のせい?流石の冥琳でも一刀が傷を負った事で戦が有利になる、なんて考えてたら怒るわよ?」
「いくら私でもそれはないさ………明日からはそう考えていくつもりだがな」
「………」
「それよりな、今日はいいものが見れたのだよ」
「何よ、いいものって」
雪蓮の問いかけに、冥琳は一度酒で口を湿らせると、薄く笑って答えた。
「蓮華様が、成長の兆しを見せている」
「あら、そんなのいつも見ているじゃない」
「そうではない。そうではないのだよ………今日の蓮華様の姿は、それは雄々しいものだった。なんせ、兵を鼓舞し、その功をお前でも孫家でもなく、自分自身に献上しろと仰ったのだからな」
「へぇ?あたしへの謀反かしら」
「そんな訳がなかろう」
雪蓮の冗談に、冥琳はキツく睨む。冗談とは分かっていても、そのような事は言って欲しくない。雪蓮もその気持ちを察したのか、ごめんと謝ると、先を促した。
「あぁ。華雄がこちらに来たのは知っているだろう?その時にな、思春と明命と蓮華様が相手をしたのだが―――」
「蓮華にはまだ無理でしょ」
「最後まで聞け。その通りだよ。3人の間に入ることも出来ずに、ただそれを見るだけだった。だが、華雄が去り、遠く前線で戦うお前達を見て何かしら思う事があったのだろうな。あの時の口上はお前にも聞かせてやりたかったよ」
「………あたしの妹だしね。それくらいやってくれないと、王座を継がせる気もなくなるわ」
「ふっ、そのように強がらなくてもよかろう。蓮華様はこれからどんどん伸びるぞ。武の方は私には分からぬが、将としては一気に成長する事も大きくあり得る」
「………楽しみね」
「あぁ、楽しみだ」
本当に楽しみだという様に微笑む冥琳と、幼い頃の弱々しい妹を思い出す雪蓮。悪い事もあればよい事もある。様々に変わりゆく周囲の様子に、雪蓮はふと、祭の言葉を思い出した。
『後悔などせぬ生き方を選べ』
自分がどのような生き方を選ぶのか、雪蓮自身にもわからない。これまで通りに生きるのか、それとも――――――。
難しい顔をする雪蓮の隣に、酒が美味いと微笑む冥琳。この日ばかりは、孫策軍の天幕の様子はこれまでと正反対のものだった。
「………あのお兄ちゃん、大丈夫かな?」
「ほぅ、鈴々が敵の心配をするとはな。どういった心境の変化だ?」
劉備陣の外れ、一人の少女が不安げに言葉を紡ぐ。その手には食べ物が握られていたが、いつもの食欲からは想像もつかないほどに、その量を減らしていない。隣に立つ趙雲は、その言葉に素直に疑問を返す。先日は義姉を傷つけた敵として、彼の前に立ちふさがったが今はその時のような覇気の欠片もなかった。
「………なんて言えばいいのかわからないのだ」
「気にするな。鈴々の言葉で言えばよいのさ」
「にゃにゃ……この間は愛紗を虐めてたから怒ったけど、今日勝負をして、なんか違うと思ったのだ」
趙雲の言葉にゆっくりと想いを告げていく。趙雲もそれを急かすことはせずに、ただ導いていく。
「違う、とは?」
「んー、星も今日戦ったからわかると思うけど、あのお兄ちゃんには勝てる気がしないのだ」
「………悔しいが、その通りだな」
「でも、あのお兄ちゃんは殴ってきたり蹴ってきたりはするけど、鈴々に隙があっても斬ったりはしなかったのだ。剣を振っても、鈴々の蛇矛に当てにきているように見えて………それで………………」
「………………確かに。あの男の考える事はよくわからない。愛紗にも傷を負わせはしたが、次の日には痣も消えていたからな。一体何をしようとしているのやら。そういえば、桃香様から聞いたのだが、あの男は以前曹操殿と、そして孫策殿の所で客将をしていたらしい。もしかしたら、かつての仲間を傷つけたくないという心の顕れなのかもしれぬ」
「でもでも、今は戦なのだ。そんな事を言ってたらやられちゃうのだ!」
「だが、我らはあの男に太刀打ちできぬ。今回の事も、夏侯淵の様子を見ていればわかる。彼女にとっても予想外の事だったのさ。矢を放った本人にすら分からぬ攻撃だ。誰にもその行く先が分からぬ攻撃だからこそ、『天の御遣い』に届いたのだろう。
