No.206210 仮面ライダーEINS 第四話 錫杖しがない書き手さん 2011-03-13 08:30:27 投稿 / 全7ページ 総閲覧数:582 閲覧ユーザー数:575 |
――2011年9月18日
――学園都市文系学区、法学科
――講演堂
アインツと杖を持った怪人は交戦を続けていた。
状況はアインツが圧倒的に不利。そもそも武器を振りかざす相手に徒手空拳のアインツが、気絶している人間を護りながら尊敬している人間を倒すのは困難……不可能だった。
振りかざされた武器を避け、腰を入れた格闘で応戦する。だが迷いがあるアインツの拳は敵には通じなかった。超速再生もさることながら防御力もそれなり以上だ。
(……タイプセル特有のスペックアップか)
タイプセルは機械などスペックに限界が存在するものを使用していない。つまり人間の感情や根性論でスペックが上昇し続けるということだ。無論変身を解除したときにその弊害が出るのは言うまでもない。
つまり怪人に変身した華岡博士は、アインツ以上の覚悟をもって後ろに転がしている悪党政治屋に鉄槌を下そうとしているのだ。
(ハル!アレは使えないか!?)
『済まない、使えそうにない』
力量でカバーしているが限度というものがある。ならばこちらも武器を持ちたいものだが、生憎無い物ねだりで終わりそうだ。
そんなことをしているうちに怪人は杖から二本の鞭を形成する。前回は遠目から見ていたので気付かなかったが、どうやら蛇の頭を模した鞭のようだ。
二体の蛇がアインツを襲う。二方向から逃げ道をなくすように襲ってくるそれに追い詰められていく。
だがアインツは突破口を見つけた。
腰に刺さっているアインツコマンダーを開きコードを入力する。
9――9――9――
「ライダーキック」
『RIDERKICK!!』
アインツが見つけ出した突破口。それは正面だった。走り出す時に一頭、そして僅かに時間をずらして一頭を捌き、一気に相手に迫り、空中へ体を跳躍させる。回し蹴りでは間に合わない。跳び蹴りだ。
しかし覚悟が甘かった。躊躇いなく跳べばクリティカルにヒットしていただろう。しかしその僅かな覚悟のなさが、杖によるガードを許してしまったのだ。
怪人は大きく吹っ飛んだが仕留めた手応えがなかった。それはアインツが一番承知していた。
「陣内佐繪貴!次こそは!」
直撃とは言えなかったもののダメージは相当だったようだ。捨て台詞と共に杖から二体の蛇が飛び出し講演堂の照明を破壊する。
舞い落ちるガラスの破片がアインツの視界を阻む。この隙にあの二体の蛇が襲ってくる可能性もあるのでガードを固める。
「……」
しかしガードを解いて周りを見回すとそこに怪人の姿はなかった。
逃がした。いや……逃がしてしまった。変身を解除した一騎は複雑な気持ちで講堂の床を踏みつけるのであった。
EPISODE4 錫杖
――2011年9月19日
――学園都市理系学区、医療学部
――カフェ・AO
「雨無くん」
「……ああ、君か」
亜真菜が見つけた一騎はいつもより小さく見えた。
亜真菜も、華岡博士が指名手配されたのを聞いて一騎を探していたのだ。彼なら詳細を知っているはずだ。
昨日あれだけ見事な手術で一人の子供を救った華岡博士がそんなことをしないと思っていた。
しかし現実は残酷で、彼を見ただけでそれが真実なのだと確信した。
「華岡先生の事か?」
「え、あ……うん」
座っていいよ。と食事を終わらせて一息ついている一騎は、亜真菜を正面に座らせた。
「今、被害者が都市警察をまくし上げていてな。枕が高くないと寝られないらしい」
一騎の顔は元気がないというより、生気がない顔をしていた。被害者である政治家に散々嫌みを言われたのなら、一騎はもっと毅然としているだろう。昔を見てもこんなに覇気のない顔は初めてだった。
「華岡博士は……どうなったの?」
「陣内佐繪貴という腹黒悪徳政治家の襲撃予告による脅迫罪、同人に対する暴行及び殺人未遂ってところかな?」