そのような不意の事象が起こらなければ、彼が負傷する事はなかった。それほどの強さを持っているからこその覚悟ではないだろうか」
「………難しいのだ。でも、あのお兄ちゃんは悪い奴じゃないと思うのだ」
「私もそう思う」
それきり趙雲は黙り込んだ。張飛の言いたい事はわかる。たった今彼女にした説明も、半分は自分を納得させようとした言葉に過ぎない。張飛は純粋だ。だが、純粋だからこそ道を違え易い。それを導くのも自分や関羽の務めかと、趙雲は口を開く。
「だがな、鈴々よ。そこに囚われれば命を失うぞ?彼も言っていただろう、これは戦だと。戦の時は、どんな事があろうとその信念を曲げてはならぬ。敵として立つ以上、絶対に負けぬつもりでいかねば、すぐにでもお前の身体を彼の剣は貫くだろうさ」
「………………わかってるのだ」
どうだかな。その言葉を趙雲は飲み込む。普段の何気ない会話の中での強がりならば、からかう事もしただろう。だが、今はそのような時ではない。
「愛紗ならば、そうさなぁ………桃香様をお守りする立場で何を言っている、とでも叱るだろうな。それもある意味正しい。自分が迷いそうになった時、その拠り所を別に求める。それもまた一つの方法だ。己の信を顧み、そしてそれを貫くのもまた一つの方法だ。何が最善かは鈴々が選べばよい。だがな、半端な事だけは絶対にするな………これは忠告ではない。この趙子龍の願いとして覚えておいてくれ」
「星……」
「なに、桃園の誓いに加われなかったとはいえ、私もまた、お前の義姉であるつもりなのだよ」
そう言って、趙雲は踵を返す。先の言葉は、己の信念を確かめる為の言葉でもあった。ゆらゆらと槍の穂先を揺らしながら月を見上げる。天は暗く、重い。そこに浮かぶ月は、ただ白く輝いている。
「さて、これで最後だな」
「幸いな事に、月明かりがありますから道に迷う事はないでしょうねー」
汜水関に布陣していた隊の最後の兵を見送りながら、風と一刀は言葉を交わす。昼間までの賑やかさが嘘のように静まった汜水関には、誰も残っていない。華雄と香が兵を率いて虎牢関へと発ったのは日没後すぐの事であった。夜襲に備えて幾つかの隊に分けて撤退を行なっていたが、風の読み通り、今夜は連合も動く気配を出さずにいる。
「じゃぁ、俺達も行くか」
「はい」
一刀は風を抱き上げて黒兎に乗せると、自身もその後ろに飛び乗る。華雄隊と共に汜水関に到着し、その翌日には連合軍がやって来た。たった4日間の籠城であったが、それでも長く感じたのは、それだけ疲労を溜めていたという事だろう。どちらにしろ、早めに退く事が出来てよかったと一刀は内心安堵の息を吐く。
黒兎に乗ってゆったりと進んでいると、前に座る風が自分を見上げている事に一刀は気づく。
「どうした?」
「………おにーさんは覚えていますか?風を軍師として認めてくれた時の事を」
「………………」
「風は言いました。風の策で、おにーさんを窮地に追いやったりはしない、と」
「言ったな」
「でも、おにーさんはこうして傷を負っています。風の策で出来上がった状況の中で」
「………」
「ごめんなさい………」
「風の所為じゃない」
「でも…ごめんなさい………」
風の声は震え、その両眼からは何度拭おうと涙が零れ落ちる。一刀はただその小さな身体を抱き締めた。
「ごめんなさい……ごめんなさい………………」
幾度となく謝り続ける風に、一刀は何も言わない。味方の損害ですら自分の策の内だという風を装え。一度はそう言った。だが、一刀は思い出す。風はまだそれほど戦を経験していない。その心を軍師として育てるには、まだ経験が足りていないのだ。
一刀は思う。自分の言葉に一度は頷き、兵たちに指揮をしていた姿も、彼女の強がりだったのだと。誰もいなくなったいま、彼女の心を堰き止めるものはない。一刀は風の身体を持ち上げてその向きを反転させると、その小さな身体を胸に埋めさせた。声をあげて泣き続ける風の背中を、一刀はただ、優しく撫で続ける。
「(戦は続く…でも、今日くらいはこうして泣いたっていいさ。風ならきっと乗り越えられるからな)」
心の内で呟く。僅かに響く痛みに左眼を懐かしみながら、一刀は夜空を見上げた。晴れた空には月が浮かび、星の瞬きは掻き消される。少しだけ、この戦の行く末がわからなくなった。
汜水関の戦い・四日目―――。
連合軍はこれまでと同じ布陣で汜水関の前に立っていた。前曲の劉備軍のさらに前には、9人の武将が並んでいる。だが、関の様子がおかしい。2日目も敵は出てこなかったが、弓兵による牽制はあった。その弓兵すら見当たらないのだ。
「………出て来ぬのぅ。もしや、既に撤退した後じゃったりしてな」
「まさか、そんな訳………明命、ちょっと扉に近づいて来なさい」
「は、はいっ!」
主の指示に、周泰は頭上を気にしながら汜水関への距離を詰める。そして数えること十数秒。彼女は命令通りに関の入り口へと辿り着いた。
「何も起きないわね………明命!扉は開けられそうかしら!」
「………無理です!どうやら反対側から何かで押さえつけているみたいです。閂とはまた違った感触です!」
周泰が扉を押したり引いたりするが、びくとも動く気配がない。決まりである。部下が前方より帰ってくる姿を横目に、雪蓮は傍に立つ趙雲に声をかけた。
「決まりのようですな」
「えぇ、ここからなら劉備の陣が一番近いわ。伝令を出して、袁紹をはじめ、各軍に汜水関が空である事を伝えてちょうだい。うちの周泰なら崖を登ることも出来るから、中から扉を開けさせるわ。それまでに各自進軍の準備をするように、ともね」
「承知した」
雪蓮の言葉に、趙雲は後方へとさがる。指示通り伝令を出すためだ。その背を見送りながら雪蓮は考える。いくらなんでも撤退が早過ぎる。攻め入られての撤退ならまだ分かるが、戦況は膠着していた。それはない。一刀の負傷も考えてみたが、その可能性を一蹴する。あの一刀が、片目を失ったくらいで虎牢関まで退くはずがないからだ。ともすれば、何かの策か、あるいは火急の事態が起きたのか………。
「………ま、考えたって仕方がないか」
雪蓮はふっと表情を緩めると、戻ってきた周泰に新しく命令を下す。汜水関の反対側へと回り込み、その扉を開けよ。周泰も元気よく返事を返すと、さっそく命令の執行へと向かった。それから周泰が扉を開け、連合軍が汜水関をくぐり抜けるまで、それほど時間がかかることはなかった。
撤退を始めてからちょうど2日目の午後、華雄をはじめとする董卓軍の前衛隊は、そのすべてを虎牢関へと場所を移し終えた。その姿を見届け、城壁から駆け降りる2つの影。
「おぉ、華雄!お疲れさん」
「霞か。久しく顔を見ていなかったからか、懐かしいな」
「なんや急に…って、アンタいま………」
「あぁ、ちょっとした心境の変化でな。以前お前に預けられた真名、これより呼ばせて頂く事にした。恋もな」
「………ん」
「そかそか。ま、理由は聞かんといてやるわ。ほんで一刀と風はどこや?恋が寂しがってぎょーさん飯食うから、兵糧が心配でしゃーなかったわ」
「………はやく、一刀」
「あぁ、それなんだが………一刀に会う前に少しだけ話がある」
その言葉に真剣な響きを感じ取ったのか、霞も恋も、表情を真面目なものへと変える。
「なんかあったんか?まさか………」
「いや、死んでなどおらん。だが、その………」
「………一刀」
華雄が口籠っていると、恋がその向こうに話題の人物の姿を見つけてしまい、そして走り出す。だが――――――
「………かず、と?」
「恋、久しぶりだな。元気にしてたか?」
――――――その顔に巻きつけられた布と隠れた左目に、その足を止めた。
「怪我、した………?」
恋の言葉に華雄は顔を伏せてしまう。霞も、その様子を見て悟ったようだ。一刀に近づくと、布で覆われた部分にそっと手を当てた。
「………そか、眼ぇ失ったか」
「あぁ」