二人が顔を上げた。
そこには眼鏡と白衣、そして無精ひげがよく似合う青年が彼らの近くにいた。
「……ハル」
「初めまして、和泉さん。僕は橘晴彦。一騎の相棒さ」
橘晴彦
ImageCV:田中秀幸
「一騎、華岡博士の居場所。検討付いているんでしょ?」
「……」
一騎は言わなかった。
世界中の紛争地域や難民キャンプで医療行為に従事してきた尊敬できる人物。
その人物が今、正しい事と思っている事を間違った方法で行おうとしている。誰にでもわかりやすい鉄拳制裁という方法で。
「彼は罰を与えられる人物に罰を与えようとしている。それが間違っているかい?」
「だからといって……人を傷つけたり殺したりすることが……正しいわけない」
「その殺傷は君も同じさ。君は仮面ライダーとなって人を傷つけている」
「……」
「一騎。君に彼が倒せるかい?」
少し機嫌が悪くなっただろうか?顔が見えない一騎は少し荒々しく立ち去ろうとする。
「一騎。例の、実装しておいたから」
「……そうか、助かる」
まったく関係のない会話で少し一騎の頭を冷やせただろう。まだ少し荒さが残るが冷静さは取り戻しているように晴彦には見えていた。
「雨無くん」
「行かせてあげて、和泉さん。一騎も分かっているんだ。僕が言ってたことも華岡博士がやっていることも一騎が思っていることも全部正しいってことが」
「けど……やるせないよ」
「大丈夫。一騎も僕も何が一番大切かってことは教わっているから」
「教わっている?」
「一騎が尊敬している人。その人はたった一つ、簡単なことを彼に……僕にも教えてくれたよ」
「マスター!今日の昼飯はハルにツケておいてくれ!」
「ちょ、一騎!?」
少し遠くで手を振る一騎は既に笑顔になっていた。
無理矢理の作り笑いかもしれない。愛想笑いかもしれない。しかし一騎は前に進むことを決めたのだ。
「例えどうだったとしても俺は戦う。偉大な先輩達がそうしてきたように」
そう、彼は……仮面ライダーなのだ。
――2011年9月19日
――学園都市理系学区、食品学部
――とある廃ビルの4階
「華岡先生」
「……雨無君か」
広い学園都市でも珍しくない廃ビル。
ここ、食品学部は様々なレストランが出来ては潰れてを繰り返す。消えてから出来るまでは僅かだが間が開く。その間にはアウトローや夢破れた者のたまり場になり、時には追われている人間の隠れ蓑になる。
間仕切りもなにもないただ広い空間。そこに仮面ライダーとその敵が二人、佇んでいた。
「どうしても……止めるのだね」
「先生、まだ間に合います。幸い今の貴方は誰も殺してはいない」
そう、陣内佐繪貴が学園都市を退散する時、この廃ビルの前を通るのだ。
先の襲撃が失敗した以上、次はここだと予想を付けていた。学園都市を走り回っている一騎ならではの読みだ。
「彼に制裁を下すしかないのだよ。法律というものは常に後手に回り続ける。だからこそ武器が必要なのだよ」
「罪を犯した人間を問答無用で殺し続ければ犯罪が少なくなるかもしれない。しかし奴のように隠れてコソコソしている分には、ばれなきゃいいって思ってやってます」
「そうだね。だが子供達を喰い物にする連中は……許すわけにはいかない。子供達は未来だ。大人はその道を示さなくてはならない」
どうやら華岡博士は陣内佐繪貴に鉄槌を下す覚悟があるらしい。
棒立ちになっている一騎との間合いを徐々に開け始めているのを見ると、一騎を排除してでも行動を起こすつもりらしい。
「子供達は武器を持たない!だから私が……私が武器になる!子供達が知らなくてもいい!」
だからこそ一騎も覚悟した。アインツコマンダーを取り出しコードを入力する。終了と同時に一騎の腰にアインツドライバーが現れる。
「子供達の未来を奪い続ける老害はもはや老害とも言わない!それはタダの時代の寄生虫だ!」
「たとえ貴方がそう言おうと……人を殺すことに賛同することはできない!」
――変身!!
『EINS』
ベルトから光のリングが飛び出しアインツに変身する。
「さあ、派手に行こう」
同時に華岡博士も怪人に……タイプセル・オフィウクスに変身する。
変身を終えた二人は一斉に走り出し拳を伸ばした。先日は届かなかったアインツの拳。その拳は迷いなくタイプセル・オフィウクスに打ち付けられた。
「くっ!?」
「仮面ライダーを舐めるな!」
わずかに開いた間合いを一気に詰めるように蹴り飛ばした。
不完全な覚悟ではなく、彼を止める、救うという覚悟。その覚悟に裏打ちされたアインツは強力だった。
強力な蹴りはタイプセル・オフィウクスだけではなく後ろの壁をも打ち抜いたのだ。
一気に屋外へと蹴り飛ばされたタイプセル・オフィウクスは外を走っていた車の上に着地した。いや落下した。
悲鳴と共に車内から飛び出してきたのは例の政治屋さんだ。
「あのセンセ。シェルターの隅っこでガタガタ震えてろって言っただろう!」
しかも退散経路はそのままとは警備を舐めているとしか言いようがない。もっともタイプセル・オフィウクスに潰された時点でいろいろな報いは受けたかもしれないが。
アインツはビルから飛び降りタイプセル・オフィウクスの正面に立つ。仮にも超速再生と高い防御力を持っている。ダメージはあるものの戦闘は可能だろう。
「やれやれ。理系を舐めきってやがる」
宿敵とも言える陣内を見逃しタイプセル・オフィウクスが黙って武器を取り出す。二匹の蛇が巻き付いた杖だ。
彼もアインツを突破しなくては陣内までたどり着けないと判断したのだろう。
『一騎、相手の武器がやっかいだ。こういうときこそ、冷静に』
(・・・ああ)
相手の武器から伸びた二匹の蛇をいなし、腰に刺さったアインツコマンダーを開く。
2――2――2――
――超変身!!
『SPLASHFORM』
それを閉じた時、アインツドライバーから変身の時のようにリングが飛び出る。リングの色は白から緑に変わっており、力強くアインツの体を包むように回転し始めた。
その光の球体が振り払われた時、背中に長い棒を背負った仮面ライダーが現れる。角は金のままだが、白のカラーリングから緑へと変わり、体の細部は違うもののアインツであることは間違いない。
『一騎、実戦でスプラッシュロッドを使うのは初めてだからしっかりと手になじませておいてよ』
(了解)
タイプセル・オフィウクスの杖に対して背中に装備していたロッド、スプラッシュロッドで応戦する。
武器を持っているかいないかでは持っている方が有利だ。では武器をもっている同士では?それに対する解答としては基本的にリーチが長い方が有利というものだ。
アインツが取り出したロッドは最初は短かったもののすぐに延長を始め2.4m近くなる。それはタイプセル・オフィウクスの杖を圧倒している長さだ。
対する敵はこのリーチの差に対し二匹の蛇を杖から伸ばしアインツ・スプラッシュフォームに対抗する。
アインツ・スプラッシュフォームはロッドで蛇の頭を払い飛ばし、悠々とタイプセル・オフィウクスに迫っていく。
「くっ!」
「終わりだ!」
2――2――2――
「ライダースプラッシュ!」
『RIDERSPLASH』
宣言と電子音と共にアインツドライバーから電流のようなエネルギーがスプラッシュロッドに流れ始める。
右足の踏み込みと、腰の回転、そして左腕でスプラッシュロッドを押し出す力、全てを込めて目の前の恩人に打ち込む。
「おりゃぁぁあ!!」
「君は……眩しいな」
「先生……」
「ははっ、まだ私をそう呼んでくれるのか。うれしいよ、雨無君」
力尽きた華岡博士は笑っていた。対する一騎は涙を流していた。
「先生は……先生は……」
「雨無君、君は真っ直ぐで純粋で……そんな漢に止められて幸せだ。君は常に真っ正面から私に向かってきてくれた。嬉しかったよ」
「何で……何でこんなことに」
「私の弱い心が生み出した結果さ。雨無くん、忘れないでくれ。正義や悪など存在しない、あるとすればそれは人の良心だ」
「俺は正義の味方なんか名乗れません」
「それでこそ……この街を守る仮面ライダーだ……」
――期待しているよ。仮面ライダー
おまけ:仮面ライダー紹介
仮面ライダーアインツ・スプラッシュフォーム
腰に刺さったアインツコマンダーに222のコードを入力することで再変身する。直接変身するには49132。障害物が多い学園都市でパルクールを行うために実装された。
背中に3m近くまで延長するスプラッシュロッドを装備している。
基本フォームであるエナジーフォームよりも機動力やジャンプ力に優れるもののパンチ力と防御力は低下している。
必殺技はコード222で発動するスプラッシュロッドを突き刺すように放つライダースプラッシュ。
おまけ:怪人紹介
タイプセル・オフィウクス
タイプセルタイプの怪人。蛇遣いの名に恥じぬ再生能力と防御力を併せ持ち、二匹の蛇を模した杖を持つ。
憤怒と激高により性能が格段に向上しており、アインツを苦戦させるほどの性能を見せている。これは華岡博士とオフィウクスの相性が抜群であったこともある。
次回予告:
――学園都市外ってことか
――どこの組織か分からないけど喧嘩の売り方はご大層だね。
――はっ、潰してやる。
EPISODE5 逆鱗
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この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
執筆について
・隔週スペースになると思います。
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