「痛むか?」
「少しな」
「………生きてるなら、それだけで十分や」
「ありがとう」
短い会話。しかし、霞にはそれだけで十分だった。残りの時間を与えられるべき相手は別にいる。霞は数歩下がると、茫然と立ち尽くしたままの恋の背中を優しく押した。その勢いに任せて、ととと、っと恋が数歩進む。ぶつかった相手は愛しの男。その顔は半分が隠れ、ほんの僅かに汗を滲ませている。恋は何も言わない、否、言えないでいた。
「ただいま、恋」
「一刀、眼が…」
「あぁ、秋蘭の矢が刺さったんだ」
「秋蘭…強くなった?」
「あぁ、秋蘭だけじゃない。春蘭も凪も沙和も真桜も、雪蓮に祭も、みんな強くなっていたよ」
「………誰か、斬った?」
「いや、誰も斬ってはいない」
「………………ん、よかった」
最後にそれだけ呟くと、恋は一刀の胸に顔を埋める。恋にとって、言葉で理解するほど難しい事はない。彼女が汲み取ったのは、一刀の声音とその表情。そこに、自身に傷を負わせた相手を恨むような響きなどない。その変わらぬ優しさに恋は涙を流し、強く一刀を抱き締める。いつの間にか他の者たちは姿を消していた。しばらくの間、くぐもったすすり泣きの声だけがその場に響く。
「………ごめんな、恋」
一言だけ呟くと、一刀は愛する女性の背を優しく撫で続ける。その温もりに、帰ってきた事を実感しながら。
恋が落ち着きを取り戻し、2人連れ立って城壁へと上がると、霞に絡まれる香の姿がそこにあった。香が半泣きになりながら一刀の姿を認め、駆け寄ってその後ろに隠れた時点で霞も一刀が来た事に気づく。
「風に聞いたで、一刀。その娘、虎牢関に戻ってくる途中でひっかけた側室第二号らしいやんか」
「………風?」
「風は嘘は言ってませんのでー」
「嘘しか言ってないだろ、コラ」
「おぉっ、恋ちゃん、おにーさんが虐めてきます。お助けをー」
一刀が睨み付けても柳に風、暖簾に腕押し。風は眼を瞑ってその視線を受け流し、恋に助けを求める。
「………一刀、虐めちゃ、ダメ」
「くっ…」
「かっかっかっ!流石の一刀も恋には勝てないみたいやな」
一刀を諌める恋、と彼女の後ろに隠れる風を見て、霞は豪快に笑う。その手には酒の徳利を携えていた。久しぶりに美味い酒を味わっているようだ。
「ま、冗談はさておきや。紀霊、言うたな。どのくらい強いんか?」
「えぇと、私はそんなに強くはないですぅ………」
「はぁ…あまり飲みすぎるなよ。見所があったから袁術軍より引き抜いた」
「へぇ、そらおもろいな。ウチと勝負せんか?」
「えぇっ!?えぇと、えぇと………」
慌てる香に華雄も笑いながら追随する。
「よいではないか、師としての命令だ。霞と勝負しろ」
「なんや、華雄が鍛えとんのか?」
「私と一刀だ。まぁ、おそらく勝負はつかないだろうがな」
「へぇ?てことは少なくとも華雄と同じくらい強いんか?」
「いや、強さでいえば私やお前の方が上だ………まぁ、仕合えばわかる」
「えぇで。ほなら、勝負や、紀霊!得物もあるし、場所は此処で今からや!」
「えぇと、えぇと………一刀さぁん!」
「いいじゃないか。やってみろ。これは命令だ」
「そんなぁ………」
一刀に助けを求めるも一蹴される。香も慣れたもので、諦観の溜息を吐くと、手に持つ三尖刀を構えた。それを見た霞が飛龍偃月刀を正眼に構えると、他の者は距離をとる。
「ほな、一刀が見抜き、鍛えたその実力を………見させてもらうでぇっ!!」
「………えぇと、頑張ります!」
香の返事と共に、霞は飛び出した。
「さぁ、どのくらいの実力なんか楽しみやなぁ!」
「くっ!私はそんなに強くはありません。ですが………負けない事なら出来ますっ!!」
香の眼が鋭く細まる。霞の偃月刀から繰り出されるその神速の突きを躱し、下段から振るわれる払いを弾き飛ばし、霞の隙を狙うように跳んで距離をとる。
「………?」
「………………」
一瞬疑問に囚われるが、霞も歴戦の武将である。その疑問を振り払いながら再度飛び出すと、その偃月刀を振るっていく。対する香もそれに合わせて飛び出すと、霞の攻撃の軌道をずらすように弾き、再び距離をとる。何度かそういった事を繰り返すうちに、我慢の限界が来たのか、霞が怒ったように言葉を投げつけた。
「………どういうつもりや?」
「どういうつもりとは?」
「とぼけたこと抜かすな!なんでウチに隙があるのに斬りかかってこんのや!」
「これが私の戦い方だからです。華雄さんも仰ったではないですか。強さで言えば、張遼さんの方が上だと………私が華雄さんと一刀さんから教わったのは、死なない事。相手を斬る事ではありません」
「………なんやて?」
どういう意味だと問うように、霞は視線を一刀に向ける。一刀はほんの僅かに考える素振りを見せたが、すぐに顔を上げると歩を進め、香の隣に立った。
「言葉の通りだよ。資質はあったが、連合の武将を倒すほどではなかった。時間もなかったし、俺達が鍛えたのは、彼女の眼と反応速度だ」
「………」
「相手を斬る為には筋力も必要にはなるが、そればかりは時間がなければ鍛えようがない。だから、この戦における彼女の役割を時間稼ぎと足止めにのみ定め、その為の鍛錬を課したんだ。『勝負はつかない』と華雄が言ったのもその為さ。今の香は、俺の本気ですら幾らか持ちこたえるだろう………ま、霞や華雄でも戦いようによっては香を倒す事も出来るだろうけどね」
「一刀……アンタ、化物を育てる気か?」
「その通りだ」
一刀の返事に霞は偃月刀を一閃すると、ガシガシと頭を掻き、そして得物を下げた。
「なんや、そら敵わんわ………えぇで、気にいった!ウチは張文遠、真名は霞や!これからはそう呼びぃ」
「はいっ!私は紀霊、字はありません。どうぞ香とお呼びください」
しっかりと香の手を握りしめ、霞は新たな仲間を迎える。
「気になっていたのですがー」
「どうしたん?」
霞と香の勝負も終わり、一息ついたところで風が口を開く。
「先ほど霞さんが言っていた『化物』とはどういう意味なのですか?」
「あ、それ私も気になります!」
風の質問に、香自身も追従する。本人にもその意図するところがわからないらしい。一刀はその膝を枕にして眠る恋の頭を撫でているし、霞と華雄は顔を見合わせると、霞が先に口を開く。
「簡単な事やで。考えてもみぃ、何度斬りかかっても自分の攻撃が当たらんわけや。そら恐ろしくなってくるやろ?」
「あぁ。現に、香は汜水関で5人の武将を相手にしても傷一つ負ってはいない。まさに化物と言うに相応しいではないか」
「そゆことですかー。なんとなくわかりました」
「………えぇと、あまり嬉しくはないですけど、理解できます」
「えぇか?将っていうのはな、絶対に倒れてはあかん存在なんやで?将が一人倒れるだけで、その軍の士気は一気に下がる。一刀かて、眼に矢が刺さっても倒れはせんかったらしいやん。どんなに得物を振るわれても、何人でかかってこられても絶対に倒れん武将がおったらどうや?軍の士気は下がるどころか上がり続けるで。相手からしたら堪らん存在やろ?せやから化物、いう言葉が一番似合う訳やで」
「まぁ、香ちゃんは戦人という性格ではないですから、指示通りに関を守ってくれるのならば、華雄さんと霞さんを遊撃として動いて貰う事も可能ですねー」
「えぇっ!?また一人で何人もの武将を相手にしなきゃいけないんですかぁ!?」
「ふふふ、この軍の軍師は風なので命令は絶対なのですよー」
「えぇと、えぇと………そんなぁっ!!」
頭を抱える香に、霞はバシバシとその背を叩く。風の意地悪に落ち込む姿を笑いながら、一刀は脚と掌に温もりを感じていた。
おまけ
「こらーっ!さっさと整列して隊の状況を報告するのです!………って、赤兎!服を引っ張るななのです!あぁ、帽子を、帽子を返すのです!………れ、恋殿ぉぉっ!!」
虎牢関の城壁の下では、陳宮が一人奮闘しているのであった。
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